• 更新日 : 2024年12月13日

大家がアパート経営で法人化すべき基準は?メリット・デメリットや手続きを解説

アパート経営の法人化とは、会社を設立してアパートを法人名義に変更し、法人として賃貸経営を行うことです。土地活用などでアパートを建設し、賃貸経営をするような場合は所得が高額になることも多く、法人化したほうが節税できる可能性が高いでしょう。

本記事では、アパート経営を法人化するタイミングや法人化のメリット・デメリット、手続きの流れなどを解説します。

アパート経営者はいつ法人化すべき?

アパート経営は個人事業主として展開していることも多く、法人化を検討しているアパート経営者の方もいるのではないでしょうか。まずは、個人事業主と法人はどのような違いがあるのか、詳しく見ていきましょう。

個人事業主と法人の主な違い

個人事業主とは、法人を設立せず、個人で事業を営んでいる人のことです。個人事業主になるには、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。

一方、法人とは、法人設立手続きを行い、人と同じ権利・義務を法律によって認められた組織や団体のことです。

個人事業主と法人の違いは、次の通りです。

個人事業主法人
事業開始までの手続き
  • 開業届を税務署に提出
  • 個人事業税にかかる開業等届出書を都道府県税事務所に提出
  • 青色申告を希望する場合は「青色申告承認申請書」を税務署に提出
  • 定款を作成し、公証役場に提出して認証の手続きを行う(株式会社)
  • 資本金または出資金の払い込みを行う
  • 法人登記を行う
  • 青色申告を希望する場合は「青色申告の承認申請書」を税務署に提出
事業開始までにかかる費用なし
  • 手続きにかかる費用目安

株式会社:約22万円~

合同会社:約10万円~

  • 資本金
課税される主な税金
  • 法人税
  • 法人住民税
  • 法人事業税
  • 消費税
経費の範囲
  • 事業にかかる費用は計上できる
  • 事業主の給与や生命保険料は経費にできない
  • 個人事業主よりも経費の範囲が広い
  • 法人税の計算上、損金算入できる交際費の額に上限がある
  • 法人税の計算上、損金算入できる役員報酬に細かい規定が定められている
社会的信用法人に比べて低い個人事業主より高い

新規契約や資金繰りに有利

事業主(株主)の責任無限責任有限責任(※株式会社の場合)
銀行口座
  • 個人名義の口座も可能
  • 事業用のお金と生活費を混同させない
社会保険国民健康保険・国民年金など健康保険・厚生年金保険など
会計・経理確定申告決算申告

法人化を検討すべきタイミング

個人事業主が法人化を検討すべきタイミングは、法人化によるメリットが最大限受けられるときが目安です。具体的には、次のような展開になったときがタイミングと言われています。

  • 年間所得が高額になった
  • 年間の売上が1,000万円を超えた
  • 事業拡大で資金調達が必要になった

個人事業主に課される所得税には累進課税制度が適用されるため、年間所得695万円超は、所得税率は23%になります。法人の場合は23.2%で、資本金等の額1億円以下の一定の法人は課税所得800万円まで15%または19%の税率が適用されます。法人化したほうが税の負担が軽くなる場合は、法人化のタイミングといえるでしょう。

年間の売上が1,000万円を超えたときも、法人化を検討するタイミングです。個人事業主・法人ともに売上が1,000万円を超えるとその翌々年から消費税課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。

しかし、消費税課税事業者となる義務が生じたときに法人化すれば、消費税の納税義務の判定は新たに行われ、法人化により基準となる売上が法人化の時点にリセットされます。そのため、最大2年は納税義務を免れることが可能です。また、銀行から融資を受けたいときは、社会的信用度を高めるために法人化が必要になるでしょう。

アパート経営者が法人化するメリット

アパート経営者が法人化することで、節税や経費計上できる範囲が広がるなどのメリットがあります。ここでは、アパート経営者の法人化によるメリットを解説します。

節税につながる

所得が一定金額を超えたら、法人化したほうが節税につながります。法人化により法人税率が適用され、個人と比べて税率が低くなる可能性があるためです。

個人所得税は、課税所得が大きくなるほど税率が高くなる累進課税です。アパート経営を個人として経営している場合、家賃収入はすべて土地・建物を所有しているオーナーの所得となり、高額になれば高い所得税率が適用されます。

一方、法人化すると家賃収入は法人の収入になり、家族を役員にして報酬を支払えば法人の経費になります。家賃収入は、結果、家族の所得として分割され、適用される所得税率も低くなるでしょう。

