• 作成日 : 2025年1月23日

個人事業主が死亡したら事業継承はどうなる?相続税や手続きを解説

個人事業主が死亡した場合、相続の手続きとともに、事業継承の問題が生じます。個人事業主の事業を引き継ぐ場合は、開業手続きが必要です。

本記事では、個人事業主が亡くなった場合の相続手続きや発生する税金の内容・軽減方法、事業継承する場合の手続きについて解説します。事業継承の相談先についても説明するため、参考にしてください。

個人事業主が死亡したら事業継承はどうなる?

個人事業主が死亡したら、相続人は事業用の資産を含めた財産を相続します。相続人は相続に関する手続きを行うとともに、廃業届の提出など、個人事業主の事業に関する手続きも行います。

個人事業主と法人の事業継承の違い

業主が亡くなった場合、個人と法人では事業継承の方法が異なります。個人事業主は事業継承の前と後では人格が変わるため、それぞれの手続きが必要です。

個人事業主が亡くなって事業を継承する場合、相続人が事業資産を相続したのち、後継者になる者が新たに個人事業主となって事業を開始します。そのため、経営権を引き継ぐには、現経営者の廃業届と後継者の新規開業届が必要です。

一方、法人は登記によって法律上の人格が認められているため、経営者が変わっても人格は同じです。そのため、経営者が所有していた株式を継承すれば、経営権も引き継がれます。

個人事業主が死亡した場合の手続き

個人事業主が亡くなったら、相続人は死亡届の提出と事業の廃業届を提出する手続きが必要です。

それぞれの手続きについて、みていきましょう。

個人事業主の死亡の届け出

個人事業主を相続した相続人は、死亡届の提出が必要です。死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に行います。提出先は、次のいずれかの市区町村役場です。

  • 死亡者の死亡地
  • 死亡者の本籍地
  • 届出人の住所地

届出は誰でもできるわけではなく、親族や同居者、家主・地主、家屋管理人、後見人など、法律で定められている人が行う必要があります。

事業の廃業の届け出

個人事業主が亡くなって親族が事業を引き継ぐ場合でも、事業の廃業届が必要です。廃業届は、納税地を管轄している税務署に廃業日から1ヶ月以内に提出します。

さらに、個人事業主が消費税課税事業者であった場合は、「事業廃止届」と「個人事業者の死亡届」の提出が必要です。​​期限の指定はありませんが、納税地を管轄する税務署に、できるだけ速やかに提出します。

また、従業員・事業専従者等に給与を支払っていた場合は、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届」の届出が必要であり、納税地を管轄する税務署に、廃業日から1ヶ月以内に届けます。

個人事業主が死亡した場合の相続の確認

個人事業主が死亡した際は、相続の手続きとして、次の確認が必要です。

  • 相続人と遺言書の確認
  • 事業資産の確認
  • 債務・負債が多い場合

それぞれの内容をみていきましょう。

相続人と遺言書の確認

個人事業主が死亡したら、相続の手続きを開始します。まず、相続人の人数と、亡くなった個人事業主が遺言書を作成しているかの確認が必要です。遺言書がある場合は、基本的に遺言の内容で相続人の遺産分与を行います。

ただし、相続人には遺留分(最低限相続できる相続財産の割合)があるため、相続人が複数いる場合に遺言書の内容が「すべての遺産を1人に譲る」といった内容であれば、ほかの相続人から「遺留分侵害額請求権」を請求される可能性があります。そのため、協議が必要になる場合もあるでしょう。

遺言書がない場合、法定相続人の確定が必要です。亡くなった個人事業主の本籍地の市区町村役場で、出生から死亡までの戸籍謄本を取得して調査します。

遺産分割は、戸籍謄本による調査で相続人となる者がいないかを確認してから実施しなければなりません。

事業資産の確認

次に、亡くなった個人事業主が所有していた土地・建物や預貯金等、財産を確認します。不動産等を適正に評価する必要があり、不動産会社の査定サービスなどを利用して金額を出しましょう。

財産調査は、住宅ローンや借金などマイナス財産も含みます。経営状態が赤字で負債を抱えている場合は、相続した財産で返済できない可能性もあります。

財産調査が難しい場合は、行政書士などの専門家に依頼するとよいでしょう。

債務・負債が多い場合

債務が少なく経営状態も良好であれば、事業の引き継ぎを検討します。しかし、赤字経営で債務が多い場合は無理に事業を引き継ぐ必要はなく、相続を放棄することも可能です。

相続放棄は負債だけでなく、プラスの財産も相続しない方法です。相続人全員で合意する場合は、プラスの財産で相殺可能な分だけ負債を相続する「限定承認」も選択できます。限定承認であれば、赤字経営でも事業を引き継ぎたい場合に、債務を減らして継承ができます。

個人事業主が死亡した場合の相続放棄の方法

マイナス財産が多いなどで相続放棄をしたい場合、相続放棄の手続きが必要です。相続放棄とは、被相続人から相続財産となる資産や負債などの権利や義務の一切を引き継がず、放棄する手続きです。

相続放棄の手続きは、亡くなった個人事業主が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所に、相続放棄申述書などの必要書類を提出します。提出後、家庭裁判所から「照会書」が送付されることがあり、回答が必要です。

その後、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届けば、手続きは完了です。相続放棄が認められた場合、その相続人は初めから相続人ではなかったものとみなされます。

