- 更新日 : 2023年7月27日
経営判断とは?経営判断の原則と迷った際の指針
経営者の仕事は経営判断といわれています。事業を行っていると常に判断が求められ、それを誤ると大きな損害を被ったり、顧客や従業員からの信頼を失ったりして、最悪倒産するおそれすらあります。
今回は経営者が押さえておくべき経営判断の原則や基準、迷ったときの対処法についてご紹介します。
目次
経営判断とは?
経営判断とは文字通り企業の経営者(取締役)が下す判断のことです。仕入量や販売価格の決定、休業日の設定などの日常的な判断から、設備投資や人事、新規事業の開始や既存事業の廃止など会社の将来に関わること、あるいは事故や災害、トラブルなどの不測の事態が発生した際の対応など緊急を要するものまで、多岐にわたります。
経営者は経営数字や社内の状況、社会情勢や市場の動向、将来の見通し、その他さまざまな情報をもとに、適切な経営判断を行わなければなりません。冒頭でも述べたように、経営者の仕事は経営判断を下すことが全てといっても過言ではありません。
経営判断の英語表記は?
経営判断を和英辞書で調べると「business judgment」「business decision」「management judgment」「management decision」というように、複数の単語が出てきます。「business」とは仕事や事業のことを指し、「management」は管理や経営、運営のことを指します。一般的にbusinessは商業活動も含めた経営全般を指す意味合いが、managementは主に組織の運営や人の管理を指す意味合いが強いようです。
また、「judgment」も「decision」も、判断・決断という意味の英単語ですが、judgementの方がより厳密な意味合いがあるとされています。
一般的には経営判断という日本語は「business judgment」と訳されることが多いようです。後述する「経営判断の原則」は英語では「business judgement rule」といいます。
経営判断の原則とは?
「経営判断の原則」とは法律用語で、株式会社の取締役が行った判断について裁判所が審査することに対して一定の制限をかけるという考え方です。
通常、取締役は会社から委託されて就任し、会社に対して善管注意義務や忠実義務を負っています。善管注意義務とは、受託者がその職業や地位において一般的に要求される程度の注意を払わなければならないという義務であり、忠実義務は受託した職務を忠実に行わなければならないという義務のことです。
経営者は極力経営判断を誤らないよう注意を払う必要があります。一方で、人間なので判断を間違えることもあるかもしれません。そのときは正しい判断をしたつもりでも、不可抗力で後々損害が出ることもあり得ることです。リスクを取って新規事業を始めたとしても失敗するかもしれません。
経営判断をミスしたからといって、その都度責任を問われたら取締役が萎縮してしまい、かえって適切な判断ができなくなってしまうことも考えられます。そこで、前提となる事実認識を不注意で誤ったか、事実に基づく判断が著しく不合理であった場合以外は、経営判断をミスしても善管注意義務や忠実義務は問われないというルールになっているのです。
しかし、だからといって適当に判断していいわけではありません。会社を存続させるためには、常に最善の経営判断を行っていく必要があります。
経営判断に活用できる2つの基準
経営判断を行う際にはさまざまな情報に基づき最善と思われる答えを出していかなければなりません。その際の基準として「論理的基準」と「非論理的基準」の2つがあります。課題が発生した際に、これらの基準をバランスよく満たせるように考慮することで、より良い判断ができる可能性が高くなります。
論理的基準
論理的基準とは目で見て確認できる・理解できるものを基準とすることです。具体的には売上や経費、利益といった会社の数字のことを指します。数字を使って現状を分析し、未来を予測して「儲かるか?」「儲からないか?」を客観的に判断することで、正確な経営判断につながります。経営判断を行う上では基本となる基準です。
非論理的基準
非論理的基準とは目で見えない基準のことを指します。例えば、モラルや慣習、紳士協定、義理、人情などです。ビジネスでは数字だけでは割り切れないことも多々あります。ある事業を始める際に理論的基準に当てはめて「儲かる」と判断しても、その事業が道徳や商習慣に反しているものである場合、顧客や取引先、第三者から反感を買って、結果的に失敗するかもしれません。
経営判断に迷った際の指針・考え方
経営者が重大な経営判断を行わなければならない場面も少なくありません。そのときの判断次第で将来大きく利益につながることもあれば、逆に倒産につながるリスクもあります。ここからは経営者が判断に迷った際の指針や考え方についてご紹介します。
