• 作成日 : 2024年12月27日

種類株式とは?事業承継に活用するメリット・方法や組み合わせ事例を解説

種類株式は普通株式とは異なる権利を定めた株式であり、事業承継において上手に活用すると後継者への経営権の集中などが実現できます。

本記事では、種類株式の役割、事業承継への活用方法や注意点をわかりやすく解説します。

種類株式とは

種類株式とは、株式のタイプの1つで、普通株式とは異なる権利内容が定められています。

会社法では、権利内容の異なる株式を2種類以上発行することが認められています。企業が一般的に発行するのは普通株式で、権利の内容はいずれの株も違いはありません。これに対して種類株式は議決権・譲渡などに関して優先権、あるいは逆に制限が設けられているのが特徴です。

配当などに関して、普通株式より優先的に受け取る権利が付与されたものを「優先株式」と呼び、普通株式より後に受け取るものを「劣後株式」と呼びます。

種類株式の種類

種類株式は全部で9つあり、それぞれ優先内容や制限内容が異なります。どの種類の株式を選ぶべきか、どれとどれを組み合わせるべきかについてはケースバイケースであり、後の章で詳しく解説していきます。

まずは、それぞれの種類株式の概要を把握しておきましょう。

譲渡制限株式

譲渡制限株式とは、株式の譲渡にあたって会社の承認を必要とする種類株式のことです。株主総会や取締役会によって決議を行い、会社が譲渡することを承認すれば株式を取引できるようになります。

家族経営や小規模会社では、株主を信頼できる家族・親族のみに限定したいケースも多いでしょう。譲渡制限株式を発行しておくと、株式の外部への流出を抑えることが可能で、予期せぬ第三者が株主として加わるのを防げます。

なお、発行する株式のすべてに譲渡制限が設定されている会社を「非公開会社」といいます。

取得請求権付株式

取得請求権付株式とは、所有する株式について会社へ買い取りを請求できる株式です。買取請求を受けた会社側は、分配可能額の範囲内で買い取りをする必要があり、買取請求を拒めません。

請求を受けた場合、あらかじめ規定した対価を交付します。具体的には現金、社債、その他の種類株式などです。

取得請求権付の株式を活用すると、譲渡制限が設けられている場合でも、自社で株式の買い取りを保障可能です。そのため、株主が株式を売りたくても売却できないといったトラブルを防げます。

取得条項付株式

取得条項付き株式とは、会社が一定の事由が生じたことを条件として、株主の意思に関係なく取得できる株式です。「一定の事由」とは、多くの場合、新株発行などの特定の状況を指します。自己株式の取得は、通常、株主総会の特別決議を経た後に行われます。強制的な株式取得を行う際に、会社は事前に定められた財産(現金・普通株式・社債など)を、対象の株主に交付します。

配当優先株式

配当優先株式とは、剰余金の配当が普通株式とは異なる内容の種類株式のことです。通常の配当金より多く、あるいは少なく設定でき、一切の配当を行わないように定めることもできます。

配当優先株式は、参加型と非参加型、制限参加型の3種類に分けられます。参加型は優先配当の後に剰余金の余りがあるとき、優先的に配当を受けることが可能です。非参加型は、配当金の余りがあっても受け取れません。制限参加型は参加型と非参加型の中間に位置し、参加型ではあるものの配当の受け取りに上限が定められています。

中小企業では、配当優先株式を人員のやる気の向上に活用するケースがあります。業務のモチベーションアップにより、企業の業績アップも期待できるのがメリットです。

残余財産優先株式

残余財産優先株式とは、会社清算をした際の残余財産の分配に関して、出資比率とは異なる定めをした種類株式のことです。優先的に財産を分配したり、逆に分配をゼロにしたりすることが定められます。

ただし、残余財産分配をゼロにした場合、剰余金配当もゼロにする種類株式は認められません。どちらかの権利は持たせる必要があることに注意しましょう。

議決権制限株式

議決権制限株式は、株主総会の全部あるいは一部の事項に関して議決権の行使を制限できる株式です。

株式を発行すると外部から資金を集められますが、株主が会社の経営に口をはさむ機会も多くなるでしょう。議決権制限株式を発行すれば、会社の資金を集めつつ、株主の経営への加入を防止することが可能です。

