• 更新日 : 2025年12月1日

年収1,000万円の個人事業主が支払う税金シミュレーション|会社員との手取りの比較や節税対策も

個人事業主にとって年収1,000万円は大きな目標ですが、実際に残る手取り(実手取り)は、同額の会社員より少なくなるケースが多い傾向にあります。

この記事では、年収1000万円の個人事業主が支払う税金と手取り額を、具体的にシミュレーションします。そして、経費計上の徹底やiDeCoなどの節税対策はもちろん、法人成り(法人化)を検討すべき目安まで、個人事業主の手取りを最大化する方法を紹介します。この記事では、「年収」=「年間の売上」として扱います。

年収1,000万円の個人事業主が支払う税金はいくら?

年収1,000万円の個人事業主が支払う税金は、主に「所得税」「住民税」「個人事業税」「消費税」の4種類です。これらの税金は、「収入(=売上)」から「必要経費」を差し引いた「所得」を基準に計算されます。

まずは、それぞれの税金がどのように計算されるのか、その概要を見ていきましょう。

1. 所得税の計算方法

所得税は、個人の1年間の所得から各種所得控除を差し引いた課税所得金額をもとに計算される税金です。個人事業主の事業所得は通常「総合課税」の対象となり、他の総合課税の所得(雑所得など)と合計して税額を算出します。ただし、譲渡所得配当所得など一部の所得は「分離課税」として、事業所得とは合算せずに別途定められた計算方法で税額を求める必要があります。

また、2037年までは、算出された所得税額(特定の税額控除後の金額である「基準所得税額」) に2.1%を乗じた「復興特別所得税」も併せて納付しなければなりません。

課税所得700万円の場合の計算例
  • 所得税率:23%
  • 控除額:636,000円
  • 所得税:700万円×23%-636,000円=974,000円
  • 復興特別所得税:974,000円×2.1%=20,454円
  • 合計:994,454円(所得税+復興特別所得税)

参考:所得税のしくみ|国税庁

2. 住民税の計算方法

住民税は、「所得割」と「均等割」を合計して計算されます。

所得割は、前年の課税所得金額を基に計算され、税率は基本的に10%です。均等割は、所得にかかわらず定額で課されるもので、地域差はありますが多くの自治体では5,000円程度です。

ただし、分離課税の対象となる所得(例:上場株式の配当所得、税率5%)がある場合は、総合課税の所得とは別に計算されます。

課税所得700万円の場合の計算
  • 所得割:700万円×10%=70万円
  • 均等割:5,000円
  • 合 計:705,000円

3. 個人事業税の計算方法

個人事業税は、地方税法などで定められた70の「法定業種」に該当する事業を行う個人事業主に課される税金です。業種によって3〜5%の税率が定められています。

例えば、物品販売業・運送取扱業・飲食店業・デザイン業・コンサルタント業は税率5%、畜産業・水産業・薪炭製造業は4%の個人事業税率が課せられます。また、不動産貸付業や駐車場業も、規模や管理状況によって認定されれば個人事業税が課されます。

個人事業税の計算方法は、以下の通りです。

(事業所得または不動産所得※ + 所得税の事業専従者給与(控除)額 – 個人の事業税の事業専従者給与(控除)額 + 青色申告特別控除額 – 各種控除額)× 税率 = 個人事業税額

※雑所得が事業的規模とみなされるケースも含まれることがあります。

この計算式の特徴は、所得税の計算とは異なり、青色申告特別控除額や所得税の計算で経費とした事業専従者給与額を、所得に加算(差し引かない)して計算する点です。その他、損失の繰越控除や事業用資産の譲渡損失の繰越控除など、一定要件を満たす場合に適用できる各種控除もあります。

参考:個人事業税|仕事と税金|東京都主税局

4. 消費税の計算方法

消費税は、原則として基準期間(個人事業主の場合は前々年)の課税売上高が1,000万円を超える場合に納税義務者(課税事業者)となります。課税売上高が1,000万円を超えると、その2年後から消費税の納税義務が発生します。ただし、前々年の売上が1,000万円以下でも、特定期間(前年1月〜6月)における課税売上高が1,000万円を超えた場合なども課税事業者となるため注意が必要です。

