- 作成日 : 2022年1月21日
公務員は会社設立できる?注意点も解説
サラリーマンの副業が話題になっています。副業を考えている人の中には「アルバイトやパートではなく、会社設立をして本格的に事業を展開したい」と考えている人もいるのではないでしょうか。
では、どのような職種の人でも会社設立はできるのでしょうか。特に公務員は会社設立が許可されているのかどうか、気になるところです。今回は、公務員の会社設立について詳しく解説します。
目次
公務員の副業禁止規定
民間企業では会社の規定で副業が認められている場合がありますが、公務員は法律によって副業が禁止されています。
国家公務員や地方公務員は、どのような法律で副業が禁じられているのでしょうか。
国家公務員の場合
国家公務員は、国家公務員法第96条第1項で「国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当っては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と定められています。
職員の兼業については、国家公務員法第103条に「私企業からの隔離」として、以下のように企業を経営することを禁じることがはっきり記載されています。
「職員は、営利を目的とする私企業(以下、「営利企業」)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員等の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない」
国家公務員は、営利企業の役員兼業や自営兼業が原則禁止されています。役員兼業は、たとえ無報酬で名義のみであったとしても禁止です。
※役員:取締役・監査役・理事など
ちなみに、一定の規模以上の不動産等賃貸業や農業、太陽光電気の販売業などは「自営」になりますが、所轄庁の長の承認を得た場合は行うことができます。
国家公務員法第104条には「他の事業又は事務の関与制限」として、以下の記載があります。
「職員が報酬を得て、営利企業の役員等との兼業以外の兼業を行う場合には、内閣総理大臣及び所轄庁の長の許可を要する」
こちらでは、報酬を得る兼業の禁止が定められています。労働の対価として報酬を得て、継続的または定期的に従事することを禁ずるというものです。
ただし、単発的な講演や雑誌等の執筆での報酬は、継続的または定期的に報酬を得ることに当たらないため、禁じられていません。
地方公務員の場合
地方公務員は、地方公務員法第38条第1項にて営利企業への従事等が制限されています。具体的には以下のとおりです。
- 営利企業を営むこと
- 営利企業を営むことを目的とする会社・団体の役員に就任すること
- 報酬を得て事業または事務に従事すること
営利企業とは商業や工業などで利益を得て、業務に従事する人に配分することを目的とする企業のことです。地方公務員が営利企業で働くことは禁じられてます。
農協や生協、NPO法人、公益財団法人など、営利目的ではない団体の役員への就任に許可は必要ありません。ただし、これらの団体から報酬を受けて活動する場合は許可が必要です。
副業禁止規定に違反した場合
公務員が、副業禁止規定に違反した場合の処分についても確認しておきましょう。国家公務員は、以下のような処分が行われた事例があります。
数万円の報酬を得て「名義貸し」を行い、設立された株式会社の取締役に就任した。 | |
家族から賃貸不動産を相続し、自営兼業の承認申請をせずにアパート等の賃貸を行っていた。 | |
数年にもわたり自身のブログや会員制サイトで申込者を募り、対面・オンラインでコーチングを行い、報酬を受け取っていた。 |
副業禁止規定に違反すると、処分は免れません。認められた副業以外で働きたいという人もいるかもしれませんが、後々のことを考えると避けたほうがよいでしょう。
公務員が会社設立するためには?
公務員であっても、認められた業種であれば許可を得て副業を行うことができます。どのようにすれば、副業を始められるのでしょうか。
許可をもらう
国家公務員の場合は、副業(兼業)開始前までに「兼業許可申請書」を提出し、各省で定められた決裁手続きを経て許可を得ることになります。
兼業許可申請書を提出する際は、以下の資料も必要です。
- 兼業先との契約条件(働く日時・報酬・業務内容)が記載された契約書案
- 兼業場所への移動経路及び移動時間が分かる資料
- 兼業先についての詳細(定款・事業報告・活動計算書など)
公務員が副業を行う際、懸念されるのは事業の内容だけではありません。副業に時間をとられ、本業に支障をきたすおそれもあります。よって、副業を行っても公務員としての仕事に問題が生じないかを確認されるのです。
地方公務員の場合も基本的には同じです。「営利企業等従事許可申請書」(地方公共団体によって名称が異なる場合があります)を所属長経由で提出し、許可を得ます。離職する場合も「営利企業等離職(廃止)届」を提出し、副業を辞めた旨を伝える必要があります。
非営利企業で報酬をもらわない
公務員で副業を考えている人の中には、目的は金銭を得ることではなく、自分のスキルの向上を目指す人もいるのではないでしょうか。その場合は、非営利企業で報酬をもらわずに働くという方法があります。例えば、地域のプロモーションや防犯活動、スポーツ指導などの社会貢献活動が挙げられます。
総務省が行った「営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する実態調査(平成31年4月1日時点)」によると、2018年度の地方公務員の兼業許可件数は4万1,669件で、うち社会貢献活動は1万1,506件でした。
地方公共団体の中には、社会貢献のための兼業を促進しているところもあります。「金銭目的ではなく、社会貢献のために働きたい」という場合は、このような方法もあることを覚えておきましょう。
役員を家族名義にする
公務員であっても、一定以上の規模の不動産等賃貸業や農業などであれば、許可を得て兼業を行うことができます。しかし、中には「自分が表に立って事業を行いたくない」という人もいるでしょう。その場合は家族(配偶者・親など)に法人を設立してもらい、代表や取締役になってもらう方法があります。
例えば不動産投資の場合、家族を代表にして法人を設立し、公務員である自分が株主となる方法があります。金融機関からの融資を希望する場合でも、株主に信用度の高い公務員がいることで、融資を受けやすくなるという効果も期待できます。
代表の名義は家族でありながら、実際に事業を行っているのが公務員であることが発覚した場合は、処分の対象になる可能性があるため注意が必要です。法人の設立を検討する際は、どのようにすれば問題なく目的を達成できるか、あらかじめ所属する団体に確認しておきましょう。
公務員が会社設立を考えるタイミングは?
