- 作成日 : 2024年12月9日
親会社と子会社の関係とは?経営・社員の力関係やリスク管理、節税対策を解説
親会社とは子会社を支配している会社のことを指します。しかし、どのような状態を支配というのでしょうか。親会社・子会社になることでどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
この記事では親会社と子会社の関係性についてわかりやすくご説明します。
目次
親会社と子会社の関係とは?
親会社とはある企業を支配している会社のことを指し、小会社は親会社から経営を支配されている会社のことを指します。経営を支配されているというのは、親会社が子会社の株主総会の議決権を50%超保有している状態のことです。
会社の方針は株主総会で決められ、その議決権を半数以上保有すれば、実質経営権を保有するということになるのです。細かい規程はありますが議決権は株式の数量によって決められるのが一般的です。この記事においては株式保有割合と議決権保有割合は等しいことを前提とします。したがって、親会社が子会社の株式の50%超を保有することで経営支配に置くケースが多いです。なお、「経営の支配」については、次の章で詳しくご紹介します。
子会社・関連会社・関係会社の違い
前述のとおり、親会社は小会社の株式を50%以上保有している会社のことを指します。一方、大まかにいえば議決権の20~49%を保有している会社のことを関連会社と呼びます。親会社のような支配関係は発生しないものの、株式を保有している関連会社には株主総会での議決権が生じるため、経営にある程度の影響力を持ちます。
関係会社とは財務諸表などで使われる用語です。様式及び作成方法に関する規則(財務諸表等規則)第1章第8条第8項では、「財務諸表提出会社の親会社、子会社及び関連会社並びに財務諸表提出会社が他の会社等の関連会社である場合における当該他の会社等(その他の関係会社)をいう。」と規程されています。
参考:財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則|e-GOV
つまり関係会社とは親会社、小会社、関連会社の総称です。財務諸表上では親会社も小会社も関連会社も「関係会社」と呼ぶことになります。
親会社の子会社に対する経営の支配とは?
親会社は子会社の経営を支配している会社のことですが、そもそも「経営の支配」とはどのような状態を指すのでしょうか。ここからは経営支配の基準や具体例について見ていきましょう。
経営支配の基準
株主がどれくらい会社の経営に影響を与えられるかは、前述のとおり保有する株主総会の議決権によって決まります。株主総会における議決権比率は株式の保有数によって決められるのが一般的で、議決権を半数以上、つまり株式を50%超保有していれば、実質その株主が経営権を握っているということになるのです。ちなみに、議決権を100%保有している子会社のことを「完全子会社」といいます。
なお、仮に議決権を過半数保有していなくとも、ある会社がもう一方の会社の経営方針を決める、財務管理に関与しているといったケースであれば、実質的な経営支配をしているという状態となります。
経営支配の具体例
たとえばA社とB社があり、以下のいずれかの状態に当てはまっている場合は、AがBの経営を支配しているということになります。
- Bの議決権において、Aがその50%超を所有している場合
- Bの議決権において、Aの所有するものが過半数には満たないが、40%以上あり、かつ、次に挙げるいずれかの要件に該当する場合
1) Aと緊密な関係にあり、Aと同一内容の議決権行使すると考えられる者の議決権を合計すると、Bにおける議決権の過半数になる場合
2) Aの役員や従業員などが、Bの取締役会の過半数の役員を構成している場合
3) AがBにおける、重要な財務及び営業又は事業の方針の決定を支配する契約等がある場合
4) AがBの資金調達総額の過半を融資(保証や担保提供なども含む)しているような場合
5) AがBの意思決定機関を支配していることを推測させる事実がある場合
3.Aと緊密な関係にあり、Aと同一内容の議決権行使すると考えられる者の議決権を合計すると、Bにおける議決権の過半数になる場合で、さらに上記2.2)~5)のいずれかの要件に該当する場合
A社がB社に対して経営支配している例としてまず挙げられるのが、A社がB社の議決権を50%超保有している場合です。この状態ではA社の決議に対して他の株主はそれを覆すことができないため、A社はB社の経営権を支配しているといえます。
また、A社がB社の議決権を45%保有していたとしましょう。この場合は過半数に満たないですが、仮にA社の社長がB社の議決権を6%保有していたとしていた場合、A社とその社長は同一内容の議決権行使をすると考えられるため、A社はB社の経営を支配しているとみなされます。
