• 更新日 : 2025年3月31日

IFRS第16号「リース」とは?会計処理や仕訳例をわかりやすく解説

IFRS第16号は、2016年に公表された「リース」の会計基準です。

今般、このIFRS第16号について改めて理解を深めようとする動きがあるのは、この基準の内容を踏襲した「新リース基準」が日本でも公表されたことによるものです。

この記事では、IFRS第16号について、会計処理や仕訳例を交えてわかりやすく解説しました。

IFRS第16号「リース」とは

2024年9月、日本の新たなリース会計基準が公表されました。

現行では、2027年4月以降に開始する事業年度においては、大会社・上場会社では新たなリース会計基準が強制適用となる予定です。

日本における新たなリース会計基準の基礎となるものは、IFRS第16号「リース」です。IFRS第16号をよく理解することが新たなリース会計基準を理解することにつながり、実務対応にあたっても大いに活かされるでしょう。

IFRS第16号におけるリースの定義

IFRS第16号は、2019年1月以降に開始する事業年度から適用されているリースの基準です。IFRS第16号では、リースを「資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約または契約の一部」と定義しています。

IFRS第16号では、契約上ではなく、実際にその資産を「使用する権利」が誰にあるのかに着目しています。そして、「使用権の支配」について具体的に規定しています。

IFRS第16号と従来の日本基準の違い

IFRS第16号と日本基準の違いについて、まずは借り手の立場での違いを確認しておきましょう。

IFRS第16号においては、リースの借り手が資産の「使用権を支配」していれば、すべてのリース資産についてオンバランス(売買取引として処理)にすることが求められます。

これに対して、従来の日本のリース基準(企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」)は、リース取引をファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、基本的にファイナンス・リースはオンバランス、オペレーティング・リースについてはオフバランス(賃貸借取引)として処理するものでした。

参考:企業会計基準第13号リース取引に関する会計基準|企業会計基準委員会

IFRS第16号の適用範囲

IFRS第16号におけるリースの適用範囲について見ていきましょう。

リース契約、賃貸借契約

IFRS第16号においては、従来はリースとして扱われなかった契約も、「リース」に該当する可能性があります。

これは、実質的に「リース」の定義に当てはまるものが適用範囲になるという考え方に基づきます。

したがって、IFRS第16号の適用にあたっては、契約が「リース契約」や「賃貸借契約」でなくても、契約内容を見直し、リースを識別することが大切です。

リースかどうかの判断

IFRS第16号において「リース」と識別されるためには、次のすべてを満たす必要があるとされています。

  1. 資産が特定されている
  2. 借り手が資産の使用権を支配している(下記の両方とも満たす)
    • 借り手が資産により生じる経済的便益のほとんどすべてを受ける権利を有する
    • 借り手が資産の使用を指図する権利を有する

参考:IFRS会計学基本テキスト(第7版)189頁|中央経済社

このリースの識別については、日本の新たなリース会計基準の指針である「企業会計基準適用指針第33号リースに関する会計基準の適用指針」においても踏襲されています。

参考:企業会計基準適用指針第33号リースに関する会計基準の適用指針(第5、6項ご参照)|企業会計基準委員会

IFRS第16号の免除規定

IFRS第16号においては、リースの借り手側における原則的処理の例外として、短期リースおよび少額リースの特例が設けられています。

短期リース契約

IFRS第16号においては、リース開始日においてリース期間が1年(12カ月)以内のリースについては、オンバランス処理に代えて支払リース料をリース期間にわたって費用として認識する方法を選択することができます。

少額資産のリース契約

上記短期リース契約と同様に、対象となる資産が新品において少額なものについてもリース期間にわたって費用として認識する方法を選択することができるとされています。

なお、IFRS第16号の原文における、「short-term leases」が短期リース、「leases for which the underlying asset is of low value」が少額リースに相当します。

