• 作成日 : 2016年10月26日

中小企業白書が明かす「稼ぐ中小企業」の特徴

中小企業白書とは中小企業庁調査室が毎年発表している中小企業の動向についての調査と分析です。
ここでは平成28年4月に発表された「2016年版中小企業白書概要」をもとに「稼ぐ中小企業」の特徴を、資金、投資、経営者の3つの視点から解説します。

「稼ぐ中小企業」はお金を借りている

無借金経営=理想的な経営ではない

企業規模別にみた無借金企業の割合

(出典:2016年版 中小企業白書概要|経済産業省
中小企業白書が示すグラフ(図1)によれば、無借金経営を実現している企業の割合は1983年から2013年の長い期間で見ると、大企業・中小企業ともに上昇傾向にあります。
2013年時点で中小企業は35.4%、大企業は41.8%が無借金経営です。一見借金がないことは良いことのように思えます。

設立年数、借入状況別にみた経常利益率

(出典:2016年版 中小企業白書概要|経済産業省
しかし借入状況と経常利益率の関係を示した図2を見ると、設立11年以上20年以下の企業を除けば、常に最も高い経常利益率を記録しているのは「借入のある企業(負債比率下位25%)」です。
つまり中小企業白書が示すこのグラフによれば、一定の経常利益率を確保するためには一定の借入が必要なのです。

無借金経営企業ほど投資比率が低い

設立年数、借入状況別にみた投資比率

(出典:2016年版 中小企業白書概要|経済産業省
この原因について中小企業白書は、第一に「投資比率の低さ」を挙げています。図3を見ればわかるように、無借金経営を実現している企業ほど、投資比率が低い傾向にあります。特にこの傾向が強いのは、設立年数が低い企業です。
この分析結果と図2の「10年以下」のグラフを合わせて考えてみると、設立間もない時期から投資に消極的で、無借金経営を実現してしまうと、結果的に経常利益率を保てない企業が多いという結論が見えてきます。

メインバンクとの面談頻度

(出典:2016年版 中小企業白書概要|経済産業省
中小企業白書が無借金経営の企業が経常利益率を確保できない原因としてもう1つ挙げているのが、「金融機関を含めた外部との関係の希薄さ」です。
図4に見られるように、メインバンクとの面談頻度について「ほとんどない」と答えた割合は、無借金経営の企業では44.1%にも上ります。借入のある企業と比較するとその差は歴然です。
これらのことから中小企業、とりわけ設立年数が低い中小企業は、積極的な借入と投資をするべきだと言えるでしょう。

「稼ぐ中小企業」はIT投資と海外展開に力を入れている

「稼ぐ中小企業」のIT投資

IT投資を積極的に進めているという点も高い収益性を保っている企業の特徴です。
中小企業白書によれば、IT投資を進めている企業の中でも特に「業務プロセス・社内ルールの見直し」「各事業部門・従業員からの声の収集」「計画・戦略策定」「IT・業務改善等についての社員教育・研修の実施」などにITを活用している企業ほど、収益性が高い傾向にあります。
一方でIT投資に踏み出せない中小企業も一定数存在します。そうした企業がIT投資を行わない主な理由は「IT人材の不足」や「ITの導入効果が分からない」などです。
しかしそれを理由にいつまでもIT導入を先延ばしにしていても、稼ぐ中小企業との差は開くばかりです。外部の専門家や支援機関を利用したり、研修などを実施するなどして、計画的にIT導入を進める必要があるでしょう。

「稼ぐ中小企業」の海外展開

中小企業白書は海外展開による海外需要の獲得も、稼ぐ中小企業の特徴として挙げています。
2001年から2013年の間に中小製造業の直接輸出を行う企業は4,342社から6,397社に増加しているほか、それ以外の業種の中小企業でも直接投資を行う企業は増加傾向にあります。
こうした企業は海外展開を実施していない企業に比べて労働生産性を向上させていると同時に、2割程度が国内従業者数を増加させ、7割~8割が国内従業者数を維持しています。
国内従業者数を減少させているのは生産拠点を移した企業のうちの11%を除けば、1%~4%程度の企業だけです。
もちろんリスクもありますが、海外展開の推進は稼ぐ中小企業になるために、必要不可欠な施策と言えるでしょう。

「稼ぐ中小企業」は経営者がチャレンジ志向

「稼ぐ中小企業」の経営者

経営者の年代別に見た成長への意識

(出典:2016年版 中小企業白書概要|経済産業省
中小企業白書によると現在の中小企業の経営者は企業規模が小さくなるほど高齢化の傾向が強くなり、さらに高齢の経営者ほど投資への意欲や自社の成長への意欲、保守的な傾向が強まることがわかっています(図1)。
これまで見てきたように、投資に消極的だったり、借金や海外展開のリスクをよしとしない企業ほど、収益性が低い傾向にあります。
一方で高い収益性を維持している企業ほど、意思決定スピードが速かったり、新しい試みに挑戦するなど、チャレンジングな企業風土を持っています。
チャレンジ志向でない経営者の企業で、チャレンジ志向の企業風土は育ちません。収益を高めていくためには、まずは経営者から変わっていく必要があるのです。

「稼ぐ中小企業」と事業承継

場合によっては後継世代への事業承継が、低収益体質から脱却するための施策になり得ます。2007年度時点で55歳から64歳の経営者について、2007年度から2008年度にかけて事業承継があったかどうかに基づいて、各社の経常利益率を比較した調査があります。
これによれば事業承継をした中小企業の方が、事業承継をしていない中小企業よりもわずかながら利益率を向上させていることがわかっているのです。
すなわち、経営者の保守性が低収益体質の原因になっているのであれば、事業承継に踏み切るのも選択肢の1つだということです。

まとめ

中小企業白書の調査と分析は、あくまで統計データです。統計データは得てして現実を完全に捉えることはできません。しかしここで見た「稼ぐ中小企業」の特徴には、十分な説得力があります。
統計データに惑わされないよう細心の注意を払いつつ、自社の状況を見極めて、稼ぐ中小企業の取り組みを取り入れていきましょう。

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