- 更新日 : 2025年6月26日
海外へのグローバル戦略の企業事例とは?成功と失敗の分岐点や日本の取り組み
グローバル戦略とは、企業が国境を越え、全世界を一つの市場として事業を展開する経営戦略です。国内市場の成熟やデジタル化の進展を背景に、その重要性は増しています。本稿では、グローバル戦略の基本、種類、日本企業の成功・失敗事例、そして戦略策定のポイントを解説します。
目次
海外展開を進める上でのグローバル戦略の基本
グローバル戦略は、企業が自社の強みを活かして海外市場で成果を出すための計画です。単に海外で商品を売るというだけではなく、世界を一つの大きな市場と捉えた上で、どの国を選ぶか、どのように進出するか、どの程度現地に合わせるかといった複数の要素を整理する必要があります。市場の可能性を見極め、リスクを想定しながら、自社にとって最適な形で進出することが求められます。
また、企業が海外展開を志向する主な目的は多岐にわたりますが、最も大きな目的は、成長余地のある海外市場で新たな顧客を獲得し、売上の拡大につなげることです。国内市場の成熟により成長が鈍化する中、人口増加や消費意欲の高い地域に進出することは、将来的な収益源の確保に直結します。
加えて、海外での販売量が増えれば、生産効率の向上や利益率の改善も期待できます。さらに、人件費や原材料費の安い地域に生産を移すことで、コスト構造を見直すことも可能です。
事業を複数の国に分散して展開すれば、為替の急変や政治的不安など、一国依存のリスクを軽減できます。海外市場での経験を通じて得られる知見や技術、人材も、企業の成長を後押しします。
グローバル化と国際化の違い
グローバル戦略を理解する上で重要な概念に、「グローバル化」と「国際化」の違いがあります 。グローバル化は、世界全体を一つの市場として捉え、国境の意識を薄めて事業活動を行う考え方です。一方、国際化は、それぞれの国や地域の枠組みを維持しながら、文化や経済などの面で関係性を築くことを指します。グローバル戦略においては、どの程度まで事業を統合し、標準化を進めるかが重要な検討事項となります。
グローバル戦略を成功させるための主要ステップ
グローバル戦略を設計するには、事前準備を段階的に行う必要があります。以下のステップに沿って考えると、計画の全体像が整理しやすくなります。
ステップ1:目的の明確化
まずは、なぜ海外進出を目指すのか、その目的をはっきりさせます。売上拡大か、コスト削減か、リスク分散かによって、進出先や戦略の内容は変わります。目的が不明確なままでは、判断の軸が定まらず、戦略がぶれる原因になります。
ステップ2:市場調査と進出国の選定
進出候補国について、市場規模、経済成長率、法制度、インフラ、競合環境などを調査します。単に人口が多いという理由だけで選ばず、自社の商品やサービスが受け入れられる可能性を客観的に判断する必要があります。
ステップ3:現地ニーズの分析と販売戦略の立案
現地の消費者の嗜好や購買行動、文化的背景を踏まえ、販売方法や価格設定を検討します。必要であれば商品自体の改良も行い、現地仕様に最適化する柔軟さも求められます。
ステップ4:実行体制の構築
販売や生産を担う現地法人の設立、物流ルートの整備、人材の採用など、具体的な運営体制を整えます。信頼できるパートナー企業を見つけることも、成功に向けた重要な要素です。
ステップ5:リスク評価と対応策の策定
為替リスク、法規制の変更、現地の政治リスク、文化的衝突などを想定し、あらかじめ対応方針を設計します。想定外の事態に直面しても事業を止めないための備えが、長期的な安定につながります。
ステップ6:文化・価値観への適応
進出先の文化や価値観を理解し、現地スタッフとの信頼関係を築く姿勢が欠かせません。コミュニケーションの取り方や働き方の違いを尊重し、現地に根ざした運営を行うことが、長期的な成功への鍵となります。
グローバル戦略の種類やアプローチ
グローバル戦略は、進出先の市場への関わり方に応じた種類やパターンがあります。代表的な戦略として、市場適応型、統一型、そしてハイブリッド型を紹介します。
市場適応型戦略
市場適応型戦略は、国や地域ごとの文化や市場ニーズに合わせて製品やサービスを柔軟に変える戦略です 。各国の現地拠点が意思決定に大きく関わるため、対応力が高く、現場に裁量がある点が特徴です。
トヨタ自動車は北米市場向けに大型SUVを開発し、味の素は各国の嗜好に合わせた商品を展開しています 。東洋水産もメキシコ市場向けに現地の好みに合わせた味の即席麺を開発し成功しています 。
参照:トヨタが北米仕様の新型BEV発表、2026年販売開始|JETRO
参照:グローバル事業運営体制の再編|味の素グループ
参照:海外即席麺事業|東洋水産
統一型戦略
統一型戦略は、世界を一つの市場と捉え、できる限り共通の製品・サービスをグローバルに展開する戦略です 。コスト削減と効率化が主な目的で、ブランドイメージの統一にも有効です。本社が主導して、グローバル全体の方針を決定します 。アップルのiPhone、コカ・コーラ、イケアなどが成功事例として挙げられます 。普遍的なニーズに対応できる製品や強力なグローバルブランドを持つ企業に適した戦略です。