IFRS第16号による借り手側の会計処理

次に、IFRS第16号における借り手側の処理について見ていきましょう。

オペレーティング・リースのオンバランス処理

IFRS第16号では、従来オフバランスであったオペレーティング・リースについてもオンバランス処理となります。

そのためにリースの借り手は、リースの開始日において、「使用権資産」と「リース負債」を認識して、資産計上します。それぞれの詳細は次項で解説しますが、計算するのは「リース負債」→「使用権資産」の順となります。

リース負債の計上

負債の部に計上する「リース負債」は、原則としてリース開始日における「未払リース料」から利息部分を控除して求めます。

つまり、利息部分を控除することにより、リース開始日における現在価値が当初のリース負債となります。割引率については、貸し手のリース計算における利子率を用いますが、容易に算定できない場合には貸し手の追加借入利率を使用することになります。

また、リース等の取引においては契約期間の延長オプションが設けられているものがあります。延長が合理的に確実(reasonably certain)と判断されれば、延長期間を含めることになります。

使用権資産の計上

資産の部に計上する「使用権資産」は、先に計算した「リース負債」に当初直接コスト等を加減して求めます。その際、契約に際して受け取ったインセンティブがあれば使用権資産から控除します。

当初直接コスト(initial direct costs)とは、リースの取得に係るコストのうち、リースを取得しなければ発生しなかったであろう増分となります。

例えば、契約に係る費用やリース対象資産の設置費用などです。

減価償却と利息費用の計上

「使用権資産」は、自己所有の有形固定資産と同様に減価償却処理をします。この場合の耐用年数は、次の通りです。

  • 借り手に使用権が移転する場合:原資産の耐用年数による
  • 上記以外の場合:原資産の耐用年数またはリース期間のいずれか短い期間

なお、「使用権資産」として計上した資産については、減損会計の対象となります。

キャッシュフローの区分

IFRS第16号においては、「リース」に係る各項目をキャッシュフロー上、次のそれぞれの項目に区分して表示します。

  • 支払リース料のうち、元本部分:財務活動
  • 支払リース料のうち、利息部分支払利息の区分*
  • (例外)短期または少額リース:営業活動

* 間接法によるキャッシュフロー計算書では、支払利息については営業活動によるキャッシュフロー区分に入れる方法と財務活動によるキャッシュフロー区分に入れる方法があります。

IFRS第16号による貸し手側の会計処理

IFRS第16号における貸し手側のリースは、「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類されます。

原資産を所有することに伴うリスクや経済価値がほとんどすべて借り手側に移転するものは、ファイナンス・リース(売買取引)となり、その他はオペレーティング・リース(賃貸借取引)になります。

リース契約の内容よりも、取引の実態により判断したものになります。

例えば、次のようなものはファイナンス・リースの対象となります。

  • 借り手側に有利な価額での購入オプションが与えられ、かつ、そのオプションの行使が確実視されるもの
  • リース期間が原資産の経済的耐用年数の大部分を占めるもの
  • リース開始日に、リース料の現在価値が原資産の公正価値のほぼすべてに相当するもの
  • 原資産が特別仕様で、借り手のみが大きな改造をせずに使用できるもの

IFRS第16号の適用に必要な準備

日本の会計基準からIFRSを適用する場合には、移行に伴う手続きが必要です。

企業の規模や業種、現行会計システムの状況等によって以降内容は異なりますが、一般にはIFRS適用には構想期間も含め相当の時間とリソースが必要です。そもそもIFRS第16号は単独で存在するのではなく、IFRS他の基準と相互作用するため、他の基準との関係性も重要となります。

現状のリース契約等の洗い出し

IFRS適用をするにあたって、第16号対応のために契約の洗い出しが必要です。先述の通り「リース契約」や「賃貸借契約」だけでなく、IFRS第16号のリースの定義に当てはまるものを洗い出します。

