• 更新日 : 2023年10月25日

介護タクシーを開業するには?一人でもできる?必要資格や補助金も解説

介護タクシーを開業するには?一人でもできる?必要資格や補助金も解説

介護保険の適用対象になる介護タクシーは、地域によって一人でも開業できます。ただし、始めるにあたって、普通自動車第二種免許や介護職員初任者研修の資格取得、認可の取得などが必要です。

本記事では、介護タクシーを開業するために必要な手続きや適用できる補助金、福祉タクシーとの違いなどについて詳しく解説します。

介護タクシーとは?

介護タクシーとは、自力で移動が不可能な方(要介護者)の通院などのために、送迎する訪問介護サービスです。正式には、「通院等のための乗車または降車の介助(通院等乗降介助)」と呼ばれます。

ここから、介護タクシーの詳しいサービス内容や福祉タクシーとの違い、需要・ニーズ、将来性などについて確認していきましょう。

通院・買い物・手続きなどの送迎に利用される

利用者の通院・買い物・手続きなどの送迎が、介護タクシーの主な用途です。介護タクシーを利用するにあたって、利用者は介護関連の資格を持つ運転手からの乗降介助を受けられます。

介護タクシーで提供する主なサービスは、以下のとおりです。

  • 出発時に利用者の衣服や靴の着用の介助
  • 室内から運転するタクシーまでの移動や乗車の介助
  • 目的地到着時に移動や乗車の介助
  • 帰宅時に運転するタクシーから室内までの移動を介助

なお、車椅子の利用者が乗車しやすいように、一般的に介護タクシーはスロープなどが付属した形状になっています。

介護タクシーと介護保険の関係

介護タクシーの利用者は、条件を満たせば介護保険を適用できます。

介護保険とは、40歳になると加入する保険制度です。特定疾病で介護が必要と認定された40歳から64歳までの方や、「要介護認定」で介護が必要とされた65歳以上の方が、介護サービスを受けられます。

介護保険を適用して介護タクシーを利用できるのは、要介護認定で「要介護1」以上の方です。要介護認定は、介助や医療関連行為から算出する要介護認定等基準時間や認知症加算に基づき、要支援1〜2、要介護1〜5に区分されています。要支援1〜2は、介護保険を適用して介護タクシーを利用できません。

なお、介護保険を利用しなくても、介護タクシーの利用自体は可能です。

参考:厚生労働省 介護保険とは
参考:厚生労働省 要介護認定はどのように行われるか

介護(保険)タクシーと福祉タクシーとの違い

一般的に、介護タクシーは、介護保険が適用される「介護保険タクシー」と介護保険が適用されない「福祉タクシー」に分類されます。介護保険タクシーと福祉タクシーの主な違いは、運転手の介護福祉関連資格の有無です。

介護保険タクシーの運転手は、「介護職員初任者研修」の資格が必要です。一方、福祉タクシーの運転手には、一般的に介護福祉関連の資格が必須とされていません。

また、介護保険タクシーが通院など日常生活に欠かせないものに限定されているのに対し、福祉タクシーは制限がありません。そのほか、介護タクシーは国土交通省だけでなく厚生労働省も関わっている点も違いです。

なお、本記事では介護保険タクシーを介護タクシーとして扱っています。

高齢化に伴い需要が伸びる業界

高齢化や要介護認定者の増加に伴い、介護介護・福祉タクシー業界は今後需要が伸びると予想されています。2021年3月末から2022年3月末までの1年間でも、要介護(要支援)認定者数は682万人から690万人まで増えました(8万人増、1.1%増)。

参考:厚生労働省 令和3年度 介護保険事業状況報告(年報)

また、福祉タクシーの導入も着実に進んでいます。身体障害者や高齢者・妊産婦などが利用できる構造の福祉車両の導入数は、2017年度(28,602台)から2020年度(41,464台)までの3年間で1万台以上も増加しました。

福祉タクシーの導入

出典:国土交通省 基本方針に定める移動等円滑化の目標達成状況

介護タクシーの開業・経営は一人でもできる?

