- 作成日 : 2024年10月10日
スタートアップが利用できる助成金は?主な制度と適切な選び方を紹介
助成金とは、事業者に対して国や地方公共団体が提供する支援資金です。適用要件を満たしていれば返済不要な資金を受給できるため、スタートアップの資金調達に役立ちます。
この記事ではスタートアップが利用できる助成金を紹介し、助成金の利用を検討するべきタイミングや選び方のポイントなどを解説します。
目次
スタートアップが利用できる主な助成金の一覧
助成金とは、対象となる事業や活動をサポートするために国や地方公共団体が支給する資金のことです。
受け取った資金は返済不要で、基本的には助成金ごとに定められた支給要件を満たしていれば受給できます。スタートアップの資金調達として積極的に活用したい制度です。
助成金と似た制度である補助金も同様に、返済不要な資金が受け取れるものです。国が提供する助成金と補助金には以下のような違いがあります。
助成金 | 補助金 | |
---|---|---|
管轄や目的 | おもに厚生労働省 事業者の雇用や労働環境整備を支援 | おもに経済産業省 新規の事業やサービスを支援 |
審査の有無 | なし 要件を満たせば受給可能 | あり 採択されなければ受給できない |
厚生労働省の助成金は、補助金のように審査で落とされることはありません。適用要件さえ満たせば、スタートアップでも比較的容易に資金調達できる方法といえるでしょう。
ここからは、スタートアップに向いている助成金を紹介していきます。
国からの助成金
国からの助成金は厚生労働省が管轄し、事業者が人材雇用や能力開発、労働環境整備などに取り組む際に利用できるものが用意されています。
厚生労働省の助成金を受給できるのは、基本的には雇用保険に加入している事業者が対象です。スタートアップでも活用しやすい助成金としては、以下のようなものが挙げられます。
名称 | 対象事業主のおもな要件 | 上限金額 |
---|---|---|
キャリアアップ助成金 | キャリアアップ計画を作成し、キャリアアップに取り組む | 1人当たり80万円(正社員コース・中小企業) (加算措置を除く) |
トライアル雇用助成金 | トライアル雇用対象者を原則3ヶ月のトライアル雇用をする | 4万円×3ヶ月=12万円 (一般トライアルコース) |
早期再就職支援等助成金 | 再就職援助計画対象の労働者を雇用する | 100万円(中途採用拡大コース・45歳以上の中途採用率拡大) |
人材開発支援助成金 | 事業内職業能力開発計画を作成し職業訓練を行う | 1人当たり50万円(人材育成支援コース・経費助成) |
働き方改革支援助成金 | 対象の中小事業者で成果目標に向けて取り組む | 200万円(労働時間短縮・年休促進支援コース) |
参考:厚生労働省 キャリアアップ助成金のご案内(令和6年後版)、厚生労働省 トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)、厚生労働省 早期再就職支援等 助成金ガイドブック -中途採用拡大コース-、厚生労働省 人材開発支援助成金 (人材育成支援コース) のご案内、厚生労働省 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
新たな人材を雇い入れる機会が多いスタートアップにとって、使える助成金は多いでしょう。
地方公共団体からの助成金
都道府県や市町村といった地方公共団体でも、自治体内で新たに起業する事業者や、創業したての事業所を支援する助成金が用意されています。
名称 | 提供元 | 対象者 | 上限金額 |
---|---|---|---|
創業助成事業 | 東京都中小企業振興公社 | 経営経験5年未満の東京都内の事業所 | 上限400万円 |
若手・女性リーダー応援プログラム助成事業 | 東京都中小企業振興公社 |
| 最大助成率4分の3 (上限額400万円) |
躍進的な事業推進のための設備投資支援事業 | 東京都中小企業振興公社 | 東京都内で2年以上事業を継続している中小企業者 | 最大助成率4分の3 (上限額1億円) |
横浜市スタートアップ立地促進助成金(申請区分:市外企業) | 横浜市 |
| 上限額50万円 |
参考:TOKYO創業ステーション 創業助成事業、東京都中小企業振興公社 若手・女性リーダー応援プログラム助成事業、東京都中小企業振興公社 第8回 躍進的な事業推進のための設備投資支援事業、横浜市 スタートアップ立地促進
ただし、地方公共団体が提供する助成金は、審査があるものも多いため注意が必要です。
外郭団体からの助成金
国や地方公共団体以外からの助成金としては、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する地域中小企業応援ファンド事業を使った助成金があります。
23の県において、新規事業者や新たな事業に取り組む中小企業に向けて、外郭団体が助成金を提供しています。
