- 作成日 : 2024年11月29日
事業承継資金は融資が受けられる?日本政策金融公庫の制度などを解説
事業承継では多くの資金が必要であり、資金調達のために各種の融資制度が設けられています。事業承継の融資に関連して行っているのは、主に日本政策金融公庫や信用保証協会、地方自治体などです。事業承継のローンを扱っている民間の銀行もあります。
本記事では、事業承継に必要な融資が受けられる制度の内容やメリット、利用の流れなどを解説します。
目次
事業承継に必要な資金は融資が受けられる?
事業承継では、後継者が事業用資産や株式を買い取るために多額の資金が必要になります。特に、従業員が後継者となる従業員承継では、資金不足になるケースも少なくありません。
また、相続や贈与で行われる親族承継では、後継者に相続税や贈与税といった税金が発生します。さらに、引き継いだあとの経営を安定させるための資金も必要です。
このような事業承継の際に必要になる資金の調達には、融資を活用するのが一般的です。事業承継における資金の融資は、主に日本政策金融公庫や信用保証協会、民間の金融機関で行われています。
日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」とは?
日本政策金融公庫とは、民間金融機関の取り組みを補完する政策金融機関です。日本政策金融公庫では、事業譲渡や株式譲渡、合併などによる事業承継を行う中小企業を支援する融資として、「事業承継・集約・活性化支援資金」を設けています。
利用するには、中期的な事業承継を計画し、現経営者と後継者がともに事業承継計画を策定しているなどの条件に該当することが必要です。
該当すれば、次の内容で融資を受けることができます。
- 利用用途:設備資金および運転資金
- 融資限度額:別枠7,200万円(運転資金4,800万円)
- 返済期間:設備資金:20年以内(据置期間5年以内)
- 運転資金:10年以内(据置期間5年以内)
使途や返済期間、担保の有無などによって利率は異なり、担保や保証人は相談に応じてもらえます。
信用保証協会が事業承継を支援する保証制度とは?
信用保証協会は、中小企業や小規模事業者が金融機関から事業資金を調達する際に、公的な保証人となる機関です。
ここでは、信用保証協会が事業承継を支援する7つの保証制度を紹介します。
保証制度のうち、法の認定が必要になる場合とは、「経営承継円滑化法」の認定です。経営承継円滑化法とは、先代経営者の死亡や退任が原因で事業活動の継続が困難になっている中小企業や個人事業主に対し、都道府県知事が認定を行う法律です。
また、いずれの保証でも保証限度額は2億8,000万円となります。
事業承継特別保証
経営者保証不要で事業承継を保証する制度です。経営者保証のある既存の借入金についても、借り換えにより経営者保証を不要にすることができます。さらに、専門家による確認を受けた場合には、保証料率の軽減が可能です。
対象となるのは、3年以内に事業承継を予定しているか、事業承継から3年を経過していない法人になります。
事業承継サポート保証
持株会社方式による事業承継を支援する保証制度です。持株会社を設立し、事業会社の株式を買い取る資金に利用できます。
持株会社が事業会社の株式を集約化するために必要となる資金を保証することで、事業承継の円滑化を図ることを目的としています。
保証を受けるには、事業会社の発行済議決権株式総数の2/3以上を持株会社が保有する事業承継計画を策定しているといった資格要件に該当することが必要です。
経営承継関連保証
事業承継に伴い、承継に必要とする資金の融資について保証する制度です。法の認定を受けた中小企業・小規模事業者を対象とします。
資金の使途は、議決権株式や事業用資産等の取得資金、もしくは事業用資産等にかかる相続税・贈与税の納税資金が挙げられます。また、ほかの共同相続人に対して負担する債務の返済資金なども対象です。
特定経営承継関連保証
後継者である中小企業の代表者が経営の承継に伴い、自社以外の者から株式等を取得するために必要な資金に利用できる保証です。事業承継において、法の認定を受けた中小企業・小規模事業者を対象とします。
議決権株式・事業用資産等の取得資金や、事業用資産等にかかる相続税・贈与税の納税資金などに利用する資金を対象にしています。
経営承継準備関連保証
M&Aによる事業承継に必要な資金に利用できる保証制度です。後継者の確保が困難な場合や、健康状態・年齢などにより経営を行うことが困難であるとして認定を受けた中小企業・小規模事業者について、株式取得資金等の融資を保証します。
資金の使途は、ほかの中小企業・小規模事業者の株式等取得資金や事業用資産等取得資金です。株式等取得資金は、総株主等議決権数の100分の50を超える議決権数を有することという条件があります。
特定経営承継準備関連保証
従業員をはじめ、事業を営んでいない個人による買収(EBO等)による事業承継を対象とした保証制度です。事業承継が困難であり事業活動に支障が生じている場合、その事業の承継について認定を受けた事業を営んでいない個人を対象とします。
総株主等議決権数の100分の50を超える議決権数を有する株式等取得資金の取得、および事業用資産等取得資金について利用できます。
経営承継借換関連保証
経営者保証を提供している金融機関からの借り入れによる債務について、経営者保証を不要とする融資に借り換えるための保証制度です。専門家による確認を受けた場合は、保証料率が大幅に軽減されます。
認定を受けた事業者を対象に、経営の承継に必要な資金のうち、代表者が保証債務を負う借り入れに限り、認定日から経営承継日までの借換資金を保証します。
地方自治体が事業承継を支援する融資制度は?