さらに、適格請求書発行事業者(インボイス登録)を選択した場合は、売上高にかかわらず免税点の適用は受けられず、課税事業者として取り扱われます。

税率は、飲食料品や定期購読の新聞などの軽減税率対象品目(8%)を除き、原則10%です。納税額の計算方法は「一般課税」と「簡易課税」の2種類があります。

参考:消費税のしくみ|国税庁

年収1,000万円の個人事業主の手取りシミュレーション

同じ年収1,000万円でも、個人事業主と会社員では手取りが大きく異なります。会社員の年収1,000万円は額面給与ですが、個人事業主の年収1,000万円は売上であり、性質が全く異なるためです。

ここでは、具体的なモデルケースで手取り額がどれほど変わるのかをシミュレーションします。

前提条件

年収1,000万円の会社員の手取り

会社員の場合、額面給与から税金・社会保険料が天引きされます。

項目金額備考
年収(額面給与)10,000,000円
給与所得控除1,950,000円
給与所得8,050,000円
社会保険料(健康保険+介護保険+厚生年金雇用保険約1,180,000円標準報酬月額・賞与等から概算。会社と折半後の自己負担分。
所得税・復興特別所得税約868,000円課税所得 = 805万円-基礎控除48万円-社保控除118万円
住民税約645,000円課税所得に基づく所得割+均等割
手取り約7,312,000円

年収1,000万円の個人事業主の手取り

個人事業主の場合、売上から経費を支払い、さらに税金・社会保険料を自分で納付します。

追加前提条件
  • 業種:デザイナー(個人事業税5%対象)
  • 経費率:30%(売上の30%を経費として支出)
  • 申告方法:青色申告(65万円控除適用)
  • 消費税:課税事業者(一般課税、経費の消費税は簡易計算)
項目金額備考
年収(売上)10,000,000円
必要経費(仕入等)3,000,000円
事業所得7,000,000円
国民健康保険約870,000円世田谷区、40歳、所得等に基づく概算 ※上限付近
国民年金保険料210,120円令和7年度:17,510円×12カ月
所得税・復興特別所得税約745,000円課税所得 = 700万円-青色控除65万円-基礎控除48万円-社保控除約108万円
住民税約600,000円課税所得に基づく所得割+均等割
個人事業税237,500円(700万円-事業主控除290万円)× 5% ※青色申告特別控除は足し戻しの取扱い
消費税(納税額)約700,000円(売上消費税 100万円)-(経費消費税 約30万円※)= 約70万円 ※簡易計算)
手取り約3,637,000円

※上記はあくまでシミュレーションの一例です。経費率や控除額によって手取りは大きく変動します。

シミュレーション結果の通り、同じ年収1,000万円でも、個人事業主の実手取りは会社員より少なくなるケースが多くあります。

主な理由は以下の通りです。

  • 売上と額面給与の違い:個人事業主は1,000万円の売上から、まず事業運営のための経費(上記例では300万円)を支払う必要があります。
  • 社会保険料の負担:会社員は会社と折半ですが、個人事業主は国民健康保険料と国民年金を全額自己負担します。特に国民健康保険料は所得に応じて高額(社会保険料上昇)になります。
  • 個人事業税・消費税の負担:会社員にはない、個人事業税や消費税(課税事業者の場合)の負担が発生します。

年収1,000万円の個人事業主ができる節税対策

年収1,000万円の個人事業主が手取りを増やすためには、節税対策が不可欠です。主な対策としては、経費計上の徹底、青色申告の選択、iDeCoや生命保険料控除、家族への給与を経費化できる青色事業専従者給与の特例などがあります。

経費計上

個人事業主の節税の基本は、事業にかかった費用を必要経費として漏れなく計上することです。収入(売上)から差し引ける経費が多ければ、課税所得金額が減り、結果として所得税や住民税の負担が軽くなります。

また、課税事業者として消費税を申告している場合には、経費に含まれる消費税を「仕入税額控除」として差し引けるため、消費税の納税額を抑える効果もあります。

必要経費の具体例
  • 仕入:商品や原材料の購入費
  • 地代家賃:事務所や店舗の家賃
  • 水道光熱費:事務所の電気代、水道代、ガス代
  • 通信費:事業用の携帯電話代、インターネット回線費用
  • 消耗品費:文房具、プリンターインクなど/li>
  • 接待交際費:取引先との飲食代、贈答品代
  • 旅費交通費:打ち合わせのための電車代、ガソリン代、駐車場代
  • 外注工賃:業務の一部を外部に委託した費用

自宅兼事務所で仕事をしている場合、家賃や光熱費、通信費などを全額経費にすることはできませんが、家事按分という考え方で、事業で使用した割合分を経費として計上できます。

