• 作成日 : 2024年11月21日

従業員承継(MBO)とは?メリット・デメリットや事業承継の流れを解説

従業員承継(MBO)とは、役員や従業員に会社を承継することです。後継者不在に悩む企業が増えるなかで、役員や従業員を後継者にする事業承継が注目を集めています。従業員承継は、後継者を選択できる幅が広がる点がメリットです。

本記事では、従業員承継の方法や承継の大まかな流れ、成功させるポイントなどを解説します。

従業員承継(MBO)とは?

従業員承継とは、役員や従業員に事業を承継することです。「Management Buy Out」を略してMBOと呼ばれることもあります。

ここでは、従業員承継と、親族承継・M&Aによる事業承継との違いを解説します。

親族承継との違い

従業員承継とは、現経営者から役員・従業員に事業承継することです。一方、親族承継とは経営者の親族に事業を引き継ぐ手法であり、両者は後継者が親族であるか否かという点が異なります。

従業員承継は、承継させる親族がいない場合や、親族はいても経営を引き継ぐ意思がない場合に、社内の適切な人物を後継者にする方法として選ばれるケースが増えています。

M&Aによる事業承継との違い

M&Aによる事業承継との違いは承継先の違いです。M&Aとは、企業の合併や買収のことです。事業拡大を目的に行われることが多く、事業会社やファンドなどが承継先となります。

親族や社内の人材に承継者候補がいない場合は、M&Aによる事業承継で第三者に自社を譲渡することで、会社を存続させることが可能です。

従業員承継の方法は?

従業員承継で後継者に会社を引き継ぐ場合、3つの方法があります。それぞれ、詳しくみていきましょう。

株式を売却・譲渡する方法

承継する役員や従業員に株式を売却・譲渡する方法です。後継者は経営権とともに、会社の所有権も取得します。経営の意思決定がしやすくなり、承継後の会社経営がスムーズになる方法です。

ただし、後継者は株式を取得するための資金を準備しなければならず、高額な資金を用意するのが難しいケースがあります。その場合は分割での支払いや、銀行やファンドなどから資金を調達するといった対応が必要になるでしょう。

株式を贈与・遺贈する方法

株式を贈与もしくは遺贈する方法もあります。経営者に遺産の相続人がいないケースに適した方法です。配偶者や子どもがいても、株式以外の相続財産があれば遺留分の侵害といった問題は起こらないでしょう。

後継者には贈与税、相続税が発生する場合がありますが、「事業承継税制」を活用することで、負担を軽減することができます。事業承継税制は、事業承継の際に発生する贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。制度を利用することで、後継者は負担を抑えて事業を引き継ぐことが可能です。

経営権のみ譲渡する方法

株式を移転せず、経営権のみを譲渡する方法です。株式譲渡がないため、後継者に資金面での負担はありません。

しかし、旧経営者が株式を持ち続けるため、後継者には所有権がない「所有と経営の分離」の状態になります。後継者は旧経営者の同意を得ながら事業を進めなければならず、スムーズな経営ができない可能性があるでしょう。

従業員承継のメリットは?

従業員承継は他の承継方法と比較してどのようなメリットがあるのか、詳しくみていきましょう。

多くの従業員から後継者を選べる

従業員承継は、親族内承継よりも選択肢の幅が広がり、多くの従業員の中から適任者を選べる点がメリットです。親族承継の場合、後継者候補は限られます。限られた人物のなかに適任者がいるとは限らず、選ばれた後継者が経営者に向いていないケースもあります。育成にも時間がかかるでしょう。

M&Aによる承継であれば後継者の選択肢は広がりますが、買手とさまざまな条件交渉が必要であり、後継者としてふさわしい人材が見つかるとは限りません。

従業員承継では、社内で特に経営者としての資質を備えた人材を選ぶことができます。自社に長年勤め、経営方針を理解してスキルを身に付けた役員・従業員が後継者になれば、承継後の経営も安心して任せられるでしょう。

企業文化・社風も承継できる

従業員承継における後継者は社内の業務について精通しているため、円滑な承継が可能です。M&Aで会社の実情を知らない後継者を選んだ場合、企業文化や社風を引き継ぐことができず、まったく違う会社になってしまうかもしれません。

