- 作成日 : 2024年11月15日
個人事業主も事業承継・引継ぎ補助金を申請できる?要件や申請方法も解説
個人事業主の場合でも、事業承継・引継ぎ補助金の申請はできます。ただし青色申告者でなくてはなりません。
また、補助金を活用するためには、公募要項に従った適切な方法でスケジュールに合わせて申請する必要があります。
本記事では、個人事業主が事業承継・引継ぎ補助金を申請する際の要件や申請方法、注意点を解説します。
目次
個人事業主が申請できる事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金とは、中小企業や小規模事業者が事業承継やM&Aなどを円滑に進めるための国の補助金制度です。個人事業主でも、後継者に事業を引継ぐ際に、補助金を活用できます。
事業承継・引継ぎ補助金は下記3種類の枠があります。
- 経営革新枠
- 専門家活用枠
- 廃業・再チャレンジ枠
それぞれの概要は次の通りです。
経営革新枠
事業承継を機に、新たな事業展開や経営の改善を行う場合に活用できます。たとえば、新商品開発や販路開拓などの取り組みが対象です。
承継の手段によって、「創業支援類型」「経営者交代類型」「M&A類型」の3つの支援類型があります。
専門家活用枠
事業承継にあたり、M&Aのニーズを持つ企業が、M&A専門業者や公認会計士などの専門家へ相談する費用を補助する枠です。
M&Aに関する委託費や旅費、外注費などが対象となります。なお、FA・仲介業務委託費は「M&A支援機関登録制度」に登録された専門家への委託のみが対象です。
廃業・再チャレンジ枠
M&Aによる事業譲渡ができなかった企業が、地域の新たな需要や雇用の創出に資するチャレンジを行うために、事業を廃業する場合の費用の一部を補助する枠です。
廃業や清算に関して専門家を活用した場合の費用や従業員の人件費、既存の商品在庫を専門業者に依頼して処分した際の費用などが対象となります。
個人事業主の事業承継・引継ぎ補助金の申請要件は?
個人事業主が、事業承継・引継ぎ補助金を申請して補助を受けるためには、青色申告者であることが必要です。
簡易な申告方法である白色申告の個人事業主は、補助金の対象者には該当せず申請できません。また、個人事業主ではない個人も対象外です。
なお、申請する事業枠についても注意が必要で、専門家活用枠は青色申告してから5年以上経過していることが必要です。
事業承継・引継ぎ補助金を申請できる個人事業主の要件を詳しく見てみましょう。
青色申告者であること
事業承継・引継ぎ補助金の申請には、青色申告を行っていることが必須条件です。
青色申告は、複式簿記による記帳や貸借対照表の作成など、白色申告よりも厳格な会計処理が求められます。しかし、税務上のメリットも大きく、青色申告特別控除を活用すれば節税効果も期待できるでしょう。
白色申告をしている事業主は、補助金の申請をきっかけに青色申告への変更を検討することもおすすめです。
青白申告を行うためには、事前に税務署に「青色申告承認申請書」を提出して、承認を受けておく必要があります。
確定申告書Bと所得税青色申告決算書の写しを提出できること
申請する際には、確定申告書Bと所得税青色申告決算書の写しを提出する必要があります。なお、書類に税務署の受領印もしくは受付を確認できるメールの提出が必要です。
確定申告書Bは、個人事業主の場合に利用する申告書で、事業も含めたすべての収入や費用、所得などが記載されます。
所得税青色申告決算書は、青色申告者が提出する決算書で、貸借対照表や損益計算書などを含む書類です。
個人事業主が事業承継・引継ぎ補助金を申請する方法は?
ここからは、個人事業主が事業承継・引継ぎ補助金を申請する方法を解説しましょう。
事業承継・引継ぎ補助金の申請には、補助対象事業の確認から始まり、認定経営革新等支援機関への相談や申請システムを利用するためのアカウント取得など、複数の工程があります。
- 補助対象事業を確認する
- 認定経営革新等支援機関へ相談する
- gBizIDプライムアカウントを作成する
- 事業承継・引継ぎ補助金の交付申請を行う
- jGrantsで交付決定通知を受け取る
- 補助対象事業を実施し、実績報告を行う
- 確定検査後、補助金が交付される
事業承継・引継ぎ補助金申請の各手順にについて、順番に詳しく見ていきましょう。
補助対象事業を確認する
個人事業主が事業承継・引継ぎ補助金を申請するためには、「経営革新枠」「専門家活用枠」「廃業・再チャレンジ枠」のどの枠に該当するかを確認する必要があります。
なぜなら事業承継・引継ぎ補助金の3つの申請枠は、それぞれ対象とする事業や補助対象経費などが異なるためです。
申請枠を決める際は、各申請枠の補助金額や補助率の内容も確認しましょう。
認定経営革新等支援機関へ相談する
補助対象事業を確認したら、次に認定経営革新等支援機関に相談しましょう。
認定経営革新等支援機関とは、中小企業庁が認定した、事業承継や経営革新に関する専門知識を持った機関です。
具体的には、「商工会・商工会議所」「税理士」「公認会計士」「中小企業診断士」「金融機関」などで、事業承継計画の作成支援や補助金申請のサポートを行っています。
なお、「経営革新枠」「廃業・再チャレンジ枠」の申請には、認定経営革新等支援機関の発行する確認書が必要です。
gBizIDプライムアカウントを作成する
事業承継・引継ぎ補助金の申請には、gBizIDプライムアカウントを作成します。gBizIDプライムアカウントとは、政府が提供するオンラインサービスを利用するためのアカウントです。
事業承継・引継ぎ補助金の申請には、補助金の電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」を利用しますが、同システムを利用するためにはgBizIDプライムアカウントが必要になります。
アカウントの作成は、gBizIDのウェブサイトから手続きが可能です。アカウントの発行には、1週間から2週間程度かかる場合があるため、時間に余裕を持って手続きを進めることをおすすめします。
