• 作成日 : 2025年1月10日

一般社団法人の事業承継の方法とは?メリット・デメリット、進め方を解説

一般社団法人の事業承継には、3つの方法があります。それぞれでメリットが異なるため、自社にあった方法を選ぶことが大切です。

本記事では、一般社団法人の事業承継の方法やメリット・デメリットについて解説します。あわせて、一般社団法人の事業承継について相談・依頼できる専門家についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。

一般社団法人の事業承継の特徴とは?

一般社団法人における事業承継の特徴について解説します。一般社団法人とは、一定の目的のもとで活動する法人のことです。営利を目的としない法人のため、非営利法人に分類されます。

営利目的でない非営利法人であっても、法人の事業において利益を上げることは認められているため注意しましょう。ただし、事業で得た利益を法人の構成員に分配することは認められていません。

非営利法人のため、持分がない

一般社団法人は、非営利法人のため持分が存在しないことが一般社団法人の特徴です。株式会社においては、株主が出資をすることで株式という持分を取得することになりますが、一般社団法人においては持分や出資という概念がないため、一般社団法人に個人の財産を移転してもその財産は持分に変化しません。

財産が一般社団法人に移転した時点で、その財産は法人の財産になります。

持分がないため相続税を抑えられる

一般社団法人では持分がないため、相続税を抑えられる点も特徴のひとつです。一般社団法人では、理事に相続が発生して特定一般社団法人等に該当する場合、 相続税が課税されます。

特定一般社団法人等とは、一般社団法人または一般財団法人のうち、以下の要件のいずれかを満たすものです。

  • 相続開始の直前において、その被相続人にかかる同族理事の数の理事の総数に占める割合が1/2以上であること
  • 相続開始以前5年以内において、その被相続人にかかる同族理事の数の理事の総数に占める割合が1/2超の期間の合計が3年以上であること

特定一般社団法人等に該当しない場合は、持分がないため相続税が抑えられます。

株式の移転ではなく社員の交代で行われる

一般社団法人では持分の概念がないため、株式の移転ではなく社員や理事、評議員を交代するだけで事業承継を行えます。社員や理事、評議の交代とは、一般社団法人の社員総会の議決権を有する社員や役員である理事、一般財団法人の評議員会の議決権を有する評議員を交代することを指します。

一般社団法人の事業承継の3つの方法とは?

一般社団法人の事業承継の方法として考えられるのは、以下の3つの方法です。

  • 役員・理事・社員の交代
  • 事業譲渡による方法
  • 合併による方法

それぞれの方法を詳しく見ていきましょう。

役員・理事・社員の交代

前述したように、一般社団法人では持分の概念が存在しないため、社員や理事、評議員を交代するだけで事業承継を行えます。それぞれの交代は簡易な手続きで行えるため、時間や費用を抑えられる点がメリットです。

事業譲渡による方法

事業譲渡による方法もあります。事業譲渡とは、他の会社に事業の全部(または一部)を譲渡することです。事業譲渡では、法人の事業や資産・負債から譲渡するものを選択できるため、不要な資産や簿外債務を引き継ぐリスクを回避できます。

一方で、引き継ぐ資産や負債ごとに手続きが必要となるため、手続きに手間がかかる点はデメリットです。

合併による方法

一般社団法人の事業承継では、合併による方法もあります。合併とは2つ以上の会社が1つの会社に結合されることです。合併には、以下の2つがあります。

  • 新設合併:新たに統合先の会社(新設会社)を設立して、すべての会社(消滅会社)の権利義務を承継させる方法
  • 吸収合併:合併後も残る会社(存続会社)に、消滅する会社(消滅会社)の権利義務を承継させる方法

合併による事業承継のメリットは、以下のとおりです。

  • 経営基盤が強化され、事業の安定性や継続性が高まる
  • 事業の効率化が進む
  • コストの削減につながる
  • 新たな知識や技能を持つ人材を獲得できる

合併による事業承継のデメリットには、以下のようなものがあります。

  • 手続きに時間やコストがかかる
  • 統合をうまく進められないと、風土の違いなどによって人材流出のおそれがある

一般社団法人における合併では、以下の2つの選択肢が考えられます。

  • 一般社団法人同士で合併する
  • 一般社団法人と一般財団法人で合併する

合併において新設会社となれるのは、一般社団法人同士の場合は一般社団法人、一般社団法人と一般財団法人の場合はいずれかの種類の法人です。なお、一般社団法人と一般財団法人における合併において一般社団法人が活動資金調達のために基金を設定している場合、合併契約日までに基金全額を返還していないと一般社団法人が新設会社になる必要があります。

一般社団法人を事業承継するメリット

一般社団法人を事業承継するメリットを紹介します。主なメリットは、以下の5つです。

  • 事業の存続や経営の強化ができる
  • 残余財産については分配ができる
  • 相続税・贈与税を抑えられる
  • 事業承継のコストが低く抑えられる
  • 個人が破産しても法人に影響を受けない

事業の存続や経営の強化ができる

事業譲渡によって、事業の存続や経営の強化ができることはメリットです。事業譲渡や合併を選択すれば、引き継いだ事業を迅速に展開できるほか、経営基盤が強化されて事業の安定性や継続性が高まります。

残余財産については分配ができる

残余財産の分配ができることも、メリットのひとつです。残余財産とは、法人が解散する際に残った資産のことです。一般社団法人では利益を分配できませんが、残余財産については会社を精算時に社員総会の決議で分配できるようになっています。

