- 更新日 : 2024年3月14日
IT・インターネット業の会社設立で定款に記載する事業目的の書き方
IT・インターネット業界は、今後も高い成長性を持つ分野と言えます。多くの起業家がさまざまな形で算入する業界とも言えますが、会社を設立するための手続きは他の業界にも共通しています。
この記事では、IT・インターネット業の会社設立について、特に「定款の事業目的」にスポットを当てて見ていきます。
目次
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IT・インターネット業で会社設立をするために必要な手続きとは?
総務省の「日本標準産業分類」によると、ITやインターネット業は、情報通信業の中の情報サービス業、インターネット付随サービス業などにカテゴライズされるものが主流だと思うかもしれません。しかしながら、これらにはハードウェアの取り扱いは含まれていません。例えば、インターネットによる教育サービスなどインターネット利用の業種は含まれません。
また、ITとICTの違いは「Communication」があるかないか、つまり、ICTはパソコンやスマホなどの情報端末によってコミュニケーションを取ることを意味します。実際に仕事に利用する場合には、コミュニケーションは欠かせませんので、ICTにかかわる業界は非常に広汎だと言えます。
この記事では、IT・インターネット業としてご紹介しますが、実態を踏まえハードウェアやICT関連の業界も含めて記載しています。
IT・インターネット業で会社設立をするために必要な書類
会社設立をするためには、まず、法人の種類を決める必要があります。一般には、株式会社や合同会社などの有限責任の法人が選ばれます。法人の種類によっては、会社登記の要件が異なるため注意が必要です。以下では、株式会社を中心に解説し、合同会社については説明を付け加える程度としています。
次に、法人の名称である商号や、登記上の住所となる本店所在地などを順次決めていきます。これらは「定款」に記載される項目です。定款とは法人の基本的なルールをまとめたものであり、商号や本店所在地のほか、事業目的や資本金、株式の発行方法などを記載します。
そもそも「款」という字は法律の条項などを指す言葉であり、定款が会社の憲法と言われるのも理解できます。会社に出資する者は、定款に記載された事業目的を達成するために出資しているのであり、会社は定款の事業目的以外の行為を自由にできるわけではありません。
株式会社の場合、定款は「認証」といって公証役場において公証人が正当な手続きによって作成されたことを証明する必要があります。そして、定款が完成すると法人登記申請を行います。登記申請とは、法務局で行う手続きで、定款や必要書類を申請し、不備がなければ受理・記録されて完了します。
定款以外に、必要書類としては主なものとして一般に次のようなものがあります。
- 登記申請書
- 取締役の就任承諾書
- 印鑑登録証明書
- 資本金等の払込証明書
- 印鑑届出書 など
最後に、登記申請が完了すると、法人として正式に認められることになります。
定款作成から登記が終了するまでは、かなり煩雑だと言えます。このような場合、解決の方法として、「マネーフォワード クラウド会社設立」などのシステムを利用することをおすすめします。最大11種の必要書類をシステムに入力することで作成できます。
定款に入れるべき情報とは
株式会社の定款に入れる情報には次の3種類があり、それぞれ会社法で規定されています。
- 絶対的記載事項(会社法 第27条)
会社法上必ず記載すべき事項として以下の事項①目的
②商号
③本店の所在地
④設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
⑤発起人の氏名又は名称及び住所
- 相対的記載事項(会社法 第28条)定款に定めがない場合には、その効力を生じない事項
- 任意的記載事項(会社法 第29条)
絶対的記載事項、相対的記載事項以外で会社法の規定に違反しない事項
定款をコンパクトにおさめたい場合でも絶対的記載事項の内容をよく把握して簡潔にまとめておきましょう。
絶対的記載事項には、資本金の額や設立時発行株式数は含まれていないので要注意です。
