- 更新日 : 2024年9月20日
法人化の節税メリット4選!法人成りは課税所得がいくらあればお得?
事業の規模が大きくなり、法人化を検討している個人事業主の方も多いでしょう。法人化することで法人税の対象となり、節税できる場合があります。
一般的に法人化したほうがよいケースは、所得が800万円を超えていることが目安です。今回の記事では法人化の節税メリットや、概算税額シミュレーションなど詳しく紹介していきます。
目次
個人事業主が法人化すると節税できるケースも
個人事業主の法人化は課税される税金の種類や、計上できる経費の範囲が違うため節税になります。法人化が節税となる理由について、紹介します。
課税される税金が違う
個人事業主を法人化することで、課税される税金が変わります。個人事業主として事業を行っている場合は収入から必要経費を差し引いた事業所得(=利益)に対して所得税が課せられますが、法人の場合の税金は法人税です。
所得税と法人税はどちらも所得に対して課税されるという点では同じですが、税率に違いがあります。所得税の場合は、所得の額によって税率がかわる累進課税が採用されています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円か17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
上記に加えて個人の場合は住民税が約10%課税されるため、最大で55%もの税率になります。
一方で法人税の場合は、一律です。
区分 | 適用関係(開始事業年度) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
平28.4.1以後 | 平30.4.1以後 | 平31.4.1以後 | 令4.4.1以後 | ||||
普通法人 | 資本金 1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | 19% | |||||
年800万円超の部分 | 23.4% | 23.2% | 23.2% | 23.2% | |||
上記以外の普通法人 | 23.4% | 23.2% | 23/2% | 23.2% |
資本金1億円以下の法人は800万円以下と800万円超で税率が違いますが、それ以外は一律の税率です。そのため所得の金額が大きくなるほど、法人税のほうが税金は安くなります。
一概にはいえませんが、事業の所得が800万円を超えると、法人税のほうが税負担は軽くなるといわれています。
計上できる経費が違う
個人事業主に比べると、法人のほうが経費として計上できる範囲が広いことも節税につながる要因です。経費が多く計上できれば所得の金額を抑えられるため、税金の金額を減らせます。
代表的な経費が代表者への報酬です。法人であれば代表者への給与を経費として計上できますが、個人事業主には代表者への給与という概念はなく経費計上できません。
法人化することによって法人と代表者個人は別人格になるため、給与という概念が生まれます。給与を支払う法人側は経費として計上できるだけでなく、受けとる代表者個人としても給与所得控除を差し引くことが可能です。
一方個人事業主は事業も代表者個人も同一人格なため、単純に事業の所得に対して課税されます。
このような法人化による税務上のメリットについては、このあと詳しく紹介します。
個人事業主が法人化する税務上のメリット4選
法人化による税務上の主なメリットには、次の4つがあります。
それぞれの内容を、詳しく見ていきましょう。
給与所得控除を適用して課税所得を抑え節税できる
前述のように法人化することで、代表者への給与(役員報酬)を経費として計上が可能です。給与を受けとった代表者は給与に対して所得税を支払う必要がありますが、給与所得控除が使えます。給与所得控除とは、給与収入を受けとる会社員が計上できる経費のようなもので、下記のように収入金額によって控除額も変わります。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
---|---|
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円から1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円から3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円から6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円から8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
個人事業主であればこのような控除は使えないため、法人化することのメリットの1つです。
家族への給与・配偶者控除・扶養控除を活用できる
法人化することで代表者の役員報酬だけでなく、家族への給与も経費に算入できます。さらに家族の収入次第では、配偶者控除(配偶者特別控除)や扶養控除も利用できます。
このような各種控除が利用できることで、個人としての所得税の節税が可能です。配偶者控除とは、扶養する配偶者および納税者本人の所得によって下記の通り控除が受けられる制度です。
