• 更新日 : 2024年11月28日

個人事業主・フリーランスの屋号とは?決め方やよくあるQ&Aを紹介!

個人事業主は法人とは異なり、会社名を付けることができず、原則として個人名で事業活動することになります。しかし、個人名を事業と切り離したい方もいるでしょう。そのようなときに使えるのが「屋号」です。

ここでは個人事業主が屋号を付ける際の決め方や、メリット・デメリットについて解説します。また、よくある質問をQ&A方式でまとめました。

目次

個人事業主・フリーランスの屋号とは?

そもそも屋号とは、江戸時代以前において家や店を間違わないように区別するために付けられた通称です。武士以外の身分は姓を名乗れず、しかし商人などの身分が生まれ、ビジネスの便宜上必要となったことから付けられたのが屋号の始まりです。

いまでも、井村屋や高島屋、千疋屋などが老舗として存続しているのは、このような時代背景の名残なのです。個人事業主は屋号、法人は会社名と考えるとわかりやすいでしょう。

屋号と雅号の違いは?

「屋号」とは、ビジネスにおいて使われる名前のことで、あくまで個人の「事業」に付けるものです。一方「雅号」とは、作家や画家、芸能人など、一定の職業の人が「その人自身」に付ける名前のことです。ペンネームや芸名などが雅号に当たります。

雅号をビジネス上の屋号として使っていることも多いことから、屋号=雅号であるケースもしばしばあります。

屋号と商号の違いは?

屋号と商号の違いは、個人か法人かの違いです。個人の事業に付けられる名前が屋号で、法人に付けられる名前、つまり法人名のことを「商号」と言います。例えば「〇〇株式会社」などが商号です。商号は個人には付けることはできません。また、会社名である商号は原則、法務局で登録(登記)する必要があります。

個人事業主・フリーランスは屋号を必ず付ける必要がある?

個人事業主・フリーランスの屋号は、必ずしも必要ではありません。開業届の項目に「屋号」を記載する欄がありますが、空欄での提出でも問題ありません。また、作家、画家、芸能関係者などで本名以外に付ける別名のことを「雅号(がごう)」と言いますが、開業届においては屋号と同じ扱いです。

屋号や雅号については、実はあとから付けたい、または変更したいと思ったときの変更届用紙も存在しません。確定申告書の「屋号」欄に新しい屋号名を記入すれば、変更完了です。

個人事業主・フリーランスが屋号を付けるメリットは?

次に、個人事業主やフリーランスが屋号を付けるメリットについて見ていきましょう。

業種や職種、事業内容をアピールできる

個人事業主やフリーランスが屋号を付けるメリットのひとつに「業種や職種、事業内容をアピールできる」ことがあります。例えば、屋号が「〇〇設計事務所」であれば、建物などの設計をする仕事とわかります。事業内容をアピールできるので、その仕事の依頼をしたいと考えている人から、依頼を受けやすくなります。いわば、屋号が広告の役割を果たすのです。

屋号付きの銀行口座を開設できる

個人事業主が屋号を使うと、屋号の名前が付いた銀行口座を開設できます。個人事業主の場合、確定申告のために仕事のお金とプライベートのお金を分けて管理しなければなりません。

財布がひとつだと、その支出が仕事で使ったのかプライベートで使ったのか、あとでわからなくなることも多いです。屋号付きの銀行口座を作ることで、屋号付きの銀行口座から支払ったものは、仕事で使ったものと明確に区別できるようになります。

本名を使わずに活動できる

個人で仕事をしている人の中には、例えば芸能人や作家など、本名を使いたくない人もいます。その場合、屋号を使えば本名を使わずに活動できます。

法人化しても屋号を引き継げる

個人事業主は売上や所得が一定の規模になると、節税や信用度を高めるためなどの理由で法人化を検討します。法人化をする場合、屋号をそのまま法人名にすることも可能です。例えば、個人で「〇〇建設」の屋号で活動していた場合、法人化後に「〇〇建設株式会社」という法人名にできます。

法人化して名称が変わると、新しい名称に慣れるまで取引先が混乱することもあります。屋号を引き継ぐことで、付き合いのある取引先などの混乱を少なくし、また法人化したことを伝えやすくなります。

個人事業主・フリーランスが屋号を付けるデメリットは?

