• 更新日 : 2024年8月29日

貸し農園の経営は難しい?費用や手続き、補助金、成功のコツを解説

貸し農園を経営するには、市民農園・体験農園・営農者に貸す農園などの形態に合わせて自治体などの認可を得る必要があります。本記事では貸し農園の経営について、メリット・デメリットを交えて詳しく解説します。

貸し農園経営とは?

貸し農園経営とは、農地を区画して一般の人々に貸し出し、農作業の体験や農作物の収穫を楽しんでもらうビジネスです。また、既に農業を営んでいる人に貸し出すケースもあります。

具体例として、

  • 市民農園
  • 体験農園
  • 営農者に貸す農園

などがあります。

市民農園は趣味として農業を楽しむ人々に区画を貸し出し、体験農園は都市部の住民や観光客に農業体験を提供します。営農者に農地として貸す場合は、収益が安定しやすく、管理の手間が少ないのが特徴です。これらの農園形態により、農地の有効活用と地域社会への貢献が期待できます 。

貸し農園経営に向いている人

貸し農園経営に向いているのは、農地を有効活用したい土地所有者や、農業に興味はあるもののリソースがなく自分で営農できないという方です。

特に、貸し農園は都市部に住むファミリー層や農業初心者に人気があります。農地を区画して貸し出すことで、利用者とともに農作業の体験を提供しながら収益を得ることができます。

経験者向けの市民農園では、農業知識や経験が求められますが、初心者向けの体験農園では農業の基礎から学べるため、初めての方でも安心して参加できます。農業体験を通じて地域コミュニティーの形成にも貢献できます 。

貸し農園経営は儲かる?

貸し農園の需要は都市部で特に高まっています。スローライフを体験してみたい、農作物を自分で育てたいという人々が増えてきている傾向があり、貸し農園の市場規模は年々拡大しています。

一方、貸し農園で高い収益を得るには工夫が必要です。例えば都市近郊での体験農園型の賃料相場は月5,000~1万円程度とされています。

土地を活用して副収入を得られる方法ではありますが、高収入を得るのはなかなか難しいといえるでしょう。

貸し農園経営のメリット

貸し農園経営を行うメリットとして、初期費用が少ない、土地を有効活用できる、田舎や郊外でも収益化できる、土地の転用がしやすいといった点が挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

初期費用が少ない

貸し農園の経営は、他の土地活用方法と比較して初期費用が低く抑えられるのがメリットです。建物の建設や大規模な設備投資が不要なため、所有している土地をそのまま活用することが可能です。工事費用もほとんどかからず、手続きが完了すればすぐに事業を始められます 。

農地を有効活用できる

空き農地や空いた土地がある場合、農地として貸し出せば土地を有効活用できます。生産緑地地区として減税や各種税金の猶予などが認められた制度が2022年で期限を迎えたこと、それに先駆けて2018年の法改正で生産緑地の貸借がしやすくなったことから、所有する農地を貸し出す人が今増加傾向にあります。

田舎や郊外でも収益化できる

エリアにもよりますが郊外は商業施設や賃貸物件のニーズが少ないため収益化が難しい傾向があります。

しかし、近年では都会から離れた場所で農業体験をしたいというニーズも高まっており、貸し農園については田舎や郊外であることがプラスに働く可能性もあります。

土地の転用がしやすい

他の土地活用方法に比べて転用がしやすいという点も貸し農園のメリットです。大きな工事や建物の建設を行う必要がないので、農地として利用している最中に別の用途に変更する際にも、取り壊しなどが不要で大きなコストがかかりません。

貸し農園の利用者が既にいる状態だと交渉や通達などの手間がかかりますが、賃貸など他の不動産投資や設備を要する土地活用と比較すると損失リスクは低いといえるでしょう。

貸し農園経営のデメリット

貸し農園には初期費用が抑えられる、使用していない土地を有効活用できるといった利点がある一方で、主にビジネス面で知っておきたいデメリットも存在しています。以下で詳しく見ていきましょう。

