- 作成日 : 2025年1月23日
【目的別】店舗開業の助成金・補助金まとめ!条件や期間に注意
店舗開業の助成金・補助金は、新規事業の立ち上げや経営改善を支援する制度です。ただし、開業前の準備段階では利用できない制度が多く、実際の申請には開業後の実績が求められます。
本記事では、開業時に利用可能な融資制度から、開業後に申請できる助成金・補助金まで、目的別に詳しく解説します。
目次
店舗開業時には助成金・補助金を利用できない
店舗開業時に助成金や補助金を開業資金として利用することは、基本的に困難といえます。その理由は、ほとんどの助成金・補助金制度が申請時点で事業を開始していることが要件となっているためです。
つまり助成金・補助金は事前に資金を受け取れる制度ではなく、対象となる事業や取り組みを実施した後に、かかった費用の一部が支給される仕組みといえます。
さらに、申請から給付までには相当な時間を要するケースがほとんどです。そのため、開業時の初期費用として助成金や補助金は原則使えません。
助成金と補助金、融資との違い
助成金・補助金と融資は、事業者への資金提供という点では共通していますが、その性質は大きく異なります。融資は金融機関からの借入金で返済が必要ですが、助成金・補助金は返済不要な制度です。また、融資は先払い、助成金や補助金は後払いという違いもあります。
補助金と助成金については、違いを以下の表にまとめました。
区分 | 助成金 | 補助金 |
---|---|---|
主な管轄 | 厚生労働省 | 経済産業省 |
財源 | 雇用保険料 | 税金 |
目的 | 雇用・労働環境改善 | 事業支援・経済活性化 |
審査基準 | 要件を満たせば支給 | 競争的な審査あり |
助成金は主に厚生労働省が管轄し、雇用の安定や労働環境の改善を目的としています。一方、補助金は主に経済産業省が管轄し、新規事業支援や地域振興、産業の活性化が目的です。
審査などにも違いがあり、助成金は定められた要件を満たせば高い確率で受給できます。一方、補助金は厳格な審査があり、事業計画書の提出や面接審査を経て採択されるため審査難易度が高い傾向があるといえるでしょう。
また、助成金は通年で募集されているものが多いのに対し、補助金は募集期間が限定的で、数週間から数ヶ月程度のことが多く見られます。このように、助成金と補助金は目的や運用方法に大きな違いがあるため、事業者は自社の状況に応じて適切な制度を選択しなければなりません。
店舗開業時に利用できる融資や給付金
開業時の助成金や補助金活用は難しいですが、融資や給付金を活用するという方法もあります。
以下では、店舗開業時に利用できる融資や給付金を紹介します。
開業するための融資
日本政策金融公庫の「新規開業資金」は、一定の条件を満たしたうえで新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方を対象とした融資制度です。概要は以下のとおりです。
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 返済期間:設備資金20年以内、運転資金10年以内(据置期間5年以内)
- 金利:基準金利(固定金利)
新規開業資金は長期の返済期間や据置期間の設定が可能なため、創業初期の資金繰りに余裕を持たせられるメリットがあります。
女性・若者・シニア向けの開業資金の融資
日本政策金融公庫では、「新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」という特別な融資制度も用意されています。この制度の概要は以下のとおりです。
- 対象:女性、35歳未満の方、55歳以上の方
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 返済期間:設備資金20年以内(うち据置機関5年以内)、運転資金原則10年以内(うち据置期間5年以内)
- 金利:土地取得資金を除き、基準利率よりも低い金利(特別利率A)で利用可能
通常の新規開業資金よりも、有利な条件で融資を受けられる点が大きな特徴といえるでしょう。
参考:日本政策金融公庫 新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)
廃業から再チャレンジの開業資金
過去に事業失敗の経験がある方向けに、「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」があります。
- 対象:廃業歴等を有する個人または経営者が営む法人(一定の条件あり)
- 融資限度額:国民生活事業で7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 返済期間:設備資金20年以内(うち据置機関5年以内)、運転資金15年以内(うち据置機関5年以内)
- 資金使途:新事業に必要な資金(前事業の債務返済資金を含む)
利用には、廃業時の負債が新事業に影響を与えない程度に整理される見込みがあることや、廃業の理由がやむを得ないものであることなどの条件を満たす必要があります。
【目的別】店舗開業後に申請できる助成金・補助金
開業時には活用できなくても、開業後に役に立つ助成金や補助金は多くあります。代表的なものを紹介します。
チラシ・Webサイトの作成(小規模事業者持続化補助金)
小規模事業者持続化補助金は、販路開拓や業務効率化を目的とした取り組みを支援する制度です。通常枠では補助上限50万円で、補助率は対象経費の2/3となっています。賃金引上げに取り組む事業者向けには、補助上限200万円の特別枠も用意されています。
