• 更新日 : 2023年7月27日

パン屋経営の基礎知識!必要資金や年収も紹介

パン屋経営の基礎知識!必要資金や年収も紹介

パン屋の経営は「厳しい」といわれることがありますが、実際はどうなのでしょうか。確かに「パンブーム」の近年、パン業界は新規参入が相次いで競争が激しくなっています。しかし、市場調査を十分行い、コスト削減に力を入れれば、勝機は十分あるでしょう。この記事では、パン屋経営の基礎知識や必要資金、年収、開業の流れを解説します。

パン屋経営は厳しい?

近年では高級食パン専門店が次々と誕生したり、各地でパンフェスティバルが開催されたりするなどして、「空前の高級食パンブーム」といわれるほどパン屋の経営に追い風が吹いていました。しかし、そんな中、2019年にパン屋の倒産が急増したという調査結果を帝国データバンクが発表し、厳しい側面があることも明らかになりました。

帝国データバンクの「パン製造小売業者の倒産動向調査」によると、2019年に倒産したパン屋は、小規模の地元密着型老舗ベーカリーが多く見られます。パンブームによって同業他社の新規参入が増えるとともに、コンビニなどの異業種も高級食パンに参入しました。このような流れにより、顧客を取られ、売上が下がる一方、原材料費・人件費の高騰や後継者難などが追い打ちをかけ、廃業に至ったと見られます。

ただし、この調査では、比較的新しいパン屋の倒産は少ないという結果です。したがって、パン屋の経営は競争が激化し、厳しい状況にあるのは確かなものの、市場調査をしっかり行い、コスト削減にも力を入れるなどの経営努力をすれば、勝ち残っていくことは可能といえるでしょう。

パン屋経営者の年収はどれくらい?

パン屋経営者の年収はどれくらいなのでしょうか?「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、パン屋などの食料品・飲料・たばこ製造業者(企業規模10人以上)に従業員として勤務した場合の年収は、約345万円です。これは、調査対象となった人の年収の平均である約497万円と比べると、低いといえるでしょう。

経営者としてパン屋を開業した場合の年収の統計結果はありません。しかし、自身でパン屋を開業すれば、経営の工夫や努力次第で年収1,000万円以上を狙うことも決して夢ではありません。実際に、年収1,000万円以上を得ているパン屋の経営者は多数います。パン作りで年収アップをしたいのなら、パン屋を開業するのが早道といえるでしょう。

パン屋経営に必要な資金

パン屋を開業し、経営するために必要な資金を見てみましょう。必要な資金には、開業のために必要な初期費用と、その後の継続的な運営のために必要なランニングコストの2種類あります。

初期費用

パン屋を開業するための初期費用は、1,000万~2,000万円がかかるといわれています。その内訳は、店舗の取得費用や内外装工事費用、厨房機器・業務用備品費用が主なものです。

店舗の取得費用

パン屋を開業するための店舗を取得するためには、敷金や礼金、1~2カ月分の前家賃、仲介手数料、保証金などがかかります。東京23区内で、パン屋として平均的な広さである20坪の店舗を借りるためには、立地にもよりますが200万~400万円がかかるでしょう。

内外装工事費用

取得した店舗は、内外装の工事をする必要があります。工事の費用はどこまで手を入れるかにもよりますが、400万~800万円がかかると見込んでおくのがよいでしょう。ただし、この内外装工事費用は、これまでパン屋として営業していた店舗物件をそのまま引き継ぐ「居抜き物件」が見つけられれば、大幅に抑えることが可能です。

厨房機器・業務用備品費用

パン屋の開業は、厨房機器に費用がかかります。パンを焼くためのオーブンや、こねるためのミキサー、発酵させるためのホイロ、ガス抜き・成形のためのモルダー、パン生地を薄く伸ばすためのリバースシーター、パンを揚げるためのフライヤーなどが必要になるからです。そのほかに、業務用の冷蔵庫やシンクなど、一般の飲食店でも必要となる業務用備品も欠かせません。これらの費用で、400万~800万円が必要となるでしょう。