親会社と子会社の社員の関係
ここからは人事や業務・技術の連携など、実務の面から親会社と子会社の関係について見ていきましょう。
親会社と子会社の人事異動
基本的に親会社と子会社は別の会社となります。親会社の社員が子会社から、あるいは子会社の社員が親会社に移る場合、もとの会社との雇用契約を維持したまま相手の会社に異動する「出向」もしくは相手の会社に籍を移す「転籍」することになり、指揮命令権は異動先の会社が持つことになります。
たとえば、親会社Aの社員Cが子会社Bに出向する場合、CはAではなくBの指揮命令下に入ることになります。
親会社と子会社の力関係
親会社は子会社の経営を支配しているため、どうしても親会社のほうが立場は上になりがちです。なかには子会社が親会社の言いなりになっているというケースもあるようです。ただ、特に親会社が大会社(資本金5億円以上もしくは負債が200億円以上ある会社)である場合、親会社は子会社の内部統制体制を構築する、不正が起こらないよう管理・監督しなければならないなどの、責任を負う立場でもあります。
確かに親会社のほうが立場は強くなりがちですが、親会社の経営資源やノウハウを活用できるなど、子会社になるメリットも多数あるのです。
業務や技術の連携
親会社は子会社の経営を支配している立場にありますが、それでもまったくの別法人です。親会社が子会社に業務をさせる場合は一般的な社外取引先と同じように請負契約や派遣契約、委任契約などを、共同で業務を行う場合は業務提携契約を、技術を共有する場合は技術提携契約を締結する必要があります。
親会社と子会社の給料の違い
親会社と子会社は別会社であるため、それぞれの給与規程に基づいて支払われることになります。親会社の社員のほうが子会社の社員より給料が高いケースもあれば、その逆もあり得ます。
親会社の子会社になるメリット・デメリット
どうしても子会社というと親会社よりも立場が弱くなってしまうといったイメージがあるかもしれません。しかし、子会社になることで有利になる点も多々あります。企業が他社の傘下に入って子会社になった場合のメリットとデメリットについて考えていきましょう。
親会社の子会社になるメリット
まずは親会社の経営資本や人材、技術、ノウハウ、ブランドなどを活用できるという点が大きなメリットです。特に中小企業の場合、大手企業や有名企業の子会社となることで、ビジネスが有利になる可能性も高いです。
事業拡大や多角化が望めるという点もメリットとして挙げられます。業種や業態が異なる企業の子会社となることで、新しい製品やサービスの開発、販路の拡大などが期待できます。すでに親会社が行っている事業とのシナジー効果で収益向上につながる可能性もあります。
親会社の子会社になるデメリット
子会社として他の企業の傘下に入ることで、経営の自由度が低下する可能性があります。前述のとおり、子会社は親会社から支配される立場であるため、親会社の方針に沿って経営しなければなりません。事業内容や規程、制度などの変更を強いられるケースもあります。
また、上記のように他社の傘下に入ることによって会社の体制が変わることに対して不安を覚え、人材や顧客が離れてしまうこともあり得ます。子会社化によってビジネスが有利になるチャンスもある一方で、かえって業績が悪化してしまうリスクもあり得ることは念頭に置いておきましょう。
親会社は子会社に求められる子会社のリスク管理
親会社はまさに子を持つ親のように、子会社を管理・監督する責任が生じます。他の会社を子会社化することで以下のような義務を果たさなければなりません。
内部統制の不備
内部統制とは会社法会社法第362条4項6号で以下のように定義されています。
取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
内部統制はわかりやすくいえば会社が事業を円滑に行うためにルールを定め、それを遵守するための体制づくりといえ、以下のような環境を整えなければなりません。
- 統制環境
- リスクの評価と対応
- 統制活動
- 情報と伝達
- モニタリング
- ITへの対応
親会社には自社の内部統制を整備するのはもちろんのこと、子会社の内部統制を管理・監督する義務も生じます。
資産の流用
特に子会社にとっては親会社の経営資本を活用できるという大きなメリットが生じます。親会社は子会社に対して資産譲渡や現物出資、現物配当などの手段で資産を移転することが可能です。しかし、これをたとえば子会社に出向した親会社の役員や従業員が私的利用のために親会社から資産を譲渡するなどの不正が発生する場合があります。また、関係会社による資産の盗難や着服、横領といった事件が発生するリスクにも対応しなければなりません。
不適切会計のリスク
