- 作成日 : 2025年1月10日
合資会社の事業承継は難しい?メリットデメリット、進め方を解説
合資会社の事業承継は、無限責任社員と有限責任社員の両方を確保する必要がある独特の承継形態であり、株式会社よりも手続きが複雑になりがちです。
本記事では、合資会社における事業承継の特徴や進め方、注意点について詳しく解説していきます。
目次
合資会社の事業承継は難しい?
合資会社の事業承継は、無限責任社員と有限責任社員の両方を維持しながら会社を引き継ぐ必要がある特殊な承継形態です。株式会社と比べて手続きが複雑で、後継者の確保も容易ではありません。
合資会社は、無限責任社員と有限責任社員がそれぞれ1名以上必要で、資本金の規定はなく、0円でも設立可能です。経営者である無限責任社員は会社の債務に対して個人財産まで責任を負うため、親族であっても後継者になることを躊躇するケースが多く見られます。
事業承継において特に難しい点は、持分の譲渡に社員全員の同意が必要となる点です。また、社員が死亡した場合、定款に特別な定めがなければ、相続人は持分払戻請求権のみを相続し、社員としての地位は承継されません。
さらに、無限責任社員が1名のみの場合、その死亡により会社形態が変更されてしまう可能性があります。そのため早期からの計画立案と、定款への持分承継に関する規定の記載など、慎重な準備が必要です。
合資会社と株式会社の違い
合資会社と株式会社の違いを、以下の表にまとめました。
項目 | 合資会社 | 株式会社 |
---|---|---|
出資者の責任 | 無限責任社員と有限責任社員の混在 | すべて有限責任 |
資本金 | 規定なし(0円可) | 1円以上 |
出資者数 | 2名以上必須 | 1名以上 |
意思決定機関 | 社員の過半数 | 株主総会 |
決算公告 | 不要 | 必要 |
定款認証 | 不要 | 必要 |
特に大きな違いは、合資会社では経営者と出資者が同一であり、無限責任社員は会社の債務に対して個人財産まで責任を負う必要があります。一方、株式会社では経営者と出資者が分離されており、出資者は出資額以上の責任を負うことはありません。
また、合資会社では社員全員の同意がなければ持分の譲渡ができないのに対し、株式会社では株式の譲渡が比較的自由に行えます。
合資会社を事業承継するメリット
合資会社の事業承継には、独自の特徴を活かした複数のメリットがあります。会社の存続と発展のために、これらのメリットを理解し、活用することが重要です。
以下で、詳しく見ていきましょう。
会社を存続できる
合資会社では、社員が誰もいなくなると自動的に会社は解散となりますが、計画的な事業承継を行うことで会社を存続させることができます。特に、無限責任社員と有限責任社員をそれぞれ複数名確保することで、一人の社員が死亡しても会社形態を維持したまま事業を継続可能です。
ただし、無限責任社員または有限責任社員が一人もいなくなった場合は、自動的に合同会社や合名会社に変更されてしまうため、合資会社として存続させるためには、事前に定款で持分承継について定めておくなどの対策が必要といえます。
事業の強化につながる
事業承継を通じて、会社の経営体制を見直し、新たな成長機会を創出することができます。特に、合資会社は株式会社と比較すると定款自治の原則が強く組織運営の自由度が高いため、後継者の新しい視点や経営手法を柔軟に取り入れることが可能です。
また、事業承継の過程で、現在の事業内容や経営戦略を客観的に評価・分析する機会が得られます。そのため事業承継をきっかけに、会社の強みや弱みを明確にし、重点的に強化すべき分野を特定できるでしょう。さらに、後継者が持つ新たな知識やスキル、人脈を活用することで、既存事業の発展や新規事業への展開も期待できます。
従業員が守られる
事業承継により会社が存続することで、従業員の雇用を維持できます。特に、社内の実務や経営理念をよく知る従業員への承継の場合、他の社員や取引先からの理解も得られやすく、円滑な事業運営が期待できます。
また、従業員の将来的なキャリアパスとして事業承継を位置づけることで、モチベーション向上も期待できるでしょう。
合資会社を事業承継するデメリット
合資会社の事業承継には、特有の課題や制約があります。こうしたデメリットとなる部分も事前に理解し、適切な対策を講じることが求められます。