従業員が後継者になることで、企業文化や社風もそのまま維持され、社内の雰囲気を変えずに経営を続けられるでしょう。

従業員や取引先からの信頼を得やすい

従業員承継の後継者は経営や事業の方針などを深く理解している人材のため、他の従業員や取引先からも信頼を得やすいというメリットがあります。

事業承継で承継後の経営を円滑に進めるためには、従業員や取引先からの支持が欠かせません。その点では、従業員や取引先と面識のない第三者に引き継ぐM&Aよりも、受け入れられやすいといえるでしょう。

従業員承継のデメリットは?

従業員承継には、メリットだけでなくデメリットもあるため、事前に把握しておく必要があります。

後継者の人選が会社経営に大きく影響する

従業員承継でも、人選を誤ると承継後の経営がうまくいかない可能性があります。そのため、慎重な人選が必要です。

たとえば、古い経営体質が残る会社では、社会の変化に合わせて改革が必要な場合もあります。しかし、後継者が先代経営者の方針にとらわれてしまうと、古い体質がそのまま残されてしまうことになるでしょう。

後継者には、時代の流れに合わせ、経営者として柔軟な対応が求められます。後継者の人選が会社経営に大きく影響することを考え、慎重に人選することが大切です。

後継者の資金面のサポートが必要となる

承継後に後継者が安定した経営を行うためには、株式も承継して所有と経営を一致させることが必要です。そのためには、株式譲渡の方法で株式を引き継がなければなりません。後継者は資金を用意しなくてはならず、不足するときは資金面のサポートが必要になります。

資金面の対策として後継者に株式を安く譲渡しようとすれば、贈与とみなされることもあるでしょう。多額の税金が課される可能性もあるため、注意が必要です。

親族から事業承継を反対される可能性がある

後継者の資金面を考慮して株式を贈与する場合、経営者の親族からの反対が起こる可能性があります。

経営者がこれまで築いてきた会社を親族以外に無償で譲渡することは、心情的に納得できない親族もいるでしょう。承継後のトラブルを回避するためには、周囲と十分に話し合い、納得を得た上で事業承継を進める必要があります。

従業員承継による事業承継の流れは?

従業員承継はどのように進めていくのか、具体的な流れをみていきましょう。

現在の経営状況を把握する

従業員承継は、会社の現状を把握することから始めます。経営状況を可視化し、経営者自身が自社の強みや弱みを正確に理解することが大切です。

可視化するのは、「人」「物」「金」の3つです。

  • 人:従業員数や雇用の種別、給与額など
  • 物:有形資産、無形資産の内容、価値など
  • 金:資産、負債、資本、売上高、経費、利益など

あわせて、経営者個人についても以下の点を確認しておきます。

  • 個人所有の事業用資産
  • 株式保有状況
  • 負債の有無

経営に課題がある場合は、改善の具体策も立てましょう。

会社と経営者個人の資産状況を把握し、経営改善を行いながら、従業員承継に向けて万全の準備を整えてください。

従業員の中から後継者候補を選定する

現状を把握したら、候補者候補の選定に入ります。候補者として挙げられるのは、次のような人材です。

  • 共同創業者
  • 役員
  • 従業員

現経営者とともに事業に携わってきた共同創業者は、会社についてよく理解しているため、適任といえます。ただし、現経営者と年齢が変わらないケースも多く、現実的に後継者には向かないこともあるでしょう

専務や常務などの役員は、経営を把握しており、候補として有望です。スムーズな引き継ぎが期待できるでしょう。役員は候補が複数いることも考えられ、派閥争いの問題が起きないよう注意が必要です。

将来性のある優秀な従業員から抜擢するという選択肢もあります。実績や成長意欲、リーダーシップなどのスキルなどをチェックし、信頼できる人材がいれば事業を託すのもよいでしょう。ただし、経営に関する経験不足の懸念もあるため、慎重な判断が必要です。