そのため、事業承継すれば残余財産の分配が可能です。

相続税・贈与税を抑えられる

相続税や贈与税を抑えられる点も、事業承継するメリットです。特定一般社団法人等に該当しなければ、持分がないため相続税が抑えられます。

事業承継のコストが低く抑えられる

一般社団法人では役員・理事・社員の交代だけで事業承継が可能です。変更には特段の資金を必要としないため、事業承継のコストを抑えられる点もメリットといえます。

個人が破産しても法人に影響を受けない

一般社団法人には倒産隔離機能があるため、個人が破産しても法人に影響はありません。倒産隔離機能とは、対象となる財産が当事者の倒産や信用不安から守られる仕組みです。

個人が株主の場合は、破産すると株式が破産財団に含まれてしまいます。しかし、株式を一般社団法人に移転していれば、その株式は一般社団法人の財産となるため、破産の影響を受けません。

一般社団法人を事業承継するデメリット

一般社団法人を事業承継するデメリットを紹介します。気をつけたい主なデメリットは、以下の3点です。

  • 利益の配当を受けられない
  • 役員の任期が最長2年と短い
  • 制度の改正リスク

利益の配当を受けられない

デメリットの1つが、利益の配当を受けられない点です。一般社団法人は非営利法人に分類されます。法人事業で利益を得ることは認められていますが、利益の配当はできません。そのため、出資者である社員に配当金を出さないように注意しましょう。

役員の任期が最長2年と短い

一般社団法人では役員の任期が短いこともデメリットのひとつです。株式会社であれば役員任期を最長10年に設定可能ですが、一般社団法人では理事の任期が最長でも2年と短いため、役員変更登記を頻繁に行わなければなりません。変更に手間がかかる点はデメリットといえます。

制度の改正リスク

一般社団法人は比較的新しい制度のため、制度の改正が行われる可能性があることにも注意が必要です。以前は、一般社団法人に財産を移しても、相続税が課税されませんでした。しかし、制度改正により前述した要件に該当する場合は課税対象へと変更になっています。

今後の税制改正でも、一般社団法人の課税が厳格になる可能性があることは、あらかじめ頭に入れておく必要があります。

一般社団法人の事業承継の進め方

一般社団法人の事業承継の進め方は、以下のとおりです。

  1. 事業承継に向けた準備を行う
  2. 経営状況・経営課題を可視化する
  3. 事業承継に向けた経営改善に取り組む
  4. 事業承継計画を策定する
  5. M&A等のマッチング実施
  6. 事業承継・M&Aの実行

事業承継を円滑に進めるためには、早めの準備が欠かせません。後継者が会社の運営をうまくできるようになるまで、時間をかけ準備を進めていくことが重要です。

次に現在の経営状況・経営課題を洗い出しておきましょう。円滑な事業承継において、経営課題は障壁となります。解決できる課題は早めに改善できるようにすることが大切です。

続いて、事業承継に向けた方向性や目標を事業承継計画書にまとめていきます。具体的な時期を決めて具体的な目標設定を盛り込んでおくようにしましょう。事業承継において、第三者へ承継する場合は、マッチングのためのM&A仲介機関選定や譲渡条件の検討も重要なステップです。承継相手が決まれば、決定した条件にもとづき譲渡を行います。

事業承継は長期間に及ぶことが想定されるため、必要に応じて計画の修正を行いつつ進行していきましょう。

一般社団法人の事業承継について相談・依頼できる専門家

一般社団法人の事業承継について相談・依頼できる主な専門家を紹介します。

事業引継ぎ支援センター

事業引継ぎ支援センターは、中小企業庁が設置している事業承継の相談機関です。事業承継の無料相談のほか、譲渡・譲受事業者間のマッチング、事業承継セミナーや研修の実施などを行っています。事業引継ぎ支援センターは、事業承継に対してどう動けばよいのかわからない最初の一手としておすすめの機関です。

商工会議所

商工会議所では、後継者不足などに悩む中小企業者への事業承継や引継ぎ支援を行っています。相談は基本的に無料で行え、事業承継に関してのさまざまな専門家に相談できる点がメリットです。

一方、事業承継に関する情報を得られるものの、事業承継を進めるうえで必要な具体的な相談には不向きです。あくまで相談ベースで話をする際におすすめの窓口となります。

中小企業診断士

事業承継や経営に関してのアドバイスを求める場合におすすめなのが、中小企業診断士です。中小企業診断士は国家資格で唯一の経営コンサルタントに関する資格で、中小企業経営を対象に事業承継や経営戦略についての支援・アドバイスを行っています。

中小企業診断士から受けられる、事業継承に関する具体的な支援内容は以下のとおりです。

  • 事業承継についての支援
  • 事業承継に関する経営診断

どの手法で事業承継すればよいのか、自社の抱える問題点は何なのかといった、具体的な相談ができます。

一般社団法人の事業承継におけるメリット・デメリットを理解しておこう

一般社団法人の事業承継では、役員・理事・社員の交代や事業譲渡、合併の3つの方法があります。それぞれでメリット・デメリットが異なるため、自社にあった方法を選ぶことが重要です。

一般社団法人を事業承継するメリットとしては、事業の存続や経営強化になるほか、相続税・贈与税を抑えられる、事業承継のコストを抑えられるといったものなどがあります。いっぽうで、利益の配当を受けられなかったり、役員任期が短かったりする点などはデメリットです。

適切な方法を選択できるように一般社団法人の事業承継におけるメリット・デメリットを理解しておきましょう。


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