- 作成日 : 2024年11月15日
事業承継の後継者を育成する方法は?後継者不在の解決策まで紹介
事業承継の後継者は、企業の経営権や資産等を引き継ぐ人物のことです。事業承継を円滑に実施するには、早い段階から後継者候補を選定して人材育成に取り組む必要があります。本記事では、事業承継の後継者を育成する方法や後継者不在の解決策について解説します。
目次
事業承継における後継者とは?
事業承継における後継者は、企業の経営権や財産等を受け継ぐ人物のことです。
後継者の選定は、事業承継の成否を決める重要な問題です。とくに、中小企業は知的財産におけるノウハウや取引先等の人脈が経営者個人に集中する傾向があります。
円滑な運営や業績が経営者の資質に左右されるため、企業の継続性を確保するためには、早い段階から経営者候補を選定して人材教育に取り組むことが重要です。
後継者に必要といわれる資質には、以下のようなものがあります。
- 実務に関する知識と経験
- 経営能力
- 経営を受け継ぐ覚悟
- 経営理念の理解と共感
- リーダーシップ・決断力
事業承継の後継者を育成する方法は?
事業承継を円滑に進めるには、後継者の育成に必要な期間を逆算して十分な準備期間を設け、計画的に後継者教育に取り組むことが必要です。
事業承継の後継者を育成する方法について、事業承継の種類ごとに詳しく解説します。
親族内承継の場合
親族内承継で現経営者が後継者を決定する際に重視する資質・能力は、以下の3つです。
- 経営に対する意欲・覚悟
- 自社の事業に関する専門知識
- 自社の事業に関する実務経験
これらの能力を短期間の後継者教育で身につけるのは不可能です。後継者候補には十分な教育期間を設け、実務経験を積んでもらう必要があります。
親族内承継における後継者育成には、以下のような方法があります。
【社内教育の場合】
- 各部門をローテーションさせて経験と知識を習得させる
- 責任のある地位に就けて重要な意思決定やリーダーシップを発揮する機会を与える
- 経営者による直接指導・引継ぎで経営理念を承継する
【社外教育の場合】
- 他社での勤務を経験させて人脈の形成や新しい経営手法を習得させる
- 子会社・関連会社等の経営を任せて責任感の醸成・資質を確認する
- セミナー等を活用して知識の習得や幅広い視野を育成する
従業員承継の場合
従業員承継で後継者を決定する際は、以下の資質・能力が重視されています。
- 自社の事業に関する実務経験
- 自社の事業に関する専門知識
- 社内外のコミュニケーション能力
早い段階から、将来自分が経営者になることを意識している従業員は多くありません。後継者候補となり得る人材を早期に選定し、計画的に後継者育成に取り組むことが必要です。
従業員承継における後継者育成には、以下のような方法があります。
- 経理や総務、営業、経営企画など幅広い業務を経験させる
- 後継者塾や経営者会合等に参加させる
- 社内の重要プロジェクトを遂行させる
こうした取り組みを通して、後継者候補は事業の将来性や会社経営等を深く理解できます。
M&Aによる事業承継の場合
売却先企業の選定を間違えると業績が悪化したり、従業員の混乱を招いたりする可能性があります。M&Aで経営者が一新されて会社の方向性が大きく変わると、それに不満を感じた既存の従業員が大量に離職してしまうといった事例も少なくありません。
このようなリスクを回避するには、経営者候補となる後継者の育成が重要です。
M&Aにおける後継者育成には、以下のような方法があります。
- 経営方針をすり合わせる
- 会社の価値を理解してもらう
- 社長の実績を認めてもらう
事業承継の後継者不在の場合はどうする?