後継者候補に意思確認をする

後継者候補を決定したら、承継する意思を確認しましょう。候補者が必ず了承するとは限らず、断られる可能性もあります。

経営者になることは単に出世するというだけでなく、大きな責任が発生します。会社経営が自らの手腕にかかっていることを考えると、受け入れるか迷うこともあるでしょう。

計画を進めた段階で断られると、また計画を練り直さなければなりません。早い段階で候補を決め、了承を得ておくことが大切です。

事業承継計画書を策定する

事業承継計画書とは、事業承継に必要な情報や課題をまとめた書類です。事業経営について、いつ何を実施するのかを明確にしています。事業承継計画書を策定することで後継者や関係者を安心させ、スムーズな引き継ぎに役立ちます。

計画書は、一般的に資産評価や後継者の選定、税務対策、財務戦略などを含む10年間の期間を計画します。

自社で作成するのが難しい場合には、コンサルティング会社や各士業などの専門家への依頼がおすすめです。

後継者について関係者に周知する

突然の交代で周囲が不安にならないよう、後継者について従業員や取引先・銀行などに周知しておくことが大切です。後継者がどのような人物かを伝えておけば、混乱やトラブルを避けることができるでしょう。

従業員には、新しい経営者を信頼してもらうことが必要です。また、関係者には、事業承継後も会社の方針は変わらないことを伝えておきましょう。

取引先や銀行には、取引関係の継続を確保するため、後継者を紹介して新体制への信頼を得るようにしてください。

事業承継計画を実施する

係者に周知後は、事業承継の実施前に把握した課題を解消しつつ、事業承継計画に沿って事業譲渡を実施します。経営者の引き継ぎは、仕事を徐々に教えながら進めていきましょう。

後継者には経営スキルや知識を学んでもらい、営業や人事などの各部門で実務経験を積むようにします。子会社や関連会社があれば、そこでの実務経験も必要です。

リーダーシップや戦略思考のスキルを身につけることも欠かせません。現経営者の元で、実際に仕事をしながら学ぶとよいでしょう。

コンサルティング会社や各士業などの専門家の協力も仰ぎながら進めていくと、スムーズな承継ができます。引継がすべて終了したら、事業承継は完了です。

従業員承継による事業承継を成功させるポイントは?

従業員承継を成功させるポイントには、早めの計画策定や後継者の教育などが挙げられます。

計画を早めに策定する

後継者を決定しても、すぐに承継できるわけではありません。実際に引き継ぐまでは、ある程度長い期間が必要なことを把握しておきましょう。

事業承継後、後継者が独り立ちして経営能力を発揮できるようになるためには、教育や実地経験が必要であり、時間がかかります。早めに計画を策定し、経営者がしっかりサポートできる体制を整えることが大切です。

後継者の教育を行う

従業員承継では、経営者としてのスキルを十分に教育していく必要があります。役員・従業員として仕事に従事するときに必要なスキルと、経営者として会社に携わる際に必要なスキルはまったく異なります。

親族承継では、後継者が若いうちから会社に入社して経営者としての教育を受けることもあるでしょう。しかし、役員・従業員の場合は、それぞれの立場で業務に従事しています。そのため、候補者になってから、ある程度の時間をかけて経営者としてのスキルを教育していかなければなりません。

資金面のサポートをする

役員や従業員に事業承継する場合、後継者が株式を買い取ることになることも多いでしょう。資金繰りに不安を抱える候補者も多いため、資金面でのサポートが欠かせません。

サポートとして、次のような対策が挙げられます。

  • 株式の購入資金として、後継者の給与や役員報酬を増やす
  • 銀行やファンドから、事業承継のための融資や出資を受ける
  • 国や自治体の事業承継・引継ぎ補助金を活用する
  • 事業承継税制などの優遇制度を利用する

後継者を資金面でサポートする方法はいくつかあるため、状況に合わせ、最適なサポートを考えましょう。

従業員承継は早めに計画策定が重要

従業員承継は、自社の役員や従業員を後継者にする事業承継の方法です。後継者候補の幅が広く、企業文化や社風などを承継しやすいというメリットがあります。ただし、株式取得の資金を用意するといった問題もあり、資金面でのサポートが必要です。

従業員承継は従業員の教育など、実際に引き継ぐまでには時間がかかるため、早めに計画を立てることが大切です。事前準備をしっかり行い、万全の体制で進めていきましょう。


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