介護タクシーの開業・経営は一人でもできることがあります。ただし、取り巻く状況や地域によって、一人ではできないこともあるため、注意が必要です。

たとえば、運行管理責任者・整備管理責任者・運転手を兼任できる地域であれば一人でも開業できます。しかし、兼任できない地域であれば、最低でも二人は必要です。

兼任の可否は、各地域の運輸局によって異なります。開業を検討している方は、まず自身が開業を検討している運輸局に確認しましょう。

介護タクシーは儲かる?収入、年収の目安

稼働時間など諸条件によって異なるため、介護タクシーが儲かるかは断定できません。開業して仮に週6日稼働するとすると、月の収入は35万円前後で、年収は400万〜500万円が目安です。

また、利用者が増えて従業員を雇い事業規模を拡大すれば、500万〜1,000万円の収入も期待できるでしょう。ただし、経営で成功するためにはさまざまな工夫が必要です。

介護タクシーを開業するために必要な資格は?

介護タクシーを開業するために必要な資格は、主に以下の2つです。

  • 普通自動車第二種免許
  • 介護職員初任者研修

資格と介護タクシーの関係について解説します。

普通自動車第二種免許

普通自動車第二種免許とは、顧客を乗せて走行するために必要な免許です。介護タクシーは利用者(顧客)を乗せて走るため、普通自動車第二種免許が欠かせません。介護タクシーに限らず、タクシーの運転手や運転代行も普通自動車第二種免許が必要です。

なお、普通自動車第二種免許、19歳以上で普通免許を受けていた期間が通算1年以上などの要件を満たさなければ受験できません。

参考:警察庁 第二種免許等の受験資格の見直しについて(令和4年5月13日)

介護職員初任者研修

介護保険の適用対象となる介護(保険)タクシーを運行するには、運転手が介護職員初任者研修の資格を所有していなければなりません。介護職員初任者研修とは、介護職として働く上での基礎知識や技術を習得するための研修のことです。2012年度までは、ホームヘルパー2級と呼ばれていました。

なお、福祉タクシーを運行する場合は、介護職員初任者研修が必須ではありません。

介護タクシーの開業スタイル

介護タクシーの開業スタイルとして、以下が挙げられます。

ここから、各開業スタイルの特徴やメリットとデメリットを紹介します。

個人運営(個人事業主)

個人運営は、個人事業主として介護タクシー業を始めるスタイルです。個人運営のメリットとして、加盟金・ロイヤリティや設立手続きにかかる費用などがかからない点が挙げられます。

一方で、基本的に一人で準備しなければならないため、開業までに時間がかかる点はデメリットです。また、自分から積極的に動かない限り、介護タクシー業界関連の有益な情報収集が困難です。

FC:フランチャイズ

FC(フランチャイズ)による介護タクシー開業とは、本部に加盟金やロイヤリティを支払う代わりに、ノウハウなどを受けるスタイルです。

FCのメリットとして、各種許可を取得する手続きのサポートを受けられる点が挙げられます。手続きが複雑なため、サポートがある方がスムーズに開業できるでしょう。

一方で、ロイヤリティなどの費用が発生する点はデメリットとして挙げられます。また、原則として本部の経営方針に従って運営しなければなりません。

法人運営

法人運営とは、最初に介護タクシー業務を営む法人を設立した上で、開業するスタイルです。

法人運営を選択するメリットとして、節税につながりやすい点、信用度が高まる点などが挙げられます。また、今後介護タクシー分野で事業拡大を予定している場合も、法人運営が適しているでしょう。

一方、法人設立に費用や手間がかかる点や、事務負担が増える点などが法人運営のデメリットです。

介護タクシーを開業するための費用の目安

介護タクシーを開業するための費用は、規模やスタイルなどによっても異なります。一般的な目安は、250万〜450万円程度です。

主な費用として、以下が挙げられます。

  • 車両代(200万〜300万円)
  • タクシーメーター設置(10万円前後)
  • 免許・資格取得費用(数十万円)
  • 車庫や駐車場の賃料
  • 運輸局への登録免許税(3万円)
  • 領収書や車椅子などの備品代(20万円前後)