「資産の特定」「経済的便益を受ける権利」「資産の使用を指図する権利」などの項目について個々の契約について詳細に検討する必要があり、これには相当の期間を要します。

会計システムの導入・改修

IFRS適用のためには、IFRS会計基準に対応するシステムを導入する必要があります。

業務プロセスの見直しも必要となり、結果的には財務指標や業務に大きな影響を与えるため、監査法人とよく相談し、システム改修・更新に臨むことが大切です。

システム構築のための準備期間は十分に時間をかけ、最適なスケジュールとなるように調整する必要があり、子会社への展開等も併せて行います。

新しい仕訳・会計処理への移行

会計システムの移行に際し、既存のリースにどう対応するかは重要な論点です。

従来から利用している資産で「リース」に該当するものについては、適用初年度の会計処理として、次の2通りの処理が認められ、どちらを採用するかで移行内容も異なります。

  • 完全遡及アプローチ:適用初年度以前の契約についても「過去に遡って」IFRS16による処理を行う
  • 修正遡及アプローチ:「適用初年度以降の残存のリース期間」についてIFRS16による処理を行う

IFRS第16号の適用後の仕訳例

IFRS第16号を適用した場合の借り手側の仕訳イメージについて見ていきましょう。

本仕訳はあくまでイメージであるため、数値については「xxx,xxx円」等で示しています。

リース開始時、リース料支払時の仕訳例

リース契約時においては、リース負債、使用権資産を認識します。リース契約に係る直接コストがあれば使用権資産に含めます。

借方貸方摘要
使用権資産xxx,xxx円リース負債xxx,xxx円〇〇につき、リース開始
預金xx,xxx円リース契約費用

リース料の支払時には、次のような仕訳となります。

借方貸方摘要
リース負債xx,xxx円預金xx,xxx円〇〇第□回リース料支払

リース負債の利息と減価償却の仕訳例

決算時において、減価償却および利息の計上仕訳は次のような仕訳になります。

直接法による減価償却費計上

借方貸方摘要
減価償却費xx,xxx円使用権資産xx,xxx円〇〇につき、減価償却費計上

利息計上

利息は、リース負債残高×利子率で求めます。

借方貸方摘要
利息費用xx,xxx円未払利息xx,xxx円〇〇につき、利息計上

リース契約の変更・再評価時の仕訳例

例えば、リース期間が変更され、短縮された場合には借り手のリース料の現在価値に修正するとともに、使用権資産について修正相当額を減額します。

借方貸方摘要
リース負債xx,xxx円使用権資産xx,xxx円〇〇につき、リース期間変更

使用権資産の減損処理と簿価調整の仕訳例

リース資産に減損の兆候が認められる場合には、回収可能価額を算定し、使用権資産の残高との差額を減損損失として認識します。

借方貸方摘要
減損損失xx,xxx円使用権資産xx,xxx円〇〇につき、減損損失計上

IFRS第16号の原文・日本語訳の入手方法

無料のユーザー登録が必要となりますが、「基準本体部分」が参照できます。

参考:Signin or Signup|IFRS FoundationIFRSの基準書の原文および日本語訳の入手方法|日本公認会計士協会

IFRS第16号の日本語訳については、上記で有料ユーザー登録をすることで、日本語訳の基準書を閲覧できます。書籍としては下記のものが発行されています。

参考:IFRS(R) 会計基準2024〈注釈付き〉

IFRS第16号の対応は慎重に行いましょう

IFRS第16号の内容をふまえた新リース会計基準に対応する場合、会社の状況に合わせて「具体的にどう取り扱うか」の検討は大きな問題です。IFRS全体を見据えて、現状の洗い出しから移行完了までのスケジュールを立て、後戻りのない作業を進めていきましょう。

第16号に限らず、IFRSは頻繁に改訂されるため、常に最新の情報を参照し、解釈や適用方法を専門家に相談するのがおすすめです。PwC、EY、KPMGなど日本の大手会計事務所のホームページでも、IFRS第16号の概要や解説が記載されているため、ぜひ参考にしてみてください。


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