- 作成日 : 2025年2月12日
法人化したときの役員報酬の決め方・ルールは?決定後の届出手続きも解説
「役員報酬」とは、法人の役員が会社から受け取る対価のことです。法人化後の経営者の収入として重要な位置づけとなり、従業員の給与とは異なるルールが適用されます。
個人事業主からの法人化、法人設立を検討している方に向けて、本記事では役員報酬の定義から決定方法、届出手続きまで、法人化に伴う役員報酬の基礎知識を解説します。
目次
法人における役員報酬とは
役員報酬とは、「株式会社や合同会社などの法人に属する役員が受け取る対価」を意味します。従業員にとって、報酬は給与のようなものですが、異なるルールが適用されるため注意が必要です。
また、個人事業主であれば事業活動から得られた利益がそのまま個人の収入となりますが、会社の場合は異なります。たとえ一人体制の会社であっても利益は会社のものです。そのため、会社から代表者に役員報酬を支払う形を採用しています。
役員報酬と給与の違い
役員報酬と従業員の給与には次のような違いがあります。
※ここでは株式会社を例にする
- 金額の決定方法
→ 給与は雇用契約に基づいて決定されるが、役員報酬は定款や株主総会の決議などにより定められる。役員は会社の経営を担う立場にあり、その報酬が会社の利害関係者全体の利益に影響を与える。 - 支払いルールの柔軟性
→ 給与は労使間の合意により比較的柔軟に変更できるが、役員報酬は原則として事業年度内での変更が制限される。利己的な報酬金額の操作を防ぎ、会社経営の透明性を確保する。 - 税務上の取り扱い
→ 給与は原則として全て損金算入できるが、役員報酬は過大な金額と判断され、損金算入が制限される可能性がある。これは役員報酬を利用した租税回避を防止するためのものである。
このように、役員報酬には給与とは異なる厳格なルールが適用され、その決定から支払いに至るまで慎重な対応が求められます。法人化を検討する際は、これらの違いを十分に理解したうえで適切な報酬設計を行うことが重要です。
法人における役員報酬の支払い方法
法人における役員報酬の支払い方法は、税法で①定期同額給与、②事前確定届出給与、③業績連動給与の3種類に分類されています。
これらは独断的な役員報酬の操作を防ぎ、適正な課税を実現するために設けられた仕組みです。支払い方法別に要件があるため、会社の状況に応じて適切な方法を選択する必要があります。
定期同額給与
「定期同額給与」は、毎月決まった金額を支給するという、最も一般的な役員報酬の支払い方法です。多くの中小企業では、この方法を採用しています。具体的には、事業年度内で毎月同じ金額を支払い、賞与などの臨時的な給与を支給しない形態を指します。定期同額給与のメリットは、手続きが比較的簡単であること、税務上の問題が生じにくい点です。ただし、以下の点には注意してください。
- 事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3カ月を経過する日までに金額を決める必要がある
- 原則として年度途中での変更は認められない
- 役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更、これらに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)、法人の経営状況が著しく悪化したこと、その他これに類する理由(業績悪化改定事由)があった場合に減額が認められる
事前確定届出給与
「事前確定届出給与」とは、将来の特定の時期に特定の金額を支給する方法のことです。期末賞与などの臨時的な給与をあらかじめ定めた時期と金額で支給することになります。
業績に関係なく定額の賞与を支給したい場合に有効ですが、一度届出た内容は原則として変更できないため慎重に計画を立てましょう。
(※災害や業績悪化など特別の事情がある場合は例外的に減額が認められる)
この方式を採用するには、以下の3つの手続きをする必要があります。
- 支給時期と金額を事前に決定する
- 株主総会などの決議によってその定めをした場合は、その決議をした日から1カ月を経過する日、または会計期間開始の日から4カ月を経過する日のうち、いずれか早い日までに税務署に届出をする
- 届出をした内容に基づき、支給を行う
業績連動給与
「業績連動給与」とは、会社の業績指標(株式の市場価格に関する指標やその他の指標を用いる)に連動して報酬額が変動する支払いのことです。主に上場企業で採用されている方法であり、次のような特徴を持ちます。
- 役員報酬が利益や売上高などの客観的な指標と連動する
- 計算方法を事前に定めて開示する
- 有価証券報告書その他一定の方法による開示が必要
中小企業の場合、業績連動給与の採用は難しいですが、「会社の成長に応じた報酬体系にしたい」「役員のモチベーション向上を図りたい」「将来の上場を考えている」といった場合には検討する価値があるでしょう。
なお、以上で紹介した支払い方法は組み合わせることも可能です。例えば、基本報酬を定期同額給与とし、賞与を事前確定届出給与として設定するといった方法が考えられます。会社の規模や経営方針、将来の展望などを考慮しながら最適な支払い方法を模索しましょう。
