• 更新日 : 2024年9月27日

飲食店が法人化すべきタイミングは?メリット・デメリットや必要な手続きを解説

飲食店の法人化とはそれまで個人事業主として経営していた飲食店を、株式会社や合同会社といった法人を設立して飲食店事業を展開することです。

一定以上の売上がある飲食店であれば、法人化することで節税対策になったり、社会的信用が向上したりなどの、メリットが享受できます。本記事では飲食店の法人化について詳しく解説します。

飲食店はいつ法人化すべき?

飲食店が法人化を検討するタイミングは年間の売上金額や事業規模などに応じて決めるのが一般的です。

具体的な目安としては、下記のようなタイミングが挙げられます。

  • 年間売上が1,000万円を超えた場合
  • 課税所得が900万円を超えた場合
  • 社会保険に加入したい場合
  • 従業員を雇用したい場合

法人化することで、個人事業主よりもさまざまな費目を経費に充てやすいため、節税効果も期待できるでしょう。他にも、厚生年金に加入できる、社会的な信用力の向上が期待できるなどのメリットがあります。

ただし、法人化には設立費用など手続きにコストがかかる、プライベートで使えるお金が制限される、赤字でも税金が発生するといったデメリットもあるため慎重な判断が必要です。

個人事業主と法人の主な違い

個人事業主は設立手続きが簡単で費用も少ないため小規模なビジネスに向いています。しかし、累進課税が適用される所得税が課せられ、収入が増えると高額な税率が適用されます。また、個人の飲食サービス業は、社会保険の非適用業種であり、経営責任は無限責任です。信用力は法人に比べて低いため、大規模な取引や融資を受ける際に不利になることがあります。

一方、法人は設立手続きが複雑で費用もかかりますが、法人税や法人住民税、法人事業税といった多様な税制が適用されます。社会保険は加入が必須となっており、それによって従業員の福利厚生を充実させることができます。さらに経営責任は有限責任となり、個人資産が守られる点も大きなメリットです。信用力も高いため、大規模な取引や融資を受けやすくなります。

法人化を検討すべきタイミング

一般的に個人事業主が法人化を検討すべきタイミングとして、年間売上が1,000万円を超えた場合が挙げられます。このラインになれば、所得税の税負担が法人税の税負担よりも高くなるため、法人税に切り替えることで税負担を軽減できます。

従業員を抱える予定がある場合も法人化を検討しましょう。有限責任で経営リスクを軽減し、法人としての信用力を活用することで、事業の拡大を図ることができます。

飲食店が法人化するメリット

ここからは飲食店が法人化することで得られるメリットについて説明します。

税制優遇/節税対策

法人化することで法人税が適用され、個人事業主としての累進課税を避けることができます。法人税は所得税に比べて累進税率が緩やかに設定されているため高所得者にとっては有利です。また、交際費や出張費なども法人であれば経費として認められるようになるため、節税効果が期待できます。

企業としての信用力向上

法人化することで、企業としての信用力が向上します。法人格を持つことで金融機関からの融資が受けやすくなる、取引先からの信頼も高まるといったメリットが得られるでしょう。大規模な取引や長期的な契約が結びやすくなり、さらなる事業拡大が期待できます。

責任の限定化

法人化すると経営者個人の責任が有限責任に限定されます。これは、法人の債務が法人の財産の範囲内でのみ責任を負うことを意味します。

個人が事業で生じた債務を履行しなければならない個人事業主とは異なり、経営者個人の財産が保護されるので、リスクの高いビジネス展開も安心して行うことができます。

社会保険の適用

先述のとおり、法人化すると社会保険に加入しなくてはなりません。厚生年金や健康保険は従業員の福利厚生を充実させるために重要なものであり、社会保険の適用により従業員の医療や年金が確保され、従業員の生活の安定やモチベーション向上、優秀な人材の採用につながります。

経費にできる幅が増える

法人化すると個人事業主よりも経費として認められる範囲や金額が拡大します。社宅費や交際費、役員報酬など、個人事業主では認められない経費も法人では経費として計上できるため、税負担を減らすことができます。

飲食店が法人化するデメリット

飲食店が法人化することで、以下のようなデメリットも発生します。

設立費用がかかる

法人を設立するためには、定款の作成や認証、登記手続きなどが必要となります。特に、株式会社の設立には登録免許税や定款認証費用などで多額のコストがかかり、これが初期投資として大きな負担になることがあります。