各自治体でも、事業承継支援の融資制度を設けています。所在地を管轄する自治体でどのような制度があるか、確認してみましょう。
一例として、東京都の融資制度を紹介します。
東京都では、事業承継融資制度として、「事業承継一般」「事業承継経営者保証不要型」「事業承継個人融資型」という3つの融資制度を設けています。
事業承継一般は、事業承継を10年以内に行う計画を策定、もしくは承継から5年未満の事業者が対象です。
事業承継経営者保証不要型は、3年以内に事業承継を行う予定の事業者を対象にしており、経営者保証ありの既存の借入金を借り換えることもできます。
事業承継個人融資型は、承継前・承継後の個人が株式や事業用資産を買い取る資金が対象です。
民間の銀行が事業承継を支援する融資制度は?
民間の銀行でも、事業承継を支援する融資を行っているケースがあります。融資金額の限度額や返済期間、金利、必要な担保などは金融機関によってさまざまです。
また、都市銀行や地方銀行など大手金融機関と信用金庫・信用組合では支援内容が異なります。大手金融機関の場合、融資のほかに総合的なコンサルティングも行っており、ある程度規模の大きい企業の事業承継を対象にしている傾向にあります。
一方、信用金庫・信用組合は、日本政策金融公庫や信用保証協会、外部の専門家などと連携しながら支援をするケースが一般的です。
事業承継に融資を活用するメリットは?
事業承継で融資を活用することで、資金不足でも事業承継を実施できるなど、さまざまなメリットがあります。
詳しくみていきましょう。
資金不足でも事業承継ができる
事業承継で株式や事業資産の買い取りを行う際は多額な資金が必要になりますが、融資を活用すれば円滑な承継ができます。
事業承継の中でもM&Aによる場合、資金をすぐに用意できないとタイミングを逃してしまう可能性があるでしょう。
融資で迅速に資金調達をすれば、M&Aで理想的な承継先をみつけた際、速やかに事業承継を進められる点がメリットです。
事業承継についてのアドバイスを受けられる
金融機関等から融資を受ける際は、事業承継についての的確なアドバイスを受けられることもメリットです。相続や贈与による事業承継の場合は、節税対策の相談もできます。
特に中小企業は、金融機関との関係が大切です。日頃から関係性を築いていけば、融資の際も、自社の経営状況を把握している担当者から的確なアドバイスをしてもらえるでしょう。
新規事業の資金も確保できる
事業承継で融資を受けることで、新たな挑戦をするための資金を確保できるというメリットもあります。融資を受けた資金は、設備投資や新規事業開拓などの使途に使える場合もあるためです。
たとえば、日本政策金融公庫では、融資する資金につき、事業承継・集約を契機にして新たに第二創業または新たな取り組みを図る設備資金・運転資金に活用できるとしています。
事業承継に融資を活用するまでの流れ
事業承継で融資を受ける場合、手続きの流れは次のとおりです。
- 専門家に相談する
- 事業承継計画を策定する
- 事業承継融資の窓口に相談する
- 融資の申し込み
- 審査・貸付
融資を申し込む前に、税理士などの専門家に相談しましょう。相談することで、事業承継のプロセスや融資の詳細についてアドバイスをもらえます。また、事業承継でどのくらいの税金が発生するのかを概算してもらえば、総額でどの程度の費用がかかるのかわかり、融資に必要な金額の目安がつくでしょう。
専門家の助言をもとに具体的な事業承継計画を策定し、融資先の窓口へ相談に行きます。窓口では、融資の内容や必要書類などの説明を受け、必要書類を揃えて融資の申し込みを行います。その後、審査が通ったら金銭消費貸借契約を結び、融資が実行されるという流れです。
事業承継に融資を活用する場合の注意点は?
事業承継で融資を受ける際は、次の点に注意してください。
- 個人保証が必要な場合がある
- 利息が経営を圧迫する可能性がある
- 融資を受けるまでに一定の期間がかかる
- 審査に通らないケースもある
融資によっては個人保証が求められるケースもあり、多額の債務への保証は負担となります。融資を受ける際は、個人保証がなくても融資ができるかどうかを確認しておきましょう。
利息がどのくらいになるかの確認も必要です。負担を少なくするためには、融資の金額をできるだけ抑え、無理のない返済計画を立てることが必要です。
また、融資を受けるまでは必要書類の作成から審査に通るまでに1〜2ヶ月程度の期間がかかります。余裕を持って日程を組むようにしましょう。
融資は審査に通らない可能性もあるため、その可能性も想定して、ほかの資金調達方法も検討しておいてください。
事業承継の資金調達に活用できる融資以外の手段は?
融資以外でも、以下のような方法で資金を得ることが可能です。
- クラウドファンディング
- 助成金や補助金
- ベンチャーキャピタルからの出資
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて不特定多数の人から資金を調達する方法です。資金の使途や目標金額などをサイト上に掲載し、賛同者から資金を募ります。
国や地方自治体が設ける助成金や補助金を活用して資金調達する方法もあります。要件をクリアすれば、給付金を受け取ることが可能です。
ベンチャーキャピタルは、成長が期待できるベンチャー企業やスタートアップに資金を提供する投資ファンドであり、事業承継の資金調達に活用することもできます。
事業承継の資金調達には融資を上手に活用しよう
事業承継で必要になる資金の調達方法として、多く利用されているのが金融機関からの融資です。
融資を活用することで、資金不足でも事業承継を進めることができます。融資の際は、金融機関から事業承継についてアドバイスを受けられる点もメリットです。
融資を受ける際は、まず専門家に相談し、借り入れに必要な金額を確認しておきましょう。手続きの流れを確認し、事業承継に向けて資金調達を成功させてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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