法人化したときの役員報酬の決め方・ルール
法人化に伴い役員報酬を決めるときは以下のルールに従いましょう。法令上の規定なので、ルールに従わないと違法・脱税の疑いをかけられることがあります。
法人化してから3カ月以内に役員報酬を決定する
法人設立後、最初の事業年度における役員報酬は事業年度開始の日から3カ月以内に決定する必要があります。このルールは法人税法および法人税法施行令に規定されており、この期限を過ぎるとその事業年度中は役員報酬を損金算入できなくなる可能性があるため注意してください。
“当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から三月を経過する日まで”と規定されている。
定款または株主総会決議で役員報酬を決定する
役員報酬の金額については、「定款または株主総会で定める」と会社法で規定されています。
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
:
具体的な金額、または算定方法を定めます。定款に定めておけば株主総会で毎回話し合う必要はなくなりますが、金額や算定方法を変えるためには定款の変更を行うため、株主総会の特別決議という厳しい要件をクリアしないといけません。手間がかかるため柔軟に運用したいという場合には定款に定めず株主総会に委ねるのが適切です。
役員報酬は原則途中で変更できない
上述の通り、役員報酬は事業年度開始日から3カ月以内に決めないといけないため、途中で変更することは原則としてできません。
ただし、以下のような特別な事情がある場合は例外的に変更が認められる可能性もあります。
例外的な事由 | 具体例 |
---|---|
経営の著しい悪化 |
|
災害による重大な損害の発生 |
|
事業の縮小や休止 |
|
役員の職制上の地位の変更 |
|
なお、変更をするとしても認められるのは基本的に「減額」のみです。
役員報酬の相当性に注意する
役員報酬は、以下の観点から「相当な金額である」と言える必要があります。
- 会社や事業の規模
- 売上高や利益の大きさに対して適切な比率か
- 会社の財務状況との整合性
- 役員の職務内容
- 役職や責任の重さに見合っているか
- 実際の業務内容の反映
- 税務上の観点
- 同業類似法人の役員報酬額との比較 など
特に同族会社の場合は税務調査において役員報酬の金額の妥当性が重点的にチェックされることがあります。そのため金額を決めるときは上記の要素を総合的に考慮し、合理的な説明ができる金額を設定しましょう。
法人化して役員報酬を決定した後に必要な手続き
役員報酬を決定した後は、適切な社内記録の作成と保管、そして社会保険に関する手続きを進めましょう。
株主総会議事録の作成と保管
役員報酬を株主総会で決定した場合には、株主総会の議事録を作成し、一定期間保管しないといけません。これは決議事項が役員報酬であるかを問わず、一般的に株式会社が従わないといけないルールです。
(議事録)
第三百十八条 株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。
2 株式会社は、株主総会の日から十年間、前項の議事録をその本店に備え置かなければならない。
開催日時と場所、出席した株主の氏名と議決権数、決議事項(役員報酬額)の具体的な内容、議事の経過と結果、議長および出席取締役の署名または記名押印を議事録に記録します。また、条文にもあるように本店にはその議事録を10年間保管しておかないといけません。
健康保険と厚生年金に加入する
役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている場合は、法人に使用される者として被保険者となります。実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準に判断することとされています。
そこで「健康保険・厚生年金保険新規適用届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を管轄の年金事務所に提出しましょう。被扶養者がいる場合は、「健康保険被扶養者(異動)届」も提出します。
この手続きは事実発生(加入すべき要件を満たした日)から5日以内に行います。なお、保険料は会社と役員個人で折半します。
役員報酬は適切な手続きで適切な金額に定めよう
法人の場合、経営者の受け取る報酬は、個人事業主のように自由に取り扱うことができません。金額やその算定方法については定款や株主総会で決定し、議事録の作成・保管も法律上の義務とされています。年度途中で自由に変更することもできません。
法令上のルールを知らなかったことを理由に責任を免れることはできないため、法人化の際は専門家の力を借りながら適切な役員報酬の設計を行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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