• 作成日 : 2024年12月27日

事業承継が進まない理由は?課題と具体的な解決策をわかりやすく解説

事業承継が進まない代表的な理由は、後継者が定まらないことです。しかし、後継者以外にも、親子間での相続トラブルや事業承継時に発生する資金負担の問題もあるでしょう。

本記事では、事業承継が進まない理由について、課題と具体的な解決策を、中小企業庁のデータや日本商工会議所のアンケートを用いながら解説します。

事業承継が進まない理由は?

事業承継が進まない大きな理由は、少子化の影響もあり後継者が不足しているためです。しかし、仮に後継者が見つかれば、事業承継問題のすべてが解決するわけではありません。まずは、事業承継が進まない主な理由である次の5点について説明します。

  • 後継者が不足している
  • 親子間のトラブルが発生する
  • 事業承継の資金が不足している
  • 贈与税・相続税の負担が大きい
  • 個人保証の引き継ぎが難しい

後継者が不足している

事業承継の大きな障壁の一つが、後継者不足です。少子化の影響で、そもそも子供がいない、あるいはいても家業を継ぐ意思がないといったケースが増えています。

また子供がいても、事業を継続する能力や適性がないと判断される場合もあるでしょう。事業を行うためには、経営スキルや業界知識、リーダーシップなど、多岐にわたる能力が求められます。加えて、変化の激しい時代を乗り切るための柔軟性や対応力も必要です。

さらに、能力があっても事業を継ぐ覚悟がなければ、事業の継続は難しいでしょう。長年経営を続けていくには、強い責任感と情熱が不可欠で、困難な状況に直面しても、諦めない強い意志が必要です。

親子間のトラブルが発生する

事業承継は、企業の経営権や資産を次の世代に引き継ぐプロセスであり、複雑な人間関係が絡みあっています。とくに、親子や家族間でのトラブルは、事業承継を阻む大きな要因の一つです。

被相続人が経営者の場合、遺産には会社株式や不動産など高額なものが含まれることが多く、相続争いに発展するケースも少なくありません。後継者となる子供に株式を集中して相続させれば、他の家族から「不公平だ」と不満が出る可能性があります。

事業承継の資金が不足している

事業承継には、想像以上に多額の資金が必要となるケースがあります。とくに、後継者が親族外の場合や、親族内でも株式の所有権が分散している場合は、株式の買取が必要となるため資金不足に陥りやすいです。

株主の世代交代や相続によって、株式の所有権が分散してしまうことは珍しくありません。この場合、後継者が経営権を掌握し、安定した経営体制を築くためには、必要な株式を買い集める必要があります。

しかし、株式の買取には多額の資金が必要です。自己資金だけでは足りず、金融機関からの融資が必要となるケースも多く、事業承継を難しくする要因の一つと言えます。

贈与税・相続税の負担が大きい

事業承継では、後継者が先代経営者から事業資産を引き継ぐ際に、贈与税や相続税の納税義務が発生します。税負担が大きすぎることも、事業承継を阻む要因の一つとなっているでしょう。

とくに、事業の価値が高い場合は、贈与税や相続税の額も高額になります。後継者は、多額の税金を支払うために、金融機関から借入をしなければならないケースもあるでしょう。また、納税資金を確保するために、事業に必要な資金を捻出できなくなる可能性もあります。

さらに、贈与税や相続税の計算は複雑で、専門的な知識が必要です。税理士のような専門家に相談する費用も発生するため、後継者にとって大きな負担となる可能性があります。

個人保証の引き継ぎが難しい

事業承継において、個人保証の引き継ぎがネックとなるケースもあります。個人保証とは、金融機関から融資を受ける際に、企業ではなく経営者個人が返済を保証する義務を負うことです。

日本の中小企業では、会社の資産と経営者の資産が一体となって管理されていることが多く、個人保証は融資を受けやすくする一般的な方法として浸透してきました。しかし、事業がうまくいかなかった場合、経営者個人が多額の借金を背負うリスクがあるでしょう。

そのため、後継者が個人保証を引き継ぐことを嫌がるケースが増えています。また、先代経営者と後継者で能力や経験に差がある場合、金融機関が後継者の個人保証の引き継ぎに難色を示すケースもあるでしょう。

日本の事業承継の課題は?

