• 作成日 : 2024年11月29日

事業承継信託とは?自社株承継信託との違いやメリット、注意点などを解説

事業承継信託は、自社株を信託して事業を引き継ぐための方法です。2007年に施行された改正信託法に基づく比較的新しい制度で、親族内・親族外承継等に比べると認知度は低いですが、円満かつ円滑に事業承継できる方法として注目を集めています。

本記事では、事業承継信託のメリットや注意点について詳しく解説します。

事業承継信託とは?

事業承継信託は、事業承継でトラブルが起きないように自社株を信託する方法です。

そもそも信託とは、自社株を第三者に委託して運用してもらうことです。自社株を一定の割合以上所有する者は、企業の経営権を取得できます。経営者が保有する自社株を、後継者に信託すると企業の経営権を譲渡可能です。

円満かつ円滑な事業承継を実現するため、事業承継信託が注目されています。

事業承継信託と自社株承継信託の違い

事業承継信託と自社株承継信託は、どちらも事業承継に活用される信託です。ただし、事業承継信託は自社株のほかに、事業に属する財産や債務等も委託される可能性があります。一方、自社株承継信託は、自社株を円滑に後継者に移転させることを目的としています。

事業承継信託の種類は?

事業承継信託には、主に以下の種類があります。

  • 遺言代用(型)信託
  • 他益信託
  • 後継ぎ遺贈型受益者連続信託

それぞれの概要が異なるため、違いを理解して適した方法を選びましょう。

遺言代用(型)信託

遺言代用信託は、経営者が信託銀行や信託会社と信託契約を締結して信託する方法です。

現経営者の生存中は、その経営者が「委託者」と受益権を有する「受益者」の両方を担います。経営者の死亡後に、あらかじめ指定した後継者が受益者となるのが特徴です。

主なメリットは、以下のとおりです。

  • 遺言書と同様の効果がある
  • 事業承継の順番を決められる
  • 議決権の分散を防止できる

他益信託

他益信託は、現経営者を「委託者」、後継者を「受益者」とする信託です。

後継者に経営権はありませんが、現経営者が健在している間も配当等を受けられます。また、受益者に後継者としての地位が確立される安心感を与えられるのも特徴です。受託者である現経営者が、自分の意思で信託終了の時期を決定できます。

主なメリットは、以下のとおりです。

  • 現経営者が経営権を持ち続けられる
  • 現経営者が信託終了時期を決められる
  • 後継者の地位を保証できる

後継ぎ遺贈型受益者連続信託

後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、財産を複数世代にわたり承継できる信託です。

受益者の死亡により、あらかじめ決められた者が順番に受益権を取得します。承継の回数に制限はなく、順次受益者を指定可能です。

なお、まだ産まれていない孫や姪甥を受益者として定められます。

主なメリットは、以下のとおりです。

  • 経営の空白期間が生まれない
  • 承継先を複数先の世代まで決められる
  • 受益権の承継は回数に制限がない

受益者連続信託には、後継ぎ遺贈型以外にも「受益権譲渡型」「議決権第三者指図型」があります。

受益権譲渡型は、信託財産から生じる経済的利益を受け取る権利である信託受益権を譲渡する信託契約です。議決権第三者指図型とは、株主総会における議決権の行使について、第三者である指図権者が指図する権限を有する信託契約を指します。

事業承継信託のメリットは?

事業承継信託は、親族内・親族外承継等に比べると広く普及していませんが、事業承継信託を用いることで経営者と後継者の双方にメリットがあります。

ここからは、事業承継信託のメリットを確認していきましょう。

経営者の理想に近い事業承継ができる

事業承継信託は、現経営者が見込んだ人物を後継者に指名できます。

事業承継の懸念点として、「後継者の経営能力」を挙げる経営者は少なくありません。事業承継信託を選択すれば、経営能力の高い後継者に承継できます。現経営者は事業承継の条件も自由に決められるため、経営者の理想に近い事業承継が実現可能です。

参考:日本政策金融公庫 中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)

後継者争いやトラブルを回避できる

後継者を指名できる事業承継信託を用いることで、後継者争いやトラブルを回避できます。

事業承継における深刻な懸念として、親族間の相続問題を挙げる経営者は多いでしょう。各相続人に株が分散した場合は、経営能力がない人が会社を継ごうと画策する可能性もあります。

事業承継信託は、経営者の資質がある後継者候補に確実に承継させる方法として有効です。

経営者不在の心配がなくなる

事業承継信託のメリットとして、経営の空白期間が生じないことが挙げられます。

経営者不在による空白期間が生じると迅速な意思決定を行えず、事業に支障をきたす恐れがあります。事業承継信託であれば、万が一後継者が亡くなった場合でも、あらかじめ指定された次の世代に円滑に事業承継が可能です。

事業承継信託を用いれば経営の空白期間が生まれず、安定した経営を維持できます。

相続税の節税対策ができる

事業承継信託は、原則課税はありません。

事業の引き継ぎ後に税金が発生しないため、後継者の金銭的な負担を軽減できます。ただし、みなし相続財産に該当する場合は、相続税が課されるため注意が必要です。

後継者の負担を軽減したい場合は、みなし相続による相続税の支払いを回避できるように専門家に相談することをおすすめします。

参考:国税庁 No.4105 相続税がかかる財産

事業承継信託のデメリットは?