なお、絶対的記載事項に入れておくべき項目として6番目に「発行可能株式総数(新しく発行することが可能な株式の上限)」があり、設立登記の時までに決める必要があります。
合同会社の絶対的記載事項については次のとおりです。
(イ) 商号
(ウ) 本店の所在地
(エ) 社員の氏名又は名称及び住所
(オ) 社員の全部を有限責任社員とする旨
(カ) 社員の出資の目的及びその価額又は評価の標準
IT・インターネット業の場合の事業目的の書き方例
IT・インターネット業で法人を設立する場合、その定款に記載すべき「事業目的」とはどのように記載すればよいのでしょうか?ここでは、実際の記載例も参照しつつ、考え方を整理していきましょう。
定款の「事業目的」とは
定款の「事業目的」は、明瞭かつ具体的に書くことに尽きます。
事業取引が開始すると、取引先や金融機関などが定款を確認することがあります。その際、「事業の目的が明確かどうか」「その事業に営利性はあるのか」「適法なのか(違法行為ではないか)」などがわかりやすく記載されていることが求められます。
また、目的があまりに多すぎると会社の実態が見えにくくなる一方で、少なすぎても将来登記変更が発生して手間と費用がかかります。
下記は大手IT関連企業である株式会社NTTデータの事業目的です。まずは参考に見ておきましょう。
<株式会社NTTデータの事業目的>
- 電気通信事業
- 情報処理、情報通信に関する機器及びソフトウェアの開発、販売、構築、賃貸、保守
- 情報処理、情報通信に関するシステムの開発、販売、構築、運用、賃貸、保守、監視及び管理
- 情報処理、情報通信に関するシステムに係る建設工事並びにその他の建築工事及び設備工事の請負
- 経営、事業及び前各号に係るコンサルティング業務
- 経営、事業及び前各号に係る企画、調査、研究、開発、技術支援、各種業務プロセスに関する支援、研修等の業務
- 著作権、著作隣接権、工業所有権、ノウハウその他の知的財産権の取得、利用方法の開発、使用許諾、管理及び譲渡並びにこれらの仲介
- 不動産の賃貸、仲介、保有及び管理
- 労働者派遣事業
- その他商業全般
- その他前各号に関連する一切の業務
上の例にあるように、将来事業展開する予定のものについては先回りして入れつつ、最後に「関連する一切の事業」を入れておくのがよく見受けられる形式です。
IT・インターネット業の場合の「事業目的」の考え方
IT・インターネット業における「事業目的」の考え方としては、IT、インターネットの利用方法について簡潔に説明するものが多いと言えます。書き方の優先度としては、メインとなる業種から書き始め、小さな業務などは最後に「その他インターネット利用による各種サービス等の運営」などでまとめてもよいでしょう。
ITインストラクターの派遣事業などは、厚生労働省の許可申請が必要となるため、定款の事業目的に記載にあたっては、許認可の申請を受けましょう。
このようにIT・インターネット業は、情報通信業だけに留まらないケースも多々ありますので、似たような事業を展開している他社のホームページなどを参考にするとよいでしょう。
ケース別事業目的の書き方のポイント・記載例
IT・インターネット業はカテゴライズが難しくなりつつありますが、ここでは4つに分けて解説します。
- ハードウェア及び周辺機器
- ソフトウェア開発
- インターネット関連
- その他の情報処理サービス
なお、ここでは区分分けして例示していますので、事業内容によっては、組み合わせて「事業目的」を作成することになります。
ITとは「情報技術」を指しますが、情報技術を提供するにはハードウェアをパッケージ化されたソフトウェアとともに商品として取り扱うことが多々あります。このような場合には次のような例が挙げられます。
事業目的の例 | ハードウェア等 |
---|---|
IT関連のハードウェア及びソフトウェア等の販売 | |
IT機器の輸出入及び販売 | |
コンピュータのソフトウェア及びハードウェアの開発、設計、製造及び販売 | |
パソコン及び周辺機器の開発、製造、販売 |
例えば、株式会社マウスコンピューターのホームページには、事業内容として「パーソナルコンピュータ及び周辺機器の開発、製造、販売とそれに付随する一切の事業」と記載されています。
