- 作成日 : 2024年12月9日
子会社の吸収合併とは?メリット・デメリット、社員の待遇、会計処理まとめ
子会社を持つ企業が、何らかの事情で吸収合併を検討することがあります。その際、社員待遇、会計処理をどうすればいいのか迷うのではないでしょうか。また、吸収合併によるメリット・デメリットも確認しておきたい部分です。
今回は、子会社の吸収合併について詳しく紹介します。そもそも子会社の吸収合併とは何か、そして、吸収合併に伴う手続きをきちんと押さえましょう。
目次
子会社の吸収合併とは?
「吸収合併」とは、2つの企業を1つにすることです。吸収する側の企業(存続する企業)は「合併会社」、吸収される側の会社(消滅する会社)は「被合併会社」と呼ばれます。
吸収合併の種類
吸収合併には、合併会社が被合併会社の資産や負債を簿価のまま引き継ぐ「適格合併」と、その要件を満たさない「非適格合併」があります。以下の表で特徴を確認しましょう。
適格会社 | 非適格会社 | |
---|---|---|
合併時の資産や負債の評価方法 | 帳簿価額 | 時価 |
消滅会社の株主のみなし配当 | 認識しない | 認識する |
利益積立金 | 承継する | 承継しない |
資産調整勘定・負債調整勘定 | 認識しない | 認識する |
適格合併となる主な条件です。
- 被合併会社の従業員のおよそ80%以上の従業員の引き継ぎ
- 被合併会社の主な事業が合併後の会社でも行われる
- 合併会社と被合併会社の事業に相関性がある
- 合併会社と被合併会社の事業規模(売上金額・資本金額・出資金額・従業員数)の範囲がおよそ5倍以内
- 被合併会社の発行済み株式のうち、支配株主に交付されるもの全てが継続的に保有されることが見込まれる
子会社の吸収合併の事例
子会社の吸収合併を2例ご紹介します。事例から、企業が吸収合併を行う目的を確認しておきましょう。
ニトリHD
家具・インテリア用品販売大手「ニトリ」の持株会社であるニトリHDは、2024年12月21日に完全子会社の株式会社ニトリファニチャーを吸収合併することを発表しています。ニトリファニチャーでは、主に家具製造事業の管理・運営を行っていましたが、解散することが決定しました。
合併の目的は経営資源の集約・効率的な組織運営のためとされています。
LINEヤフー
インターネット関連事業を行う「LINEヤフー」は、2024年10月1日に完全子会社のゼットラボ株式会社を吸収合併しました。ゼットラボでは、これまでコンピュータハードウェアやソフトウェアの製造・販売を行っていましたが、開発体制の効率化や経営資源の最大活用を目的として吸収合併することになりました。
子会社を吸収合併するメリット
子会社を吸収合併するメリットは、以下の通りです。
- 関係性の強化
- 子会社の権利等をそのまま引き継げる
- 資金準備が不要
関係性の強化
吸収合併の大きなメリットは企業内の関係性を強化できるという点です。これまでは、親会社が決定したことを子会社に伝える、などの手間が必要でしたが、吸収合併し同じ会社になると、情報伝達もスピーディーに行えます。さらに、それぞれ会社の優秀な社員が一緒になることで、良い相乗効果が生まれることも期待できます。
また、新しく会社を作り事業を移す「新設合併」よりも、吸収合併の方が合併に関する手続きが少ないというところも利点といえるでしょう。
子会社の権利等をそのまま引き継げる
吸収合併の場合、資産や事業など、子会社の権利等をそのまま引き継げます。資産や負債、権利などを個別で合併会社に移す手続きは必要がないため、人的な負担もありません。
許認可関連も引き継げますので、事業も滞りなく合併会社で続けることができます。
資金準備が不要
事業譲渡や株式譲渡を伴う合併の場合、買収のための資金が必要です。しかし、吸収合併の場合は現金だけでなく、株式や社債なども使えます。特別に資金を準備する必要がないため、コストがかからないという点もメリットです。
子会社を吸収合併するデメリット
子会社の吸収合併には、以下のようなデメリットもあります。
- 手続きが煩雑になる
- 経営陣・従業員ともに負担が大きい
- 取引先との関係が変わる可能性がある
手続きが煩雑になる
株式譲渡などの合併の場合、株式の売買だけで手続きが完了します。しかし、吸収合併の場合、被合併会社が消滅することもあり、手続き方法は会社法で定められています。会社法に基づいた手続きを怠った場合、吸収合併自体が無効になる可能性もあるため、注意が必要です。
経営陣・従業員ともに負担が大きい
吸収合併など、複数の会社が1つになる場合、業務面や精神面で経営陣や従業員に大きな負担がかかります。特に以下の点には気を付けましょう。
- 企業風土が変わる可能性がある
- 人事制度が変わる可能性がある
- 経理システム、総務システムの変化
- 組織の再編に伴う社員の処遇の変化
従業員が不満なく業務を続けられるよう、吸収合併時には気を配る必要があります。
取引先との関係が変わる可能性がある
業種にもよりますが、合併会社と被合併会社で取引先が被っていることもあるでしょう。その際、取引先との関係が変わる恐れもありますので、社内および顧客にも情報を忘れずに伝達しておく必要があります。
場合によっては、取引規模が小さくなることもあるため、注意してください。
子会社が吸収合併されたときの社員の待遇
子会社を吸収合併する場合、従業員の待遇についても考えなければなりません。特に気をつけたい点を紹介します。
雇用や職位は継続するか
雇用や職位をどうするかは非常に重要な問題です。吸収合併の場合、消滅する被合併会社の従業員の雇用は合併会社に引き継がれます。しかし、職位については合併会社と被合併会社で重複していることもあるため、慎重に検討しなければなりません。