個人事業主が死亡した場合の税金の軽減方法

個人事業主が死亡した場合、相続税や所得税、その他の税金がかかります。相続税については、軽減することも可能です。

税金の内容や、軽減する方法をみていきましょう。

相続税

相続税は、亡くなった個人事業主から相続した財産に課される税金です。相続税の対象になるのは、現金や土地・建物など、金銭に換算できる財産です。

原則として、相続税の課税価格が基礎控除額を上回るときのみ相続税が課され、申告が必要になります。

基礎控除額の計算式は、次のとおりです。

3,000万円+600万円×法定相続人の数

相続人が1人で相続財産が3,600万円以下であれば、相続税はかからず、申告は必要ありません。

超える場合でも、次のような税金の負担を軽減できる制度があります。

小規模宅地等の特例とは、相続した土地のうち、一定要件を満たす宅地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。たとえば、事業用の土地を相続して申告期限まで保有し、かつ事業を継続するといった要件を満たせば、400平米までの評価額を80%減額することができます。

個人版事業承継税制とは、一定の事業用資産を贈与や相続によって取得した場合、そこで発生する贈与税・相続税の納税が猶予される税制です。猶予された状態で一定要件を満たせば、納税義務が免除されます。

所得税

個人事業主は1年間に得た所得を翌年の期日までに申告し、所得税を納付しなければなりません。個人事業主が死亡した場合、その年の確定申告は相続人が行います。この手続きを「準確定申告」といい、1月1日から被相続人が死亡した日までの所得と税額を計算して申告します。

提出期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内」であり、通常の確定申告の提出期限とは異なるため、注意が必要です。

その他の税金

亡くなった個人事業主の2年前の年間課税対象となる売上高が1,000万円を超えていた場合、事業を引き継いだ1年目から消費税の納税義務が生じます。

また、個人事業主が所有していた土地・建物を相続した場合、固定資産税・都市計画税が課せられます。固定資産税は原則として税率1.4%であり、都市計画税は0.3%が上限です。

個人事業主が死亡し事業を継承する場合の手続き

亡くなった個人事業主の事業を引き継ぐ場合、開業届の提出などの手続きが必要です。

ここでは、事業継承の手続きについて解説します。

個人事業の開業届出書

事業を引き継ぐ場合、開業届出書の提出が必要です。納税地を管轄している税務署に、死亡日から1ヶ月以内に提出します。従業員・事業専従者等がいて給与を支払う場合は、同じ期日内に給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書の提出も必要です。

そのほか、必要に応じて次の手続きを行います。

  • 社会保険や労働保険に関する手続き:年金事務所、ハローワーク、労働基準監督
  • 営業の許認可申請や届出:各行政担当窓口

所得税の青色申告承認申請書

所得税の青色申告承認申請書は、事業を引き継ぐ人が以前から個人事業主として事業を営んでいなかった場合に提出します。

提出期限は、原則として青色申告書で申告をしようとする年の3月15日までです。ただし、個人事業主の死亡日によって提出期限が異なります。

死亡日提出期限
1月1日~8月31日死亡日から4ヶ月以内
9月1日~10月31日その年の12月31日まで
11月1日~12月31日翌年の2月15日まで

屋号の引き継ぎ

個人事業主の屋号(商号)をそのまま引き継ぐ場合は、特別な届出は必要なく、開業届に個人事業主が使用していた屋号を記入するだけで引き継ぎができます。屋号を変えたい場合は、開業届に変更したい屋号を記載します。

屋号を変える場合は、取引先などへの報告が必要です。飲食やサービス業では、顧客が別の店と勘違いすることもあるため、屋号を変えないケースが多いでしょう。

事業継承について相談・依頼できる公的機関・専門家

個人事業主が亡くなって事業継承する場合、手続きなどがわからない場合は公的機関や専門家に相談するとよいでしょう。

相談できるのは、主に次の公的機関・専門家です。

  • 政府の事業引継支援センター
  • 税理士・公認会計士
  • 司法書士

どのような相談や依頼ができるのか、みていきましょう。

政府の事業引継支援センター

国が設置する事業承継の公的相談窓口です。親族内への継承や第三者への引継ぎなど、中小企業や個人事業主の事業継承に関するあらゆる相談に対応しています。

相談はすべて無料で、中小企業のM&A支援の実務に精通した専門家が秘密厳守で相談に対応します。

個人事業主の死亡で事業を引き継ぐ際の手続きやわからないことについて、なんでも相談が可能です。全国に相談窓口があるため、まずは気軽に相談してみるとよいでしょう。

税理士・公認会計士

税理士・公認会計士は税務・会計の専門家であり、相続や事業継承についてさまざまな相談ができます。

相続税の手続きや節税などを相談したり、小規模宅地等の特例・個人版事業承継税制についての的確なアドバイスを受けたりすることが可能です。

事業継承に精通している専門家であれば、事業承継計画の策定や実施についてもサポートを受けられます。

司法書士

司法書士は、登記業務や供託業務を独占業務とする専門家です。相続における登記の代理申請や相続人の調査、法務局・裁判所への提出書類の作成などに対応しています。

事業継承に力を入れている司法書士であれば、相続後のさまざまな手続きについて相談したり実務を依頼したりしながら、事業継承についても的確なアドバイスをもらえるでしょう。

個人事業主が死亡した際の事業継承は開業届の提出が必要

個人事業主が死亡した場合、法人とは異なり、事業用財産を継承してもそのまま事業継承できるわけではありません。新たに開業するために開業届の提出が必要です。青色申告承認申請書は提出期限があるため、確認しておきましょう。

事業継承についてわからないことや心配事があるときは、公的機関や専門家にも相談できます。早めに相談し、事業の引き継ぎをスムーズに行いましょう。


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