• 作成日 : 2022年9月22日

個人事業主の事務所は自宅か賃貸物件のどちらがおすすめ?

個人事業主やフリーランスが開業し、事業のための事務所を開設するにあたって、自宅での開業か、または賃貸物件での開業かで迷うことがあるかと思います。業種によっては、自宅開業が可能な場合もありますが、おすすめは自宅と賃貸のどちらなのでしょうか?

この記事では個人事業主の事務所としての自宅と賃貸物件について、メリット・デメリットについて解説します。

個人事業主・フリーランスの事務所は自宅か賃貸物件のどちらがおすすめ?

「自宅か賃貸物件か」という問いは、日常生活の根拠地となる自宅そのものについても「持ち家派か賃貸派か」という問いに似たものがあります。結論から言えば、その個人事業主の置かれた状況によって自宅か賃貸かのおすすめは変わります。

まず、その個人事業主の自宅の状況によって大きく左右されます。例えば、飲食店など実店舗が必要な場合、自宅開業は難しいケースが多いと言えます。立地や床面積などが事業に影響する場合には、自宅での開業が難しい場合が多いでしょう。
一日限定〇組限りとして隠れ家レストランなどを自宅で開業されているケースも見かけることはありますが、例外的なケースです。

そして、自宅が持ち家か賃貸かによっても異なります。先に自宅のみとして賃借していた場合、物件のオーナーが事務所としての利用を認めないケースもあります。仮に賃借物件の事務所利用を許されても、事業用の床や壁の張り替え、間仕切り、設備機器などについては、借主が原状回復すると心得ましょう。

また持ち家であっても、顧客や取引先の出入りや話し声などが近隣の迷惑につながることも想定され、顧客を頻繁に店舗に招くようなケースでは、基本的に自宅開業は難しいと言えます。

さらに、その自宅が集合住宅か一軒家かによっても異なります。住宅専用のマンションに第三者の出入りが多くなる場合、防犯面や入居者とのトラブルのリスクが高まる可能性があります。管理組合などと交渉して、事務所利用の許可を得るように求められるケースもあるのです。

したがって、事業と個人の生活が同居する自宅開業の場合においては、自分の都合だけではなく、事業の開始により周辺の環境が変化することについて、周囲の同意を得る必要があります。事業優先に走り、個人の生活がないがしろになると、生活の基盤そのものがぐらつきます。

個人事業主が自宅で開業する場合

個人事業主が自宅で開業する場合のメリットとデメリットについてまとめておきましょう。

基本的には、事業と個人の生活には一線を引いて考えるべきです。自宅開業であっても、事業とプライベートが上手く両立できている場合には、メリットが多く見えてきます。

個人事業主が自宅で開業するメリットとは?

個人事業主の自宅開業のメリットには次のようなものがあります。

  1. 時間の効率的利用が可能
    通勤の必要がない、仕事の合間に家事ができるなど、時間を効率的に利用できます。したがって、子育てや介護との両立はしやすい環境であると言えます。
  2. 家賃、交通費や駐車場代などのコスト削減
    自宅開業の最大のメリットとも言えるのが家賃が不要な点です。また、空調や電気代などの光熱費についても、家事利用との按分ができ、新たに設備を導入したりせず事業を開始することも可能です。
  3. 臨機応変なレスポンスが可能
    事務所までの距離がないため、顧客の問い合わせに対しいつでも書類等を確認でき、対顧客レスポンスという点で優れています。

個人事業主が自宅で開業するデメリットとは?