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | 控除額 | |
---|---|---|
一般の控除対象配偶者 | 老人控除対象配偶者 | |
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
また配偶者が上記の所得を超えた場合でも、一定の金額以内であれば配偶者特別控除を利用できます。
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | ||||
---|---|---|---|---|
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 | 950万円超 1,000万円以下 | ||
配偶者の合計所得金額 | 48万円超 95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超 100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
100万円超 105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
105万円超 110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
110万円超 115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
115万円超 120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
120万円超 125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
125万円超 130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
130万円超 133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
ほかにも扶養控除の対象となる親族がいる場合は、扶養控除の適用も可能です。
区分 | 控除額 | |
---|---|---|
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | |
特定扶養親族 | 63万円 | |
老人扶養親族 | 同居老親等以外の者 | 48万円 |
同居老親等 | 58万円 |
法人化することで事業主体の法人だけでなく、給料を受けとる代表者・親族個人の所得税も節税することが可能になります。
2年間の消費税免税期間が設けられている
法人化することで所得に対する税金だけでなく、消費税を節税できる場合もあります。消費税は課税売上が1,000万円を超えると納税義務が生じるため、個人事業主で売上が1,000万円を超えると課税対象となります。課税対象となる売上の判定年度は個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度です。
さらに個人事業主と法人は別人格と判定されるため、法人化した時点で課税売上はリセットされます。一度リセットされてしまうと、課税売上を判定する事業年度が存在しないため、消費税が課税されません。
つまり法人化(資本金1,000万円未満)して最初の2年間は消費税の納税義務が免除されています。個人事業主で消費税を納めている場合は、法人化することで消費税を節税できます。
赤字を10年繰り越せる
法人化することにより、事業で赤字が出た場合の損失を最大で10年繰り越せます。損失を繰り越すということは、翌期の利益から損失を相殺することをいいます。
つまり赤字を出した事業年度以降の納税額を、節税することが可能です。個人事業主の場合でも損失の繰越は可能ですが、最大で3年間しか繰り越せません。
10年間繰り越すためには設備投資など大きな赤字を計上する必要があるともいえますが、長期間にわたって所得を減らせることは大きなメリットといえるでしょう。
所得がいくら以上であれば法人化の節税効果が見込める?
個人事業主から法人化することで節税が可能になりますが、所得はどれくらいあれば節税になるのでしょうか。法人化する目安や、法人化するべき判断基準を見ていきましょう。
法人化は所得800万円がひとつの基準
法人化して節税になる目安は、所得が800万円を超えるかどうかです。所得が800万円だった場合の所得税と、法人税の税率は下記の通りです。
所得税 | 法人税 |
---|---|
23% | 15%(※) |
※資本金1億円以下の法人で、適用除外事業者に該当する場合
上記の通り所得税よりも、法人税のほうが税率は低いことがわかります。注意しておきたいのが判断の目安となるのは、売上ではなく所得であることです。売上から各種経費を差し引いた額が所得となるため、間違えないようにしましょう。
法人化で節税できる金額
実際に所得が800万円で法人化した場合の概算税額について、シミュレーションしてみましょう。
【前提条件】
- 資本金1,000万円以下
- 各種控除は120万円とする
- 住民税10%、個人事業税5%とする
- 復興特別所得税、消費税、社会保険料は考慮せず
【事業利益800万円の場合】
〇個人事業主の場合
