- 更新日 : 2024年10月9日
マンション経営者が法人化すべき基準は?メリット・デメリットや手続きを解説
マンション経営の法人化とは、会社を設立し、マンションを会社名義にして経営することです。区分マンションを個人で経営している場合、年間の売上・所得が一定額を超えた場合は法人化により多くのメリットを得られます。
本記事では、マンション経営を法人化するタイミングや法人化することの利点や注意点、手続きの流れなどを解説します。
目次
マンション経営者はいつ法人化すべき?
不動産投資で区分マンションを購入し、個人事業主として賃貸経営を行っている方もいるかと思います。賃貸収入が多くなると、税金の負担が大きくなり、法人化を検討することもあるのではないでしょうか。
法人化を検討する前提として、個人事業主と法人の違いを確認しておきましょう。
個人事業主と法人の主な違い
個人事業主とは会社設立の手続きを行わず、税務署に開業届を提出し、個人で事業を営んでいる人のことです。
個人事業主と法人は、主に次の点が異なります。
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
事業開始までの手続き |
|
|
事業開始までにかかる費用 | なし |
株式会社:約22万円~ 合同会社:約10万円~ |
課税される主な税金 |
| |
経費の範囲 |
|
|
社会的信用 | 法人に比べて低い | 個人事業主より高い |
事業主(株主)の責任 | 無限責任 | 有限責任 株式会社の場合 |
社会保険 | 国民健康保険・国民年金など | 健康保険・厚生年金保険など |
会計・経理 | 確定申告 | 決算申告 |
赤字の繰越 | 3年(青色申告の場合) | 10年 |
法人化を検討すべきタイミング
法人化には設立・運営に手間やコストがかかり、会社員の副業で賃貸経営をしている場合などは負担が大きくなります。
それでも法人化することにメリットがあるケースもあり、主に次のような事情がある場合は法人化を検討するタイミングといえるでしょう。
- 年間所得が800万円を超えたとき
- 年間売上が1,000万円を超えたとき
- 資金調達が必要なとき
個人事業主に課される所得税には累進課税制度が適用され、年間所得が800万円超は、所得税率は23%になります。法人の場合は15%(資本金1億円以下の場合)であり、法人化した方が税の負担が軽くなるため、法人化を検討するタイミングです。
また、年間の売上が1,000万円を超えるとその翌々年から消費税課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。個人事業主・法人に関わらず発生する義務ですが、法人化することで、課税の基準となる売上が法人化の時点にリセットされます。そのため、最大2年は納税義務を免れることができるでしょう。
法人は個人事業主よりも社会的信用度が高いため、銀行から融資を受けたいときも法人化のタイミングです。賃貸経営の規模を広げるために投資用のマンションを追加購入したいといった場合、法人化することで資金調達がしやすくなります。
マンション経営者が法人化するメリット
マンション経営を法人化することで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
詳しくみていきましょう。
節税できる
所得が高くなると、個人事業主のままでは税率が高くなることは前述の通りです。そのため、法人化することで節税のメリットがあります。
さらに、法人化によって所得の分散を行うことで、節税効果が期待できます。個人事業主の場合、賃貸収入は経費を差し引いた分がすべて課税対象になりますが、法人になって家族などに役員報酬を支払えば、その分は法人の課税所得を減らすことが可能です。
役員報酬には所得税がかかりますが、申告の際には給与所得控除が差し引かれるため、課税所得が下がります。法人化すれば税率が下がるだけでなく、所得を分散することもできるので、大幅な節税ができるでしょう。
経費にできる範囲が広がる
法人化により、個人の場合よりも経費の範囲が広がり、税金を抑えられます。また、法人になれば、個人事業主では計上できない支出を経費にすることも可能です。
たとえば、車を法人名義にすることで車両関連費を経費にでき、受取人と契約者を法人名義にすれば、経営者の生命保険料を全額経費にできる場合があります。さらに、住居費や出張手当、経営者本人の給与・賞与なども経費にできます。
役員報酬を経費にできる
前述したように法人化すると家族を役員として役員報酬を支払えるため、それも経費にして所得を減らし、節税できるのがメリットです。
役員報酬は基本的に自由に決定できますが、次のような基準があります。
- 客観的に適切な額であること
- 毎月同額を支払うこと
- 支払い方法を決められた手続きを経ていること
- 支払い金額の決定と変更を決められた手続きを経ていること