一方、個人事業主の自宅開業のデメリットとして次のようなものが挙げられます。

  1. プライベートと事業の切替が大変
    自宅開業の場合、プライベートと事業の切替が思いのほか大変です。事業専用の部屋を設けない限り、メリハリをつけて作業しづらくなります。
  2. 家事関連費との按分根拠が必要
    例えば、水道光熱費の事業利用割合を客観的にわかるように測定する必要があります。通信費などについても、事業利用の割合を明らかにしなければ、原則として必要経費として認められません。
  3. 家族や近隣への配慮が必要
    先述のように、騒音、防犯などに対し、周囲への気遣いは欠かせません。一旦、事務所へのクレームを受けると家族も暮らしにくくなってしまいますので、細心の注意が必要です。
  4. セキュリティ面での不安
    顧客情報を預かる場合、適切なセキュリティが確保されているかどうかが不安になります。家族を事務室には入らせない、また、安全性の高い自宅Wi-Fiを利用するなどセキュリティ面に注意が必要です。また、自宅住所などの情報をオープンにすることへの不安もあります。
    さらに、顧客に不要となった情報の廃棄方法などを説明するなどして、セキュリティ上の不安を和らげる努力をしましょう。

個人事業主が賃貸物件で開業する場合

個人事業主が賃貸物件で開業する場合のメリット、デメリットも見ておきましょう。

個人事業主が賃貸物件で開業するメリットとは?

個人事業主が賃貸物件で開業するメリットは次のようなものがあります。

  1. 公私が分別され、事務所機能が活きる
    本来、事業とは経済活動を営むことであり、どんな小さな起業であっても、事業と自宅は本来別物です。気持ちの切り替えが可能、事業専用の事務所のほうが顧客を呼びやすい、専用のセキュリティを確保できるなど、事務所と自宅を切り離すことにより本来の事業所としての機能が活きてきます。
  2. コストへの意識が高まる
    家賃の支払いは、事業においては固定費としてコストの中でも大きな割合を占めます。また、空調や電気代などの光熱費についても、どのような使い方をすれば効率的かを試行錯誤する必要が出てきます。
    このようなコスト意識を高めることにより、無駄を削減した効率の良い業務が生まれる基盤が作れます。
  3. 時間的なコスト意識も高まる
    事務所までは自宅から近いほうが便利ですが、事務所までの通勤時間や退社時刻を意識することにより、メリハリのある業務が生まれます。
    このような時間についても、コスト意識を高めることにより業務時間の充実が図れます。

個人事業主が賃貸物件で開業するデメリットとは?

個人事業主が賃貸物件で開業するデメリットは自宅開業のメリットの裏返しであり、次のようなものがあります。

  1. 時間のやりくりを考える必要がある
    通勤時間の確保が必要であり、仕事の合間には家事が気になる場合もあります。子育てや介護と事業を両立させるためには、勤務者と同様の対応も必要です。
  2. 家賃、光熱費や交通費などのコストがかかる
    家賃が高い場合、起業当初は赤字を覚悟しなければなりません。少なくとも、家賃をはじめ、空調や電気代などの光熱費などの固定費については回収方法を考えなければ赤字を克服できません。
  3. 時間外の対応は不可
    携帯電話や事務所からの転送電話など、顧客からの問い合わせに対して業務時間のみの対応となります。事務所の休日が続く場合などでも、顧客への対応はすぐにはできません。

個人事業主が賃貸物件を契約する流れは?

個人事業主が賃貸物件を契約する流れについての大まかなフローは次のとおりです。

順序主な流れ説明
1物件の条件を確認する立地や広さ、業務の用途などの希望をまとめ、業者などに伝える。
またはインターネットなどで物件を調査し、探す。
2希望物件の内覧業者などを通じて実物件の内覧をする。(数件あたる)
3賃借物件の決定候補物件の中から、賃借物件を絞り込む。
4入居申込と審査申込金(手付金)支払い。連帯保証人などが必要な場合あり。
書類(確定申告書など)の提出。
5重要事項説明宅地建物取引士による説明を受け、最終確認をする。
6賃貸借契約書の調印必要書類の準備と初期費用の支払い。
7物件引き渡し物件の鍵などの受け取りと、電気・水道などの手続きをする。
8事務所引越し機器や家具などを運び、開業準備をする。
9開業新たな事務所にて事業を開始する。

そもそも、契約は口約束でも貸主と借主の意思表示があれば成立するため、「賃貸借契約書」は義務ではありません。しかし、事業を継続するにあたり、後になって貸主と借主の認識にズレが生じ、トラブルに発展することも考えられます。
基本的には、賃貸借の契約内容を書面化し、「賃貸借契約書」として双方で保有するのが一般的です。