  • 家賃の家事按分の例
    (事務所として使用する面積 ÷ 自宅全体の面積)で割合を算出します。
    例:家賃15万円、全体の広さ60㎡、仕事部屋20㎡
    15万円×(20㎡/60㎡)=5万円(月額5万円を経費計上)
  • 電気代の家事按分の例
    使用時間やコンセントの数などで合理的な割合を算出します。
    例:電気代2万円、1日のうち事業で8時間使用(8時間 / 24時間 = 約33%)
    2万円×33%(月額6,600円を経費計上)

家事按分は税務調査でもチェックされやすいポイントのため、なぜその割合にしたのか、客観的かつ合理的な根拠を説明できるようにしておくことが重要です。

青色申告

個人事業主の節税効果を最大化するために、確定申告は青色申告を選択することが重要です。青色申告には、最大65万円の「青色申告特別控除」が受けられるほか、赤字を3年間繰り越せる「純損失の繰越し」、そして次に解説する家族への給与を経費にできる「青色事業専従者給与」 など、白色申告にはない多くの税制優遇があります。

参考:No.2070 青色申告制度|国税庁

青色事業専従者給与と専従者控除

青色申告者は、「青色事業専従者給与の特例」を活用できます。これは、生計を一にする配偶者や親族が事業に従事している場合、一定の要件下で、支払った給与を全額必要経費として計上できる制度です。所得を大幅に圧縮できるため、所得税や住民税の節税に繋がります。

一方、白色申告の場合でも「事業専従者控除」がありますが、控除額に上限が定められており、青色申告ほどの高い節税効果は期待できません。

参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁

iDeCo・国民年金基金

iDeCo(個人型確定拠出年金)と国民年金基金は、個人事業主やフリーランスが任意で加入できる私的年金制度です。これらのメリットは、掛金の全額が所得控除の対象となる点であり、老後資金を準備しながら高い節税効果を得られます。

iDeCo

iDeCoは、加入者自身が運用商品を選定し、掛金を積み立てる制度です。運用によって得られた利益(運用益)は非課税で再投資されるうえ、将来年金や一時金として受け取る際にも公的年金等控除や退職所得控除といった税制優遇が適用されます。

参考:iDeCo

国民年金基金

国民年金基金は、国民年金(基礎年金)に上乗せして加入できる公的な年金制度です。掛金はiDeCoと同様に全額が所得控除の対象となります。1口目は必ず終身年金を選択する必要があるため、「一生涯受け取れる年金」を確実に準備したい個人事業主にとって有効な選択肢です。

参考:国民年金基金

小規模企業共済

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者が自身の退職金や廃業時の生活資金を準備するための共済制度です。最大の魅力は、掛金(月額1,000円から7万円の範囲)が全額所得控除の対象となる点で、現役時代の節税効果が非常に高いです。

ただし、加入期間が短い場合の任意解約では受取額が掛金総額を下回る(元本割れ)可能性があるため、中長期での利用を前提に加入することが重要です。

参考:小規模企業共済制度について

生命保険料控除

生命保険料控除は、支払った生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料に応じて、年間で最大12万円の所得控除が受けられる制度です。一定の要件を満たす保険契約が必要ですが、将来の保障を確保しつつ節税にも繋がるため、検討の価値がある対策です。

参考:No.1140 生命保険料控除|国税庁

年収1,000万円の個人事業主は法人化すべき?

売上1,000万円を超え、所得(利益)が安定してくると、「法人化(法人成り)」が有力な次ステップとなります。個人事業主の所得税は累進課税で所得が多いほど税率が上がりますが、法人税は税率が一定の部分が大きいため、ある所得ラインを超えると法人の方が税負担上有利になるためです。

法人化(法人成り)を検討する目安

法人化を検討すべき目安は、一般的に「課税所得が800万円から1,000万円程度」とされています。これは、所得税率が法人税率を大きく上回るライン(所得900万円超で所得税率33%)であり、かつ消費税の納税義務が発生する課税売上高1,000万円とも重なるタイミングだからです。