ランニングコスト

パン屋の継続的な運営に必要となるランニングコストの内訳は、家賃や水道光熱費、原材料費、従業員を雇うための人件費、広告宣伝費などがあります。月々100万~200万円を見込んでおく必要があるでしょう。

パン屋経営に必要な資格

パン屋の経営には食品衛生責任者の資格と、飲食店営業許可、菓子製造業許可が必要です。それぞれの資格・許可について見ていきましょう。

食品衛生責任者

食品衛生責任者の選任は、パン屋などの食品を取り扱う店舗では必要不可欠です。都道府県が講習会を行っているので、それに参加すれば取得できます。講習会の日程は丸1日程度、費用は1万円程度です。ただし、調理師や管理栄養士の資格があれば、講習を受けずに食品衛生責任者の資格が与えられます。

飲食店営業許可

飲食店営業許可は、飲食を提供するお店に必要となる許可証です。パン屋の場合なら、イートインスペースを設ける場合は取得しなければなりません。以前はイートインスペースがなくても、サンドイッチなどの調理パンを販売する場合には飲食店営業許可が必要でしたが、2021年から不要となり、後述の菓子製造業許可のみで足りることとなりました。

飲食店営業許可を取得するためには、まず食品衛生責任者の資格を取得した上で、保健所で許可証を申請します。基準に適合した店舗施設を作らなければならないため、店舗の工事が始まる前に申請し、施設の設計に問題がないかの確認が必要です。工事後に、保健所の担当者が店舗の立会検査を行い、問題がなければ許可証が交付されます。申請から取得まで最短でも半月程度かかるため、開業の日程には余裕を持っておく必要があるでしょう。

菓子製造業許可

菓子製造業許可とは、食パンや菓子パンを製造・販売するために必要な許可証です。イートインスペースを設けないなら、食品衛生責任者の資格と、この菓子製造業許可のみを取得すればいいことになります。

菓子製造業許可も飲食店営業許可と同様、まず保健所に申請し、施設の設計を確認してもらうことが必要です。工事後に検査を受け、合格すれば、許可証が交付されます。こちらも、申請から許可証の交付まで半月程度かかるため、日程には余裕を見ておきましょう。

パン屋を開業する際の流れ

パン屋を開業するためには、多くの作業や手続きをこなしていかなくてはなりません。ここでは、それらパン屋開業のための準備・手続きの流れを追って見ていきましょう。

製パン技術の習得

パン屋を開業するにあたって最初に必要となるものは、パンを製造するための技術の習得です。パンの製造は、微生物の力を借りる「発酵」の過程を経るため奥深いものがあり、気温や湿度などに左右されずに安定した品質で商品提供できるようになるまで、数年の修行期間が必要といわれています。

製パン技術を習得するためには、パン屋に就職する必要があります。決して楽とはいえないパン屋での仕事を続けながら、開業へのモチベーションを失わないよう心がけましょう。

資金調達

前述の通り、パン屋を開業するためには、1,000万~2,000万円の資金も必要です。この資金の調達もしておかなくてはなりません。まず、開業資金のうちの3分の1以上は、自己資金で賄えるよう貯金をしましょう。足りない分は、日本政策金融公庫などから借り入れをする、あるいは親族などにスポンサーになってもらう、クラウドファンディングを活用する、などの資金調達方法を考えましょう。

お店のコンセプトやメニュー決め

製パン技術の習得や資金調達を行いながら、お店のコンセプトやメニューを決めましょう。パン屋の成功は、このコンセプトやメニューが地元の消費者に受け入れられるものになっているかにかかっています。

コンセプトやメニューを決める際には、しっかりとした市場調査を行うことが重要です。全国的に名の知れたパン屋、あるいは地元で人気のパン屋は思いつく限り、Web検索や実際に足を運ぶなどして調査しましょう。トレンドを見極めた上で、自分の強みを活かすためにはどのようなコンセプトにするのがいいかを考えます。

