- 更新日 : 2023年12月4日
工場経営の基本戦略!運営のポイントや課題の対応策、おすすめの本を紹介
製品を生産する製造業の工場経営においては、人材、設備、原材料、資金などを効率的に管理することが欠かせません。しかしながら、儲かる経営を意識して利益を創出し続けるにはさまざまな課題もあります。
この記事では、工場経営についてのおすすめの解説書も交えながら工場経営を成長へ導く基本的なことを解説します。
工場経営の基本戦略
製造業において、工場経営は事業の中心とも言えます。成長し続ける企業になるには何が必要なのでしょうか?工場経営の基本的な戦略について考えてみました。
ターゲット市場の選定
工場経営において、まず重要となるのがターゲットとなる市場の選定であり、その選定自体が戦略的プロセスと言えます。
自社の製品を提供する対象となる市場を明確にすることで、自社の強み・弱みや競合他社の状況を把握し、効果的なマーケティング活動を展開できます。そして、ターゲット市場に合わせた製品の開発や継続的な改善を行うことで、顧客のニーズに沿った経営が可能になります。
ターゲット市場を選定するためには次のようなステップがあります。
- 市場調査(市場の規模や成長、顧客ニーズなどの調査をする)
- 市場をセグメントに分ける(一定の指標をもとにグループ分けをする)
- ターゲットの選定(セグメントの中から最も適したターゲットを選定する)
- 競合分析(同じセグメントにいる競合他社の分析をする)
経営を「見える化」する
経営の「見える化」とは、自社の経営状況や業績を定量的に把握し、分析・評価し、それを継続することです。具体的に言うと、経営の状況を図解や数値で視覚に訴えることです。経営の視覚化による効果として、具体化された現状を認識しやすくなり、意思決定の迅速化につながります。
まず、生産データの可視化により、潜在的な問題や課題を早期に発見し、対策を講じることができます。これにより、リスクを最小限に抑えることができます。また、業務プロセスをフローなどで視覚化することは無駄な作業の効率化につながり、棚卸高を明示することで過剰在庫の削減、生産性の向上などの判断基準につながります。
さらに、顧客データを見える化することは顧客の好みや行動を理解し、次なる施策に役立てることができます。
クライアントや顧客に選ばれる品質・技術
クライアントや顧客に選ばれ続ける品質・技術を獲得することは、自社の製品がクライアントや顧客の期待や要求を満たすだけでなく、それを超えるレベルにあるということです。
クライアントや顧客に支持される製品を持つことで、自社のブランド力や信頼性を高め、リピート率や口コミ効果を大幅に向上させることができます。
そのためには、品質管理システムや技術開発体制などの基盤を固め、品質保証や技術革新などの取り組みが不可欠です。
現場と経営者との双方向のアプローチ
工場の現場と経営者との双方向のアプローチとは、経営者から現場への指示や支援とともに、現場である工場から経営者へのフィードバックや提案などが円滑に行われるということです。
この双方向のアプローチにより、工場の実態や解決すべき課題を経営者に正確に伝えることができ、また、経営者の方針や意思を現場が正しく理解することを促します。さらに、現場のモチベーションや能力向上にも影響し、経営者の決断や判断を早めることにつながります。
そのためには、現場と経営者の定期的なミーティングや報告などを通して、オープンな雰囲気を作り、その上で信頼関係を醸成させることが必要です。
工場経営が抱える課題と対応策
現在、特に中小企業における工場経営において、老朽設備の更新や人手不足などさまざまな問題が深刻化していると言われています。中小企業においては、どのような問題があり、どのような解決方法が考えられるのかを見ていきましょう。
DX化・自動化
工場経営において、DX化や自動化は生産性や品質の向上に直結するツールと言えます。
反面、実際に抜本的にDX化や自動化を計画、実行するには、大きな投資だけでなく専門知識も必要になります。
そこで、着手できる部分についてDX化や自動化のメリットとコストを比較し、必要性や能力に合わせた導入計画を立てる必要があります。また、DX化や自動化によって必要となる従業員のスキルにも対応する必要があります。