- 所得税800-120=680×20%-42.75=93.25万円
- 住民税800-120=680×10%=68万円
- 個人事業税800-290=510×5%=25.5万円
〇法人の場合
- 法人税800×15%=120万円
- 法人住民税均等割=7万円
- 法人住民税法人税割120×7%=8.4万円
個人事業主が186.75万円かかるのに対し、法人の場合は概算税額で135.4万円(法人事業税を考慮せず)になります。
また法人の場合は、事業の利益をすべて役員報酬として支払ったケースでは法人住民税均等割のみの課税となり、さらに節税できる可能性もあります。
ただし役員報酬の変更ができるのは、原則として事業年度開始から3カ月以内のため注意が必要です。今回のシミュレーションでは考慮していませんが、法人の場合は法人事業税の確認も必要です。
法人事業税の税率は、株式会社や公益法人などの種類や、課税所得の金額などによって違います。また税率は各都道府県によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
所得が800万円以下でも法人化した方がよいケース
法人化の目安は所得が800万円を超えるかどうかですが、800万円以下でも法人化したほうがよい場合もあります。
- 売上が1,000万円を超えている場合
- 家族を従業員として雇う場合
売上が1,000万円を超えると、翌々年に課税事業者となり消費税を納税しなければなりません。しかし法人化することで基準となる売上がリセットされるため、資本金1,000万円未満の法人であれば免税事業者となります。
消費税の負担が予想される場合は、法人化を検討しましょう。家族を従業員として雇う場合も、法人化するタイミングです。法人化することで家族への給与が経費になるだけでなく、受けとる側も給与所得控除が使えるため節税ができます。
個人事業主でも専従者給与として経費計上できますが、6ヶ月以上事業に専従しなければならないなどの細かい規定があります。
所得が800万円以上でも法人化すべきでないケース
所得が800万円を超えていても法人化しないほうがよい場合もあります。たとえば社会保険の負担をしたくない場合です。法人の場合はすべての法人が社会保険に加入しなければなりませんが、個人事業主では原則5人以上従業員がいる場合とされています。個人事業主で社会保険を負担していない場合は、法人化することで負担が増えるでしょう。
また法人にすると、社長1人であっても給与から源泉徴収をしなければなりません。一方で個人事業主の場合は、1人の場合は源泉徴収の対象外です。このように法人化することで源泉徴収を行う手間が発生します。
手続きや事務の負担を増やしたくない場合も、慎重に検討するようにしましょう。
法人化する際に気をつけておくべきポイント
法人化することで節税メリットを享受できますが、下記のような気をつけておくべきポイントもあります。
- 法人設立に費用がかかる
- 赤字でも税金がかかる
- 社会保険に加入しなければならない
- 税理士費用がかかる
- 契約料金が高くなる
法人を設立するためには定款を作成して、登録免許税を払って登記する必要があります。資本金も準備しなければならず、定款作成や登記費用などで数十万円の費用が必要です。さらに法人にすることで毎期の決算を締める必要があるため、税理士に依頼するケースも増えるでしょう。
また個人事業主では5人以上の従業員であった社会保険への加入も、社長1人でも健康保険、厚生年金保険の被保険者となり、社会保険に加入しなければなりません。会社として負担する金額が増えてしまう点には、注意が必要です。
銀行のネットバンキングなども、個人版は無料でも法人版は有料としているケースが多いです。このように法人の場合は各種手数料が高額になるほか、赤字でも法人住民税の均等割が課税されます。
法人化することによって、費用負担が増えることは認識しておきましょう。
個人事業主は法人化で節税しよう
個人事業主が法人化することで、節税できる場合があります。個人事業主であれば所得税の課税対象になりますが、法人の場合は法人税です。所得税は所得が多くなるほど税率が段階的に高くなる累進課税制度ですが、法人の場合は一律です。
そのため事業規模が大きくなるほど、法人化の節税メリットは増していきます。一般的には所得が800万円を超えると、法人化したほうがよいとされています。しかし法人化することで社会保険や源泉徴収などの負担が増える点には注意しましょう。
よくある質問
法人化によって節税はできる?
個人事業をしていた際の所得が一定額を超えれば、法人化することで税金を大幅に減らすことができます。詳しくはこちらをご覧ください。
法人成りのメリットは?
家族への給与・配偶者控除・扶養者控除、2年の消費税免税期間の活用、赤字(損失)を10年繰越できることなどがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
法人成りした方が有利な所得金額の目安は?
個人事業主としての利益が800万円~900万円くらいになった時が、法人化を検討するベストなタイミングでしょう。。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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