引用:会社概要|マウスコンピューターについて|マウスコンピューター【公式】
エレコム株式会社の定款には、「コンピュータおよびコンピュータ周辺機器の開発、製造、販売および輸出入業」をはじめ全部で23の事業目的が挙げられています。
引用:エレコム[6750]:定款 2022/06/24 2022年6月24日(適時開示)日経会社情報DIGITAL|日本経済新聞
また、NECプラットフォームズ株式会社は、事業内容として「ICTシステム機器の開発、製造、販売、設置、保守およびシステムソリューション」とあります。ここでは、「IT」ではなく「ICT」と記載されています。
引用:プロフィール: 会社概要 | 企業情報 | NECプラットフォームズ
次にソフトウェア開発を中心に見ていきましょう。ソフトウェア開発だけを専門にしているというより、関連する業務を請け負っているケースも多いので、他の業務と合わせて事業目的とするものが多く見られます。
事業目的の例 | ソフトウェア開発 |
---|---|
ITシステムの構築 | |
ネットワーク管理システムの企画、開発、保守 | |
ネットワークシステムの企画、WEBコンテンツ制作 | |
ITシステムの設計、施工、保守管理、サービス業務 など |
例えばトレンドマイクロ株式会社では、ホームページに事業内容として、「コンピュータ及びインターネット用セキュリティ関連製品・サービスの開発・販売」と記載しています。定款に記載のソフトウェア関連事業の目的としては、「コンピューターソフトウェアの設計、販売及び輸出入、コンピューター機器、関連製品の設計、販売及び輸出入、コンピュータシステムの運用管理、保守」などが挙げられます。
引用:会社概要 | トレンドマイクロ
トレンドマイクロ[4704]:定款 2021/03/25 2021年3月30日(適時開示)日経会社情報DIGITAL|日本経済新聞
また、株式会社オービックにおいてはホームページには、事業内容として「システムインテグレーション事業」「システムサポート事業」「オフィスオートメーション事業」とし、定款では「機器等のハードウェア、通信事業、ソフトウェア」などに分けて記載しています。
引用:会社概要 | オービック
参考:オービック[4684]:定款 2022/06/29 2022年6月30日(適時開示)日経会社情報DIGITAL|日本経済新聞
システムインテグレーションとは、顧客が利用するシステムについて、企画・設計から開発・構築・導入、さらに保守や運用などをトータルに請け負うサービスであり、短くまとめる場合には利用しやすい用語です。
次にインターネット関連について見ていきます。
事業目的の例 | インターネット関連 |
---|---|
インターネットを利用した通信販売 | |
インターネット、携帯情報端末機を利用した広告事業 | |
インターネットを利用した各種情報提供サービス | |
インターネットコンテンツ事業 など |
インターネット関連は実に多様であり一定枠に区分に限定できるものではありません。AIなど新しい技術やトレンドに応じて、新しいビジネスモデルが次々と生まれているため、インターネット関連事業においては、事業の軸をいくつか挙げて事業目的としているようです。
例えば、株式会社サイバーエージェントのホームページには、事業内容として「メディア事業」「インターネット広告事業」「ゲーム事業」「投資育成事業」の4つの事業軸が掲げられていますが、定款における目的の数は57もあります。
参考:株式会社サイバーエージェント | 株式会社サイバーエージェント
サイバーエージェント[4751]:定款 2021/04/01 2021年3月10日(適時開示)日経会社情報DIGITAL|日本経済新聞
また、グリー株式会社には、「ゲーム・アニメ事業」「メタバース事業」「DX事業」「コマース事業」「マンガ事業」「投資事業」と6つの事業軸を挙げていますが、定款における目的の数は「インターネットを利用した各種情報提供サービス業」をはじめとして36もあります。
参考:会社情報 – 会社概要|グリー株式会社(GREE, Inc.)
引用:定款・株式取扱規程|グリー株式会社(GREE, Inc.)