労働条件(給与や福利厚生、退職金など)
先に述べた通り、吸収合併があっても雇用は引き継がれます。そして、労働条件は合併会社に合わせられます。よって、労働条件に変更が生じるのであれば、合併契約が成立する前に被合併会社の従業員に説明し、確認してもらいましょう。特に以下の点は変更される可能性が高い項目です。
- 給与・賞与
- 福利厚生(住宅手当など)
- 退職金
- 人事評価や昇進等の制度
リストラはあるか
吸収合併の際は雇用が引き継がれるため、合併を理由とした解雇等は認められません。ただし、労働条件が変わることがありますので、必ず事前に説明しましょう。
なお、吸収合併に伴い希望退職を募ることは可能です。希望退職を選ぶかどうかは従業員が決定できます。
吸収合併の告知の義務
吸収合併されても雇用は守られますので、告知義務はなく、同意を得ることも義務ではありません。しかし、従業員の心理的負担を軽減するためにも合併についての告知は行った方がよいでしょう。
特に、労働条件が変わる場合は丁寧な説明が必要です。
子会社を吸収合併する手続きの流れ
吸収合併の場合、完全親子会社で債権者がいない場合、1ヵ月半~2ヵ月程度の時間がかかります。
子会社を吸収合併する際の流れを押さえましょう。
- 交渉を行う
- 契約を締結する
- 契約書などの事前備置
- 株主総会招集通知と反対株主等への通知
- 株主総会での決議
- 合併の登記申請と書類の事後備置
それぞれの項目について詳しく解説します。
1.交渉を行う
吸収合併の目的を社内で確認しましょう。特に、被合併会社の事業や財務の現状、将来の見通しはしっかり把握してください。また、被吸収会社の社員の配置決めも必要です。これらが決定したうえで、吸収合併交渉を行います。
2.契約を締結する
取締役会での決議後、吸収合併についての契約を締結します。完全子会社の吸収合併の場合、契約書には以下の点を記載します。
- 合併会社、被合併会社の商号や住所
- 効力発生日
- 合併にかかる割当の内容
3.契約書などの事前備置
合併会社、被合併会社ともに、契約書で定めた時効を事前据置しなくてはなりません。方法は書面または電磁的記録となります。
備え置きの期間は、以下の通りです。
合併会社:効力発生日から6ヵ月を経過するまで
被合併会社:効力発生日まで
4.株主総会招集通知と反対株主等への通知
吸収合併に伴う株主総会の招集通知は総会日の1週間前まで(公開会社は2週間前まで)に発送しましょう。もし、株主総会で吸収合併について反対する株主が出た場合、公正な価格での株式買取を請求することもできます。
5.株主総会での決議
吸収合併の場合、原則として株主総会で合併契約の承認を得る必要があります。ただし、合併会社と被合併会社が特別支配関係(片方が90%以上の議決権を有している)の場合、承認決議は不要です。
6.合併の登記申請と書類の事後備置
吸収合併の登記は効力発生日から2週間以内に行います。その際、存続する合併会社の変更登記と被合併会社の解散登記を同時に行いましょう。合併会社の登記申請に添付する書類の例を紹介します。
- 吸収合併の契約書
- 合併契約を承認した株主総会議事録
- 債権者保護手続きについての書面
- 被合併会社の登記事項証明書
- 合併会社と被合併会社双方の株主リスト
また、合併会社が株式会社である場合、吸収合併の効力発生日や合併によって継承した権利義務等が記載された書類を、効力発生日から6ヵ月間本社に備え置きます。
子会社の吸収合併における会計処理のポイント
吸収合併の際の会計処理も確認しましょう。
吸収合併の仕方で会計処理が異なる
吸収合併といっても、仕方により会計処理が異なるため、気をつけましょう。主に以下のパターンがあります。
- 通常取得:合併会社が被合併会社を吸収し、被合併会社が消滅する
- 逆取得:取得する会社が消滅し、被取得会社が存続する
- 親会社が子会社を取得する
- 子会社が他の子会社を取得する
吸収合併される会社の決算日に注意
親会社が子会社を吸収合併したときの仕訳例
親会社が100%子会社を吸収合併する際の仕訳例をご紹介します。なお、この例では以下が前提となります。
親会社の場合
親会社側の仕訳例です。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 3億円 | 借入金 | 1億円 |
売掛金 | 2億円 | 子会社株式 | 3億円 |
抱合せ株式消滅差益 | 1億円 |
株式を3億円で取得した場合、差額の1億円を「抱合せ株式消滅差益」で計上します。子会社の借入金は親会社の負債となります。
子会社の場合
子会社側の仕訳例です。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
借入金 | 1億円 | 現預金 | 3億円 |
子会社株式 | 3億円 | 売掛金 | 2億円 |
抱合せ株式消滅差損 | 1億円 |
子会社の現預金と売掛金は減少します。また、親会社が株式を取得したため、その分、株主資本が減りました。差額は「抱合せ株式消滅差損」で計上します。
もしものときのために子会社の吸収合併の会計処理について押さえておこう
子会社を吸収合併することで、関係性の強化や業務の効率化が図れます。しかし、会計作業が煩雑になる、経営陣だけでなく現場の社員にも負担がかかる可能性が高い、そして、社員の雇用や職位、労働条件等をなるべく不満が出ないよう決める必要がある、などの注意点もあるため、慎重に検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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