居住用に比べ、個人が事業用として賃貸借契約を締結するのはやや難易度が上がります。
それは、その事業が家賃の支払い能力を持っているかどうかを証明することが難しいからです。

さらに、駐車場付きの賃貸物件を借りる場合には、車検証の写しなどを求められたり、入居にあたっては火災保険への加入が必須となったりする場合があります。

契約において、注意すべきは「いつから家賃が発生するか」という点です。基本的には契約した日から家賃が発生しますので、なるべく無駄な家賃を支払わないようにしましょう。

自宅と賃貸物件で経費にできる費用に違いはある?

事業所が賃貸物件の場合には、その事業所にかかる費用は必要経費にできますが、自宅開業の場合には費用のすべてを必要経費に算入できないものもあります。

例えば、賃貸物件である自宅の床面積の1/3を事業所として利用したとします。この場合には、見取り図などで自宅のうち事業用として1/3を利用することが客観的にわかるような資料を準備しておきます。その上で、家賃が12万円だとしたら、必要経費とできる家賃は4万円(=12万円×1/3)となります。

このように自宅開業の場合において、生活費と事業費が混在している費用のうち、事業用にかかった経費を合理的な基準によって分けることを家事按分といいます。事業用の賃貸物件の家賃は必要経費とできるのに比べ、自宅開業の場合は家事按分が必要となる点は押さえておきましょう。

自宅開業の場合には、家賃だけではなく、共益費、WIFI費用、水道光熱費など家事按分の対象となるものは多いです。さらに自宅が持ち家の場合には、自宅の減価償却費も家事按分できます。

なお、自宅の按分計算については、以下の記事を参照願います。

個人事業主が自宅と賃貸物件以外で開業する方法は?

ノマドワークとは、ネット環境の発達や多様な働き方の拡大により増えてきた働き方で、決まった場所を決めず、仕事場を転々としながら働くことを言います。ノマドワークは場所の縛りがない環境で働けるワークスタイルで、エンジニア、デザイナー、ライターなど一人で業務が可能で、パソコンとその周辺機器だけあれば問題のない業種に多く見られます。

最近はノマドワーカーでなくても、カフェやコワーキングスペースで仕事をする人も増えてきました。さらに、自宅以外の観光地や帰省先でリモートワークを行うワーケーションなども注目されています。

自宅開業のデメリットの一つにセキュリティ面における不安を挙げましたが、例えば、ネットショップの開設により不特定多数に自宅住所などを公表することに抵抗を感じる人もいるでしょう。そのような場合には、バーチャルオフィスを利用して事業用の「住所」を借りることもできます。

このように、物理的な業務場所と便宜上の業務場所を分けることも業種によっては可能となります。

個人事業主は事業内容にあわせて事務所を選びましょう

個人事業主として事務所を開設する際には、事業としての利便性だけでなく、家族や近隣への配慮も視野に入れ、事業の状況を総合的に考えて、自宅開業とするか、賃貸物件を借りるかを決めましょう。

はじめはスモールスタートとして、自宅一室で始めたとしても、事業を拡張して事業所を借りるといった事業に合わせて対応するスタイルも費用対効果を考えた賢明な方法と言えます。

よくある質問

個人事務所は自宅と賃貸のどちらがよい?

その個人事業主の置かれた状況によって、自宅と賃貸のどちらがおすすめなのかは異なります。持ち家か賃貸かなど、自宅の条件や事業取引の内容を考慮する必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。

個人が自宅開業するメリットは?

通勤不要、仕事の合間に家事が可能など時間の有効活用ができ、家賃、交通費などのコスト削減、さらには、顧客の問い合わせに対しいつでも書類等を確認できるといった臨機応変なレスポンスが可能となります。詳しくはこちらをご覧ください。

個人が賃貸で開業するメリットは?

公私が分別されることによる気持ちの切り替え、顧客の呼びやすさ、専用のセキュリティ確保などで優れています。支払いコストや時間的なコスト管理の意識が高まり経営者としての基盤が培われます。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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