経費計上できる範囲が広がる

個人よりも法人のほうが経費計上できる範囲が広く、課税所得額を引き下げやすいこともメリットです。例えば、自分と家族の役員報酬や、旅費交通費、出張手当、法人保険の保険料(種類による)などを経費に計上できます。

また、赤字が出た場合に個人事業主でも青色申告の場合は3年間の繰り越しができますが、法人の場合は10年間繰り越せるという点もメリットです。

資金調達が容易になる

法人化により社会的信用が高まり、銀行から融資を受ける際にも審査に通りやすくなります。そのため、資金調達が容易になるという点がメリットです。

法人は登記により公的機関から存在が確認され、個人ではなく一つの組織として認識されます。同じ事業を行っていても、個人事業主より法人のほうが信頼を得やすく、第三者からの安心感につながり、新規取引先も獲得しやすくなるでしょう。

相続税対策ができる

法人化は、相続対策にも役立ちます。相続人が複数いる場合、一つのアパートを、遺産分割するには難しいというデメリットがありますが、株式会社として法人化しておけば財産は株式になるため、分割しやすくなるでしょう。

生前贈与では年間110万円以上になると贈与税がかかります(相続時精算課税を選択する場合を除く)が、適正な報酬として支払っている場合は、原則として贈与の対象になりません。報酬の形式で支払うことで贈与税の支払いも抑え、節税効果が高まります。

責任が限定される

法人化により、責任が限定されることもメリットです。株式会社や合同会社は出資した金額以上の債務を負わない「有限責任」であり、アパート経営で大きな債務が出た場合でも、出資した金額の範囲内でしか債務を負いません。

例えば、3,000万円を資本金とする株式会社を設立し、倒産して5,000万円の債務を負った場合、経営者が負うのは出資した3,000万円であり、これ以上の金額には責任がありません。一方、個人事業主の場合は「無限責任」のため、5,000万円の債務についてすべて責任を負うことになります。

アパート経営者が法人化するデメリット

アパート経営の法人化には、デメリットもあります。まず、設立と運営にコストがかかり、会計処理が複雑になって決算書類の作成も負担になるでしょう。ここでは、アパート経営者が法人化するデメリットを解説します。

設立と運営に費用がかかる

法人化は、設立費用や運営に費用がかかる点がデメリットです。まず、設立に際して登録免許税が発生し、登記費用や定款認証のための費用、司法書士に依頼する場合の報酬も必要になります。アパート経営の途中で法人化する場合は、個人から法人へ不動産の譲渡が発生する場合もあるため、その際は不動産取得税の支払いも必要です。

法人として運営していく際にも手間と費用がかかります。法人の会計業務では専門知識が必要な複式簿記が必要になり、税理士に依頼する場合はその費用も負担しなければなりません。

決算・申告などの負担が大きくなる

法人は年事業年度ごとの所得額と税額を計算し、原則として事業年度終了の日から2カ月以内に決算および確定申告をしなければなりません。所得額を計算するために、日々の取引について複式簿記による帳簿作成も必要です。

法人の会計業務は複雑であり、専門知識が必要になります。簿記や会計に詳しい人材がいない場合は、税理士に業務を依頼する必要も出てくるでしょう。

社会保険の加入義務がある

法人化して役員報酬を支払う場合は、社会保険への加入が必要です。役員報酬の3割程度が社会保険料となり、保険料の半分を会社が負担します。そのため、コストが増える点がデメリットです。

新たな税金が発生する

法人化により、新たな税金が発生することもデメリットの一つです。法人の場合、その年の所得に関係なく、法人住民税の均等割が毎年課税されます。法人の資本金や従業員数に応じて課税されるもので、税率は自治体によって異なります。道府県民税が最低2万円から、市町村民税が最低5万円から9段階に区分されており、最低でも約7万円の支払いが必要です。

個人事業主の場合、事業が赤字だったときは住民税の支払いは発生しませんが、法人は赤字の場合も支払いの義務がある点がデメリットです。

税務調査が入る確率が高まる

税務調査を受ける確率は個人事業主よりも法人のほうが高く、法人化により税務調査を受ける確率は高まる可能性があります。税務調査を受けて帳簿に不備があった場合は追徴課税される場合があるため、注意が必要です。

法人化しても、個人事業主の時代に行った確定申告の内容について税務調査が行われる場合もあります。個人事業主のときの帳簿や請求書領収書なども法定の期間はしっかり保管しておかなければなりません。

法人化する際の会社形態はどう判断すべき?