ただし、これはあくまで目安であり、経費率、家族構成、社会保険加入状況によって最適なタイミングは異なります。

法人化(法人成り)のメリット

法人化(法人成り)には、税負担の軽減以外にも多くのメリットがあります。

  • 役員報酬による給与所得控除の適用
    自分自身への給与を「役員報酬」として支払うことで、会社員と同じ「給与所得控除」が適用されます。経費(損金)にできる上、個人の所得税計算上も控除が受けられるため、節税効果が非常に大きいです。
  • 経費(損金)にできる範囲の拡大
    個人事業主では経費にしにくい生命保険料(一定の要件下)や、自分自身の退職金(役員退職金)も法人の経費(損金)として計上できます。
  • 社会保険への加入
    法人化すると、健康保険(協会けんぽ等)と厚生年金への加入が義務付けられます。国民健康保険料のような所得に応じた社会保険料上昇がなくなり、扶養家族の保険料負担がなくなるメリットがあります。また、将来の年金受給額も手厚くなります。
  • 消費税の免税(最大2年間)
    資本金1,000万円未満で設立するなどの要件を満たせば、設立から最大2年間、消費税の納税が免除される可能性があります。
  • 社会的信用の向上
    法人格を持つことで、金融機関からの融資や、大企業との取引において信用力が高まる傾向があります。

法人化(法人成り)のデメリット

法人化にはメリットが多い一方、注意すべき点もあります。

  • 設立・維持コストの発生
    株式会社や合同会社の設立には、定款認証や登録免許税などの初期費用(合同会社で約6〜10万円、株式会社で約20〜25万円が一般的)がかかります。また、赤字であっても法人住民税の均等割(資本金1,000万円以下の場合、年間7万円程度)が発生します。
  • 社会保険料の会社負担
    社会保険に加入できるメリットの裏返しとして、会社は役員報酬にかかる社会保険料の約半分を負担する必要があります。個人負担と会社負担を合わせると、国民健康保険・国民年金時代より総額が高くなるケースもあります。
  • 事務負担の増加
    法人の経理処理や税務申告は非常に複雑なため、税理士との顧問契約が実質的に必須となり、その費用が発生します。

まずは税理士などの専門家に相談し、ご自身の状況でシミュレーションしてもらうことをおすすめします。

年収1,000万円の個人事業主が注意すべきことは?

年収1,000万円の個人事業主は、節税対策や法人化の検討と同時に、事業運営上の注意点も把握しておく必要があります。

会社員より社会保険料・税金が高い傾向がある

会社員は健康保険料や厚生年金保険料を会社と折半しますが、個人事業主は国民健康保険料と国民年金保険料を全額自己負担しなければなりません。特に国民健康保険料は所得に比例して高額になり、前年の所得に基づいて請求が来るため、社会保険料上昇に驚くケースも少なくありません。

さらに、法定業種であれば個人事業税が課され、前々年の課税売上高が1,000万円を超えれば消費税の納税義務も発生します。これらの税金は納付時期が異なるため、あらかじめ納税資金として別途確保しておく資金繰りの意識が重要です。

対策として、所得増加に伴い高額になる国民健康保険料については、業種別の国民健康保険組合への加入を検討すると負担を抑えられる場合があります。

退職金や年金を自分で用意する必要がある

個人事業主は、老後資金をすべて自分で準備する必要があります。会社員であれば企業の退職金制度や厚生年金がありますが、個人事業主の公的年金は国民年金のみであり、それだけでは受給額が十分とは言えません。

そのため、iDeCo、国民年金基金、小規模企業共済といった制度を活用し、計画的に老後資金を構築することが不可欠です。これらは自己責任で準備するリスクを伴いますが、裏を返せば、経費計上や資産運用において会社員よりも自由度が高いという点が個人事業主の特徴でもあります。

個人事業主の手取りは節税対策で大きく変わる

年収1,000万円の個人事業主は、事業規模の拡大に伴い税負担も増加しますが、手取り(実手取り)額は節税対策次第で大きく変わります。まずは、家事按分を含めた経費計上の徹底が大前提です。その上で、iDeCo、小規模企業共済、青色事業専従者給与の特例といった所得控除や経費化の手法を活用して課税所得を圧縮し、対策を講じることで負担は大幅に軽減可能です。

また、高額になりがちな国民健康保険料も、加入条件を満たす業種であれば、業種別の国民健康保険組合への加入で抑えられる場合があります。

個人事業主は、会社員と比べて税金や老後資金の面で自己責任が問われますが、事業が軌道に乗れば働き方の自由度が高く、ワークライフバランスを追求しやすいメリットもあります。会社員との違い、そしてリスクとメリットを正しく理解した上で、計画的な節税と資産形成を実行し、法人成りという次ステップも視野に入れていきましょう。


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