チラシやパンフレット、ポスターなどの広報物の制作費用に加え、ホームページやネットショップの制作費用も補助対象です。ただし、Webサイト関連費は補助金申請額の1/4までという上限が設けられており、通常枠の場合は最大12.5万円までとなっています。また、Webサイト関連費用のみの申請は認められていません。
店舗改装・リフォーム(小規模事業者持続化補助金)
店舗改装やリフォームについても、同じ小規模事業者持続化補助金を活用できます。ただし、単なる老朽化に対応するための改装は対象外で、販路開拓や生産性向上につながる改装が対象です。例を挙げると、店舗の視認性を高めるための外装工事や、顧客満足度向上のための店内レイアウト変更などが該当します。
申請にあたっては、商工会・商工会議所の支援を受けながら具体的な事業計画を策定する必要があります。補助金の交付までには申請から約1年程度かかる場合があり、かかった経費は先に負担する必要があるため、資金計画は慎重に立てることが重要です。
会計ソフトやITツール(IT導入補助金)
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者の業務効率化やDXを支援する目的の補助金です。2024年度の補助金制度では、通常枠で対象経費の1/2以内、補助上限額は5万円から450万円で、補助対象にはソフトウェア費用だけでなく、クラウドサービスの利用料(最大2年分)や導入に関連する費用も含まれます。
小規模事業者向けには、インボイス制度への対応を支援するための特別枠が設けられています。この枠では補助率が最大4/5、補助上限額は350万円まで引上げられます。
なお補助対象となるITツールは一定の要件を満たし、事前に事務局の審査を受けたものに限定されており、IT導入補助金の公式ホームページで確認可能です。
労務管理ソフトの導入(働き方改革推進支援助成金)
働き方改革推進支援助成金は、労務管理ソフトの導入を通じて労働時間の適正化や業務効率化を目指す企業を支援する助成金です。補助率は対象経費の3/4で、従業員30人以下の小規模事業者が30万円以上の投資を行う場合は4/5まで引上げられます。
導入効果として、勤務状況の可視化や集計作業の自動化による業務負担の軽減、管理職によるリアルタイムでの労働時間把握が実現できるでしょう。また、手作業による労務管理を省略化することで、従業員の業務負担も大幅に軽減されます。
非正規社員を正社員化した場合(キャリアアップ助成金)
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、有期雇用労働者や派遣労働者を正社員に転換した企業に対して支給される助成金です。2023年11月29日以降、支給対象期間が12ヶ月に拡充され、中小企業の場合は1人あたり80万円、大企業は60万円が支給されます。
さらに、1人目の正社員転換時には、正社員転換制度を新たに規定した場合は20万円(大企業15万円)が加算され、合計100万円(大企業75万円)の助成が受けられます。
なお、この助成金を受給するためには、事前にキャリアアップ計画書を都道府県労働局へ提出しなければなりません。
給与引上げや賞与の新設(キャリアアップ助成金)
キャリアアップ助成金の中には、有期雇用労働者(非正規社員)等の給与引上げや賞与制度の新設を行った場合にも助成金を支給するコースがあります。
「賃金規定等改定コース」では、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用した場合に助成金が支給されます。金額は中小企業の場合、3%以上5%未満の増額で1人当たり5万円、5%以上の増額で6万5,000円です。
また、「賞与・退職金制度導入コースでは、有期雇用労働者等に対して新たに賞与または退職金制度を設け、実際に支給や積立を行った場合、中小企業で40万円(賞与及び退職金制度を同時に導入した場合は56万8,000円)が支給されます。
非正規雇用労働者の処遇改善を促進し、企業の人材確保や生産性向上支援が目的の助成金です。
仕事と子育て・介護の両立(両立支援等助成金)
両立支援等助成金は原則として中小企業が対象で、従業員の仕事と育児・介護の両立支援に取り組む事業主を支援する制度です。育児に関しては、男性の育児休業取得を促進する「出生時両立支援コース」があり、育休を取得しやすい環境整備と実際の取得で最大20万円が支給されます。代替要員確保で最大45万円の加算も可能です。
この他にも「育児休業等支援コース」や「柔軟な働き方選択制度等支援コース」「不妊治療両立支援コース」などもあります。
介護に関しては、「介護離職防止支援コース」があり、介護休業の取得時と職場復帰時にそれぞれ30万円、介護との両立支援制度の利用で30万円が支給されます。
従業員のスキルアップや研修費用(人材開発支援助成金)
人材開発支援助成金は、従業員の職業能力開発やキャリア形成を支援する目的の助成金で、従業員の職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練を実施した事業主を支援する制度です。
4つのコースがあり、その中の「人材育成支援コース」では、職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練を実施した場合、中小企業は経費の45%(一定の要件を満たせば60%)と、訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
「人への投資促進コース」では、デジタル人材育成や自発的な能力開発のための訓練を実施した場合、経費の75%と訓練期間中の賃金が助成されます。ただし、このコースは2026年度までの期間限定です。
