- 更新日 : 2023年7月27日
ポートフォリオ経営(マネジメント)とは?企業の事例も紹介
企業におけるポートフォリオマネジメントとは、企業が所有する様々な製品やサービスを効果的に管理し、最適な結果を得るための活動を言い、製品やサービス管理手法の一つです。
この記事では、ポートフォリオマネジメントの基礎知識を固めた後、PPMなどの手法にも触れ、実際の企業例も挙げてわかりやすく解説します。
目次
ポートフォリオ経営(ポートフォリオマネジメント)とは?
企業が開発や投資をして利益を上げるためには、その製品・サービスや投資先の「組み合わせ」を考え、偏らないようにバランスを取ることが大切です。ポートフォリオマネジメントとは、そのバランスを考えるための手法や戦略を指します。
もともと「ポートフォリオ(英語:Portfolio)」とは、イタリア語のPortafoglioで「財布、紙入れ」の意味です。英語のPortfolioは、「いくつかの書類をまとめて持ち運べるかばん」のようなイメージがあります。
例えば、就職においてポートフォリオと言えば、クリエイターなどが自分をアピールするための作品集を意味し、金融投資においてポートフォリオと言えば、金融商品の組み合わせや一覧などを意味します。
このように、ポートフォリオは使用される文脈によって少しずつ意味合いが異なっています。したがって、ポートフォリオは様々な成果物を効果的に管理し、そこから最適な結果を得るために利用されるものであると言えます。
そこで、数あるポートフォリオの中から、ここでは事業ポートフォリオとプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントについて説明します。
事業ポートフォリオとは?
事業ポートフォリオとは、その企業が展開しているいくつかの事業を一覧にしたものを言います。つまり、事業ポートフォリオとは企業が所有する事業の集合体のことです。
企業はいくつかの事業を展開しており、それぞれの事業において製品やサービスは異なり、また、それぞれの事業における競争相手や顧客層も異なります。事業ポートフォリオを作成することにより、事業ごとの収益性や安全性などがわかり、将来、どの事業に企業のリソースを投入すべきかの判断がつきやすくなります。
事業ポートフォリオによって、個々の事業の業績だけでなく、自社内の事業バランスを俯瞰できるため、どの事業を伸ばせばよいかの判断や自社の競争相手の見当がつきやすくなります。また、どの事業はリスクが大きいかなどが判断でき、資金繰りをはじめ財務体質の強化にもつながります。
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントとは?
PPM(Product Portfolio Management:プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)とは、企業の扱う製品やサービスの集合(ポートフォリオ)を戦略的に管理する手法です。
特に中小企業においては、人材、資金、時間などが限られているため、所有する製品やサービス(プロダクト)を効果的に管理して、企業全体の成果を最大化するための活動が非常に大切です。
企業は多くの場合、複数の製品やサービスを提供しています。そこでプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントでは、製品の種類と需要のバランスを考え、経営資源の配分を最適化しようと働きます。つまり、どの製品やサービスの需要が高く、どの製品やサービスの需要が低いかを分析し、より効果的に企業のリソースを使って需要に応じた製品の組み合わせを考えていきます。
このPPMにおいてはいくつかの理論があり、なかでもブルース・ヘンダーソン氏が1970年に発表した経営管理手法が有名です。この手法についての詳細は下記をご参照下さい。
ポートフォリオ経営のメリット
ここでポートフォリオを中心とする経営による場合のメリットについて考えてみましょう。
最適な資源配分や事業構成を決める経営手法によりどのような効果が得られるのでしょうか?
経営判断を迅速に行いやすくなる
ポートフォリオ経営では、事業をいくつかに分類し、それぞれの戦略を明確にしていきます。例えば、収益性、成長性がともに高い事業は、さらに積極的に投資して市場シェアを拡大し、一方、収益性も成長性も低い事業は、撤退や売却などを検討します。
このように、ポートフォリオ経営では自社内のそれぞれの事業の状況に応じた経営判断が容易になるため、懸念される事業について迅速に対応することが可能になります。
既存のビジネスのリスクを明確にできる
ポートフォリオ経営で分析するのは、それぞれの事業の収益性や成長性だけではありません。それらの事業が置かれた市場環境や競合状況などの外部要因についても多面的に考慮します。
例えば、その事業については市場が飽和しているかどうか、この事業においては競合企業がどのような戦略をとっているかなども分析の対象とします。このように、ポートフォリオ経営では既存のビジネスに潜んでいるリスクを明らかにし、対策を講じることが可能です。
ポートフォリオ経営のデメリット
ここでポートフォリオを中心とする経営におけるデメリットについて考えてみましょう。
最適な資源配分や事業構成を決める経営手法によりどのような効果が得られるのでしょうか?