工場や設備の老朽化
工場や設備の老朽化によるトラブルや事故を防ぐために、定期的な点検やメンテナンスを行う必要があります。
過去の企業の設備投資傾向によると、製造業の設備投資は2006年あたりで大きく、設備装置の更新をおおよそ15年から20年周期と考えると、2022年から2027年あたりに設備更新時期を迎えます。まさに、現在更新を迫られているという工場も多いと推測されます。
これら設備を更新するには、単に資本の投下だけでなく、DX化との整合性や環境への影響を考慮する必要があります。
人手不足・2030年問題
中小企業の工場経営者は、人口減少・高齢化による人手不足や2030年問題に対処する必要があります。
2030年問題とは、高齢化による人口減少によって、2030年には顕在化すると考えられているさまざまな社会問題を言います。すでに、2022年10月でわが国の総人口の29%が65歳以上であり、今後、特に深刻とされるのは生産年齢人口の低下による慢性的な人手不足です。2030年問題は生産力や技術力だけでなく、人材確保・育成など日本の産業界に深刻な困難をもたらすことになるでしょう。
このような中において中小企業の工場経営者は、適切な賃金や福利厚生、研修制度などを整備すると同時に、女性や外国人などの多様な人材を積極的な採用を図り、活躍できる環境を作る必要があります。
人件費の高騰
工場における人件費の高騰も頭の痛い状況ですが、人材確保のためには対応せざるを得ません。物価上昇、最低賃金の引き上げ、社会保険料の負担増加などによって引き起こされる人件費の高騰に対し、中小企業の工場経営者は、生産性や付加価値を高める努力が必要です。
自動化技術やロボティクスなどの導入で、いかに少ない人数で対応できるかを検討したり、人件費以外のコストにも目を向けて削減策なども検討したりする必要があります。例えば、一定の業務を外部のアウトソーシング先に委託することは、固定費を変動費に変えることにつながります。
技術の継承
中小企業の工場経営者は、高い水準を誇る技術の継承にも取り組む必要があります。他の会社では実現が難しい技術の継承は、その会社の工場経営の競争力や持続性を保つために不可欠であり、会社の財産と言えます。
高齢化や退職などによって独自の技術やノウハウが失われてしまわないように、次世代に引き継ぐ工夫が必要です。そのためには、ベテランと若手のコミュニケーションを活発化させるしくみや文化を作り、優れた技術を活かしたまま継承できる基盤をつくることが大切です。
国際競争力
工場経営は、規制の厳しさなどのために国際市場での競争にも直面しています。例えば、輸出入取引関連、知的財産権、環境規制や安全規制など、各業界において規制は厳格化してきています。そのため、これら規制の変化に敏感に対応し、それに従って運営できる体制を整えることが必要です。
また、マーケティングにおいて海外市場にも目を向けることが重要です。海外市場では、需要やニーズが異なることが多く、現地の文化や習慣に合わせたマーケティングや販売戦略を立てる必要があります。
安定した工場経営・運営を続けるポイント
ここで上記を踏まえ、工場経営を安定して続けるポイントを解説しておきます。多くの課題がありますが、ここでは3つにまとめてみました。
生産プロセスの最適化について
試行錯誤を繰り返しながらも最もパフォーマンスのよい状態に調整することを最適化と言います。また、品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)はものづくりの3要素と言われています。この3要素を安定化させ、かつ、生産プロセスを最適化するためのカギは、生産技術に他なりません。
例えば、トヨタの「ジャスト・イン・タイム」とは必要な部品を必要なときに必要なだけ生産することによって最小の在庫とする生産方式です。このように、QCDを一定に保つための企業独自の技術や手段により生産プロセスを最適化することが望まれます。その上で、可能な部分から計画的にDX化・自動化を実施しましょう。
資金管理と財務計画について
資金の管理は工場の生存と成長に不可欠です。生産プロセスの最適化やDX化のためには、優先順位をつけた資金調達の計画が必要です。