法人化する場合、会社形態としては、株式会社をはじめとして次の4種類があります。

会社形態特徴
株式会社
  • 株式を発行して集めたお金で事業を運営する
  • 利益の一部は配当金として株主に支払う
合同会社
  • 出資者と経営者が同一であり、外部の投資家から資本を入れることができない
  • 法人化の費用が少なく、小規模の経営に向いている
合資会社
  • 事業を運営する無限責任社員と資本を提供する有限責任社員によって構成される
合名会社
  • 無限責任社員だけで構成される

会社形態を選ぶ基準の一つは、会社が倒産や負債を負った際に出資者が負うべき責任の範囲です。責任は無限責任と有限責任の2つあり、無限責任の場合は、出資者にすべての責任が発生します。

そのため、アパート経営の法人化では、責任を負う範囲が有限責任にとどまる株式会社と合同会社が多く選ばれています。

この2つを比較した場合、株式会社は設立費用が22万円程度かかるのに対し、合同会社は10万円程度で設立できるという点がメリットです。合同会社から株式会社への変更はあとからでもできるため、合同会社から始めてみるという選択肢もあるでしょう。

アパート経営者が法人化する際に必要な手続き

アパート経営を法人化する手続きは、次の通りです。

  1. 法人の種類を決める
  2. 会社の基本情報を決定する
  3. 定款を作成する
  4. 資本金の払い込みを行う
  5. 登記申請する

アパート経営では、まず所有方式と法人の種類(会社形態)を決定します。所有方式は土地と建物のうち建物のみを法人で所有する方式と、両方を法人で所有する方式があり、いずれかを選びましょう。

個人事業主の会社設立については、以下の記事で詳しく説明しています。

アパート経営者が法人化する際の注意点

アパート経営の法人化は、次の点に注意が必要です。

  • 資本金を高く設定しすぎない
  • 役員報酬を適切に設定する
  • ローンが残っている場合は金融機関に相談する

資本金が1,000万円を超える場合、法人均等割が7万円から20万円になって負担が増えるため、高く設定しすぎないほうが妥当です。役員報酬は経費に算入できますが、金額が高すぎると役員個人にかかる所得税や住民税、社会保険料も高額になるため、注意が必要です。

また、ローンの残債がある場合、法人化するにあたってさまざまな審査や手続きが必要になるため、あらかじめ金融機関に相談することをおすすめします。

法人化した場合にかかる税金

個人事業主には課されず、法人に課される主な税金について解説します。

法人税

法人税とは、法人の企業活動により獲得した所得に対して課される税金です。法人の所得は、益金の額(収益に類似するもの)から損金の額(費用に類似するもの)を差し引いた金額のことです。

個人事業主に課される税金として、法人税の仕組みと同じように個人の所得に対して課されるのが所得税です。法人税は税率が固定されている(株式会社などの普通法人は原則として23.2%、一定の要件を満たす中小企業者は所得800万円以下の部分について15%)のに対して、所得税は超過累進課税で所得額に応じて税率が上がる点が異なります。

法人住民税

法人住民税は、地域社会の構成員である法人に課される税金です。法人税が国税であるのに対して、法人住民税は都道府県や市町村が課税する地方税です。

法人住民税は、均等割と法人税割の合計で算出されます。均等割とは、資本金や従業員数に応じて負担を求める部分です。法人の場合、赤字であっても均等割が発生します。法人税割は、法人税額に応じて算出される税率部分です。

法人事業税

法人事業税も、法人住民税と同様に地方税に分類されます。事業活動を行う自治体での行政サービスに対して負担する税金です。資本金等の額1億円以下の普通法人については、法人の所得に対して課税される所得割のみとなります。資本金等の額1億円を超える普通法人は、所得割、資本割、付加価値割が課されます。(電気供給業・ガス供給業・保険業を除く)

法人化により相続税対策をするポイント

個人事業主から法人になることで、相続税の負担を軽減できる可能性があります。個人事業主の場合、不動産事業のすべての資産が個人の所有となります。法人の場合、不動産事業に必要な資産を個人と法人に分けることが可能です。すべてを個人の財産として相続しなくて済むため、相続税の負担軽減につながります。ここでは、法人化により相続税対策をするための3つのポイントについて解説します。

推定相続人を株主にする

不動産経営を法人化する大家自身が株主となっても、相続税対策にはなりません。株主となった大家が亡くなり相続が発生することで、大家が所有していた会社の株式が相続や相続税の対象となるためです。