イノベーションの創出には向いていない
イノベーションとは、今までになかった新しい価値や市場を生み出す革新的な変化のことです。ポートフォリオ経営は、既存の事業に基づいて分析や評価を行うため、将来の可能性やリスクのシミュレーションそのものには不向きであると言えます。
また、ポートフォリオ経営では、各事業の「過去の」蓄積の延長として、収益性や成長性に応じて資源を配分するため、イノベーションに必要な新たな考え方や技術が優先されない場合があります。
事業同士の関係が考慮されていない
ポートフォリオ経営では、各事業を独立した単位として扱うため、これら各事業間の相乗効果などが軽視される可能性があります。
例えば、ある事業が他の事業に対して技術的な支援を行っている場合、その事業単体では収益性が低く見えるかもしれませんが、他の事業の収益性を高めているかもしれません。このように、ポートフォリオ経営では、事業間の相互関係や協力関係を十分に評価できない場合があります。
企業体制によっては実行しにくい
ポートフォリオ経営を成功させるためには、トップダウン型の強力なリーダーシップや中央集権的な意思決定が必要となります。しかし、企業によっては、各事業部門が自律的に運営されていたり、社内政治や利権が絡んでいたりする場合があります。
このような場合、せっかくポートフォリオ経営を導入しても、事業部門間の対立などが生じ、全社的に効果が上げられない可能性もあります。
ポートフォリオ経営の手法
ポートフォリオ経営を実現するにあたっては、さまざまな手法があります。複数のカテゴリーに分けて考えたり、目的などに応じて手法を使い分けたりするのがよいでしょう。
PPM分析を活用する
PPM分析とは、事業の成長性と市場占有率を軸にして、事業を4つのポジションに分類する分析方法です。
4つのポジションの概要は次のとおりです。
- 成長性が高く、市場占有率も高い:Star(スター)
- 成長性が低く、市場占有率も低い:Dog(ドッグ)
- 成長性が高く、市場占有率が低い:Problem Child(問題児)
- 成長性が低く、市場占有率が高い:Cash Cow(金のなる木)
これらの4つのポジションで事業の将来性や競合先と差の可視化などができるため、事業の現状と将来性を客観的に把握できます。また、どの事業に投資すべきか、どの事業を維持すべきか、どの事業を撤退すべきかなどの判断がしやすくなります。
PPM分析の結果をもとに市場成長率や市場占有率などを計算し、どの事業に投資する価値があるのか、また、どの事業に将来性が見込まれるのかを考えます。
注力事業を決める
注力事業とは、会社が最も力を入れて取り組むべき事業のことです。上記PPM分析の結果を参考に会社の戦略に照らし合わせ、注力事業を決めていきます。
注力事業を決めることで、会社は効率的に資源を配分でき、その注力事業に会社のリソースを集中させることで、競争力や収益力を高めることができます。
SWOT分析で自社の強みを明確にする
SWOT分析とは、会社の外部環境と内部環境を次の4つの要素で分析することであり、それぞれの要因の頭文字からSWOT分析と呼ばれます。
- 強み:Strengths
- 弱み:Weaknesses
- 機会:Opportunities
- 脅威:Threats
SWOT分析を行うことで、自社を取り巻く現状や将来の可能性を分析できます。また、自社の強みを活かして機会を捉える戦略や、自社の弱みを補って脅威に対処する戦略などを立てるのに役立ちます。
SWOT分析は、今会社が置かれている立場を客観的に見られるとともに、その会社独自の見方ができることがメリットと言えます。
ポートフォリオ経営の事例
少し古いものになりますが、ここでは実際のポートフォリオの事例を見ていきましょう。
株式会社日立製作所
日立製作所は、2008年のリーマンショックのあと、3つのステップで計10年にわたる復活から成長への取り組みを行ってきました。
その中では、大幅な事業ポートフォリオの入れ替えを実施し、これらによって人々のQOLの向上や顧客企業の価値向上を目指してきました。大きな事業再編に踏み切れた背景には、ポートフォリオ経営により正しく事業評価をしたことがうかがえます。
下記の経済産業省のサイトで、日立製作所の経営改革の資料が確認できます。
参考:第3回 事業再編研究会|経済産業省、The Hitachi Story(資料4)
現在、日立製作所は10年以上継続してきたポートフォリオ改革が一段落したため、次なる方針として、「サスティナブルな成長」を目指しています。
三井物産株式会社
三井物産株式会社では、経営会議の諮問機関の一つとして「ポートフォリオ管理委員会」を設置しました。ポートフォリオ戦略や投融資計画の策定、そしてポートフォリオのモニタリングを実施し、取締役会への報告を行ってきました。これらのことから、三井物産はポートフォリオ経営に重点を置いていることがわかります。
三井物産の事業ポートフォリオは、パートナーや顧客とのグローバルなネットワークと三井物産の展開する事業からなり、「産業横断的」に付加価値を創出するという特徴があります。
三井物産では、今後も事業ポートフォリオの強化を進めていく姿勢は変わらず、このことから事業ポートフォリオ経営の効果がうかがえます。
参考:事業再編ガイドライン 参考資料集|経済産業省、統合報告書 2022|三井物産
「ポートフォリオ」という用語に慣れよう!
ポートフォリオとは、その用語を使う文脈で違ったものを指します。どの文脈でも共通に言えることは、ポートフォリオとは個々の要素の入れ替えによって変わるものであり、結果的にひとまとまりになるものということです。また、リソースの最適化という共通項もあります。
その中で「ポートフォリオ」経営は、会社全体でバランスを取り、かつ、事業が最大化できるような組み合わせを考える手法です。事業の数が多いほど、またその要素が多いほどポートフォリオは複雑になりますが、事業ポートフォリオに限らず、ポートフォリオを考えるときには最終は一つになることを意識し、あまり複雑化しないほうがよいでしょう。
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