事業承継信託はメリットだけでなく、デメリットが生じる可能性があります。両方をしっかり比較したうえで、事業承継信託を検討することが大切です。

ここでは、事業承継信託のデメリットについて解説します。

経営者の死亡が前提となる

事業承継信託は、経営者の死亡を前提としています。

現経営者が亡くなるまで後継者に事業を承継できないため、生きている間に一線から退いて後継者に経営だけを任せることはできません。現経営者が健在のときに事業承継したい場合は、相続や贈与など事業承継信託以外の方法を検討する必要があります。

遺留分減殺請求の対応が難しい

事業承継信託は、遺留分減殺請求された際の法的見解が未確定です。

遺留分減殺請求とは、相続人が最低限の遺産(遺留分)を受け取れる権利を侵害された場合に財産の返還を請求することです。事業承継信託を用いた場合、遺留分侵害額の請求ができるのか現段階では明確に提示されていません。

遺留分侵害額の請求が認められた場合は、後継者の金銭的負担が増す可能性があります。

制度内容が広く普及していない

事業承継信託は、2007年に施行された改正信託法に基づく比較的新しい制度です。

親族内・親族外承継等に比べると認知度は低いため、事業承継信託を提案すると親族から強く反対されるかもしれません。承認を得られるまで時間を要する場合もありますが、強引に信託契約を進めるとトラブルに発展する可能性があります。

事業承継信託を検討しているなら、周囲に丁寧に説明して理解を得ることが必要です。

事業承継信託の取り扱いがある主な銀行は?

多くの銀行では、事業承継信託を支援しています。

普段から取り引きのある銀行であれば、安心して相談できる方も多いはずです。しかし、銀行によって取り扱う事業承継信託の種類が異なります。

事業承継信託を依頼できる銀行や、取り扱う種類について確認していきましょう。

りそな銀行

りそな銀行で取り扱う事業承継信託は、以下の2種類です。

遺言代用型議決権留保型
現経営者の存命中は後継者に自社株を移転しない信託です。信託しても現経営者が持つ経営権は実質的に変わりません。現経営者の死亡後は、速やかに後継者の方に自社株式を譲渡します。信託契約で経営権を現経営者に留保すると同時に、配当の受取等の財産権を後継者に移転する信託です。信託の終了時点で、後継者の方に自社株式を譲渡します。

参考:りそな銀行 自社株承継信託

みずほ信託銀行

みずほ信託銀行で取り扱う事業承継信託は、以下の2種類です。

遺言代用タイプ生前贈与タイプ
現経営者に万が一相続が発生した場合、後継者への円滑な事業承継を支援する信託です。信託期間中、現経営者は議決権を行使し、発行会社から配当金を受領します。相続が発生した場合、後継者に自社株を交付して信託が終了します。現経営者が経営権(議決権)を保留しつつ、後継者に自社株の生前贈与を支援する信託です。業績が順調な場合に相続が発生すると、後継者は多額の相続税が課せられます。株価の上昇前に自社株を承継し、経営権は引き続き現経営者が保有できます。

参考:みずほ信託銀行 事業承継信託

三井住友信託銀行

三井住友信託銀行で取り扱う事業承継信託は、以下の2種類です。

遺言代用信託受益者連続信託
相続が発生した場合に、特定の財産を後継者へ確実かつ円滑に引き継ぐ信託です。三井住友信託銀行では、遺言代用信託を単独運用指定信託(DPM)、有価証券管理信託、美術品信託に付加できます。相続の発生後に複数の世代にわたり資産の移転先を決められる信託です。遺言代用信託と同じく、受益者連続信託は、単独運用指定信託(DPM)、有価証券管理信託、美術品信託に付加が可能です。

参考:三井住友信託銀行 資産承継・事業承継

円満に引き継ぎたいなら事業承継信託を検討しよう!

事業承継信託は、2007年に施行された改正信託法に基づく比較的新しい制度です。

親族内・親族外承継等に比べると認知度は低いですが、経営者不在の空白期間を作らず次の世代に引き継いだり、後継者争いを回避できたりなど多くのメリットがあります。

円満かつ円滑に事業を承継したいなら、事業承継信託を検討してみてはいかがでしょうか。


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