合資会社の事業承継におけるデメリットとしては、以下の点が挙げられます。
会社の債務に無限責任を負うことも
無限責任社員として事業を承継する場合、会社の債務に対して個人財産まで責任を負う必要があります。これは承継前に発生した債務についても遡って責任を負うことになり、大きなリスクとなり得るでしょう。
会社の経営が悪化した場合、個人の資産が差し押さえられる可能性もあります。このため、承継前に会社の財務状況を徹底的に精査し、潜在的なリスク把握は欠かせないといえます。
手続きに時間がかかる
事業承継の実行には全社員の同意が必要となるため、合意形成に時間を要します。特に複数の社員がいる場合や意見の相違がある場合は、調整が難航する可能性が否定できません。
また、定款変更や登記手続きなど、法的な手続きも必要となり、これらの完了までに相当な時間がかかることがあります。
資金調達が難しい場合がある
合資会社は株式を発行できないため、株式会社と違い株式市場からの資金調達ができません。また、金融機関からの借入れについても、無限責任社員の個人保証が必要となることが多く、資金調達の選択肢が限られます。
事業承継に伴う資金需要に対しても課題があります。事業承継によって発生した利益には法人税や消費税などの税金が発生し、これらの納税資金も必要です。さらに、事業承継後に負債が残っている場合は、その返済が求められます。
後継者が十分な個人資産を持っていない場合、必要な資金を確保することが困難となる可能性があることは無視できないデメリットのひとつです。そのため、事前に税金対策や返済計画について、専門家のアドバイスを受けながら慎重に検討する必要があります。
合資会社を事業承継する3つの方法
事業承継の方法は、後継者の選定によって以下の3つに分類されます。
- 親族への承継
- 親族外への承継(役員や従業員)
- 事業の売却(M&A)
それぞれについて、詳しく解説します。
親族への承継
親族への事業承継は、経営理念や企業文化を維持しやすい方法です。小規模な会社では多く採用される手法ですが、業界そのものが衰退している場合や経済状況が良くない場合は、リスクが大きいため親族が承継を拒むケースもあります。
相続により社員としての地位を承継してもらう場合は、定款に持分承継についての定めを置いておくことで、よりスムーズな承継が可能です。
親族外への承継(役員や従業員)
役員や従業員への承継は、会社の実務や経営状況など、内情をよく知る人物が承継することで、その後の経営もスムーズに進めやすいという特徴があります。また、他の社員からの納得も得られやすいメリットもあるでしょう。
ただし、親族でない場合は相続による承継ができないため、持分を譲渡するときの対価や税金が問題になることが多くなります。
事業の売却(M&A)
M&Aによる事業承継は、近年多くの企業で採用されている方法です。ただし、合資会社の場合、株式会社と比べて手続きが複雑になりがちな点に注意が必要です。
合資会社のM&Aでは、事業譲渡や会社分割などのスキームを使用するか、株式会社に変更してから株式譲渡を行うなどの方法があります。ただし、事業譲渡や会社分割の場合、その対価を社員が持分払戻しなどで受け取ると、みなし配当所得として最高55%の税金が課せられることになり、株式譲渡の20%よりもかなり高額になります。
合資会社の事業承継にかかる税金
事業承継時には、相続税や贈与税がかかり、承継時の負担になりがちです。それぞれの税金の概要を解説します。
相続税
相続による事業承継の場合、相続税が発生します。合資会社の持分を相続した場合、その評価額に応じて相続税が課されます。持分の評価額が高額なケースでは後継者の納税負担が大きくなる可能性があるため、注意が必要です。
また、定款に特別な定めがない場合、相続人は持分払戻請求権のみを相続することになり、社員としての地位は承継されません。この場合、払戻請求権を出資して社員になる必要がありますが、その際に持分払戻請求権の相続について所得税が課されることがあります。
贈与税
生前贈与による事業承継の場合、贈与税が課されます。贈与税は、基礎控除後の金額に応じて10%から最高55%の税率が適用されます。ただし20歳以上の方が直系尊属から受けた贈与は「特例贈与財産」として、通常より緩和された税率が適用されます。
合資会社の事業承継で税金を安く抑えるには?