また、1株でも株式を持っている株主に対しては、株主総会の招集通知を送らなくてはなりません。無議決権株式だけを保有する株主には通知を発送する必要がないため、コストを削減できる点もメリットです。

全部取得条項付株式

全部取得条項付株式とは、株主総会の決議を経ることで、すべての株式を会社が取得可能な種類株式です。取得を行う場合、各株主に対して事前に決められた財産を交付します。交付するケースとして多いのは、現金・社債・普通株式などです。

全部取得条項付株式があれば、持ち主の株式を全部会社が取得できるため、少数株主の排除やMBOなどに役立てることが可能です。事業承継も、株主の合意なしで進められます。

拒否権付株式

拒否権付株式とは、重要議案を否決可能な権限が付与された種類株式です。株主総会での決議に対し、拒否権付き株式の権限によって、決定を覆すこともできます。

拒否権付株式は主に、敵対的買収の防衛として使われます。買収側が過半数を超える議決権を取得したとしても、買収をストップ可能です。

役員選任解任権付株式

役員選任解任権付株式は、取締役および監査役の選任・解任の権限が与えられた種類株式です。特定の株主のみが選任・解任に参加するため、会社の経営に強い影響を与えます。

役員選任解任権付株式は、非公開会社で委員会も設置していない会社のみ、発行が許可されています。その理由は、多くの投資家が株主になりえるような公開会社では、株主にとって不利益となる可能性があるためです。

種類株式を事業承継に活用するメリット

種類株式をうまく活用すると、経営権の集中などのメリットがあり、事業承継でも生かせます。ここでは、種類株式を事業承継で利用するメリットを3つご紹介します。

株式の分散リスクを回避できる

後継者だけに自社株式を引き継がせようとする場合でも、複数の相続人に渡ってしまう可能性があります。分散した株式は、各株主と合意することで回収できますが、合意が成立するとは限りません。

種類株式を活用すれば、株式があちこちの株主に分散する危険性を防ぎ、想定どおりの事業承継を実現できます。もし株式発行後に不都合な事態が生じたとしても、種類株式なら株式を回収できます。

経営権を後継者に集中できる

後継者を含め複数の相続人がいる場合、後継者以外には種類株式を渡すことで、一部の事項のみ議決権をなくしたり、議決権を行使するための制限を設けたりすることが可能です。結果として、重要事項の決定権限を後継者のみが保有する状態を作れます。

無議決権株式を発行しておくと、経営権を後継者のみに集約させ、経営体制の安定化を図ることも可能です。

経営権を移転するタイミングを決定できる

経営権をいつ後継者に移転するかは、現経営者にとって大きな問題です。後継者がまだ若く経験が浅い場合は、経営権をすべて渡してしまうのをためらうかもしれません。

このようなケースに活用できるのが拒否権付株式です。現在の経営者の株式に重要事項の拒否権限を与えておくと、後継者の経営権への牽制になり、経営権を移転する時期を見極められます。

種類株式を事業承継に活用する方法

この章では、種類株式を事業承継に活用する具体的な方法を見ていきましょう。取得条項付株式や議決権制限株式などを使い、株式の細分化の防止や経営権の集中に役立てられます。

取得条項付株式で株式の細分化を防止する

取得条項付株式は一般的に、株式の細分化の防止に使われます。株式が経営に関係ない複数の者の手に渡ってしまうような事態を防ぐことが可能です。

相続人が複数いるケースでは、まず相続人全員に無議決権株式を取得させます。そこで後継者に限定して取得対価を普通株式とする取得条項付株式を組み合わせると、後継者がすべての経営権を握れます。