個人事業主やフリーランスが屋号を付けるデメリットは、あまりありません。強いて言うなら、本名を覚えてもらえないことや、事業にそぐわない屋号を付けた場合、あとで変更する可能性があるということです。

本名を覚えてもらうには、屋号と本名の両方を名刺などに記載しておくとよいでしょう。また、事業にそぐわない屋号を付けないよう、事前にしっかり検討をする必要があります。

個人事業主・フリーランスの屋号の決め方・ネーミング例

屋号は、その名称から仕事内容がわかるようなものが望ましいです。

小売業やサービス業など、お店を開いている場合は「〇〇屋」「〇〇本舗」「〇〇商店」「〇〇サロン」「〇〇医院」など、お店だとわかるようにします。

事務所を開いている場合は「〇〇デザイン事務所」「〇〇設計事務所」「〇〇オフィス」「〇〇スタジオ」などとします。また、エンジニアやデザイナーなどフリーランスで活動している職種は、芸名やペンネームをそのまま屋号にしたり、「〇〇コンサルタント」など仕事内容を屋号にしたりするとよいでしょう。

ただし、これらは、あくまで一般な例です。自分に合った屋号を事前にしっかりと考えましょう。

個人事業主・フリーランスの屋号のNG例

個人事業主やフリーランスは、「○○株式会社」「株式会社○○」「有限会社○○」のような法人が使う名前を屋号にすることはできません。銀行法における「〇〇銀行」、保険業法における「〇〇保険会社」のように、法律によってその名称の使用が事業者のみに限られているケースもあるので、注意しましょう。

また、他の屋号と同じものは、極力使わないようにします。ただし「山田商店」のような「個人名+“商店”」は個人事業でよく使われます。このようなケースの場合、同じ屋号でも問題ありません。

しかし、一般的に知られている会社名や、特定の会社しか提供していないサービス名などを屋号にすると、訴えられたりトラブルになったりする可能性があるので使わないようにしましょう。

個人事業主・フリーランスの屋号にまつわるQ&A

屋号は看板や商品・サービスに記載されることが多く、これらの変更には時間や費用がかかるため、最初に屋号を決めるときには、ネーミングの考え方をしっかり持っておくべきです。

個人事業主やフリーランスが屋号について考えるときの「15の疑問点」について見ていきましょう。

1. 覚えやすい屋号のポイントは?

例えば「地域名+事業内容」の組み合わせは、覚えてもらいやすく、かつ地元の人から親しまれることが期待できます。

また、より多くのターゲット層を取り込みたいのであれば、読みやすさや親しみやすさなどを重視し、使い続けられることを念頭におきましょう。

2. 屋号とお店の名前は統一すべき?

同じ名前でも異なる名前でも大丈夫です。しかし、「○○債務整理専門法律事務所」などという屋号にしてしまうと、あまりにも汎用性が低く、異なる事業への展開がしにくくなってしまう恐れがあります。

永続的かつ多角的な事業展開を視野に入れているのであれば、ある程度は抽象的な屋号にしておいたほうが幅広く対応できてよいと言えるでしょう。

3. ○○会社や○○コーポレーションという屋号名はOK?

屋号はあくまでも個人事業主に付けるものであり、法人格ではないため以下のものを付けることはできません。「株式会社」に限らず以下のものはNGです。

  • 会社
  • 合同会社
  • 合名会社
  • 合資会社
  • ○○Co.,Ltd
  • ○○ Inc.
  • ○○銀行 など

4. 屋号と事業内容は関連性を持たせるべき?

極端な例ではありますが、ダイエット食品の販売やアドバイス業務を事業内容としているにも関わらず、ビジネスがうまくいくようにと「豊潤」や「豊満」といった名称が入った屋号を付けていると、消費者側から見たときにピンときません。事業内容と屋号がある程度合致しているものが、望ましいでしょう。

例えば、○○photo studioなら、撮影をメインに事業展開していることがすぐにわかります。○○豆腐店、○○中古車販売なども、商品名や事業内容が入っているのでわかりやすいです。広く一般大衆にアピールできる屋号かどうかも考えましょう。

5. 屋号に個人名を入れてもいい?

既にネームバリューがあって、個人名そのものが事業内容だという人はすぐに屋号とすることができます。また、自分を軸にさまざまな事業を展開していきたい人にもオススメですが、その場合、屋号を付ける意味があまりなくなってしまうかもしれません。

6. 屋号にアルファベットはOK?