先輩経営者や経営者仲間に相談する
まずは先輩経営者や経営者仲間に相談してみましょう。特に同じような事業を営んでいる人、自社と同程度の規模の会社を経営している人であれば、過去に同じような課題に直面して乗り越えてきた可能性もあります。第三者に話すことで自分の頭の中を整理できたり、何気ない会話の中から新しい気づきが得られたりする効果も得られるかもしれません。
もちろん、会社の状況は異なるので鵜呑みにはできませんが、考え方や判断基準など参考になる可能性も大いにあります。いざというときに備えて、経営者同士の横のつながりも築いておきましょう。
経営者の本を読む
経営者が書いたビジネス書や自伝も大いに参考になります。誰もが知る有名企業や偉大な経営者は、経営判断を積み重ねてきたからこそ今の地位があるのです。一方で、たとえ優秀な経営者であっても経営判断を誤ることはあり、そうした事例もストーリーとして含まれている書籍が多くあります。失敗事例も把握することで、判断ミスの予防にもつながるでしょう。
本を読むことで経営判断のヒントになるだけでなく、経営者として必要なマインドや生き方も学べます。
経営理念やMVVに沿った判断を下す
判断に迷ったら経営理念やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に立ち返るのも手です。特に経営がうまくいっていないときは、経営理念やMVVと現状とのずれが生じている可能性も往々にしてあります。
例えば、新規事業を立ち上げるべきかどうか迷った際に、それが経営理念に沿ったものであれば、あるいはMVVを達成できるものであれば、参入する一つの根拠になり得ます。逆に新しい事業が経営理念に反するもの、MVVの達成につながらないものであるのなら、考え直す必要があるかもしれません。
あえて判断を遅らせる
どうしても迷ったら、あえて判断を遅らせるのも手です。時間が経過するにつれて考え方に変化が生じたり、違った視点で物事が見られるようになったり、新しいアイデアが思い浮かんだりするかもしれません。また、会社の状況や社会情勢、市場が変化し、判断がしやすい材料が出てくる可能性もあります。
期限があるものや早急に判断すべきものに関しては別ですが、あえて先送りをするというのも立派な経営判断です。
可逆か不可逆かを考える
可逆とは元通りに戻せるもの、不可逆とは元に戻せないものを指します。判断を求められている事柄が可逆的なものであれば、進めてしまって成果を検証し、失敗だと判断した際に止めてしまえばいいのです。不可逆的なものに関して判断をするのであれば、さらに慎重に検討する必要があります。
例えば、ある投資を行う際に損失リスクが軽微なものであれば、損失を被ったとしても既存の事業による収益で取り返せる可能性があるため、投資に踏み切ってもいいかもしれません。逆に投資に失敗したら会社が倒産するリスクが伴う場合は踏みとどまるべきです。
別の選択肢がないか検討する
一つの手段にこだわらず、別の選択肢がないかも考えましょう。例えば、資金調達一つとっても、銀行から融資を受ける方法もあれば、日本政策金融公庫から借り入れをする、ファクタリングを利用する、親族から借りる、使用していない設備や不動産を売却する、補助金や助成金を活用するなど、さまざまな方法があります。
最後は自分で決断する
経営判断でいちばん重要なのは自分で決断することです。先輩経営者や経営者仲間、役員、従業員、コンサルタント、税理士や会計士、家族、親族など、相談をすればさまざまな意見やアドバイスがもらえて参考になります。書籍やネットでもヒントとなる情報を得られるでしょう。
しかし、自分のこと、会社のことは、ご自身がいちばん知っているはずです。役員がいる場合には、他の役員の意見も尊重しつつ、最後は自分で経営判断を下しましょう。ご自身で決断したことであれば、仮にうまくいかなかったとしても納得できる結果になるはずです。
経営判断は色々な基準を持ち、最後は思い切ることが大切
経営者には経営判断が常に求められ、その一つひとつが会社の今後を左右する重大なものとなります。失敗するリスクを極力軽減し、正しい判断をするためにも、多くの材料を集め、自分なりの基準や指針を持っておきましょう。
経営判断のミスが損失につながる一方で、判断の遅れがリスクを増大させるケースも少なくありません。しっかりと熟考したら、自分を信じて思い切って決断することも経営者にとっては重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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