【地域中小企業応援ファンド(スタート・アップ型)の一例】
名称 | 対象 | 上限額 |
---|---|---|
北海道中小企業新応援 ファンド | 道内の中小企業 | 最大助成率2分の1 上限額150万円 |
わかやま中小企業元気 ファンド | 県内の創業者、中小企業者、特定非営利活動法人 | 最大助成率3分の2以内 上限額600万円 |
参考:北海道中小企業総合支援センター 北海道中小企業新応援ファンド事業、和歌山県 わかやま中小企業元気ファンド
そのほか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEOD)では、再生可能エネルギー分野の事業者を支援するための助成金事業を行っています。
名称 | 提供元 | 対象 | 上限 |
---|---|---|---|
新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業 | 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) | 技術シーズを有する中小企業等 | 助成率10分の8 1,250万円(フェーズA) |
参考: 新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業
民間企業のなかにも、助成金を提供しているケースがあります。自分の事業が受けられる助成金がないか、幅広くチェックしましょう。
スタートアップが助成金の利用を検討すべきケース
多数の助成金制度があるなかで、スタートアップが助成金を利用しやすいタイミングとしては以下のようなケースが挙げられます。
- 新規開業するとき
- 人を新たに雇うとき
- 働きやすい環境を整備するとき
- 人材育成するとき
助成金を利用できると知らずにタイミングを逃さないように、しっかり把握しておきましょう。
新規開業するとき
新たな事業の立ち上げ時や創業して間もないタイミングは、助成金を活用するチャンスです。
多くの地方公共団体では地域の創業促進を目的とした助成金を用意しており、起業前でも申請できるものも多いです。中小企業が新たな事業に取り組む場合も助成対象となるケースもあります。
また経済産業省が提供する補助金にも、創業者やスタートアップを支援する制度が多数あるため、国や地域の情報を幅広く情報収集しましょう。
人を新たに雇うとき
新しい人材を雇用するときには、厚生労働省が提供する雇用に関わる助成金を利用できないか確認しましょう。
たとえば以下のようなケースで助成金を受給できる可能性があります。
- 一定のトライアル期間を設けるトライアル雇用で人を雇った
⇒「トライアル雇用助成金」最長3ヶ月間、月額最大4万円が支給 - 中途採用者の雇用管理制度を整備し中途採用率を向上させた
⇒「早期再就職支援等助成金」1人あたり50万円もしくは100万円支給
働きやすい環境を整備するとき
労働者がより働きやすい環境への整備や、生産性を向上させるための取り組みを実施するときにも、厚生労働省の助成金が申請できる場合があります。
たとえば、非正規労働者を正社員化したり、賞与や退職金制度を導入したりするときには、「キャリアアップ助成金」が使える可能性があります。正社員化コースの場合、1人あたりの最大支給額は80万円です。
人材育成するとき
厚生労働省の助成金のなかには、研修を導入して従業員のスキルアップを図るときに支給されるものがあります。
「人材開発支援助成金」であれば、通業の職場や業務から離れて研修を行うOff-JTだけでなく、オンラインでの研修も助成対象となります。eラーニングを導入したときにも使えるため、従業員のスキルアップにかかる費用を抑えられるでしょう。
適切な助成金を選ぶ際のポイント
自分の事業に合った助成金を選ぶには、以下のポイントに着目しましょう。
- 目的や対象者に適合しているか
- 期間に問題はないか
- ほかに併用できる助成金があるか
助成金ごとに定められた適用要件を問題なくクリアできるかどうか、しっかり確認しておきましょう。
目的や対象者に適合しているか
助成金を選ぶときには、資金が必要な目的や使い道を明確にしておきましょう。
資金の具体的な使い道を出しておくと、必要な資金額が明確になります。申請すべき助成金も判断しやすくなるでしょう。
また助成金の適用を受けるには、事業規模や開業してからの年数、業種など、さまざまな要件を満たさなければなりません。自分の事業が合致していなければ受給できないため、該当するかをしっかり確認しておきましょう。
期間に問題はないか
助成金を選ぶ際に必ずチェックしたいのが、助成金の申請期間です。
地方などの助成金では受給を申請できる期間が限られているものも多く、なかには申請期間が10日間程度と非常に短いケースもあります。申請するにはさまざまな書類を揃える必要があるため、スケジュールに間に合うかを確認しなければなりません。
