• 作成日 : 2024年9月26日

開業届を出す前の経費は開業費にできる!いつまで遡れるかや仕訳方法を解説

開業費とは、個人が事業を開始するまでの間に開業準備として支出した費用を言います。開業費は貸借対照表上の「繰延資産」の一つであり、定期的に償却計算によって必要経費とするほか、「任意」の金額をその年分の必要経費とすることができます。この記事では、個人事業主の「開業費」の取り扱いや仕訳方法などについて解説します。

開業届を出す前の経費は開業費として計上できる

所得税法では、支出した費用の効果が翌年以降に及ぶような費用の計上を認め、「繰延資産(くりのべしさん)」としています。

繰延資産にもいろいろな種類がありますが、その中の「開業費」は所得税法施行令第7条に次のように定められています。

(開業費)
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用

また、その後の経費化については同第137条にて定められています。

(繰延資産の償却費の計算)
その繰延資産の額を六十で除し、これにその年において不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行つていた期間の月数を乗じて計算した金額…(中略)

その年分の…事業所得の金額…の計算上必要経費に算入すべき金額として、当該繰延資産の額の範囲内の金額をその年分の確定申告書に記載した場合には、同号に掲げる金額は、同号の規定にかかわらず、当該金額として記載された金額とする。

引用:所得税法施行令|e-Gov

つまり、開業準備のために特別に支出した費用については、5年にわたって償却するほか、開業費のうち任意の金額にて償却してもよいこととされています。

開業前数ヵ月~1年程度なら遡って認められる

開業を夢みて何十年も前からいろいろな準備をしてきた人もいるでしょう。法律によって明らかに制限されているわけではないのですが、開業費として認められるためには開業日の数ヵ月前から1年前程度の間の支出が妥当とされます。

1年以上前の支出であっても明らかに開業準備とわかるものであれば、開業費として計上しても問題はありません。しかし、あまり古いと税務調査などで証拠や事業との関連性を問われる可能性があります。

開業費として計上する場合には、開業との関連性を明確にし、領収書等などの証拠を保存しておく必要があります。

開業費として認められる費用の例

開業費として認められる費用の例をいくつか挙げておきます。重要なことは開業日前であっても、その支出が開業に直接関係していることを明確に示せるかどうかということです。

開業のための広告宣伝費

店舗などのオープン前に店のチラシやポスターを作ることはよくあります。SNSでの告知等にはお金はかからなくても、ウェブサイト製作費や看板など事業を開始するための広告宣伝に係る費用は、開業に直接関係しているため開業費として認められます。

備品購入費

事業を始めるにあたって、新たに購入しなければならない備品類も開業費として計上することができます。例えば、パソコン、プリンターなどのオフィス機器、什器や文房具などです。

高額になると固定資産としての登録が必要となりますが、開業までの小さな出費についても開業費として認められます。

賃借料など

事業を始めるにあたっては、開業までにオフィスや店舗の賃借料を支払うことはよくあります。例えば、4月の開店で、その年の2月から家賃を支払う場合においては、2月分と3月分の賃借料は開業費に計上できます。

ただし、賃借料が住居費も含んでいる場合には按分後の金額を開業費として計上します。

開業費として認められない費用の例

開業前に支出した経費で、事業に関係がありそうなものでも開業費として認められないものがあります。経費の認識についてはケースバイケースでもあるので、個々については税務署や税理士に確かめましょう。

開業後の経常的な必要経費

開業費で重要なのは、「開業前の支出」という点です。開業後に必要経費がかさみ、来期の費用にしたいと思ってもそれはできません。開業後の経常的な必要経費は「経費が発生した期間の費用」として計上しなければなりません。

事業と直接的に関係のない費用

開業前の費用でも、事業と直接的な関係のないものは開業費として計上できません。例えば、個人的な生活費、趣味の出費や家族の衣食住に関連する支出は開業前も開業後も必要経費に算入できません。

開業前の仕入

開業前に棚卸資産(在庫)として購入したものについて、開業費で計上はできません。これらはあくまで「棚卸資産」として計上されるものであって、繰延資産の一つである開業費として計上することは認められません。実際の運用として、開業前に仕入仕訳を起票することは問題ありません。