日本では、超高齢化社会に突入しさまざまな分野で問題が発生する2025年問題が目前に迫っています。事業承継においても、多くの中小企業経営者の高齢化が進むため、2025年問題は深刻な課題であり、国を挙げての対策が必要となっているでしょう。

日本の事業承継にどのような課題があるのか、中小企業庁のデータや日本商工会議所のアンケートから解説します。

事業承継における2025年問題とは

2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上(後期高齢者)となり、日本が超高齢化社会に突入することで、「医療」「介護」「年金」「雇用」などさまざまな分野で問題が深刻化すると予想される現象です。

2025年までに、経営者が70歳を超える中小企業・小規模事業者は約245万社に達すると予想され、そのうち約半数の127万社が後継者不在の状態に陥るとされています。これは、日本企業全体の約1/3に相当する数です。

後継者不在による事業承継の失敗は、企業の廃業に直結する可能性が高く、経済的な損失は計り知れません。

参考:中小企業企業庁 「事業引き継ぎガイドライン」改定検討会(第1回)中小企業企業庁 資料3-1:中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題 

中小企業庁のデータによる事業承継の課題

中小企業庁のデータによれば、日本の経営者年齢のピークはこの20年間で50代から60~70代(平均60.5歳)へと大きく上昇し、後継者不在率は依然として高い水準にあります。

企業が休廃業や解散する件数は増加傾向で、そのなかでも廃業理由の3割は後継者難と、大きな割合です。

日本の屋台骨を支える多くの中小企業の活力を維持し、さらなる発展のために事業承継を円滑に進める対策が必要不可欠と言えます。

参考:中小企業庁 事業承継を知る

日本商工会議所の事業承継に関する実態アンケート

続いて日本商工会議所の事業承継に関する実態アンケートを見てみましょう。

アンケートによれば、現代表者の年齢が60歳以上の企業では、50%超が後継者を決定済みですが、約2割は後継者が不在である状況です。また、中小企業の8割超が親族内承継を実施しています。

課題を見ると、親族内承継において、相続税や贈与税の納税資金確保が障害となっているとする企業は約8割と高い割合です。さらに、代替わりが多いほど株価が高額化する傾向があり、4代目以降の企業では株価1億円超が約7割を占めています。

円滑な事業承継のためには、税金をはじめとする資金面での対応も重要な課題であることがわかるでしょう。

参考: 日本商工会議所 「事業承継に関する実態アンケート 調査結果」を公表

事業承継が進まないとどうなる?

事業承継が進まないと、企業はさまざまなリスクに直面します。

後継者不在のまま経営者が高齢化すると、企業の舵取り役が不在となるでしょう。また、働く従業員のなかには、事業承継が進まないことで不安を感じる方も出てきます。

結果として、業績が悪化し事業継続が困難となり、最悪の場合は廃業に追い込まれる可能性もあるでしょう。事業承継が進まないリスクについて、詳しく見てみます。

業績が悪化する

事業承継が適切に進まないと、企業の業績が悪化する可能性があります。

後継者が決まっていても、育成段階であれば、すぐに経営の舵取りをできるわけではありません。先代経営者が高齢で、後継者の育成に十分な時間を割けないまま引退してしまうと、リーダーシップの空白が生じ、意思決定の遅れや経営判断のミスを招く恐れがあります。

また、後継者不在の状態が続くと、従業員の間に将来への不安や不満が募り、モチベーションの低下や離職につながる可能性があるでしょう。優秀な人材が流出してしまえば、企業の競争力は低下し、業績悪化に拍車がかかります。

事業継続が困難になる

事業承継が進まないと、事業継続が困難になるリスクが高まります。

後継者不在や事業承継の遅れは、従業員のモチベーションや企業の信用に悪影響を与えるでしょう。将来への不安から優秀な人材が流出し、技術やノウハウの継承が途絶えてしまう可能性があります。

また、業績不振が続くと、金融機関からの資金調達が難しくなるでしょう。とくに、現経営者の信用で資金調達をしている場合は、後継者に十分な信用がないため、融資を受けられなくなる可能性も考えられます。

資金繰りが悪化すると、設備投資や新規事業への展開が難しくなり、競争力を失うでしょう。顧客や取引先からの信頼も低下し、取引が減少する恐れもあります。

会社が廃業する

事業承継が進まない最悪のケースは、会社が廃業に追い込まれることです。

事業承継は、後継者がいなければそもそも成り立ちません。後継者候補がいない、あるいはいても事業を継ぐ意思がない場合は、事業の継続が難しくなります。

M&Aなど、第三者に事業を承継する方法もありますが、必ずしも希望通りの条件で承継先が見つかるとは限りません。とくに、中小企業や零細企業の場合、事業規模が小さかったり特殊な業種であったりすると、買い手が見つからないケースもあるでしょう。

事業承継を進めるための具体的な解決策は?