管理の手間がかかる

貸し農園経営では日常的な管理作業が不可欠です。利用者が快適に使えるように、畑の整備や雑草の除去、作物の生育状態の確認など、さまざまな手間がかかります。

また、季節ごとの作業スケジュールや天候による影響を考慮する必要があり、計画通りに進められない場合もあります。加えて体験型農園や滞在型農園では、利用者の安全や満足度を高めるための対応も求められ、その管理の手間はさらに増します 。

高い収益化は難しい

貸し農園経営は、安定した収益を得ることが難しいビジネスモデルといえます。確かに需要はあるものの市場のパイ自体が小さいため、利用者数の確保が課題となるケースが多いようです。

また、季節や天候に左右されやすく、作物の収穫量や品質に大きな変動が生じることがあります。初期投資が少なくて済む反面、収益化へのハードルが高いといえます 。

自治体への届け出が必要

貸し農園を開業するには、自治体への届け出が必要です。市民農園整備促進法や特定農地貸付法に基づいて運営する場合、農業委員会や市町村に対して詳細な整備運営計画を提出し、承認を得なければなりません。

手続きには時間と労力がかかるうえ、承認を得たとしても近隣の農家や地域住民への情報提供や調整なども欠かせません。

貸し農園の経営形態

貸し農園の経営形態には、前述の通り、市民農園型、体験農園型、営農者に農地として貸す方法の三つがあります。それぞれの形態に特徴があり、収入や必要となる費用も異なります。以下で詳しく見ていきましょう。

市民農園型

市民農園型(シェア畑)は、農地を区画に分けて市民に貸し出す方法です。このタイプでは主に近隣に住む市民を対象に趣味として農業を楽しむために農地を貸し出します。

市民農園の運営には、市民農園整備促進法または特定農地貸付法に基づく手続きが必要です。

体験農園型

体験農園型は、利用者が農作業の一環として作物の作付けから収穫までを体験できる農園です。特別な法的手続きは不要で、開業準備も比較的簡単なのが特徴となります。

体験農園型は観光農園と異なり、利用者と一定期間契約を締結するため収入の変動が少ないです 。

営農者に農地として貸す

農地を営農者に貸し出す形態です。空き農地の借地契約を結び、借地料が収入となります。
耕作放棄地を農地として維持できる点が大きな魅力です。一度開発してしまうと農地に戻すことは難しいので、相続した土地を農地のまま維持したいとお考えの方におすすめです。

農地の借地料相場は地域によって異なります。貸借契約を結ぶ前に市区町村へ事業計画と営農者の変更を申請し、認定を受ける必要があります。

貸し農園経営に必要な許認可

貸し農園経営を始めるためには、運営形態に応じた許認可や手続きが必要です。特に市民農園型や体験農園型では、農地法や市民農園整備促進法に基づく手続きが求められます。

市民農園型

市民農園整備促進法に基づき、市町村の許認可が必要です。市民農園としての運営計画の提出と承認が求められます。

体験農園型

体験農園型では特定の法律による規制は少ないものの、農地法に基づく転用手続き、農業委員会への申請と許可が必要となります。また、利用者が安全に農作業を行うための施設や設備の設置も必須です。

営農者に農地として貸す場合

営農者に農地を貸す場合、農地の利用計画に基づいて事業計画を農業委員会に提出し承認を得る必要があります。承認を得てから貸借契約が結べます。

貸し農園経営にかかる費用

貸し農園経営には初期費用と運営費用がかかります。以下では、それぞれの費用について具体的に説明します。

初期費用

貸し農園の初期費用には、

  • 土地の購入または賃貸料
  • 農業設備の購入費用
  • 整備費用

が挙げられます。

ある程度の市民農園型の場合、農機具や休憩施設、トイレなど付帯施設の設置が必要で、数百万円の費用がかかることがあります。また、土地の整地や区画分け、フェンスの設置などの整備費用が発生する場合もあります。

