- 作成日 : 2025年1月30日
収納代行業に許認可制度はある?改正資金決済法の規制対象についても解説
収納代行業は、ECサイトやサブスクリプションサービスの普及に伴い、ニーズが高まっています。特定の許認可制度が存在していないため、事業開始のハードルが比較的低いと言われています。
一方で、2021年5月の資金決済法の施行により、一部の収納代行サービスが規制対象となりました。本記事では、収納代行業の概要と現状、法規制について詳しく解説します。
目次
収納代行業に許認可制度はない
収納代行業は、ECサイトでの商品購入時のコンビニ決済や、公共料金の支払いなど、日常生活やビジネスで広く利用されています。しかし、収納代行業には特定の許認可制度が設けられていません。これは、従来、収納代行が単なる債権回収の代行とみなされ、為替取引には該当しないと解釈されてきたためです。そのため、事業者は特別な資格や登録なしに事業を開始できます。
そもそも収納代行業とは
ここでは、収納代行業の基本的な定義、決済代行との違い、具体的なサービス内容についてみていきましょう。
収納代行とは
収納代行業とは、顧客が事業者に対して支払うべき金銭を第三者である収納代行業者が一時的に受け取り、事業者に送金するサービスを指します。この業務の特徴は、あくまで「受領」と「送金」を代行することです。代行業者が資金を長期間保管するわけではないことを頭に入れておきましょう。
資金決済法第2条では「資金移動業」が規定されていますが、収納代行業は顧客から受け取った資金を直接事業者に送金するため、この規定には該当しません。そのため、許認可は不要です。ただし、契約形態によっては「資金移動業」とみなされる可能性があるため、注意が必要です。具体的には、収納代行業は公共料金、通信費、ECサイトの代金回収などで活用され、日常的な決済の効率化を図る役割を担っています。
収納代行と決済代行の違い
収納代行と決済代行は、金銭取引における異なる側面を担当し、ビジネスや消費者に対する役割が異なります。
収納代行は、主にコンビニ決済を中心とし、事業者が提供した商品やサービスに対する支払いを公共窓口から受け付けるプロセスを管理します。収納代行は、窓口(例:コンビニエンスストア、郵便局)を通じて支払いを受け入れ、それを事業者に送金します。
一方、決済代行は、クレジットカードや電子マネーなどさまざまな決済方法に対応し、顧客からの支払い情報の収集や支払いの妥当性の確認、支払いの承認取得、および支払いの処理までを管理します。
また、決済代行は事業者間の取引にも利用されますが、収納代行は主に事業者と消費者間の取引に利用されます。
収納代行サービスの具体例
収納代行サービスの代表的な例として、コンビニ収納代行サービスがあります。こちらのサービスは、コンビニエンスストアの店頭で商品やサービスの代金を支払うことが可能です。具体的な流れは以下の通りです。
- 利用者が商品・サービス購入時に「コンビニ決済」を選択し、払込票を受け取る
- コンビニの店頭で代金を支払う
- 収納代行業者が入金を確認
- 事業者側に入金が反映される
このサービスが運用によって、利用者は多くのコンビニで支払いができ、事業者は各コンビニチェーンとの個別契約の手間が省けます。また、専用Webサイトなどを通じて入金状況の確認や売上管理を効率化することも可能です。収納代行サービスは、利用者の利便性を高めつつ、事業者の業務負担を軽減する重要な役割を果たしています。
資金決済法の改正で収納代行業の一部が規制対象に
資金決済法は、金融サービスの安全性と利便性を確保するために設けられた法律です。前述の通り、2021年の近年資金決済法の施行によって、収納代行業の一部が規制対象とされるようになりました。資金決済法の概要と改正内容、そして収納代行業が規制対象とされた背景を見ていきましょう。
資金決済法とは
資金決済法とは、電子マネーや暗号資産などといった決済手段や資金移動サービスの適切な運用を行うことで、利用者保護とサービス促進を目的とした法律です。具体的には、前払式支払手段の発行や銀行以外の者が行う為替取引などに関する規制を求めながら、資金決済システムの安全性、効率性、利便性の向上を図っています(資金決済法第1条)。この決済法は、2009年に制定され、2020年にはデジタル決済の普及や金融サービスの多様化を背景に改正が行われ、翌2021年5月に施行されました。この法律の目的は、以下の3点に集約されます。
- 消費者保護:利用者が資金を預ける際の安全性確保
- 金融システムの安定化:送金業務や電子マネーの適切な管理
- 利便性の向上:革新的な金融サービスの促進
特に近年の改正では、非銀行系の送金業者の規制が強化され、新しい決済サービスにも対応可能な法整備が進められました。
資金決済法における資金移動業とは
資金移動業は、銀行以外の事業者が為替取引を行うことを可能にする制度です。前述の2021年の資金決済法の施行に伴い、資金移動業は取扱金額に応じて3つに分類されました。
- 第一種資金移動業:送金額上限なし(許可制)
- 第二種資金移動業:100万円以下の送金を扱う(登録制)
- 第三種資金移動業: 5万円以下の送金を扱う(登録制)
資金移動業者は、利用者保護のため、資産保全義務や本人確認義務などのさまざまな規制を遵守する必要があります。
資金決済法の改正で収納代行が規制対象とされた理由
2021年5月に施行した改正資金決済法では、収納代行業が以下の場合に規制対象となる可能性が示されました。詳細については以下の通りです。
- 資金移動の業務範囲の曖昧さ
収納代行業者が、顧客から受け取った資金を即座に送金しない場合、その資金が「預り金」とみなされ、資金移動業の扱いになる可能性がある。 - 利用者保護の観点