経費にできるからと役員報酬を高くすると、所得税・住民税まで高くなるため注意が必要です。
社会的信用を得られる
法人化によって社会的な信用が高まることもメリットのひとつです。たとえば、マンション経営を多角化したいときは資金が必要になります。
銀行からの融資を受ける際は、審査に通りやすくするために法人化する必要もあるでしょう。とくに高額な融資を受ける場合、法人化の必要性は高まります。
法人は複式簿記による決算や申告が行われており、経営状態がわかりやすいことも融資の審査が通りやすくなる理由です。
また、法人化する会社の事業内容を不動産賃貸や不動産管理といった内容にしておくことで、不動産事業として明確化され、金融機関側の与信判断の拠り所にもなり、資金調達がしやすくなるでしょう。
債務の責任範囲が限定される
法人は出資した金額以上の債務を負わない有限責任であり、マンション経営で大きな損失を出しても、債務の責任を負うのは出資した金額の範囲内です。
たとえば、資本金500万円の株式会社を設立し、破綻して2,000万円の債務ができたとしても、支払いの義務を負うのは資本金500万円までの範囲です。個人事業主の場合は、すべての債務を支払わなければなりません。
マンション経営は他の投資ほどハイリスクではありませんが、空室のリスクなどはあり、個人事業主で経営に失敗した場合はすべての責任を負うことになります。多くの負債を抱えた場合、支払いができなければ個人の資産も差し押さえられるでしょう。
法人であれば、支払いの義務は会社の財産に発生し、基本的に個人の資産には及びません。
相続税対策ができる
マンション経営を法人化することで、相続税対策もできます。
個人事業でマンション経営する場合、所得は経営者の財産となり蓄積されて、相続財産は相続税の課税対象になります。
一方、法人化した場合、相続人となる家族を役員・従業員にして、マンション経営で得た所得を役員報酬にすれば、相続税の課税対象となる経営者個人の財産が増えるのを抑えられます。
マンション経営者が法人化するデメリット
マンション経営の法人化はメリットばかりではありません。法人化を検討する際は、デメリットも把握しておきましょう。
設立と運営にコストがかかる
法人化には設立費用や運営の手間・コストがかかります。まず、設立の際は、収入印紙代や定款の認証手数料、登録免許税などが必要になり、株式会社の場合で約22万円程度の支出が必要です。
また、法人を設立してマンションの所有を個人から法人名義に移す場合、個人から法人に不動産を売却したことになります。
そのため、法人には不動産を購入したことに対する不動産取得税が発生し、固定資産税評価額の4%を支払わなければなりません。
設立後も維持・運営に費用がかかります。税金や社会保険料などの支払いが毎月発生するほか、専門家(税理士など)に依頼する場合は報酬の支払いが必要です。
会計業務の負担が増える
法人化により、会計業務の負担が増えるのもデメリットです。個人事業主でも青色申告をする場合は複式簿記の記帳などが必要ですが、法人では決算申告など、個人より一層厳密な会計処理を要求されます。簿記や会計に詳しい人材がいない場合は税理士に依頼することになるため、報酬の支払いが発生します。
区分マンションの経営は、会社勤めをしながら行っている方も多いでしょう。本業の傍らで会計業務や決算業務を行うのは負担が大きくなります。
社会保険の加入義務がある
設立した会社が社会保険の適用事務所に該当すると、役員や従業員は「健康保険・介護保険」「厚生年金保険」といった社会保険料の加入義務が発生します。保険料は双方の折半となり、会社も半分を支払わなければなりません。
社会保険の加入により、加入・資格喪失の手続き、 社会保険料の計算が必要になり、業務の負担も増えるでしょう。
法人住民税「均等割」の負担が必要
法人化すると、必ず支払いが必要な税金があります。法人住民税の「均等割」で、業績が赤字で法人税の課税がない場合でも支払わなければなりません。
金額は資本金の金額と従業員の数によって異なり、道府県民税が最低2万円から、市長村民税が最低5万円から設定されているため、最低でも毎月7万円の支払いが必要です。
個人事業主の場合は赤字の場合に住民税はかかりませんが、法人になると必ず支払いが必要になる点がデメリットです。
税務調査が入る確率が高い
法人の場合、個人よりも税務調査が入る確率が高くなることは把握しておきましょう。黒字であるほど調査が入る可能性は高く、頻度は3〜5年に1回程度とも言われています。
税務調査で帳簿に不備があった場合、追徴課税される場合もあるため注意しなければなりません。
法人化したあとの調査でも、個人事業主の時代に行った確定申告の内容について調査される場合があります。帳簿や請求書類など保管義務のある書類は、保管期間を守って保存しておきましょう。
法人化する際の会社形態はどう判断すべき?