いずれのコースも、訓練計画の作成や事前の申請が必要です。また、訓練時間や対象となる従業員の要件など、詳細な条件が定められています。
喫煙室の設置(受動喫煙防止対策助成金)
受動喫煙防止対策助成金は、受動喫煙を防止するため、喫煙専用室の設置等を行う中小企業事業主を支援する補助金です。飲食店の場合は費用の2/3、その他の業種は1/2が助成され、上限額は100万円です。
喫煙専用室は、入口における風速が0.2m/秒以上で、壁や天井で区画され、煙が室外に流出しないような構造である必要があります。また、設置費用の経済的な目安として、1平方メートルあたり60万円が上限です。
新製品の開発・生産プロセスの改善(ものづくり補助金)
ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者の革新的な製品開発や生産プロセスの改善を支援する制度です。省力化のための設備投資では中小企業は1/2、小規模事業者は2/3の補助率で最大8,000万円まで支援を受けられます。
また、革新的な製品開発には最大1,250万円、海外展開を見据えた設備投資には最大3,000万円の補助が用意されています。いずれも付加価値額の年3%以上の向上が要件です。
65歳以上への定年引上げ(65歳超雇用推進助成金)
65歳超雇用推進助成金は、高年齢者の雇用促進のため、定年引上げなどに取り組む企業を支援する助成金です。65歳以上への定年引上げを実施した場合、企業規模に応じて支給額が決定されます。
中小企業の場合、対象となる60歳以上の従業員数と定年引上げ幅に応じて以下の支給額になります(65歳超継続雇用促進コース)。
従業員数 | 65歳まで引上げ | 66~69歳への引上げ:5歳未満 | 66~69歳への引上げ:5歳以上 |
---|---|---|---|
1~3人 | 15万円 | 20万円 | 30万円 |
4~6人 | 20万円 | 25万円 | 50万円 |
7~9人 | 25万円 | 30万円 | 85万円 |
10人以上 | 30万円 | 35万円 | 105万円 |
70歳以上への定年引上げの場合は、さらに高額の助成を受け取れ、対象人数に応じて30万円から105万円が支給されます。
【地域別】店舗開業後に申請できる助成金・補助金
地方自治体などが独自に提供している助成金・補助金もあります。ここでは東京都、神奈川県、大阪府、京都府を例に見てみましょう。
東京都
東京都では、商店街の活性化を目的とした開業助成金が用意されています。
- 若手・女性リーダー応援プログラム助成事業:女性または39歳以下の男性の創業者を対象に、店舗新装・改装工事費、設備・備品購入費・店舗賃借料などに最大844万円(助成率3/4以内)を助成
- 商店街起業・継承支援事業:性別や年齢を問わず申請可能で、店舗新装・改装工事費、設備・備品購入費に最大694万円(助成率2/3以内)を助成
これらの助成金は、東京都内の商店街で新規店舗を開業する際に利用でき、初期費用の負担軽減が期待できます。
参考:事業内容 | 都内商店街での開業助成金 東京都中小企業振興公社
神奈川県
神奈川県では、各市町村が独自の空き店舗活用支援制度を設けています。
- 横浜市:商店街空き店舗活用事業で、開業にかかる経費の一部を補助。上限50万円、補助率1/2
- 座間市:空き店舗活用事業で、上限50万円の補助金を交付
- 大井町:空き店舗対策補助金として、店舗の貸借料の一部を月額最大5万円補助
- 秦野市:空き店舗活用事業補助金制度で、改装費や賃借料、広告宣伝費の一部を最大72万円補助
参考:空き店舗活用事業|座間市ホームページ、空き店舗活用事業補助金制度 | 秦野市役所
大阪府
大阪府では、新たに事業を始める方や事業開始後5年未満の方を支援する制度や、有望な起業家に対する補助金制度があります。
- 開業・スタートアップ応援資金:融資限度額3,500万円、返済期間10年以内の融資制度。女性・若者・シニア・UIJターン該当者は金利0.2%引き下げ
- 大阪起業家グローイングアップ補助金:ビジネスプランコンテストの優秀提案者に対して支給、優勝者には上限100万円(補助率1/2)、準優勝者には上限50万円(補助率1/2)
参考:新たに事業を始める方、事業開始後まもない方を支援しています、大阪起業家グローイングアップ補助金の概要、大阪起業家グローイングアップ補助金 | 大阪府 | みんなの補助金コンシェルジュ
京都府
京都府では、起業や承継支援、またDX推進を支援する制度があります。
- 起業支援事業費補助金:京都府内で地域課題を解決する社会的事業を起業する者や新たに事業承継または第二創業する者に対し、上限200万円(補助率1/2以内)を助成
- 京都市商店街等キャッシュレス・DXチャレンジ支援事業補助金:商店街や商業団体のキャッシュレス化・デジタル化の取り組みに対し、上限100万円(補助率1/2)を補助
参考:起業支援事業費補助金/京都府ホームページ、補助金事業のご案内 | 京都市小売商総連合会
助成金・補助金はよく調べたうえでうまく活用しよう
店舗の開業には、大きな資金が必要です。近年はさまざまな助成金・補助金制度があるものの、そのほとんどは開業時の活用は難しいのが現状です。
開業時には給付金や融資を、開業後に助成金や補助金を利用するのがいいでしょう。なお助成金や補助金は種類が多く複雑なものもあるため、必要があれば商工会議所などの相談窓口なども活用することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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