売上目標やコスト管理を含んだ明確な計画を策定し、計画と実績の評価を必ず管理しましょう。また、計画にあたっては利益追求だけではなく、長期的な企業の持続可能性を考えましょう。
品質管理と品質向上について
製品の品質は顧客の信頼性の獲得、競争力を維持するために不可欠です。品質管理は徹底して行い、ゆるぎない品質基準を確立しましょう。
また、顧客のフィードバックを柔軟に受け入れ、製品や生産プロセスを改善する文化を育てましょう。品質問題が発生した場合、迅速に対処し、再発防止策を講じるしくみを作っておきましょう。
工場経営に役立つおすすめ本
ここで工場経営に役に立つおすすめ本をいくつか紹介します。内容的に、工場経営にとどまらず興味を惹かれるものもあり、気になったものを手に取ってみることをおすすめします。
世界レベルの工場の経営・運営を目指す 工場長の教科書
経営に貢献できる工場を目指す人が理解をしておくべきことが詰まった「工場長のための教科書」です。製造拠点を牛耳る工場長や製造部長だけでなく、製造課長や技術課長など工場運営に欠かせない人達の「工場マネージャーのための教科書」とも言えます。
参考:古谷 賢一著
世界レベルの工場の経営・運営を目指す 工場長の教科書 | 日経BOOKプラス 2022年
新人IErと学ぶ 実践 IEの強化書
IE(Industrial Engineering)の基本的な考え⽅や周辺の知識を盛り込み、⾃動⾞⼯場を舞台として新⼈IErの育成について実践を踏まえて対話形式で解説しています。
体系的に書かれており、わかりやすい入門書です。
参考:日本インダストリアル・エンジニアリング協会編
新人IErと学ぶ 実践 IEの強化書| 日刊工業新聞社 2021年
図解 工場のしくみが面白いほどわかる本
そもそも工場とはどういうところなのかということから教えてくれる工場についてわかりやすくまとめられています。製造業に関係のある職業についたときに、工場経営全体をとらえる入門書として最適です。
参考:石川 和幸著
図解 工場のしくみが面白いほどわかる本|中経出版 2011年
改訂版[ポイント図解]5Sの基本が面白いほど身につく本
2011年に出版されたロングセラーの改訂版。5Sとは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」をいい、この5つが企業にとってどのような効果をもたらせてくれるのかがよく解説されています。図解が多く、イメージとしてとらえやすい解説書です。
参考:大西 農夫明著
改訂版[ポイント図解]5Sの基本が面白いほど身につく本|KADOKAWA 2017
[図解]トヨタの片づけ
「片づけ」をビジネスツールとしたトヨタ流の整理術について解説しています。工場経営だけではなく仕事にも生活にも通じるトヨタに浸透した片づけの文化が紹介されています。片づけができていない職場ほど、ムダが多く、成果が出せない」などのキッパリとした表現にハッとさせられます。
参考:株式会社 OJTソリューションズ著
[図解]トヨタの片づけ|中経出版 2013
工場向けの事業計画書テンプレート(無料)
こちらから自由にお使いいただけるので、ぜひご活用ください。
・自動車整備工場の事業計画書・創業計画書テンプレート・作成例
価値ある製品の提供により社会に貢献する工場へ
工場経営においては、市場や競合の動向に応じて柔軟に対応しなければなりません。
それは、製造業であろうがサービス業であろうが基本的には同じことです。
見てきたように製造業は、コストを削減することや品質・付加価値を高めるための努力を積み上げることが必要であり、設備や技術の更新、求人難などの問題に真摯に向き合わなくてはなりません。商品販売などに比べると、顧客に到達するまでの距離が長いとも言えます。
その努力の結果として価値の高い製品を顧客に提供できれば、その製品の力が社会貢献につながると言えます。DX化、ロボティクス化が進んでも、やはり人材は会社の財産です。
その人材が、「社会に貢献する製品を提供している」と自らを誇れる会社となるのが理想でしょう。
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