上記以外に、運転資金も用意しておかなければなりません。必要な運転資金については、後ほど詳しく解説します。

介護タクシーを開業する流れ

介護タクシーを開業する流れは、以下のとおりです。

  1. 普通二種免許の取得
  2. 介護職員初任者研修を修了
  3. 車庫、営業所などの施設の準備
  4. 運行管理者の選任
  5. 運輸支局へ許可申請
  6. 法令試験と事情聴取を受ける
  7. 運賃認可の申請
  8. 福祉自動車を入手
  9. 陸運支局へ運輸開始届を提出

各手順を詳しく解説します。

1.普通二種免許の取得

普通二種免許を取得するには、運転試験場で適性試験・学科試験・技能試験を受ける方法と、自動車教習所を卒業してから、運転試験場で学科試験と技能試験を受ける方法があります。厳しい審査を経て一発で技能試験に合格することに不安を抱えている方は、自動車教習所に通う方法を選択した方がよいでしょう。

すでに普通免許を所持している場合、学科教習が19時限、技能教習が21時限の受講が必要とされることが一般的です。

2.介護職員初任者研修を修了

介護職員初任者研修を修了するために、民間の介護スクールに通うことが一般的です。スクールでは、約130時間の講義・演習を受講します。

受講科目の内訳は、以下のとおりです。

  1. 職務の理解
  2. 介護における尊厳の保持・自立支援
  3. 介護の基本
  4. 介護・福祉サービスの理解と医療との連携
  5. 介護におけるコミュニケーション技術
  6. 老化の理解
  7. 認知症の理解
  8. 障害の理解
  9. こころとからだのしくみと生活支援技術
  10. 振り返り

受講後、修了試験に合格すれば介護職員初任者研修を修了します。

参考:厚生労働省 介護員養成研修の取扱細則について

3.車庫、営業所などの施設の準備

必要な資格を取得したら、車庫や営業所などの施設の準備を進めます。とくに、介護保険の適用を受けられる介護タクシーにするためには、あらかじめ定められた施設の要件を満たさなければなりません。

所定の居室面積を満たしているか、事務をこなす十分なスペースがあるか、営業所に隣接する車庫があるかなどが主な要件です。

4.運行管理者の選任

運行する介護タクシーの数が一定数を超える場合は、運行管理者を選任しなければなりません。運行管理者とは、運転手の運行管理や安全教育を実施する方のことです。運行管理者になるためには、一定の実務経験や運行管理者試験の合格などの要件を満たさなければなりません。

なお、介護タクシー1台の運行から始める場合は、原則として運行管理者の選任は不要です。

5.運輸支局へ許可申請

施設などの準備が整ったら、A4版縦・横書き・左とじにした許可申請書(本通1部控え2部、合計3部)を提出します。許可申請書の提出先は、営業所所在地を管轄する運輸支局輸送担当です。

万が一書類や添付書類の不足などがある場合、補正指示を受けることがあります。申請書の様式は、各運輸支局などでダウンロード可能です。

6.法令試験と事情聴取を受ける

運輸支局で申請書を受理されたら、数日後に法令試験や事情聴取を受けなければなりません。

法令試験の試験時間は45分、出題数は30問で、受験者は◯×方式・語群選択方式・簡単な筆記回答方式で回答します。合格基準は正解率8割以上です。試験終了後に、合否が発表されます。

審査基準に基づく審査を通過したら、許可証が交付されます。交付までの期間はおよそ2ヶ月です。許可証を交付されてから、期限内に登録免許税3万円を納付し、届出様式に添付して所轄の運輸支局へ提出します。