具体的な費用は法人格の種類や規模によっても異なりますが、合同会社では約6万円~10万円程度、株式会社では約20万~30万円程度の設立費用の他に資本金が必要です。

運営コストの増加

法人ともなると会計や税務、法務に関する業務が増加し、それに伴うコストも増加します。例えば、税理士や会計士への報酬、定期的な決算報告書の作成費用などが必要となります。これらのコストは、個人事業主だったときと比べて大きな負担となることがあります。

行政手続きの増加

法人化することで行政手続きが増加します。定期的な税務申告や社会保険の手続き、法定調書の作成など、多くの行政機関に対して手続きを行う必要があります。これらには時間と労力がかかり、専門知識も求められるため、事務作業の負担が増えることになります。

利益分配の制限

法人化すると利益の分配に関する制限が生じます。例えば、役員報酬や配当金の支払いには一定のルールがあり、自由に利益を引き出すことができません。また、配当金には二重課税の問題が生じるため、個人事業主に比べて資金の自由度が低くなる可能性があります。

法人税の納付

法人化すると法人税の納付が必要です。法人税は利益に対して課せられるため、利益が出ている場合は高額な税負担が生じることがあります。また、法人税に加えて法人住民税や法人事業税なども納付する必要があり、税負担の回数が増えるでしょう。

法人化する際の会社形態はどう判断すべき?

飲食店が法人化する際の法人格としては、株式会社と合同会社のいずれかを選ぶことが多いといわれています。どの形態にもメリット・デメリットが存在しますが、自分の店舗を法人化するときに法人格を選ぶ場合、以下のポイントを基準にしましょう。

  • 設立費用:初期コストやランニングコストがどれくらい必要か
  • 信用力:事業規模の拡大を考えている場合は、社会的信用力の高い法人格の方が有利
  • 運営の自由度:柔軟な経営をしたいか、上場など事業拡大を優先するか

ここでは法人化する際のメリットとデメリットを以下の表にまとめました。

メリットデメリット
株式会社
  • 信用力が高い
  • 資金調達がしやすい
  • 株式発行による資本調達が可能
  • 設立費用が高い
  • 決算公告をしなければならない
  • 経営の自由度が比較的低い
合同会社
  • 設立費用が低い
  • 運営の自由度が高い
  • 資金調達の方法が限定的
  • 権利譲渡や継承がしにくい

飲食店が法人化する際に必要な手続き

飲食店が法人化するための手続きは以下の流れで進められます。

  1. 定款の作成と認証:定款を作成し、公証人の認証を受ける(合同会社の場合は認証不要)
  2. 設立登記の申請:法務局に設立登記を申請する
  3. 税務署への届出:法人設立届出書青色申告承認申請書などを提出する
  4. 社会保険の加入手続き:労働保険、健康保険、厚生年金の加入手続きを行う
  5. 営業許可の再取得:必要に応じて新たな法人名義で飲食店営業許可を取得する

他にも個人事業主で得た営業許可は法人には引き継げないので、食品衛生法に基づく営業許可の再取得が必要です。

法人化の流れについては以下の記事でさらに詳しくご説明しています。

飲食店が法人化する際の注意点

飲食店が法人化する際に注意したいポイントを4つご紹介します。

  1. 資本金を高く設定しすぎない
    資本金は運転資金であるため、ある程度確保しておくことが望ましいですが、高額に設定しすぎると法人税の負担が増えるため適切な金額に設定することが重要です。
  2. 役員報酬を適切にする
    役員報酬は法人の経費として計上できますが、高額すぎると法人税の節税効果が薄れる点に注意が必要です。
  3. 税務申告の準備をする
    法人化に伴い税務申告の煩雑さが増すため、税理士へ依頼することも必要となります。
  4. 定款を慎重に作成する
    定款は法人の基本ルールを定める重要な書類であり、内容を慎重に検討して作成しなければなりません。

飲食店の法人化は慎重に考え、専門家に相談して最適な判断をしよう

飲食店を法人化する際、タイミングや法人格の種類など検討すべき事柄が多数あります。最初から法人化する方法もあれば、売上が上がっても個人事業主として経営していく方法もありますが、税制面や会社設立の手間などを考えると、やはりある程度安定した売上が上げられるのであれば、法人化するのがよいでしょう。

飲食店経営をしつつ法人化を検討されている方、法人化を考えていても何から始めたらいいか分からないという方は一度税理士などの専門家に相談してみましょう。


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