- 作成日 : 2023年6月2日
技術経営(MOT)とはどんなもの?経営に必要?考え方や事例を解説
会社の持つ技術を生かして経営を行う「MOT」が注目を集めています。高い技術力を会社のマネジメントに生かし、イノベーションを起こすことは、今後の経営戦略の立案や人材の確保のためにも重要と考えられます。
今回はMOTとは何かと事例についてご紹介します。MOTの入門編としてぜひご覧ください。
目次
技術経営(MOT)とは?
MOTとは何なのでしょうか。MOTが生まれた経緯と日本で広がった理由について解説します。
もともとは米国で生まれた学問分野
MOTは「Management of Technology」の頭文字を取った言葉です。日本語では「技術経営」と訳されます。
MOTは1980年代に米国で盛んになった学問分野です。当時、エズラ・F・ヴォーゲル氏の『ジャパン・アズ・ナンバーワン アメリカへの教訓』という著書で提唱されていたように、日本の高い技術、国際競争力の急成長は注目されていました。そこで、米国は失われつつある競争力を取り戻すため、技術力を経営に生かす研究を始めました。
ちなみに、MOTに似た言葉に「MBA」というものがありますが、これらの違いは以下の通りです。
MBA:「経営学修士」という学位のこと。今ある会社のサービスや技術で利益を出し続ける方法を学ぶ学問。
日本での広がり
MOTが日本で広まったのは、世界におけるビジネスの変化により日本型の経営がうまくいかなくなったためです。
日本では、高い技術で生み出した製品を出せば、特別な経営努力をせずとも利益が上がると思われていました。しかし、他国の技術力向上や国際競争力の強化により、日本製品の価値は相対的に下落していきました。そこで、高い技術で新しい製品を作るだけでなく、その製品を使って利益を生み出すための仕組みや世間に求められる新しい技術を生み出す方法を学ぶ必要が出てきたのです。
どのような学問?対象は?
MOTは会社の持つ技術を使って製品を作り、技術から得られたアイデアにより価値を創造し、利益を上げるビジネスに育て上げるための学問です。
高い技術がある会社は良い製品を生み出すことができるため、それで利益を得ることができますが、それが一過性のものであれば会社の発展につながりません。また、良い製品であっても時流に合っていないものだと売上自体も上がらないでしょう。会社を持続的に成長させるためにもMOTが重要となってくるのです。
MOTでは、マーケティングや組織の作り方について学ぶだけでなく、技術を経営に生かす方法、研究やプロジェクトのマネジメントなどについても学びます。「経営やマネジメントについて学ぶ」といえば、MBAをイメージするかもしれませんが、MOTでは技術もカテゴリーに入っているため、どちらかといえば理系寄りの学問といえるでしょう。
MOTは専門職大学院やMBAコースのある大学院で学ぶことができます。技術力を生かした事業を行いたい経営層はもちろん、経営について学びたい研究者や技術者も対象となっています。中にはまだ働いていない学部卒生を対象としたMOT課程もあります。大学院などで学びたいのであれば、どのような人たちを対象としているのかを必ず確認してください。
MOTの活用事例
MOTはどのように活用されているのでしょうか。海外・日本の具体的な活用例を見てみましょう。
海外におけるMOTの事例
「GAFA」と呼ばれるGoogle、Apple、Facebook、AmazonはMOTを導入している企業です。これらの会社は高い技術力を持つだけでなく、ニーズの高い製品・サービスを生み出し、それを利益につなげている企業としてよく知られています。
日本でのMOTの事例
日本でMOTを活用している企業は次の通りです。
富士フイルム
従来の写真事業が下火になったこともあり、大幅な経営の見直しを行ったのが「富士フイルム」です。改めて自社の強みや技術の洗い出しを行い、そこから技術開発を進め、市場に求められる新規事業を生み出しました。例えば、銀塩写真技術は化粧品事業、サプリ事業に利用、磁気材料技術をデータストレージテープ事業に利用、などです。
トヨタ自動車
トヨタ自動車では、以前からハイブリッド車の製造を行っていましたが、運転性能についての評判は今一つでした。そこで、燃費などはそのままに運転性能を高めた車を開発しました。新しいハイブリッド車は現代社会で求められている「環境保護」の観点からも注目され、世界中で評判となっています。
どのようにMOTを導入するべきか?
MOTを自社に取り入れたいと考えたとしても、どうやって導入すればいいのか分からないという方のために、MOT導入までの過程をご紹介します。
自社の強みや弱みを正しく捉えて経営課題に落とし込む
MOTは技術を経営に生かす手法です。まずは自社の強みを認識しましょう。どのような技術を持っているか、得意分野をピックアップしてください。また、弱みを知ることも重要です。苦手分野や現時点での課題をチェックします。
自社の強みと弱みを認識したら、どの強みを伸ばしたいか、弱いところをどう克服するのかを社内で検討し、経営課題に落とし込みましょう。
人事や組織を再構築する
自社の課題を認識したら、人事・組織の再構築に取り掛かります。MOT導入のためにはMOT人材確保が重要です。すでに自社に適任者がいる場合は問題ないのですが、適任者がいない場合は、「外部の人材に依頼する」「MOTスキルのある人材を採用する」「自社の社員にMOTスキルを身に付けてもらう」という方法を検討しなければなりません。
自社の社員にMOTスキルを身に付けてもらいたい場合、次のような学習方法があります。
- 書籍で学ぶ
- 専門職大学院、専門のスクールなどで学ぶ
より高度なMOTの知識を付けてもらいたいのであれば、大学院・スクールでの学びがおすすめです。
また、MOT導入のためにはMOTスキルを持つ社員を中心に据えた組織づくりも考えましょう。部署やプロジェクトの中である程度の権限や責任を与え、実践させることで社員の中にもMOTのマインドが根付きやすくなります。
経営計画や新規事業創出にも反映させていく
現場レベルだけでなく、経営理念、経営計画にもMOTの考え方を反映させたものを取り入れることも検討してください。新規事業を始めるときもMOTが前提になっているかを確認しましょう。
技術とビジネスの両面で成功するためにMOTの導入を検討してみましょう
少子化、新興国の成長などの原因もあり、日本の競争力の低下が問題視されています。以前のように高い技術や品質の良い製品さえあれば誰かが買ってくれるという時代でもありません。これからの会社には、持っている技術を利益に結び付ける仕組みづくりが重要となるでしょう。
今後も会社の成長を目指すのであれば、規模にかかわらずMOTの導入はおすすめです。MOTについて学べる書籍もあります。また、さらに詳しく学びたい場合は専門職大学院などもありますので、ぜひチェックしてみてください。
よくある質問
技術経営(MOT)は大学でも学べる分野ですか?
専門職大学院やMBAコースのある大学院で学ぶことができます。詳しくはこちらをご覧ください。
中小企業もMOTのような知識を持つ人材を採用するべきですか?
技術を利益に結び付けるMOTは中小企業にこそ必要になるため、MOTの知識を持つ人材は採用した方がいいでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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