• 作成日 : 2024年12月13日

個人事業主の事業承継ガイド!親子間の税金と手続きを徹底解説

個人事業主事業承継をする場合、法人とは異なる手続きが必要です。親子による事業承継は生前贈与もしくは相続により行われ、第三者に承継する場合は売却(M&A)による方法がとられます。

本記事では、個人事業主の親から子へ事業承継をする方法や、発生する税金と節税方法、手続きの流れなどを解説します。

個人事業主の親から子へ事業承継をする方法

個人事業主が親から子への事業承継は、「生前贈与」「相続」「売却(M&A)」という3つの方法があります。

事業承継の手法特徴メリットデメリット
生前贈与贈与契約に基づき、事業用資産を無償で承継する技術や経営に関するノウハウを引き継げる贈与税が発生する
相続事業用の資産を相続して事業を承継する遺言書で承継者を指定できる相続税が発生する
売却(M&A)事業用資産を後継者に売却する親族に承継者がいない場合でも事業承継できる適切な承継先を見つけるのが難しい場合がある

それぞれの特徴やメリット・デメリットについて、さらに詳しく解説します。

生前贈与による承継

生前贈与による事業承継は、経営者が存命中、贈与契約に基づいて事業用資産を無償で承継する方法です。現経営者が元気なうちに事業承継できるため、技術や経営に関するノウハウの引き継ぎに十分な時間をかけられるというメリットがあります。

贈与した時点で経営権を承継できるため、後継者の経営に対する意識を高め、余裕をもって事業を引き継ぐことができるでしょう。

ただし、贈与を受けた後継者には、その評価額に対して贈与税の負担が発生する点がデメリットです。法人から財産を譲り受けた場合は所得税がかかりますが、法人格を持たない個人事業主が贈与した場合に発生するのは贈与税です。

相続による承継

個人事業主が亡くなり、相続人が事業用資産を相続して事業を引き継ぐ方法です。遺言で事業を承継させる者を指定できます。

遺言書がなく、相続人が多い場合は遺産分割協議が行われ、事業主の希望に添えない事業承継が行われる可能性があります。トラブルも起こりやすいでしょう。

遺言書で承継者を指定する場合も、生前か承継者に承継の意思を確認し、周囲にも説明しておくことが必要です。

また、資産を承継した相続人には相続税が発生します。

売却(M&A)による承継

親から子への承継ではなく、事業自体を第三者に売却する方法です。親族に承継者がいない場合に用いられます。M&A(合併や買収)による方法で、承継者がいない場合でも事業を存続でき、事業主は金銭を受け取れる点がメリットです。

ただし、適切な承継先が見つかるとは限らず、承継先が決まっても、従業員や取引先、社風もそのまま引き継げるとは限りません。

個人事業主の親から子へ事業承継にかかる税金

個人事業主が子へ事業承継する場合、承継方法によって税金が発生します。

どのような税金がかかるのか、あらかじめ把握しておきましょう。

贈与税

生前に無償で事業を承継することは贈与にあたり、贈与された後継者に贈与税が発生します。引き継いだ資産から、借入金買掛金など債務を差し引いた金額が贈与税の対象です。

贈与を受けた金額の110万円までは非課税であり、110万円を超えた部分に税率をかけて贈与税を求めます。

贈与税には税の負担を抑える優遇措置として事業承継税制が設けられており、要件に該当すれば支払いを猶予・免除される可能性があります。

事業承継税制は、事業承継の際に発生する贈与税や相続税の支払いについて猶予・免除が受けられる制度で、これまでは法人のみが対象でした。2019年からは、「個人版事業承継税制」として個人事業主にも適用範囲が広げられています。

相続税

相続により事業を引き継ぐ場合、後継者となる相続人が相続税を支払います。相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、相続人が1人の場合は相続した金額の3,600万円を超えた部分に課税されます。

ただし、相続税にも「個人版事業承継税制」が適用され、要件を満たした場合は支払いの猶予・免除が可能です。

所得税

M&Aで事業を売却した場合、事業主は売却によって得た所得について税金を支払います。法人の場合は法人税を支払いますが、個人事業主の場合は所得税です。

所得税は、個人が1月1日から12月31日までの期間で得た所得から、所得控除を差し引いた残りの所得に税率を適用して算出します。所得は10種類に分類され、M&Aによる事業承継で得た代金は「譲渡所得」に該当します。