合資会社の事業承継で税金を安く抑える方法としては、事業承継税制の活用が効果的でしょう。事業承継税制は後継者が先代経営者から事業を引き継ぐ際に発生する相続税・贈与税の納税を猶予し、一定の要件を満たした場合に免除される制度です。
この特例措置の利用によって、事業承継時の相続税・贈与税の実質的な負担をゼロにすることが可能です。ただし、この制度の活用には中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(円滑化法)に基づく認定が必要です。
参考:国税庁 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし(令和6年6月)
合資会社の事業承継の進め方
事業承継にはさまざまな手続きが求められるため、早期から計画的に進めることが大切です。以下で、事業承継の進め方を紹介します。
1. 早期の計画立案と後継者の選定
後継者の選定は、社内外問わず最適な人材を見極めましょう。特に合資会社の場合、無限責任社員と有限責任社員の両方を確保する必要があります。
2. 社員間の合意形成
合資会社では、持分の譲渡に社員全員の同意が必要です。株式会社と異なり、反対する社員がいる場合、持分の譲渡ができないため、早い段階からの調整が求められます。
3. 財務状況の把握と整理
会社の資産や負債、キャッシュ・フローなどを正確に把握し、必要に応じて整理します。特に合資会社の場合、無限責任社員は会社の債務に対して個人財産まで責任を負うため、財務状況の精査の重要性は高めです。
4. 税務対策の検討
事業承継税制の活用を検討しましょう。合資会社も事業承継税制の対象となりますが、中小企業基本法で定める要件を満たす必要があります。
5. 法的手続きの実施
持分の譲渡や定款変更など、必要な法的手続きを行います。合資会社特有の規制や要件があるため、専門家のサポートを受けることがおすすめです。
事業承継は会社の存続に関わる重要な局面といえます。特に合資会社の場合、株式会社と比べて手続きが複雑になる傾向があるため、早期からの準備と専門家の支援が不可欠です。
合資会社における事業承継の注意点
合資会社の事業承継では、その特殊な法的性質から生じる固有の課題に注意が必要です。特に重要なのは、無限責任社員の責任範囲でしょう。無限責任社員は会社の債務について個人財産まで責任を負うため、承継前の財務状況の徹底的な精査が不可欠です。
また、持分の譲渡には社員全員の同意が必要となり、一人でも反対する社員がいると実行できません。さらに、定款に持分承継の定めがない場合、相続人は持分払戻請求権のみを相続し、社員としての地位は承継されないため、事前の定款整備も重要です。
加えて、合資会社は無限責任社員と有限責任社員が両方必要であり、どちらかが欠けると会社形態が変更されてしまうため、複数の出資者の確保も検討が必要です。
合資会社の事業承継について相談・依頼できる専門家
事業承継を円滑に進めるためには、専門家の支援が不可欠です。合資会社の事業承継に関して相談・依頼できる主な専門家を紹介しましょう。
政府の事業引継ぎ支援センター
各都道府県に設置されている公的相談窓口である「事業引継支援センター」では、事業承継に関する無料相談や専門家の紹介を行っています。秘密厳守で相談でき、事業承継計画の策定から実行までの支援が受けられます。
トータルサポートが受けられるため、事業承継を考えた際にまず相談する先として、おすすめできる機関といえるでしょう。後継者不在の場合のM&Aに関する支援も行っています。
税理士・公認会計士
税務対策は事業承継において重要なポイントといえます。事業承継税制の活用や、相続税・贈与税の計算、節税対策などについては、税務の専門家である税理士に相談するといいでしょう。
また、公認会計士は企業価値の評価や財務デューデリジェンスなどの面でサポートが期待できます。
弁護士
合資会社特有の法的課題への対応や、定款変更、持分譲渡の手続きなど、法的な面での支援は弁護士に依頼しましょう。特に、社員間の利害調整や、承継に関する契約書の作成など、法的な観点からの助言が得られます。
顧問契約を結んでいれば、自社の状況に応じた具体的なアドバイスが受けられます。
専門家の力を借りてスムーズな事業承継を実現しよう
合資会社の事業承継には、無限責任社員の責任の重さや、社員全員の同意が必要な持分譲渡など、特有の課題があります。手続きも複雑になりがちであるため、早期から準備を始めることはもちろん、必要に応じて公的機関や専門家の支援を受けましょう。
まずは相談窓口を訪れ、自社に合った事業承継の進め方を探してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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