運営費用

貸し農園の運営費用には、

などが含まれます。

市民農園型の場合、一般的に水道光熱費が売上の5%、固定資産税が固定資産税評価額の1.4%、雑費が売上の3%程度かかります。

貸し農園経営を始める流れ

貸し農園経営を始めるためには、以下のステップが重要です。

1. 事業計画書の作成

経営の目的とターゲットを明確にし、事業計画を作成します。

2. 農地の確保

自分の土地を利用する場合はその場所の整備を行います。土地を購入する、あるいは借りる場合は地元の農業委員会や不動産業者と協議が必要です。

3. 許認可の取得

貸し農園を運営するには、形態に応じた許認可が必要です。例えば、市民農園型の場合は「市民農園整備促進法」に基づく許可を取得しなければなりません。

4. 設備の準備/宣伝

農地の整備や区画分けなど必要な準備を行います。経営する農園の形態に合わせて必要な設備も導入しましょう。

また運営を開始する前には利用者を集めるための宣伝活動も必須です。地元のコミュニティーやSNSで宣伝したり、体験会や見学会を開催したりして集客につなげましょう。

5. 運営開始

運営を開始したら利用者のサポートや農地のメンテナンスなどの管理作業を行います。

貸し農園経営で活用できる補助金

貸し農園の経営で活用できる補助金は、自治体ごとにさまざまな種類があります。自治体によって制度の名称や詳細な金額、条件などが異なります。補助金の活用をお考えの方は、農地のある自治体のホームページまたは行政窓口などで確認してみましょう。

市民農園開設のための補助金

市民農園の開設に必要な費用の一部を補助する制度です。多くの自治体で実施されています。

町おこしのための補助金

市区町村などの自治体が町おこしや農業振興のために、農園の整備を補助する制度です。こちらでは市民農園に限らず、体験農園なども対象となることもあります。

耕作放棄地再生利用の補助金

耕作放棄地を農園、市民農園、体験農園などに再利用する取り組みを補助する制度です。

貸し農園を廃止させるには?

貸し農園を廃止させる場合、以下の手順や要件に従う必要があります。

法的手続きと届け出

貸し農園の廃止の際には所管する自治体への届け出が必要です。市民農園整備促進法や特定農地貸付法に基づき農地を市民農園として利用している場合、その利用終了を自治体に報告する義務があります。

契約解除と利用者への通知

農園利用者との契約解除手続きも忘れずに行いましょう。一定の告知期間を設けて通知を行い、契約終了の合意を得る必要があります。

環境整備と後処理

貸し農園廃止後は土地の整備や片付けが必要です。土地を借りている場合は、貸し農園を始める前の状態に戻さなければなりません。

貸し農園の経営を成功させるポイント

貸し農園を成功させるためにはいくつかの重要なポイントがあります。農業経験者である必要はありませんが、次のポイントを押さえることが重要です。

適切な土地の選定

市民農園や体験農園など複数の人数を対象にした貸し農園の経営には、場所や立地などが重要です。既に所有している農地を使用する場合、農園の形態やターゲット層、必要なサービスなどをしっかりと調査・分析しましょう。

定期的な管理

複数の利用者に貸し出すタイプの農園を経営する場合、農園の整備、各区画の管理など定期的なメンテナンスが必要です。

ルールの策定

市民農園などでは、利用者同士のトラブルが発生することがあります。いざというときにしっかりと対処できるように、ルールの策定や共有を怠らないようにしましょう。

貸し農園で空き農地を有効活用しよう

今回は、貸し農園の経営について解説しました。貸し農園は初期費用を抑えて開業できる一方、莫大な収益を得るのは難しいという側面もあります。

調査・分析を行ったうえで現実的な事業計画・運用計画を立て、コツコツと運営していきましょう。


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