事業承継・引継ぎ補助金の交付申請を行う
認定経営革新等支援機関のサポートを受けながら事業承継計画を作成し、gBizIDプライムアカウントを取得したら、いよいよ交付申請です。
交付申請は、jGrantsという電子申請システムを通じて行います。jGrantsにログイン後、必要事項を入力し、事業承継計画などの必要書類を添付して申請しましょう。
申請書類には、事業承継の内容や事業計画、収支計画などが含まれます。正確に記入し、漏れがないように注意しましょう。
また、申請期間が限られているため、締め切りに間に合うように余裕を持って手続きを進めることが重要です。
jGrantsで交付決定通知を受け取る
事業承継・引継ぎ補助金の交付申請後、審査が行われ、審査結果は、jGrants上で通知されます。
交付決定通知を受け取ったら、内容を確認し、補助金交付の条件などをしっかり把握しましょう。
もし、申請内容に不備や不足がある場合は、jGrantsから通知が届くため、速やかに修正を行い再提出してください。
なお、決定後に補助金の交付の申請を取り下げようとするときは、通知を受けた日から10日以内に事務局に申し出る必要があります。
補助対象事業を実施し、実績報告を行う
補助金の交付決定後、補助対象事業を実施し、成果を実績報告として提出します。実績報告書には、事業の進捗状況や達成した成果、支出内容の詳細などを記載する必要があるでしょう。
報告を通じて、事業が計画通りに進行しているか、補助金の適正な利用が確認されます。実績報告には締め切りが設けられているため、期限までに提出できるように準備を進めましょう。
確定検査後、補助金が交付される
実績報告後、事務局による確定検査が行われます。確定検査では、提出された実績報告書の内容や証拠書類に基づき、補助対象経費が正しく使われているか、事業が計画通りに実施されているかなどが審査されるでしょう。
検査の結果、問題がなければ補助金の額が確定し、指定された口座に交付されます。
補助金は事業の完了後、実績報告と確定検査を経て交付されるため、申請だけでなく報告も含めたすべての予定を把握し、計画的に事業を進めることが重要です。
個人事業主の事業承継・引継ぎ補助金の採択率は?
事業承継・引継ぎ補助金は、他の補助金制度と比較して、採択率が高い傾向にあります。
過去の公募では、おおむね50%〜60%前後の採択率で推移しており、事業枠の種類ごとに見ても傾向に大きく変わりはありません。事業承継という重要な課題に対して、国が積極的に支援を行っていることを示しています。
ただし、採択率が高いとはいえ、必ず採択されるわけではありません。事業計画の内容や収支計画など、さまざまな要素が審査の対象となります。
採択率を高めるためには、しっかりと計画を練り、説得力のある事業計画書を作成することが重要です。
個人事業主が事業承継・引継ぎ補助金を申請するときの注意点は?
次に個人事業主が事業承継・引継ぎ補助金を申請するときの、注意点について解説します。
事業承継・引継ぎ補助金は、常に募集しているものではなく、申請は対象とする事業枠に応じた募集期間内に行わなくてはいけません。
また、事業枠ごとに審査において加点されるポイントが公表されており、適用されることで補助金を受けやすくなる条件があります。
スケジュールと加点ポイントの2つの注意点について見てみましょう。
最新の申請スケジュールを確認する
事業承継・引継ぎ補助金は、公募期間が限られています。申請を検討している場合は、中小企業庁のウェブサイトで最新の申請スケジュールを確認しましょう。
公募期間は事業の種類によって異なり、年に複数回設定されています。それぞれの公募期間には、申請受付期間や交付決定時期、事業実施期間などが定められているでしょう。
スケジュールを確認せずに準備を始めると、締め切りに間に合わず、申請自体ができなくなる可能性があります。
事業ごとの加点ポイントを確認する
事業承継・引継ぎ補助金の審査では、事業計画の内容に応じて加点ポイントが設定されています。加点ポイントの詳細は、公募要項に記載されるため、よく確認しましょう。
加点ポイントの高い事業計画は、補助金交付の審査で有利になる可能性があるでしょう。事業ごとに、どのような項目で加点されるのか、事前に確認しておくことが重要です。
具体的に見ると、経営革新枠では、「中小会計要領」や「中小企業の会計に関する指針」の遵守、中小企業庁による「経営力向上計画」の認定などが加点対象になります。
専門家活用枠では、中小企業基本法等に準ずる小規模企業者であることや、「中小会計要領」あるいは「中小企業の会計に関する指針」の遵守などが加点対象です。
廃業・再チャレンジ枠では、「再チャレンジする方の年齢が若い」と加点対象となります。
事業承継・引継ぎ補助金は個人事業主でも申請可能
事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業や小規模事業者が事業承継やM&Aなどを円滑に進めるための国の補助金制度です。
個人事業主でも青色申告者であれば、後継者に事業を引継ぐ際に、補助金を活用できます。
事業承継・引継ぎ補助金には、「経営革新枠」「専門家活用枠」「廃業・再チャレンジ枠」の3つの枠があり、それぞれ対象となる事業や補助金の額が異なるでしょう。
補助金の申請には、対象枠の確定から認定経営革新等支援機関への相談、専用サイトでの申請などの手続きが必要です。
gBizIDのように、アカウントの取得に1〜2週間程度かかるものもあるため、申請する場合には最新のスケジュールを確認し、時間に余裕を持って手続きを進めることが重要でしょう。
事業承継・引継ぎ補助金の要件や申請方法を確認して、上手に補助金を活用してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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