アルファベットを使うことももちろん可能です。最近はグローバル化により、屋号にさまざな言語が使われることもありますが、まずは読みやすさを重視したいものです。

7. 屋号の画数に関して気を付けることは?

社名判断や社名占いがあるように、複数候補で悩んだら画数で選ぶのもよいかもしれません。いわゆる大吉や吉の画数である5、7、8、9、15、17画には、ソニー、イオン、ローソン、ユニクロ、セブンイレブン、楽天などがあります。

8. 極端に長い屋号や短い屋号でもOK?

屋号の長さには特に制限はありませんが、読みやすさ、覚えやすさなどに考慮する必要があるでしょう。

例えば長すぎる屋号のデメリットとしては以下の点が考えられます。

【屋号が長い場合のデメリット】

  • 覚えてもらいにくい
  • 発音しにくい
  • 書類や印鑑作成時にバランスが悪くなりがち

また、逆に屋号名が短すぎた場合でも以下のことが考えられます。

【屋号が短い場合のデメリット】

  • 聞き取りにくい
  • 事業内容が伝わりにくい

いずれにせよ、調度良いバランス感覚が大切ということです。

9. 屋号が既に使われていないか検索できる?

屋号には法人の「商号」とは異なって法律による拘束力がないため、先に使っている人がいても、法律上は問題ありません。しかしながら、その屋号が「商標登録」されている場合は要注意です。

「商標登録」とは、事業者が自己の取り扱う商品やサービスを他者のものと区別するために使用するマークのことです。商標登録は屋号を無断使用などから法的に守るための手続きと言えるため、屋号の候補が商標登録されていないかを事前に調査しておくと安心です。

特許情報プラットフォームにおいて商標登録の有無を検索することができます。

参考:商標検索|J-PlatPat [JPP]

10. 屋号は2種類以上(複数)取得できる?

屋号は2種類以上取得することもできます。事業を複数実施している場合、その事業ごとに屋号を付けたい場合もあります。そのような場合には、屋号を2つ以上持つことは問題ありません。

例えば物品の販売と不動産賃貸業を経営する場合に、それぞれにふさわしい屋号を付けたくなります。この場合、開業届にはその両方の屋号を記載しても問題ありません。

11. 屋号を変更したい場合の手続きは?

事業内容などの変更はないが屋号だけを変更したい場合に、届出書のようなものはありません。

開業届を再提出するのは、基本的に引越しなどで納税地に変更がある場合において移転前の税務署に提出する他は、事業を廃止する場合です。したがって、屋号を変更した場合には変更後の屋号を確定申告書に記載して提出します。

12. 個人事業主は屋号名だけで銀行口座を持てる?

個人事業主の口座は法人口座とは異なりあくまでも「営業性個人」という扱いになりますので、「屋号名+本名」という口座名が正式なものとなります。

銀行で管理する口座や通帳に記載される口座名称が「屋号名+本名」となるだけで、先方からの振込時には屋号名だけで振り込めるようにできます。口座開設には、その屋号で営業を行っていることを確認できる開業届や確定申告書などの控えが必要となりますので、銀行に詳しく確認してみましょう。

13. 個人事業主の屋号は税金に関係がある?

屋号を付けたからといって、税金が変わることはありません。しかしながら、例えば屋号の入った封筒やカードを作成するための支出は必要経費となりますので、屋号も必要経費を生み、結果的に税金に影響すると言えます。

また、2023年10月から消費税インボイス制度が導入されたため、国税庁は、その事業主がインボイス発行事業者かどうかを「適格請求書発行事業者公表サイト」で検索できるようにしています。その際、個人事業主については、国税庁のサイトで公表する情報を個人名ではなく「屋号」とすることも可能です。

14. 個人事業主の家族も個人事業主になったら、同じ住所で同じ屋号は使える?

以下のようなケースでは、同一屋号で同一住所、同一連絡先ということが想定されます。

  • 妻がフリーになって、元々ある夫の事務所で事業活動をすることになった
  • フリーランス同士のカップルが結婚することになり、同じ事務所で異なる事業活動をしている

この場合、夫婦やカップルが、例えば喫茶店と不動産賃貸業などのように「別々の事業」を行っており、光熱費などの共通の支出であっても、合理的な費用按分が行われているのであれば別々に申告納付することに問題はないと言えます。

しかしながら、「同じ事業を同一住所」で行っている場合にはどちらかが青色事業専従者になるのが無難でしょう。また、この場合で婚姻関係にないときには雇用契約を結ぶなどしたほうがよいでしょう。

15. 屋号名に関する過去の成功事例は?