申請期間が終わっている場合にも、次の申請に向けて具体的に計画を立てておくことが大切です。
ほかに併用できる助成金があるか
使える助成金がないか探す場合、ひとつの助成金に絞るのではなく、ほかにも併用できる助成金がないかも確認しておきましょう。
基本的には、同じ事業の同じ費目に対するものでなければ、助成金は併用して受給できます。また同じ費目であっても、採択されるかわからない補助金の場合は、申請だけであれば複数に出すことも可能です。
一方、今回助成金を受給することで、将来的にもらえる可能性のある助成金が減額されるケースもあります。
たとえば、トライアル雇用助成金の支給対象となる雇用で入社し、正社員へのキャリアアップを希望する従業員がいたとします。
トライアル雇用助成金と正社員化したときのキャリアアップ助成金の併用は可能です。しかし、併用によってキャリアアップ助成金が減額されるため、キャリアアップ助成金を単体で申請したほうが、結果的には受給額が大きくなる仕組みになっています。
助成金の併用については助成金ごとに規定がある場合もあるため、判断に迷う場合は提供元の事務局などに確認しましょう。
助成金への申請方法
助成金を申請するには、助成金ごとに定められた必要書類を作成し、指定された申請先へ提出しなければなりません。
助成金の申請から交付までは、おもに以下の流れで行われます。
- 申請書類の提出
- 申請事業の実施
- 完了報告・支給申請
- 助成金の支給
申請書類の提出は、助成金を受給するためのファーストステップです。助成対象となる事業や活動を始める前に申請が必要となるため、必要書類や提出先をしっかり把握しておきましょう。
助成金の申請に必要な書類
助成金の申請に必要な書類は、受給したい助成金によって異なります。以下の2つの助成金を例に、申請時の必要書類をまとめました。
キャリアアップ助成金 | |
---|---|
創業助成事業 |
|
助成金申請の手間を省きたい場合には、助成金や補助金の申請についてアドバイスやサポートをしてくれる申請代行業者などに依頼するのも1つの手です。
ただし、厚生労働省が管轄する助成金の書類作成や申請の代行は、社会保険労務士にのみ依頼が可能です。
助成金の申請先
助成金の申請先を大きくまとめると、以下のようになります。
- 厚生労働省が提供する助成金:各都道府県の労働局やハローワーク
- 地方公共団体や外郭団体が提供する助成金:それぞれの提供元
厚生労働省の雇用に関する助成金は、都道府県ごとに労働局やハローワークなどの申請先が設定されています。都道府県別の申請先は、厚生労働省「助成金のお問い合わせ先・申請先」からご確認ください。
自治体や外郭団体が提供する助成金は、それぞれの提供元で申請先を確認しましょう。
助成金以外の主な資金調達方法
スタートアップに適した資金調達方法は、助成金や補助金以外にもさまざまな方法があり、大きく分けると以下の2種類になります。
エクイティファイナンス | 自社の株式を譲渡して資金を得る方法。 有望な事業と認められれば返済の要らない大きな資金を集められるが、経営の自由度が低下するリスクもある。 |
---|---|
デッドファイナンス | 金融機関などからの融資を使って資金を調達する方法。 返済が必要な負債が増えるため、経営状況によっては負担が大きくなる。 |
成長性が高く将来的にIPOを狙う事業であれば、エクイティファイナンスとしてベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から出資してもらう方法があります。
融資で資金調達する場合、創業者向けの商品が充実している日本政策金融公庫などの公的融資を検討しましょう。すぐに資金が必要な場合は、比較的借入しやすく、スピーディーに資金が調達できるビジネスローンを使うのも1つの手です。
助成金や補助金は、返済が不要な資金を手に入れられますが、申請の手間や受給までに時間がかかる点がネックです。多額の資金を調達したい場合は、ベンチャーキャピタルや融資などとの併用を検討しましょう。
スタートアップは助成金をうまく活用して成長を目指そう
助成金とは、国や自治体が人材雇用や新規事業への支援を目的として支給する資金のことです。
スタートアップが使える助成金には、厚生労働省が提供する雇用に関わる助成金や、地方公共団体などが提供する創業支援を目的とした助成金などが挙げられます。新規開業時や新たな人材の雇用時だけでなく、人材育成に取り組んだときなども助成金が利用できるタイミングです。
助成金を申請するには、自分の事業に合った助成金を選択したうえで、さまざまな必要書類を作成して提出しなければなりません。スタートアップの資金調達に、助成金をうまく活用していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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