収納代行業者が資金を長期間保管する場合、破綻リスクに対する利用者保護が不十分であるとされた。 - デジタル決済の拡大
キャッシュレス化が進むため、従来の収納代行業と電子マネー決済の区別が曖昧になり、より明確な法規制が必要とされた。
これにより、顧客資金を預かる期間や契約形態によっては、収納代行業者が資金移動業としての登録義務を負うことが明確化されました。
資金決済法の資金移動業に該当する収納代行サービス
ここでは、資金決済法の資金移動業に該当する収納代行サービスについて、割り勘アプリとエスクローサービスを中心に解説します。
割り勘アプリは規制対象
割り勘アプリは、複数のユーザー間での金銭の送受を仲介するサービスであり、資金決済法における「資金移動業」に該当する可能性があります。
資金決済法第2条では、資金移動業とは銀行以外の者が為替取引を業として営むことを定義しています。アプリ運営者が一時的にユーザーの資金を預かり、別のユーザーに送金する行為は、実質的には為替取引の扱いです。例えば、飲食店での割り勘金額をアプリで徴収し、それを代表者に送金する形態は、個人間送金とみなされるためです。資金移動業に該当する場合、以下の要件を満たす必要があります。
- 金融庁への登録義務:事前に登録が必要
- 分別管理:顧客資金と事業者資金を分離
- 破綻時の顧客保護:預かり資金の保全措置を講じること
割り勘アプリは、割り勘が手軽に分担できるため、その利便性が高く評価されています。一方で、運営者には厳格な法令遵守が求められます。
エスクローサービスは規制対象外
エスクローサービスは、物品売買や不動産取引で用いられる決済仲介サービスで、取引の安全性を確保するために利用されます。取引完了までの間、エスクロー業者が一時的に代金を保管しますが、この業務は資金移動業には該当しません。
理由は、エスクロー業者が直接的な「送金業務」を行うのではなく、物品やサービスの引き渡しが完了した後にのみ資金移動を行うという契約形態が前提だからです。具体的には、資金は「取引完了」という条件つきで保管されるため、資金決済法第2条における「資金移動業」には該当しないと解釈されます。ただし、次の点に注意が必要です。
- 預かり資金の運用規定:資金保管の透明性確保。
- 契約内容の明確化:取引完了条件が明示されていること。
- 関連法令の遵守:民法や消費者保護法に基づいた適切な運営。
エスクローサービスは資金移動業の規制対象外であるものの、利用者保護の観点から厳格な運用が求められます。
資金決済法の改正で収納代行業者に求められる対応
前述の資金決済法改正により、一部の収納代行業が「資金移動業」として規制対象に含まれる可能性があるため、業務範囲の精査や法令遵守体制の整備が必要です。
改正資金決済法の影響と対応ポイント
改正資金決済法においては、業務範囲の明確化、金融庁への登録、契約内容の見直し、顧客資金の管理と保護、内部体制の整備の5つが重要です。それぞれについて、ポイントを以下の通りまとめています。
1. 業務範囲の明確化
収納代行業者は、自社サービスが資金決済法における「資金移動業」に該当するかを確認する必要があります。具体的には以下の点を確認しましょう。
- 顧客資金を一時的に保管しているか
- 保管した資金を迅速に送金しているか
- 取引の中で送金が主たる業務となっているか
これらに該当する場合、資金移動業としての登録が必要です(資金決済法第2条・第37条の2)。該当しない場合でも、契約内容や業務フローの見直しが求められます。
2. 金融庁への登録
資金移動業に該当すると判断された場合、金融庁への登録義務があります。登録には以下が必要です。
- 履行保証額の条件:最低でも1,000万円以上
- 分別管理の体制:顧客資金と事業資金を分けて管理
- 内部管理体制の整備:利用者保護のためのリスク管理体制を構築
登録後も年次報告や監査対応が求められるため、継続的な法令遵守が重要です。
3. 契約内容の見直し
収納代行業務が資金移動業に該当しない場合でも、取引の透明性を確保するため、契約書や利用規約の見直しが必要です。具体的には、次のような見直しをしましょう。
- 資金の流れを明確に記載。
- 顧客が送金状況を確認できる仕組みの整備。
- サービス範囲の限定を明示し、資金保管業務を含まないことを明確化。
4. 顧客資金の管理と保護
顧客資金を扱う場合、資金移動業に該当しなくても、透明性の確保が求められます。具体的な対応策は以下の通りです。
- 分別管理の徹底:顧客資金を事業用口座と分離
- 保全措置:信託口座の利用や保険加入
- 定期的な第三者監査:顧客資金の適正管理を確認
5. 内部体制の整備
法改正後、金融庁や消費者庁による監督が強化されています。以下の体制整備が重要です。
- 法令遵守体制の強化
- コンプライアンス責任者の配置
- 従業員教育
- 法改正内容や業務ルールの徹底周知
- リスク管理体制の構築
- 破綻時の顧客資金保護計画を整備
収納代行業者は法規制の動向に注目して適切に対応しよう!
収納代行業は、決済システムの重要な一角を担っています。法規制の有無にかかわらず、利用者の信頼を得られるよう、透明性の高い事業運営と適切なリスク管理が不可欠です。
また、今後の法改正の可能性も考慮し、常に最新の動向に注意を払う必要があります。収納代行業者は、自社のサービスが資金決済法の規制対象に該当するかを慎重に検討したうえで、必要に応じて適切な対応を心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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