コーヒーの名前に濁音が付いているとヒットすると言われています。BOSSやジョージア、ワンダ、スターバックス コーヒー、タリーズなどが挙げられます。また、芸人さんのコンビ名も「ン」が付くと売れるなどと言われ、ダウンタウンさんやナインティナインさんなどが成功事例として取り上げられています。

これらのジンクスが、屋号に必ずしも当てはまるわけではありません。しかし、「発音のしやすさ」というのは重要なポイントです。言いやすくて耳あたりが良い屋号であれば、印象にも残りやすいでしょう。

またタウンページなどあいうえお順に掲載されることを意識して、「あ」から始まる会社名や屋号も多く存在します。

個人事業主・フリーランスの屋号が使われる場面は?

個人事業主やフリーランスとして仕事をしていると、屋号が使われる場面は数多くあります。名刺、取引先への請求書や領収書はもちろんのこと、銀行への銀行口座開設の申込書や融資関係の書類にも屋号を記載します。また、開業届や確定申告書など、公的機関に提出する書類にも屋号を記載します。

基本的に屋号を持っている場合は、ビジネスに関係する書類に屋号を記載する必要があると考えておきましょう。

個人事業主・フリーランスが屋号を書類に記載する方法?

具体的に開業届などの書類に屋号を記載する箇所を確認しておきましょう。なお、個人事業税における開業申請もありますので、開業の際にはあわせて提出しておきましょう。

開業届

開業届は、正式には「個人事業の開業・廃業届出書」と言い、事業を始めた日から1ヶ月以内に提出します。

個人事業の開業・廃業等届出書 屋号

出典:[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁、個人事業の開業・廃業等届出書」を加工して作成

開業届はその後の融資などでも利用することがありますので、必ず控えを取っておきましょう。

また、税務署に提出する開業届とは別に、事業所のある都道府県税事務所に「事業開始等申告書」を提出しましょう。こちらは地方税(個人事業税)における開業届であり、各税事務所によって書類の呼び方も書式も異なります。

確定申告書など

青色申告承認申請書、確定申告書、青色申告決算書(青色申告の場合)、収支内訳書(白色申告の場合)などにも屋号を記載する箇所がありますので、忘れずに記載しましょう。

青色申告承認申請書は、その年の1月16日以後に事業を開始した場合には、事業開始日から2ヶ月以内に提出します。

所得税の青色申告承認申請書 屋号

出典:[手続名]所得税の青色申告承認申請手続|国税庁、所得税の青色申告承認申請書」を加工して作成

令和6年分の所得税等の確定申告書(案)

出典:所得税の確定申告|国税庁、令和6年分の所得税等の確定申告書(案)」を加工して作成

※画像は令和6年分の所得税の確定申告書(案)であるため、変更される可能性があります。

令和5年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分

出典:確定申告書等の様式・手引き等(令和5年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)|国税庁、所得税青色申告決算書(一般用)【令和5年分以降用】」を加工して作成

令和5年分の所得税等の確定申告書 (案)

出典:確定申告書等の様式・手引き等(令和5年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)|国税庁、収支内訳書(一般用)【令和5年分以降用】」を加工して作成

ルールに則りながら事業をアピールできる屋号を決めよう!

「屋号」は、個人事業主やフリーランスが自身の事業を表すために付ける名称です。屋号を使うと、事業内容をアピールしたり、屋号付きの銀行口座を開くことができたりするなどのメリットがあります。また、屋号を持っていることは顧客からの信用度アップにもつながります。

ただし、屋号には法人が使うような名称を付けられないなどのルールがあるので注意が必要です。屋号を決める際は、慎重に検討しましょう。

よくある質問

個人事業主・フリーランスの屋号とは?

屋号とは、もともと家や店を間違わないよう区別するために付けられた通称のことであり、法人については「会社名(商号)」があるように、個人事業主については屋号があります。詳しくはこちらをご覧ください。

個人事業主・フリーランスは屋号を必ずつける必要がある?

現在、所得税の申告において個人事業主・フリーランスの屋号は必ずしも必要なものではありません。詳しくはこちらをご覧ください。


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