7.運賃認可の申請

介護タクシーを開業するには、許可申請だけでなく運賃認可も申請しなければなりません。運賃の認可申請とは、あらかじめ介護タクシーの運賃を設定して、申請することです。

なお、許可申請と同時に運賃認可申請が可能な場合と、許可証を交付されてからでなければならない場合があります。あらかじめ所轄の運輸支局に確認しておきましょう。

8.福祉自動車を入手

福祉自動車を入手した上で、車両の検査や登録も受けなければなりません。福祉自動車は、

一般の車両の基準をクリアするだけでなく、事業用の基準もクリアしている必要があります。

また、車のナンバーを緑ナンバー・黒ナンバーへ変更しましょう。緑ナンバー・黒ナンバーとは、事業者用であることを示したナンバーのことです。

9.陸運支局へ運輸開始届を提出

介護タクシーの事業を開始したら、管轄の運輸支局に「運輸開始届」を提出しましょう。

運輸開始は、許可証を受けてから6ヶ月以内でなければなりません。また、運輸開始届には、事業用自動車の車検証写しや事業用施設の写真なども必要です。

運輸開始届が受理されたら、介護タクシー開業に関するすべての手続きが終了したことになります。

参考:国土交通省 中部運輸局 介護タクシーをはじめるには

介護タクシーの開業に活用できる助成金・補助金

介護タクシーの開業に活用できる助成金・補助金のひとつに、「小規模事業者持続化補助金」があります。小規模事業者持続化補助金とは、持続的な経営に向けた経営計画に基づく小規模事業者の販路開拓の取り組みや、業務効率化の取り組みを支援するための補助金です。

小規模事業者持続化補助金の対象になれば、一部経費(対象経費の3分の2以内)の補助を受けられます。第14回公募のケースでは、補助上限が50万円(通常枠)です。

また、自治体によって福祉タクシーを導入するにあたって補助を受けられるケースがあります。あらかじめ事業を営む自治体に確認しておきましょう。

助成金・補助金以外に、リースや銀行の融資などで必要資金を調達する方法もあります。

参考:全国商工会連合会 商工会議所地区 小規模事業者持続化補助金

介護タクシーの開業・経営で失敗を防ぐコツ

介護タクシーの開業・経営で失敗を防ぐコツは、以下のとおりです。

  • 開業資金に加え十分な運転資金を用意する
  • 利益が出せる料金設定にする
  • 経理・経営の知識をつける
  • 介護事業所の職員と良好な関係を築く

それぞれ詳しく解説します。

開業資金に加え十分な運転資金を用意する

介護タクシーを開業しても、すぐに集客できるとは限らないため、人件費や燃料費、備品購入費など数ヶ月分の運転資金を確保しておきましょう。

また当面、人を雇わない場合でも、自分の生活資金が必要です。3ヶ月〜半年十分な収入を得られないことも考慮して、生活に支障が出ないだけの蓄えを残した上で、開業するようにしましょう。

利益が出せる料金設定にする

ビジネスとして成り立つように、利益を出せる料金設定にしましょう。

一度決めた運賃を変えるためには、運輸支局に変更の認可申請をしなければなりません。手間も時間もかかるため、最初の運賃設定を慎重に進めることが大切です。

なお、上限運賃・下限運賃は、車両区分や運賃を適用する地域によって定められています。範囲内で設定しましょう。

経理・経営の知識をつける

経理・経営や税務などの基礎知識は身につけておきましょう。基礎知識がないと、決算や確定申告の方法で戸惑うことがあります。

また、資金繰りの把握が必要なことも、知識を身につけるべき理由です。いつ資金が必要になるか、いつ資金が入ってくるかを理解していなければ、いくら利益を出していても介護タクシーの経営は悪化する可能性があります。

介護事業所の職員と良好な関係を築く

介護事業所の職員と良好な関係を築くことも、介護タクシー開業での失敗を防ぐコツです。

介護事業所の職員とつながりができれば、利用者を紹介してもらえる可能性が高まります。とくに最初のうちは知名度が低いため、地道な集客作業が大切です。

また、他の介護タクシー事業者と横のつながりがあると、多忙なときに仕事をまわしてもらえることがあるでしょう。

介護タクシーの開業には資格が必要

介護タクシーには、介護保険タクシーと福祉タクシーがあります。介護保険が対象になる介護保険タクシーを開業するには、普通自動車第二種免許や介護職員初任者研修の資格が必要です。

また、介護保険適用になるために必要な要件を満たした施設を準備する、許可申請を提出するなどの手続きも進めなければなりません。介護タクシーの開業を検討中の方は、早めに準備を進めるようにしましょう。


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