コンセプトが固まれば、メニュー構成や販売価格、お店の内外装のイメージなどは、比較的すんなり決まっていくでしょう。

物件決めと内装・外装工事

以上の製パン技術習得、資金調達、コンセプト決めが終わり、本格的な開業準備に入る際に、まず必要になるのは店舗の物件を決めることです。

特に立地に関して、よくよく考える必要があります。立地がよい場所にある物件は一般に賃借料も高額ですが、利用者も多くなります。また、競合店との位置関係にも注意を払う必要があるでしょう。

内装・外装工事は、コンセプトを基に描いた店舗イメージに沿って行います。ただし、工事には費用がかかるため理想を追求するのは困難で、実際に使える資金の範囲で行う必要があるでしょう。

各種申請

内装・外装工事の手配と並行して、パン屋開業に必要な各種申請を行います。パン屋開業に必要な資格・許可は、前述の通り食品衛生責任者、菓子製造業許可、およびイートインスペースを設ける場合は飲食店営業許可です。

菓子製造業許可と飲食店営業許可の取得は、どちらも食品衛生責任者の資格が必要なため、先に食品衛生責任者の資格を取ります。また、店舗の設計を法定の基準に合わせる必要があるため、まず申請を行い、保健所の担当者に工事の設計図を見せて相談し、工事の後に立会検査を受けるという段取りで行います。

個人事業を開業するにあたっては、税務署に開業届を提出し、確定申告を行うことも必要です。開業届は、事業の開始から1カ月以内に提出しましょう。

スタッフの採用

パン屋はオーナー1人、あるいは夫婦2人でも運営可能です。ただ、ある程度の規模を目指そうと思う場合は、やはりスタッフを採用する必要があります。

パンの製造をスタッフに手伝ってもらう場合は、スタッフの製パン技術習得が必要です。製パン技術の習得には、前述の通りある程度の期間がかかるため、オーナー1人で運営するか、スタッフを採用するかは、早めに決める必要があるでしょう。

集客・宣伝

開業が間近になったら、集客・宣伝を行います。集客方法にはチラシ配り、ホームページ、SNSなど、比較的安価にできる方法がいくつかあります。複数の集客方法を組み合わせることで大きな効果が得られる場合もあるため、さまざまな組み合わせを試みながら、効果的な方法を見つけましょう。

パン屋経営で失敗しないためのポイント

パン屋の経営で失敗しないためにはどうすればよいのか、そのポイントを紹介します。

市場調査を徹底的に行う

まず重要なのは、事前の市場調査を徹底的に行うことです。冒頭で解説した通り、近年では同業他社や異業種他社がパン業界に次々と参入し、競争が激しくなっています。そのため、市場調査を行って競合他社がどのようなコンセプト・商品構成・販売方法を採用しているかを十分把握した上で、それらと差別化できるポイントを決めなければなりません。

差別化ポイントの決め方はさまざまなものがありますが、やはり特徴のある商品の開発が重要となってくるでしょう。「このお店でしか買えない」という商品が一つあれば、SNSで話題になるなどして一気に注目が集まる可能性もあります。

材料費や光熱費などのコストを抑える

パン屋の運営は、材料費や光熱費などのコストが高額になりやすいことが特徴の一つです。昨今は小麦などの価格が高騰しているため、この仕入価格をどう抑えられるかは大きな課題といえるでしょう。インターネット通販を活用するなど、少しでも安く仕入れられるよう工夫しましょう。

また、パンを焼くためのオーブンなどの電気代も、昨今の値上がりで経営を圧迫します。厨房機器をそろえる際には、省エネタイプを選ぶのがおすすめです。中古の方が製品価格は安くても、新品の方が電気代が安くなるケースがあるため、初期費用が多少高額になっても新品を選ぶのがよいでしょう。

時間をかけて準備をし、パン屋経営を成功させよう

近年、空前のパンブームといわれており、パン業界は新規参入が相次いで、競争が激しくなっています。競争を乗り切るためには、徹底的な市場調査による競合との差別化、材料費や光熱費などのコスト削減が課題です。時間をかけてしっかりと準備し、パン屋の経営を成功させましょう。


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