所得税は、翌年の確定申告で申告・納税が必要です。

消費税

消費税は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合に課税されます。また、事業承継を生前贈与で行うか、遺産として相続するのかでも納税義務は異なります。

生前贈与の場合、現経営者は廃業、後継者は開業となり、開業1年目の課税売上高が1,000万円を超えた場合、2年後に消費税の納税義務が発生する点に注意が必要です。

相続の場合は、相続があった年と、相続があった年の翌年及び翌々年は異なります。まず、相続があった年で現経営者の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合は、相続があった日の翌日から納税義務が発生します。

相続があった年の翌年及び翌々年は、後継者と現経営者の基準期間における課税売上高の合計額が1,000万円を超える場合に、その年の納税義務が発生することを把握しておきましょう。

個人事業主の親から子へ事業承継する手続きの流れ

個人事業主の親子間における事業承継について、手続きの流れをみていきましょう。

ここでは、生前贈与を例に紹介します。

全体的な手続きの流れ

個人事業主による親から子への事業承継を生前贈与で行う場合、現経営者の廃業手続きと、後継者の開業手続きが必要です。

全体的な手続きの流れは、次のとおりです。

  1. 現経営者が廃業手続きを行う
  2. 後継者が開業手続きを行う
  3. 許認可関係の手続きをする
  4. 従業員・取引先の引き継ぎを行う

これらの手続きを、現経営者と後継者に分けてみていきましょう。

現経営者が行う手続き

現経営者は次のような流れで廃業手続きを行います。

  1. 後継者を選定する
  2. 後継者を育成・教育する
  3. 廃業届出書を提出する
  4. 「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出する
  5. 事業廃止届出書を提出する
  6. 事業廃止申告書を提出する
  7. 所得税および復興特別所得税の予定納税額の減額申請書を提出する

7は、予定納税をしていた場合に必要な書類です。また、従業員を雇っていた場合は、給与支払事務所等の廃止届出書を提出します。

後継者が行う手続き

後継者は、開業届を提出するほか、必要に応じて次の書類を提出します。

  • 青色申告承認申請書
  • 青色事業専従者給与に関する届出書
  • 消費税課税事業者選択届出書の提出
  • 消費税簡易課税制度選択届出書の提出

確定申告で青色申告を行う場合は、青色申告承認申請書の提出が必要です。また、事業承継を行い、年間の課税売上が1,000万円以下で消費税の免税事業者になることを選択するためには、消費税課税事業者選択届出書の提出が必要になります。

現経営者・後継者ともに行う手続き

次の手続きは、現経営者・後継者がともに行います。

  1. 許認可関係の手続き
  2. 従業員・取引先の引き継ぎ

許認可等が必要な事業の場合は、新しく開業する事業のために再申請の手続きを行います。また、資産の引き継ぎや、従業員・取引先の引き継ぎも必要です。

個人事業主の親から子へ事業承継をするポイント

個人事業主が親から子へ事業承継する場合、押さえておくべきポイントがあります。

詳しくみていきましょう。

親から子へ名義変更しただけで贈与税がかかる場合がある

親から子へ名義変更しただけでも贈与にあたり、贈与税がかかる場合があるため注意しましょう。たとえば、店舗を子が買い取る場合は売買になりますが、名義変更だけをした場合は無償で子に贈与したことになります。

そのため、名義変更した事業用資産から負債を差し引いた差額が基礎控除の110万円を超えた場合には、贈与税が発生します。

子どもも個人事業主として引き継ぐ

個人事業主から子どもへの事業承継の基本的な形態は、子どもも個人事業主として事業を引き継ぐことです。手続きが比較的簡単でコストがかからず、事業の継続性が保たれやすいというメリットがあります。

ただし、個人事業主として事業を引き継ぐ場合は親の債務を引き継ぐことになり、その規模によっては負担が大きくなる可能性があるでしょう。

親子とも青色申告をしている必要がある

個人事業主から子どもへの事業承継を行う際には、親子ともに青色申告をしていることが理想です。青色申告をすれば、税制上の優遇措置を受けられます。

親が白色申告をしている場合は、子どもが開業手続きをする際、青色申告を選択するとよいでしょう。

ただし、青色申告には、次のような一定の要件があります。

青色申告を選択することで事務的な負担が増えますが、税理士など専門家に依頼することで、申告業務の負担を抑えながら日々の会計処理を正確に行えるというメリットがあります。