参照:アップル、WWDC 25で新OS群を発表。年号統一とLiquid Glass採用で製品連携を重視。「ハードとサービス」の価値を底上げ
ハイブリッド型戦略
ハイブリッド型戦略は、市場適応型と統一型戦略の利点を組み合わせた戦略です 。グローバルな効率性を追求しつつ、各国の市場ニーズへの適応性も確保します 。基本コンセプトやブランドは統一しつつ、味やデザインなどを現地のニーズに合わせて調整します。
マクドナルドは地域限定メニューを提供し、ユニクロは地域に合わせた素材の商品を展開しています 。ネスレも同様に、グローバルブランドと地域ニーズ対応を両立させています 。地政学的な分断が進む現代において、この戦略が注目されています 。
日本企業に学ぶグローバル戦略の成功事例
日本の企業がそれぞれ異なる戦略で成果を上げた具体例を紹介します。
ユニクロ:スタンダードにローカライゼーションを融合
ユニクロはグローバルでの標準化を基本としつつ、地域ごとのニーズに合わせた商品展開や店舗戦略を展開することで、世界的なブランドへと成長しました。同社は「LifeWear」というコンセプトのもと、機能性と快適性を重視した製品を提供することで、世界中の消費者に受け入れられています 。特に、ユニクロではお馴染みのヒートテック、エアリズムは全世界で支持されています。ニューヨーク、パリ、上海など一等地に大型のグローバル旗艦店をオープンする戦略でブランドイメージを確立しました 。一方で、インドでは女性の日常着(伝統服)のクルタをモチーフとして「クルタ・コレクション」を販売するなど、一部地域では現地のニーズに合わせた商品開発も行っています。
日清食品:地域最適化戦略によるグローバル展開
日清食品は、カップヌードルを世界中で販売し、インスタントラーメンとしてNo.1の地位を築いています。2021年には、発売50周年を迎え、世界累計販売数が500億食を達成するなど、そのグローバルな人気は揺るぎないものです。現地の味を再現した地域最適化商品設計や、M&Aやアライアンスを活用した効率的な販路拡大など、グローバルブランドとして全世界に浸透させるための戦略を策定しています。
参照:CUP NOODLESグローバルブランド戦略について|日清グループ
ダイキン工業:地域ニーズに合わせた製品開発
ダイキン工業は世界トップの売り上げを誇る空調メーカーであり、業務用空調においては世界シェアでは首位を占めています。各国の気候や家の形などに対応できる製品を提供することで、海外事業を拡大しています。たとえば、電力供給量の少ない国では、少ない消費電力で稼働するエアコンを製造するなど、現地のニーズに合わせた製品開発が成功の鍵となっています。
キッコーマン:食文化への浸透によるグローバル展開
キッコーマンは、日本独自の調味料である醤油を世界に広めた企業です。醤油をはじめ、米、みそ、海苔などの食材により日本食の普及に取り組んできました。アメリカではスーパーマーケットで試食デモンストレーションを実施し、実際に味を体験してもらうことで、消費者の興味を引きつけました。キッコーマンのグローバル化は、1970年代にはヨーロッパ、1980年代にはアジア、また、近年では南米にも進出し、その展開地域を拡大しています。参照:日本食品を世界中の食卓へ|キッコーマン株式会社
ヤマハ:グローバルブランドの確立
ヤマハは、楽器の製造販売を手掛け、北米、中南米、アジア、ヨーロッパ、アフリカなど世界中の国や地域に拠点を展開しています。2024年3月期には、海外での売上比率が75%を超えるなど、海外事業が大きな収益源となっています。グローバル総合楽器市場でのシェアはNo.1を獲得しており、世界中で高いブランド力を誇っています。
参照:グローバル楽器市場でNo.1のシェアを持つヤマハの中核事業|ヤマハ株式会社
トヨタ自動車:グローバル統合と現地適応の両立
トヨタ自動車は生産拠点や研究開発拠点を世界中に展開し、地域ごとの競争力を高めつつ、グローバルなブランドイメージを構築しています。全方位(マルチパスウェイ)戦略により、世界市場のニーズに合わせた技術を展開し、脱炭素・サステナビリティとイノベーションを両立させ、グローバルな競争力を維持・強化しています。
参照:今期2つの重点テーマ トヨタ変革へ佐藤社長が示したこと|トヨタイムズ
中小企業の海外進出事例
限られた人材や資金でも海外市場に活路を見出した中小企業の例です。
株式会社ジウン(現フジデノロソリューションズ株式会社):ニッチ市場での技術力
福岡発の医療システムを開発・販売する従業員数が数名の企業が、国内規制強化を機に海外展開を開始し、60万人のユーザーを獲得しました。効率的な運営体制、デジタルの活用、UXの工夫により、小規模ながら世界規模のユーザーを獲得した成功事例です。
参照:法改正で国内販売が不可能に。事業存続のための決断は、「現地に行かない海外進出」でした|JETRO
ちらし屋ドットコム:ECサイトを活用したグローバル展開