相続税対策を視野に入れて法人化する場合には、株主を推定相続人にしておくとよいでしょう。推定相続人とは、相続人と推定される人のことです。配偶者や子、あるいは親や兄弟姉妹などが考えられます。

推定相続人を役員にする

推定相続人を役員にすることも、相続を見据えた税金対策に役立ちます。現大家1人を役員にして、家賃収入の一部を役員報酬として支給すると、相続発生時までに役員報酬分の財産が相続税の対象として蓄積される可能性があるためです。

推定相続人を役員にし、それぞれに役員報酬を支給することで、相続前から所得を分散できるようになります。現大家への資産の集中を防げるため、相続税対策としても役立つでしょう。

相続が発生する3年以上前から法人経営を行う

相続発生前の贈与で、一定期間内に行われたものについては、相続税の課税価格に贈与時の価額を加算しなければなりません。2026年(令和8年)12月31日までの期間については、相続開始前3年以内の贈与が対象です。2026年以降は徐々に加算対象の範囲が拡大される見込みで、2027年(令和9年)1月1日から2030年(令和12年)12月31日までの期間は2026年1月1日から死亡の日まで、2031年(令和13年)1月1日までの期間は相続開始前7年以内となります。

しかし、相続がいつ発生するかはなかなか予測できるものではありません。相続税対策のために法人化する場合は、早め早めに法人経営に切り替え、節税効果が軽減されないようにしておくことがポイントです。

法人化により発生する費用

法人化を検討する際に知っておきたい、法人化および法人化後に発生する費用について解説します。

設立費用

法人の設立にあたり、以下の費用の負担が必要です。

  • 定款に関する費用
  • 登記に関する費用
  • 資本金

法人を設立する場合、定款の作成が必要です。株式会社の場合は、定款の認証費用がかかります。電子定款でない場合は、収入印紙代などのコストもかかります。

登記に関する費用は、法人設立登記の申請にかかる登録免許税などの費用です。登録免許税は、15万円または資本金の額の1000分の7のいずれか高額なほうが適用されます。

ほかにも、会社設立のための資本金、司法書士などの専門家に登記の手続きなどを依頼する場合は専門家への報酬なども必要です。

運営費用

法人化により、運営費用として以下のコストが発生する可能性があります。

  • 法人税などの税金
  • 会社負担分の社会保険料
  • 顧問税理士など専門家への報酬

株式会社の場合、個人事業主とは異なり決算公告の義務があります。公告の方法次第では、追加のコストが発生する可能性があります。また、法人化により税務が複雑化することから税理士と顧問契約を結んだり、顧問契約でなくても決算申告のみ依頼したりするケースも増えてくると想定されます。専門家に依頼する場合は、その分のコストも増加する可能性があります。

サラリーマン大家でも法人化できる?

そもそも不動産投資は副業には該当しないとするのが一般的な見方です。相続税対策で行う場合もあるためです。また、規模によっては本業に影響しにくいなどの理由もあります。管理業務を委託することで、大家の負担をさらに軽減することも可能です。

法人化により不動産投資が問題になる可能性があるのは、事業規模で不動産投資を展開するような場合です。法人化に伴い事業規模を拡大していくようなときは、本業に支障が出る可能性もあるため、勤務先に確認しておくと安心でしょう。

法人化以外に考えられる節税方法

アパート経営以外でも節税は可能です。節税のためだけに法人化を考えている場合は、それ以外の方法も検討してみるとよいでしょう。

  • iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入する
  • 修繕にかかる費用も経費計上する

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、給付時には税金がかかる場合がありますが、掛金が全額所得控除の対象になるほか、運用益も全額非課税となります。なお、会社員の場合は、事業主の企業型DCなどへの拠出額次第でiDeCoに加入できない場合もあるため、勤務先に確認しておきましょう。

また、アパート経営では修繕にかかる費用が高額になりますが、それら費用を経費に計上することで、大幅な節税が可能です。

アパート経営の法人化はメリットや注意点をよく確認しよう

アパート経営の法人化は、節税や経費計上の範囲が広がるなど、さまざまなメリットがあります。所得額が一定の金額を超えた場合は、法人化するメリットが大きいといえるでしょう。

一方で、法人化は会社設立と運営に費用がかかり、会計業務の負担も大きくなるなどのデメリットがあります。

節税のメリットと会社設立後に発生する負担を比較検討し、最良の選択をしてください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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