議決権制限株式で後継者に経営権を集中させる

経営者の相続人が後継者を含めて複数いる場合、会社の意思決定に関する権限が分散してしまいます。会社の安定運営に支障をきたす恐れもあります。

遺産の分配などにおいて、ほかの相続人に株式を分配する必要がある場合、議決権制限株式の発行が有効です。株式自体は分散するものの、他の相続人に議決権はないため、経営権は後継者に集中させられます。

拒否権付株式で経営権の移転をコントロールする

生前贈与により経営権移転は済ませたいものの、まだしばらくは経営に携わりたい場合に活用できるのが拒否権付株式です。

普通株式は後継者に承継していても、前経営者が拒否権付株式を保有し続けることで、経営の監視が可能です。事業承継後も、前経営者は拒否権がある立場で経営に干渉できる状態を維持できます。

種類株式を組み合わせて事業承継に活用する事例

種類株式は単独で利用するのも有効ですが、複数を組み合わせることでさらに活用の領域が広がります。この章では、拒否権付株式+取得条項付株式など、複数の種類株式を組み合わせて活用する方法を見ていきましょう。

拒否権付株式+取得条項付株式

後継者に経営のほとんどを任せても、前経営者として重要な決定に関して心配することもあるでしょう。この場合、前経営者は保有株式に拒否権を付与することで、後継者がもし誤った判断で決議をした場合でも、拒否権を行使すると決議を否決できます。

ただし、現経営者が拒否権付株式を持ったまま死亡した場合は、当該株式が相続対象となってしまいます。そこでおすすめなのが取得時効付株式です。

現経営者の死亡あるいは成年後見の開始を条件として、会社がこの株式を強制的に取得することが可能とする条項を一緒に定めておけば、株式が相続で第三者に渡ってしまうことを防げます。

議決権制限株式+配当優先株式+取得条項付株式

経営には基本的に関与しない株主が普通株式を持つと、株主総会を勝手に欠席したり、出席しても適当に議決権を行使されたりするなど、会社として適切な意思決定ができなくなる恐れがあります。

そこで、このような株主に保有させる株式については、株主総会における議案すべてに関して議決権のない株式とするのが有効です。その代わりに、配当金は普通株式より優先してもらえる内容を加えた株式にします。

加えて、当該株主が死亡した場合などには、その相続人に株式が譲渡されないよう、取得条項も同時に定めておくのがおすすめです。

種類株式を事業承継に活用する際の注意点

種類株式は経営の安定化を図るうえで活用できますが、いくつかの注意点もあります。第三者移転でのリスクなど、種類株式の注意点を2つ解説します。

種類株式の第三者への移転に注意

拒否権付き株式や取得条項付株式など、種類株式は経営において大きな影響力を持ちます。しかし、影響力の大きい種類株式が意図せず第三者に移転した場合、会社の経営権を掌握されてしまう恐れがあることに注意が必要です。

種類株式を持つ株主が死亡すると、該当の種類株式と権限は相続人に移転します。本来の保有者と相続人では、経営に関する方針や考え方が異なる可能性があり、会社の経営が一変する事態にもなりえます。

後継者と他の株主とのバランスを調整する必要がある

事業承継において、後継者には経営権を移転しながら、他の家族や関係者の株主には無議決権の株式を保有させることが一般的です。しかし、議決権をどの程度付与するか、しないかは、慎重に検討しなくてはなりません。

後継者と他の株主のパワーバランスを取るため、議決権の細かな設計が大切です。種類株式によって後継者に多大な権限を付与すると、他の株主の反発を招く恐れがあります。

事前に他の株主との合意を得ることはもちろん、説明会を実施するなど丁寧な関係構築・管理を行いましょう。

種類株式を適切に使い分けて事業承継に役立てよう

種類株式とは、普通株式と権限の異なる株式のことです。9つの種類があり、議決権や配当などに関して、制限あるいは優先権のある株式を発行できます。

上手に使い分ければ、後継者への権限の集中、経営権移転タイミングの見極めなどができ、事業承継に役立ちます。ただし、種類株式は経営において大きな影響力がありますので、第三者への移転、他の株主との関係悪化などには注意しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事