子どもも実務要件を満たす必要がある

贈与税や相続税の負担を抑える個人版事業承継税制の適用を受けるためには、後継者である子どもが、次の実務要件を満たす必要があります。

  • 承継開始の日の3年前から対象事業に従事していること
  • 承継開始の日から5年間、対象事業の代表者であり、対象事業に従事・事業を継続すること

また、実際に実務を行う上でも、後継者は実務について知識やノウハウを学ぶ必要があります。

事業承継・引継ぎ補助金は親子間でも利用可能か

事業承継・引継ぎ補助金とは、中小企業・小規模事業者に対し、事業承継の取り組みに必要な経費の一部を補助する制度です。個人事業主でも利用できますが、対象外になる場合もあるため、注意してください。

ここでは、事業承継・引継ぎ補助金の内容や申請の流れなどを紹介します。

個人事業主でも利用可能

事業承継・引継ぎ補助金は、事業再編、事業統合を含む事業承継を契機に経営革新を行う中小企業・小規模事業者を支援する制度です。個人事業主でも利用できますが、白色申告を選択している場合は対象になりません。

また、専門家活用事業(M&Aのときにかかる費用を補助する)の場合、青色申告を開始してから5年が経たない個人事業主や、引き継ぐ従業員数がいない個人事業主は対象外です。

補助率と補助金額

事業承継・引継ぎ補助金には3つの種類があり、どれに申請するかによって補助率や補助金額は異なります。

(経営革新事業)

  • 補助上限額:600万円以内または800万円以内
  • 補助率:1/2〜2/3
  • 対象経費:設備投資費用、店舗・事務所の改築工事費用など

(専門家活用事業)

  • 補助上限額:600万円以内
  • 補助率:1/2〜2/3
  • 対象経費:M&A支援業者に支払う手数料、専門家への相談費用など

(廃業・再チャレンジ事業)

  • 補助上限額:150万円以内
  • 補助率:1/2〜2/3
  • 対象経費:廃業・在庫廃棄・解体にかかる費用など

申請方法・注意点

事業承継・引継ぎ補助金は2024年の段階で10次まで公募が行われており、公募が行われたら、期間内に交付申請を行わなければなりません。

申請の流れは、以下のとおりです。

  1. 対象事業を決定する
  2. 交付申請を行う
  3. 採択される
  4. 補助事業を実施する
  5. 実績を報告する
  6. 補助金が交付される

個人事業主として補助金の要件を満たしている場合でも、事業承継やM&Aの内容によっては補助金の対象外となるため注意してください。

たとえば、単なる不動産の売買や、のれん分け・フランチャイズ契約を事業譲渡と見せかけたものは対象となりません。

親子間の事業承継に活用できる支援制度

親子の事業承継には、いくつかの支援制度があります。

事業承継をスムーズに進めるために、活用してみるとよいでしょう。

小規模企業共済制度

小規模企業の経営者や役員、個人事業主などが活用できる、積み立てによる退職金制度です。個人事業主が掛金を積み立て、事業廃止時等に共済金を受け取ります。事業承継の際の資金に活用できるでしょう。

月々の掛金は1,000〜7万円まで500円単位で自由に設定でき、加入後も増減が可能です。全額所得控除の対象になるため、高い節税効果が期待できます。

経営承継円滑化法による支援

事業承継に関する税務支援、金融支援、専門家派遣などを受けられる制度です。個人版事業承継税制の適用を受けたい場合にも、相談ができます。金融支援では事業承継で必要になる資金の融資を受けることができ、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠が用意されます。

また、現経営者から後継者に贈与等された事業用資産について、遺留分を算定するための財産の価額から除外する特例(遺留分に関する民法の特例)の適用を受けることが可能です。

家族信託

家族信託とは、特定の目的により、保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる仕組みです。事業承継の場面では、親が子どもに事業用資産を信託し、子どもが事業を承継することになります。

信託期間中は親が事業の運営に関与でき、スムーズな事業承継ができます。

信託財産は親の相続財産に含まれないため、相続税の負担を軽減できるのもメリットです。

個人事業主は事業承継の方法を決めておこう

個人事業主が親から子への事業承継を行う方法は、生前贈与・相続があげられます。生前贈与であれば、現経営者から後継者へ実務やノウハウを引き継ぎできることがメリットです。

いずれの方法でも贈与税や相続税がかかりますが、個人版事業承継税制で支払いの猶予・免除を受けられます。要件があるため、事前に確認しておくとよいでしょう。


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