岐阜県各務原市のWebサイト制作会社です。顧客の海外通販の悩みをきっかけに自社内にEC事業部を設立し、現在では世界13カ国への販売・輸出を手掛けています。
参照:ECで地元産品を幅広く世界に販売/ちらし屋ドットコム(岐阜県)|JETRO
株式会社愛研化工機:技術力を活かした海外ニーズへの対応
愛媛県松山市の水処理技術開発企業が、2014年にベトナムに事務所を設立しました。現地のニーズに合わせた提案と事業展開を行い、海外進出に成功しています。
参照:パートナーの目に見えない海外ビジネスのノウハウに助けられた|JETRO
株式会社べアレン醸造所:地元のクラフトビールを海外に展開
岩手県の株式会社べアレン醸造所は、地元のクラフトビールを海外に展開しています。同社は、日本貿易振興機構(JETRO)の支援を活用し、海外の輸入業者とのマッチングや市場情報の提供を受けることで、販路を拡大しています 。
参照:できたてのベアレンを飲みに、世界各地から岩手に人が押し寄せるようになれば|JETRO
グローバル戦略がうまくいかなかった失敗事例とその要因
グローバル戦略では、成功する企業がある一方で、期待した成果を得られず撤退を余儀なくされた例も少なくありません。企業の失敗から見えるのは、事前準備の不足や、現地への理解不足によるリスクです。
ソニーは、かつて中国市場に工場を設立しましたが、中国経済の減速や現地従業員とのストライキへの対応の遅れなどにより、工場を売却し事業を縮小しました。この事例は、経済情勢の変化に加え、現地の労務管理や文化的配慮が不十分であったことが影響しています。
楽天グループは、アメリカ市場にEC事業で参入しましたが、すでに強力な競合が存在する市場での差別化に苦戦し、価格競争に対応できず、期待された成果を上げられませんでした。また、現地文化への対応不足も課題となりました 。
丸紅株式会社は、アメリカの穀物商社を買収しましたが、買収後の売上予測を誤り、また現地でのブランド力が不足していたため、投資に見合う収益を上げられず、他社にその商社を譲渡しました。 。
ニトリホールディングスも、アメリカ市場に進出しましたが、日本のトレンドに合わせた商品展開や、現地市場のニーズとのずれなどから、業績が伸びず撤退しました 。
これらの失敗事例から、海外進出においては、徹底的な市場調査、現地ニーズへの適切な対応、競合企業の分析、そしてリスク管理の重要性が改めて認識されます 。
自社に合うグローバル戦略を描く考え方
グローバル戦略を策定する際には、自社の状況を深く理解し、慎重に検討を進めていきましょう。まずは、現状分析を十分に行い、グローバル戦略の目的を明確にしてとりかかりましょう。
市場の選定が最も重要
自社に合ったグローバル戦略を描くためには、まず、進出する市場の選定が最も重要です。
自社の強みや製品・サービスが、どの海外市場のニーズに合致するのか、市場規模や成長性、競合の状況などを詳細に分析する必要があります 。
現地市場の徹底調査
次に、選定した市場について、文化、経済、法的環境などを徹底的に調査し、現地の消費者の行動様式や購買決定プロセスを理解することが不可欠です 。
海外展開の形態を検討
海外展開の形態も慎重に検討する必要があります。輸出から始めるのか、現地に法人を設立するのか、現地の企業と合弁で事業を行うのか、あるいは業務提携という形を取るのかなど、自社のリソースや目標に合わせて最適な形態を選択する必要があります 。
現地とのパートナーシップ
現地の協力企業や専門家とのパートナーシップを構築することも、海外展開を成功させるための重要な鍵となります 。また、現地人材の登用や育成も重要です。
組織体制の構築
また、グローバル戦略を効果的に推進するための組織体制を構築することも重要です。海外事業を担う人材の育成や配置、本社と海外拠点との連携体制などを整備する必要があります 。
リスク評価と対策
海外展開には、政治、経済、社会、為替など、様々なリスクが伴います。これらのリスクを事前に評価し、適切な対策を立案しておくことが不可欠です 。
事例から学ぶ企業のグローバル戦略
グローバル戦略の事例から見えてくる共通点として、グローバル戦略で成功を収めている企業は、徹底的な市場調査を行い、現地のニーズに合わせた柔軟な適応を重視していることが挙げられます。
また、現地のパートナー企業や専門家との良好な関係を構築し、連携しながら事業を進めている点も共通しています。
一方、失敗した企業は、市場の理解が不十分であったり、安易に海外進出を決定してしまったり、組織運営上の課題を抱えていたりする傾向が見られました。
これらの事例を踏まえ、企業がグローバル市場で成功するためには、自社の強みをしっかりと認識し、目標とする市場を慎重に選定し、変化に柔軟に対応できる戦略で海外展開に臨むことが重要と言えるでしょう。
グローバル市場には、国内市場にはない大きな可能性が広がっています。適切な戦略と周到な準備をもって海外展開に取り組むことで、企業は持続的な成長と発展を実現できるでしょう。
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