公務員が副業のための会社を設立する場合、最適なタイミングはあるのでしょうか。「売上高や利益額がどの程度になった場合に会社を設立したほうが有利になるか」を確認します。
課税売上高が1,000万円超になったとき
課税売上が1,000万円を超えると、消費税の納税義務が生じます。当期が消費税の納税事業者であるかどうかの判定は、個人事業者の場合は前々年の課税売上高、法人の場合は前々事業年度の課税売上高で行われます。個人事業主で1,000万円超の売上があったとしても、新たに法人を設立すれば、法人としてはまだ前々事業年度と前事業年度がないと見なされます。
設立1期目と2期目の法人には消費税がかからないため、節税の観点では法人を設立するほうが得なのです。
利益額が800万円以上になったとき
事業で利益が出ると個人事業者の場合は利益に「所得税」、法人の場合は「法人税」が課税されます。利益が800万円を超えると、所得税の税率より法人税の税率のほうが低くなるため、法人を設立するほうが得になります。
所得税と法人税の税率については、次章の「会社設立をするメリット」で解説します。
会社設立をするメリット
ここでは、会社を設立するメリットについて確認します。特に、税金面のメリットはしっかり把握しておきましょう。
節税になる
事業で課税所得が発生すると、個人事業者の場合は「所得税」、法人の場合は「法人税」がかかります。それぞれの税率は以下のとおりです。
【所得税】
1,000円~194万9,000円まで | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円まで | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694万9,000円まで | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円まで | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円まで | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円まで | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
【法人税】※資本金1億円以下の法人など
(平成31年4月1日以後)
年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
適用除外事業者 | 19% | |
年800万円超の部分 | 23.20% |
所得税は所得が多くなるほど税率が上がり、最大で45%になります。所得があるラインを超えた場合は、税率が低い法人税を支払うほうが得になります。具体的には、年間の所得が800万円を超えたら法人化を検討しましょう。
社会保険が変わる
法人化すると国民年金が厚生年金になり、国民健康保険が協会けんぽに代わります。
厚生年金保険料は報酬月額給与の18.3%(法人と社長の負担の合計)を負担することになるため、高いと感じるかもしれませんが、将来の年金受取額は国民年金よりも高くなります。将来のことを考えるなら法人化し、厚生年金に加入するほうが得です。
家族を代表として法人化する場合は、このようなメリットがあることを覚えておきましょう。
会社設立をするデメリット
公務員が会社設立をする際のデメリットについても確認しておきましょう。
リスクがある
家族を代表にして会社を設立した場合、公務員が報酬を受け取らなければ処分の対象とはなりません。しかし、役員等になっていなくても実質的に報酬を受け取っていると見なされる行為がある場合は、処分されることがあります。
特に3分の1以上の株式を保有する場合は、届け出が必要になることを覚えておきましょう。
費用がかかる
会社設立のコストについても把握しておきましょう。例えば、株式会社を設立する場合は以下のような費用がかかります。
- 公証人役場での定款の認証にかかる費用
- 印鑑の作成費用
- 収入印紙代(紙で認証する場合)
- 登録免許税
公務員が会社設立をする場合について正しく理解しましょう
公務員が兼業を行うことは、一定の規模以上の不動産等賃貸業や農業などを除き、原則禁止されています。どうしても事業を行いたい場合は、配偶者や親などを代表にした会社を設立するという方法があります。
家族が代表になって会社を設立した場合でも、公務員が報酬を得ることは認められていません。報酬を得たことが発覚した場合は処分の対象になるため、十分気を付けてください。
よくある質問
公務員が副業(兼業)を行うことは可能?
原則として認められていませんが、一定の規模以上の不動産等賃貸業や農業などは届け出ることで認められる場合もあります。詳しくはこちらをご覧ください。
公務員が会社を設立したい場合はどうすればよい?
公務員本人が代表になることはできないため、家族などを代表にする必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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