開業費の仕訳方法

開業費の仕訳について例を挙げて順を追って見ていきましょう。

開業費となる支出があったとき

例)開業の2ヵ月前に、店舗オープンにつきチラシを作成した。この費用については開業費とすることとした。なお、支払は個人のプライベート口座からの引落しとした。

この場合、開業費として計上することが決まっていますが、支払日や領収書(内容・金額や支払先を確認のこと)を確認するのみとなります。証拠書類は保存します。

開業したとき

例)開業したため、先日の開業費について仕訳をするとともに、領収書の保管も確認した。(開業日から会計仕訳を開始することとしている)

借方貸方
開業費xxx,xxx円事業主借xxx,xxx円

開業時点で開業費として計上します。この時点では貸借対照表に表示されるのみで費用化されていないため、費用化の判断は決算時に行うこととします。

決算のとき(確定申告時に決算書を作成する)

例1)開業費を来期以降の経費とする場合

開業年度ではなく、来期以降に償却することとした場合には仕訳はしません。貸借対照表上に「開業費」と残したまま決算をします。

例2)開業費の償却計算する場合

借方貸方
開業費償却yy,yyy円開業費yy,yyy円

5年で均等償却することとした場合には、期間の月数に応じて開業費を償却します。

例えば、第1期が10月始まりであった場合には、最初は3ヵ月しかないため、月数に当期の3ヵ月を入れ、次のように償却費計算をします。

開業費償却 = 開業費の額 ÷ 5(年) × ( 月数 ÷ 12(ヵ月) )

また、任意の額で償却をする場合には、開業費の額以下の金額を償却します。

開業費の償却で節税効果も

開業費として計上したものは、翌年度以降において「支出のない経費」となります。したがって、固定資産の減価償却と同じような効果が生まれます。

つまり、所得が多い年度において任意償却により費用化することによって節税対策として利用できるということです。任意償却は特例的な取り扱いなので、一つの出費に対して原則的な償却をしたり、任意償却にしたりと、途中で変えることはできません。

国税庁のサイトでは高額な開業費の任意償却の照会例がありますが、どの繰延資産でもこのような節税が得られるわけではないため注意しましょう。

参考:償却期間経過後における開業費の任意償却|国税庁

開業費を償却する方法

固定資産やソフトウェアと異なり、繰延資産を計上することは事業を行う上でもあまり多くありません。

しかし、開業費などの繰延資産を正しく認識できるようなしくみを持っておくことが、節税にもつながるため、下記の方法などを参考にしてください。

領収書を捨てずに保管する

開業前においても、事業に必要と思われる領収書、請求書類は保存しておくようにしましょう。電子取引の場合は電子データをいつでも確認できるようにしておくことです。

領収書などは捨ててしまうと、再発行をしてもらうことが難しいケースもあるため、後になって困らないように、開業前でも日付や種類別に領収書類を保管しておきましょう。

仕訳帳で管理する

会計記帳ができる状態であれば、先に会計仕訳を起こしておけば忘れません。貸借対照表を確認したときに「開業費」として表示されていれば、確定申告時において忘れることはないでしょう。

ただし、仕訳をするにあたっては開業費になるものとならないものの峻別を忘れないようにしましょう。

減価償却資産台帳に記入する

会計記帳だけでなく、開業前から減価償却資産台帳を備えている場合においては、開業費を減価償却資産の一つとして記入しておいてもよいでしょう。開業前に固定資産を取得することはよくあるため、取り扱いやすいかもしれません。

ただし、一般の固定資産と異なるため、分別できるようにしておく必要があります。

開業前から開業費を意識しよう!

個人事業主においては、会計を開始するのは開業後であることが多いでしょう。したがって、領収書の保管なども開業後でよいような気になりますが、「開業費」の存在を忘れないようにすることが大切です。

すなわち、開業前から事業に直接必要なものについては敏感になり、証拠書類の適切な保存をしておきましょう。その際、電子取引であれば、電子データの保管も必要となります。


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