最後にその他のインターネット関連事業については、見てきたように他のITビジネスと組み合わせて行っているケースが多いと言えます。したがって、下記はほんの一例です。
事業目的の例 | その他の情報処理サービスなど |
---|---|
ITに関するコンサルティング事業 | |
ITスクールの運営 | |
コンピュータを利用した企業のIT化に関する支援及び指導 | |
ITエンジニアの派遣・紹介・育成 など |
コンサルティング、教育などを始めとして他の産業との結びつきが強いため、例えば、LINEヤフー株式会社は、ホームページにおいて主な事業内容として、「インターネット広告事業、イーコマース事業及び会員サービス事業などの展開並びにグループ会社の経営管理業務など」を挙げており、定款には「情報処理サービス業および情報提供サービス業」をはじめ計65の目的が掲載されています。
引用:会社概要|LINEヤフー株式会社
LINEヤフー[4689]:定款 2023/10/01 2023年10月2日(適時開示)日経会社情報DIGITAL|日本経済新聞
さらにデータセンター事業やロボティクス事業などもあります。今後ともIT・インターネットを利用した事業は増え続けていくでしょう。
定款の事業目的を記載する際に気を付けるべきこと
見てきたようにIT・インターネット業の事業は1つの会社で複数存在することが多いと言えます。設立時には一定の事業を決めておいても、新技術の発展やトレンドにより方向性を変えることもあります。
事業目的の変更は、定款を変更する手続きをしなければなりません。したがって、まずは先述のNTTデータ社のように「前各号に付帯関連する一切の事業」と入れておくことをおすすめします。
事業目的を記載する際に気を付けるべきこと
定款作成から登記申請までには種々の手続きがあります。また、IT・インターネット業で法人としての資格(任意)については開業後となりますが、信頼度を高めるためにも検討の価値はあります。
定款作成から登記までの流れ(株式会社・合同会社)
定款の認証とは、定款が正当な手続きにより作成されたことを公証人が証明することです。定款作成から登記までの流れを見ていきましょう。なお、株式会社と合同会社では手続きが異なりますので、異なる部分についてのみそれぞれについて記載しています。
<定款作成から法人登記までの流れ>
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
法人の基本情報の決定 | 商号、資本金の額、事業目的、決算期、発起人、設立時役員、発行株式数などの決定 | |
会社実印*の作成 | 設立時代表取締役の印 | 代表社員の印 |
定款認証 | 公証人との事前打合せ 定款認証の嘱託 | (手続きなし) |
資本金の払込み | 発起人による資本金払込み | 社員による資本金払込み |
設立登記申請 | 申請情報、添付書類、登録免許税の準備 |
*オンラインでの登記申請においては印鑑の提出は任意です。
設立登記申請にあたっては、「IT・インターネット業で会社設立をするために必要な書類」で説明した書類が必要です。
IT・インターネット業で会社設立をする場合に必要な資格、届出
IT・インターネット業で法人を設立するために必要な資格は、特にありません。しかしながら、法人として社会的な信用を得やすくするためには、技術者が個人のスキルを証明する資格だけではなく、法人として種々の資格を得ていることも挙げられます。これらの資格はいずれも開業後に準備をした上での取得となります。
認証名等 | 資格概要(いずれも法人として取得する資格) |
---|---|
ISO9001 | (マネジメントに関する規格) 国際標準化機構(International Organization for Standardization)の発行する品質マネジメントシステム(QMS)規格 |
ISO27001 (ISMS) | (情報セキュリティマネジメントシステムに関する規格) 自社のリスクアセスメントにより、信頼ある情報セキュリティレベルにあることを認証 |
プライバシーマーク | 会社が個人情報の取扱いを適切に行う体制を備えていることを評価し、その証として“プライバシーマーク”の使用を認める制度 |
法人の資格取得は、資格取得対象となる従業員の教育から始めなければならず、内部監査や作成書類によっては作業時間に影響するものもでてきます。しかしながら、セキュリティや個人情報保護に対する法人の姿勢をアピールできる資格として取得する企業は増えているようです。
このほか、税務署や社会保険関連の手続きについても期限が決められているものがありますので、事前によく調べるようにしておきましょう。特に、行政関係の手続きはオンラインで完結するものが増えているので、納税までITやインターネットを利用することをおすすめします。
IT・インターネット業で会社設立をする場合のポイント
IT・インターネット業は今後もさらに新たな事業が生まれ発展を続ける分野と言えます。
特に進化のめざましい分野としては、クラウドコンピューティングや人工知能(AI)などがあります。それとともに、安全にITやインターネットを利用するためのセキュリティ技術への需要もますます高まります。
IT・インターネット業で会社設立をする場合には、このような新たな技術を取り入れる場合のリスクマネジメントを怠らないことが重要です。顧客のシステムや情報を守ることは、自社を守ることに直結します。
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STEP1 | 書類作成 会社設立に必要な情報を入力し、定款を作成します。
|
---|---|
STEP2 | 登記に関する手続き(必要な証明書をアップロードできます。) 定款認証の手配、認証を代行する行政書士との連絡、認証済み定款の受取、出資の払込、法務局への提出と登記簿の受取などの一連のサポート |
STEP3 | 会社設立後の手続き 税務署や市役所、社会保険関係(年金事務所、労働基準監督署、ハローワーク)に各種申請や届出のサポート |
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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