将来の経営者候補となる後継者がいない場合は、社外で探さなければいけません。ここでは、後継者候補の探し方について詳しく解説します。
事業承継のマッチングサービスで募集する
経営者候補が不在の場合は、事業承継のマッチングサービスを活用しましょう。
たとえば、事業主と承継してくれる人をつなぐ事業承継マッチングサイト「relay」があります。relayは、サイトに事業を引き継ぎたい事業主の記事を掲載し、その事業に興味を示した承継希望者とマッチングさせるサービスです。
後継者募集時の記事制作料や、事業譲渡決定後の手数料(売り手側のみ)はかかりません。
参考:relay
日本政策金融公庫のマッチング支援を活用する
日本政策金融公庫では、「事業を譲り渡したい人」と「事業を譲り受けたい人」をつなぐマッチング支援サービスを提供しています。
日本政策金融公庫は、国民生活の向上に寄与することを目的とする政策金融機関(政府系金融機関)です。日本政策金融公庫の専門担当者が、依頼者の希望を踏まえて後継者候補を探してくれます。
本サービスは、譲渡希望・譲受希望いずれの方も無料で利用可能です。
参考:日本政策金融公庫
事業承継税制における後継者の要件は?
事業承継税制とは、経営承継円滑化法に基づいて、会社や個人事業の後継者が保有する一定の資産における贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。
事業承継税制には、「法人版事業承継税制」と「個人版事業承継税制」がありますが、後継者である受贈者の要件がそれぞれ異なります。
ここからは、後継者である受贈者の要件を確認していきましょう。
法人版事業承継税制を活用する場合
法人版事業承継税制は、会社の株式等を対象とする制度です。
法人版事業承継税制には、「一般措置」と「特例措置」の制度がありますが、各制度によって適用期限や対象株数等が異なります。
詳しく知りたい方は、国税庁の公式サイトで確認してください。
後継者の主な要件は、以下のとおりです。
【贈与税の納税猶予及び免除】
- 贈与の時において、会社の代表権を有していること
- 贈与の日において、18歳以上であること
- 贈与の日まで引き続き3年以上を会社の役員であること
- 贈与の時において、後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
- 贈与の時において、後継者の有する議決権数が、次のイ又はロに該当すること(特例措置)
(イ)後継者が1人の場合、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除きます。)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
(ロ)後継者が2人又は3人の場合、総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除きます。)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
【相続税の納税猶予及び免除】
- 相続開始の日の翌日から5ヶ月を経過する日において会社の代表権を有していること
- 相続開始の時において、後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
- 相続開始の直前において、会社の役員であること
- 相続開始の時において後継者が有する議決権数が、次のイ又はロに該当すること(特例措置)
イ)後継者が1人の場合、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除きます。)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
ロ)後継者が2人又は3人の場合、総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除きます。)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
引用:中小企業庁 法人版事業承継税制
参考:国税庁 法人版事業承継税制
個人版事業承継税制を活用する場合
個人版事業承継税制は、個人事業者の特定事業用資産を対象とする制度です。
特定事業用資産とは、先代事業者の事業用に提供されていた以下の資産が該当します。
- 宅地等(400㎡まで)
- 建物(床面積800㎡まで)
- 建物以外の減価償却資産
詳しく知りたい方は、国税庁の公式サイトで確認してください。
後継者の主な要件は、以下のとおりです。
【贈与税の納税猶予及び免除】
- 贈与の日において18歳以上であること
- 円滑化法の認定を受けていること
- 贈与の日まで引き続き3年以上にわたり、特定事業用資産に係る事業に従事していたこと
- 贈与税の申告期限において、開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること
- 特定事業用資産に係る事業が、資産管理事業及び性風俗関連特殊営業に該当しないこと
【相続税の納税猶予及び免除】
- 円滑化法の認定を受けていること
- 相続開始の直前において特定事業用資産に係る事業に従事していたこと
- 相続税の申告期限において開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること
- 特定事業用資産に係る事業が、資産管理事業及び性風俗関連特殊営業に該当しないこと
- 先代事業者等から相続等により財産を取得した者が、特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例の適用を受けていないこと
引用:中小企業庁 個人版事業承継税制
参考:国税庁 個人版事業承継税制
事業承継の後継者育成は計画的に進めよう!
適切な後継者の選定は、事業承継が成功するか否かの重要な問題です。
とくに、中小企業の経営者は、決断力や戦略的思考力、危機管理能力など多岐にわたる資質が求められます。事業承継を成功させるには、早い段階で後継者候補を選定し、次世代を担う経営者を育成することが重要です。
事業承継を検討しているなら、後継者育成は計画的に進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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