事業承継をスムーズに進めるためには、早めに対策を講じる必要があります。

まず、後継者の選定は可能な限り早期に進め、能力や適性を見極めましょう。親族外承継やM&Aによる第三者承継も視野に入れる必要があるかもしれません。

また、事業承継には、資金調達や税金対策など、さまざまな課題が伴います。そこで活用したい制度が、事業承継税制や事業承継・引継ぎ補助金などの公的支援制度です。公的支援制度を有効活用することで、資金面での負担を軽減し、スムーズな事業承継を実現できる可能性があります。

さらに、税理士や弁護士、M&Aアドバイザーといった民間の専門家に相談するのも良いでしょう。それぞれの解決策を詳しく見てみます。

後継者の選定や育成を早期に進める

適切な後継者の選定は、事業承継を成功させるための最初の、そして最も重要なステップです。とくに中小企業の場合、ノウハウや取引関係が経営者個人に集中していることが多く、後継者の資質が事業の成否に直結すると言っても過言ではありません。

後継者候補の選定は、年齢や経験だけでなく、経営者としての資質やリーダーシップ、従業員とのコミュニケーション能力など多角的な視点から総合的に判断する必要があります。

また、後継者が決定したら、可能な限り早期に育成を開始することが重要です。育成期間が短いと、後継者が十分な知識や経験を身につけられず、事業承継後に経営が不安定になるリスクがあります。

親族外承継やM&Aによる第三者承継を活用する

少子高齢化や価値観の多様化に伴い、近年は親族のなかから後継者候補を見つけることが困難な企業も増加しています。このような場合、親族外承継やM&Aによる第三者承継を検討する必要があるでしょう。

親族外承継とは、血縁関係のない従業員や外部の人材に事業を承継することです。長年会社に貢献してきた従業員であれば、会社の経営状況や社風をよく理解しているため、スムーズな事業承継が期待できます。

また、外部から経営者を招聘する場合には、新たな視点やノウハウを取り入れることで、事業の活性化を図ることも可能でしょう。

M&Aによる第三者承継は、事業を売却することで、後継者問題を解決する方法です。M&Aは、事業の存続と雇用の維持を図りながら、経営者の引退を実現できる有効な手段となり得ます。

ただし、M&Aは複雑な手続きが必要となるため、専門家への相談やサポートが不可欠です。

事業承継税制を活用する

事業承継に伴う、相続税や贈与税の負担を軽減するために、「事業承継税制」の活用が検討できます。

事業承継税制とは、後継者が先代経営者から事業を引き継ぐ際に発生する相続税や贈与税の納税を、一定の要件を満たすことで猶予する制度です。さらに、一定期間経過後に後継者から次の後継者(3代目)に株式を承継した場合に、猶予された税金が免除されます。

事業承継税制を活用することで、後継者は事業承継に必要な資金を確保しやすくなり、事業の安定化と継続的な成長を図ることが期待できるでしょう。

事業承継・引継ぎ補助金を活用する

資金面で事業承継を支援する制度として、「事業承継・引継ぎ補助金」があります。

事業承継を契機として、新たな取り組みを行う中小企業等や、事業再編・事業統合に伴う経営資源の引き継ぎを行う中小企業等に対して、国が補助金で支援する制度です。

補助対象となる費用は、専門家へのコンサルティング費用やM&Aに係る費用など、幅広いものが含まれます。

補助金を活用することで、事業承継に伴う資金調達の負担を軽減し、円滑な事業承継を実現できる可能性があるでしょう。

ただし、補助金の交付には、要件を満たす必要があるため、事前に詳細な情報を確認しておくことが重要です。

事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関に相談する

事業承継に関する悩みや課題を抱えている場合は、公的機関に相談してみるのも有効な手段です。

国が設置する公的相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しており、全国各地に設置されています。

事業承継・引継ぎ支援センターでは、中小企業の事業承継に関するあらゆる悩みに対応しており、安心して相談できるでしょう。

具体的には、第三者承継支援や親族内承継支援、後継者人材のマッチングサービスなどのサポートを受けられます。

民間の専門家に相談する

事業承継は、法律や税務、会計などさまざまな専門知識が必要となる複雑なプロセスです。そのため、事業承継に詳しい専門家に相談することが、成功への近道となります。

法律に関する相談は弁護士や司法書士、会計や税務に関する相談は公認会計士や税理士に依頼するのが一般的です。

さらに、事業承継には金融機関やコンサルティング会社、M&A仲介会社なども関わるケースがあります。それぞれの専門家に相談することで、多角的な視点からアドバイスを得られ、より適切な判断を下せるようになるでしょう。

事業承継は早めの対策実施が重要

事業承継は、企業の存続と発展を左右する重要な経営課題です。

中でも、後継者不足は最も深刻な問題でしょう。後継者が決まらないまま経営者が高齢化すると、事業の継続性や従業員の雇用、取引先との関係維持などに大きな影響を及ぼします。

しかし、事業承継の問題は後継者探しだけではありません。親族間での相続争いや、事業承継に伴う多額の資金調達、税金対策など、解決すべき課題は多くあります。

事業承継が進まないと、業績悪化や事業継続の困難化、最悪の場合は廃業に追い込まれるリスクも高まるでしょう。

事業承継は、早めの対策が重要です。後継者の選定・育成はもちろんのこと、事業承継に精通した専門家や公的機関のサポートを活用し、計画的に準備を進めることが大切でしょう。


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