法人化にはいくつかの会社形態があり、どれを選べばいいか迷うかもしれません。
法人化で選ぶ会社形態は、株式会社をはじめとして次の4種類があります。
会社形態 | 特徴 |
---|---|
株式会社 | 株式を発行して、集めた資金で運営する 利益の一部を配当金として株主に支払う |
合同会社 | 出資者と経営者が同一の会社 法人化の費用が少なく、小規模経営に向いている |
合資会社 | 事業を運営する無限責任社員と資本を提供する有限責任社員によって構成される |
合名会社 | 無限責任社員だけで構成される |
これらの会社は設立手続きやかかるコストが異なり、会社が債務を負った際に出資者が負うべき責任の範囲も違います。
株式会社は設立費用が約22万円程度かかり、その他の会社は約10万円程度です。
責任は無限責任と有限責任の2つに分かれ、無限責任の場合は、出資者にすべての責任が発生します。
そのため、マンション経営の法人化では、責任を負う範囲が有限責任にとどまる株式会社と合同会社が多く選ばれています。
設立費用を節約したい場合におすすめなのは、合同会社です。あとからでも株式会社への変更はできるため、まずは合同会社の設立を検討してみるのもよいでしょう。
マンション経営者が法人化する際に必要な手続き
マンション経営の法人化は、基本的に次の手順で行います。
- 会社形態の種類を決める
- 会社の基本情報を決定する
- 設立に必要な印鑑を用意する
- 定款を作成する
- 資本金の払い込みを行う
- 登記申請する
まず、会社形態の種類を決めたら、商号(会社名)や資本金の額、事業の目的など、設立する会社の基本情報を決定します。
その後、法人を運営していくうえでの基本的ルールを定めた定款を作成し、資本金を払い込んで登記の申請を行うという流れです。
会社設立の手順については、次の記事で詳しく紹介しています。
マンション経営者が法人化する際の注意点
マンション経営の法人化では、いくつか注意したい点があります。
- 会社の副業規定を確認する
- ローンが残っている場合は金融機関に相談する
マンション経営を行っている会社員が法人化する場合、勤務先の副業規定を確認しておきましょう。マンション経営は不動産投資にあたり、原則として副業にはあたりません。
しかし、事業といえる規模になる場合や、法人化して役員報酬を受け取る場合には、副業規定に抵触する場合があります。
副業規定の内容や認められる範囲は会社によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
また、ローンの残債がある場合は、法人化する際に審査や手続きが必要になるため、事前に金融機関に相談しておく必要があります。
法人化以外に考えられる節税方法
マンション経営の法人化は手間やコストがかかるなどデメリットもあり、法人化以外で節税したいと考えるかもしれません。
会社員などマンション経営以外に収入がある場合は、損益通算により節税が可能です。
マンション経営の赤字を給与所得と損益通算して課税所得を減らし、節税するという方法です。
マンション経営で経費として活用できる「減価償却」があります。減価償却は、帳簿上の赤字を作り出すことに役立ちます。
減価償却とは、マンションの取得費について、毎年の経費に計上できることです。マンションは固定資産として毎年価値が減少すると考え、一度に経費計上するのではなく、法定耐用年数で分割して経費として計上します。
減価償却費は、実際には現金が支出しない「帳簿上の経費」になり、課税所得を減らします。
マンション経営の法人化は慎重に検討しよう
マンション経営では家賃収入が増えると、法人化した方がメリットのあるケースがあります。区分マンションを追加購入するため融資を受けたい場合なども、法人化すると有利になるでしょう。
一方で、法人になると運営に手間がかかるなどデメリットもあるため、慎重に判断することをおすすめします。会社員が法人化する際は副業規定にも注意し、適切な手続きで会社設立を進めてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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