親会社は子会社が不正を行わないよう監視・管理する責任も負います。たとえば粉飾決算や売上原価の架空計上、外注費のキックバックなど、子会社が不正会計を行なっているケースも考えられます。また、意図していなくとも会計処理の過程で生じたミスで正しく税務申告がなされていないケースもあり得ます。連結決算であってもミスや税金の未払いが発生し、特に子会社が意図的に決算データを改ざんしていた場合は不正報告した場合は親会社がそれを把握するのは難しいです。
これらの不適切会計や不正が生じた場合、親会社にも一定の監督責任が求められる場合があります。
親会社と子会社の節税対策
子会社を作ることで、以下のような節税効果を得られる可能性があります。なお、実際に節税できるかどうかはその企業の状況にもよるので、税理士に相談したうえで子会社化を検討されることをおすすめします。
法人税を軽減できる
法人税はその会社の課税所得(利益)の額によって税率が決まります。事業部を子会社化して分ければ、課税所得(利益)を親会社と子会社で分けることができるため、法人税の額が少なくなる可能性があります。
軽減税率を適用する
資本金1億円未満の会社の場合、課税所得が800万円以下の部分は軽減税率が適用されて、法人税率は23.2%ではなく15%となります。そのため、子会社を設けることで軽減税率が適用され、法人税が抑えられる可能性もあります。
消費税を軽減できる
会社を設立した初年度と次年度は消費税が免税になります。また、年間売上高1,000万円未満の会社は免税事業者になることもできるほか、年間売上高5,000万円未満の企業であれば簡易課税を選択することでも消費税を抑えられる可能性があります。ただし、大規模な法人が子会社を設立し、支配している会社の基準期間相当期間における課税売上高が5億円超となる場合は消費税の納税義務が生じます。
退職金を経費に計上する
子会社に役員や従業員を転籍させる場合、一旦親会社を退職することになります。退職金を支払い、その分を経費に計上することで法人税を抑えることも可能です。
親会社と子会社の会計処理方法
基本的に親会社と子会社は資本関係があり、ひとつの組織として財務諸表をひとまとめに作成する「連結決算」を採用します。連結決算にはグループ企業全体の経営状況を把握しやすい、不正の防止や早期発見がしやすいといったメリットがありますが、一方で関係企業間が連携しながら経理作業を行わなければならず、扱うデータも膨大となるため手間がかかることと、専門的な会計知識が必要になるといったデメリットもあります。
連結決算でも正確に経理処理を行うには、専用の会計システムを使用されることをおすすめします。マネーフォワード クラウド連結会計は連結会計に特化したシステムです。煩わしいデータ収集やファイル管理を効率化。グループ全体の経営状況を効率的かつスピーディーに確認でき、グループ全体の経理処理のスピードと質、経営の精度を向上させます。
親会社と子会社に関するよくある質問
最後に、親会社と子会社の関係で皆さんが抱きがちな疑問について、Q&A形式で回答します。
親会社が上場していると子会社も上場していることになるか
親会社が上場したら子会社も自動的に上場するということはありません。親会社が上場したとしても、子会社が上場しなければ、その子会社は非上場のままです。なお、子会社も上場することを「親子上場」といいます。子会社が上場することでグループ全体の知名度や社会的信用が上がる、子会社の独立度が上がるなどのメリットがありますが、親会社と子会社の少数株主との間に利益造反関係が生まれやすくなります。
子会社が赤字の場合、親会社はどうなるのか
連結決算を行う場合、子会社の赤字は親会社の繰越欠損金として扱われます。そのため、親会社は子会社の業績が悪化した場合は必要に応じて支援策を講じることが求められます。子会社の業績が回復しないのであれば、再建支援や子会社の売却、清算も視野に入れる必要が出てくるかもしれません。
子会社が親会社を抜いたケースは?
子会社が親会社の業績を上回った場合、株式交換によって子会社が親会社を逆に子会社にするケースもあります。原則として親会社の株式を子会社が取得する行為は会社法によって禁止されていますが、株式交換であれば例外的に認められています。
親会社と子会社の関係を把握してビジネスを有利に進めよう
他社と親子関係にあるかどうかによって、ビジネスをとりまく環境や経理処理の仕方、業績や納税額まで大きく変わってきます。自社にとって有利に働くこともあれば、逆に不利な状況に追い込まれることにもなりかねません。
自社を分社化する、他社を傘下に入れる、あるいは逆に他社の傘下に入るなど、親子関係を構築する場合は、しっかりとメリット・デメリットを見極めて判断しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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