- 更新日 : 2024年8月8日
資本的支出と収益的支出とは?違いをフローチャートで解説
固定資産の修理・改良等に費用を支出したとき、その支出により価値や耐久性が増加したと認められる場合、資本的支出となります。一方、通常の維持管理または原状回復である場合は収益的支出です。
資本的支出か収益的支出かを判定するには、支出した金額が20万円か、およそ3年周期で行われている修理かなどの判断基準があります。
本記事では資本的支出と収益的支出の意味や違いについて説明し、判定方法をフローチャートで紹介します。
資本的支出とは
資本的支出とは、固定資産の修理や改良のために支出した費用のうち、その固定資産の耐久性を高め、価値を増加させた部分のことです。
資本的支出と判断された場合、費用は固定資産の取得原価に加算されます。その後は減価償却費として、耐用年数に従い毎年の費用に計上していくことになります。
資本的支出の具体例
資本的支出にあたる場合として、外壁の塗り替えを例に見てみましょう。経年劣化で塗装が剥がれてきたため塗り替えた場合、一般的には修繕費になります。
しかし、断熱効果のある高性能な塗料を用いた場合、これまでよりも性能が上がり価値が増加していることから、資本的支出と判断される可能性があります。
また、国税庁では資本的支出の具体例として、以下のような例示をあげています。
- 建物の避難階段を取り付けるなど、物理的に付加した費用
- 用途を変えるために模様替えするなど改装に要した費用
- 機械の部品を品質または性能の高いものに交換し、通常に取り替えた場合を超える費用
資本的支出後の減価償却
資本的支出を行った場合、これによって延長した耐用年数も含めて残存耐用年数の見積もりを行い、その年数に応じて減価償却を行うのが合理的です。
しかし、税法上は、課税の公平性の観点から、必ずしもそのようになっていません。
税法上は、原則として、既存の減価償却資産本体と同種及び同耐用年数の資産を新たに取得したものとして償却すること(2007年3月31年以前取得の資本的支出は本体に加算して償却することも可)としています。つまり、税法に準じて会計処理を行う場合、次のような処理になります。
(例)耐用年数34年の事務所用建物(経過耐用年数14年)について、当期首に150万円の資本的支出を行った。なお、減価償却の計算方法は定額法(耐用年数34年の定額法償却率0.030)で残存価額はない。
(減価償却費の計算)1,500,000×0.030×12/12=45,000円
(減価償却の仕訳例)
※上記は間接法の場合の仕訳例です。直接法を採用している場合は、「減価償却費累計額」の代わりに「建物」の勘定科目を使用します。
なお、定率法を採用している場合は、本体の帳簿価額と資本的支出を合算した価額を新たに取得した資産として減価償却資産とすることも可能です。
また、同じ事業年度に同じ資産に対して複数の資本的支出があった場合は、資本的支出を合算して減価償却することもできます。
収益的支出とは
収益的支出とは、固定資産の修理や改良に要した費用のうち、通常の維持管理または原状回復と認められる部分です。
収益的支出と考えられる場合、固定資産の価値は上がりません。そのため、修繕費などの勘定科目で仕訳をし、支出した全額を当期の費用に計上します。
収益的支出の具体例
収益的支出の具体的な事例としては、外壁のヒビや亀裂を修復し、現状に戻したという場合があげられます。劣化する前の状態に戻るだけで価値が高まり耐久性が向上したといえない場合は収益的支出となり、すべて経費に計上できるということです。
また、本来は価値の増加や耐久性の向上を伴う資本的支出にあたる場合でも、次のような場合には収益的支出として経費に計上できます。
- 1件あたりの修理にかかった金額が60万円未満
- 1件あたりの修理にかかった費用が、前期末における取得価額のおよそ10%相当額以下
資本的支出と収益的支出の判定方法
固定資産の修理や改良のために費用を支出する場面はさまざまで、すべてが具体例のケースにあてはまるわけではありません。資本的支出か収益的支出か判断に迷う場合、以下のフローチャートで判定していきましょう。
まず、20万円に満たない修理や改良に対する支出について、国税庁は「少額または周期の短い費用」であるとし、修繕費(収益的支出)として経費計上できるとしています。固定資産の修理や改良のために支出した費用でも、金額が20万円未満であれば収益的支出として経費計上できるということです。
また、20万円以上であっても、3年以内の周期で行っている修理や改良であれば収益的支出となります。
フローチャートのすべてにあてはまらない場合でも、最終段階でまた金額を確認します。そこで60万円未満もしくは前年度終了時の固定資産の取得価額の10%相当額以下であれば、収益的支出に含めてかまいません。
しっかり見極めて適切な仕訳を
資本的支出と収益的支出はどちらも、固定資産の修理や改良のために支出した費用である点で共通しています。
そのうち、資本的支出は固定資産の価値を高め、あるいは使用可能期間を延ばした支出であり、収益的支出は固定資産の下がった価値を元に戻したと認められる支出です。判断が難しい場合には、フローチャートに従って判断していくとよいでしょう。
よくある質問
資本的支出とは?
固定資産の修理・改良などにかかった費用のなかで、固定資産の価値を高め耐久性を延ばした支出のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
収益的支出とは?
固定資産の修理・改良などで要した金額のうち、元の状態に戻すもしくは定期的なメンテナンスとなる支出のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
ソフトウェアは固定資産に計上できる?判断基準や減価償却などを解説
ソフトウェアは無形固定資産として資産計上することができます。ただし、ソフトウェアの目的や工程によって、資産計上できない場合もあります。なお、資産として計上したソフトウェアは減価償却が可能です。 本記事では、ソフトウェアの資産計上に関する概要…
詳しくみる圧縮記帳の対象資産とは?適用条件・取得原因・注意点までわかりやすく解説
補助金や保険金などを受け取って資産を取得した場合、一定の条件を満たせば圧縮記帳が認められるケースがあります。 ただし、どのような資産でも対象になるわけではなく、資産の種類や取得の経緯が適用可否の判断材料です。 この記事では、圧縮記帳の対象と…
詳しくみるIFRS第16号のリース期間に自動更新は含まれる?延長オプションもわかりやすく解説
IFRS第16号においては、リース契約の契約期間終了後に自動で更新が行われるかどうかが重要な争点となります。この記事では、延長オプションや解約オプションがある場合のリース期間の定義、会計処理、注意点についてわかりやすく解説します。 IFRS…
詳しくみる太陽光発電の減価償却費計算をわかりやすく解説
太陽光発電設備を導入した場合、法定耐用年数に従って減価償却できます。本記事では、太陽光発電の減価償却費の計算方法と仕訳を紹介します。減価償却を行う際の注意点も解説しているので、併せて参考にしてください。 太陽光発電は減価償却が可能? 太陽光…
詳しくみるIFRS第16号「リース」とは?会計処理や仕訳例をわかりやすく解説
IFRS第16号は、2016年に公表された「リース」の会計基準です。 今般、このIFRS第16号について改めて理解を深めようとする動きがあるのは、この基準の内容を踏襲した「新リース基準」が日本でも公表されたことによるものです。 この記事では…
詳しくみる消費税の税込経理と税抜経理で少額減価償却資産の判定は違う?
消費税を入れて会計処理をするか、税抜きで会計処理をするかによって少額減価償却資産の判定が異なることがあります。 例えば、取得価額が9万8,000円のものであれば、税込みでは10万円以上、税抜きでは10万円未満です。この場合、税込経理において…
詳しくみる