- 更新日 : 2024年9月3日
株式の贈与契約書とは?テンプレートを基に作成方法や書き方を解説
贈与契約書は、自分の持つ財産を特定の人物に贈与するときに作成する書類です。しかし、その財産が会社の株式、とりわけ非上場株式だった場合は、契約前にいくつかの手続きが必要になります。この記事では株式贈与の特殊性、上場株式と非上場株式における手続きの違い、株式贈与契約書のテンプレートおよび作成時の注意点、印紙税の要不要などについて解説します。
目次
株式贈与とは?
「株式」は投資信託も含め、不動産や預貯金同様に個人の財産であり、相続の対象になります。自己の財産であれば贈与は自由なはずであり、株式においても会社法127条で「株式譲渡自由の原則」がうたわれています。
しかし実際には、大部分の株式会社は自社株式の持ち主に対し、自由な贈与や譲渡に制限をかけているのです。
株式贈与とは
「贈与」とは、ある人が自己の財産を無償で相手方に与え、相手方がこれを受諾することで効力を発する法律行為です(民法第549条)。したがって、株式贈与は「自己の株式の所有権を対価なしで相手方に移転する行為」となります。
「株式」とは、株式会社が自社への出資金を得るために発行する有価証券(財産的価値のある証券)であり、株主(株式の持ち主)は保有する株式の数(出資金の額)や株式の種類に応じて一定の権利を当該会社に行使することができます。会社法上、株主は会社の「社員」となるため、会社は社員の利益、すなわち業績を上げて株価を高めることを求められるのです。
発行数に対し一定の割合以上の株式を有する株主は、訴訟を起こして経営陣の責任を問うたり、さらに保有株式を増やして会社の買収(経営権の支配)を試みたりすることが可能です。
そのため、会社としてはこのような危険を避け、安定した経営を継続する必要があります。株主譲渡自由の原則があるものの、日本のほとんどの企業が定款により、自社の株式の譲渡に制限を設け、知らぬ間に株式が自社の把握しない人物に移転することを防ぐようにしています。いわゆる譲渡制限株式です。
したがって、譲渡制限付株式を贈与する場合には、譲渡制限を解くために会社に対し、株式譲渡の申請をしなければなりません。会社側が株主総会なり取締役会でなり、譲渡承認を決定して初めて贈与が可能となります。
一方で、上場企業の場合には、株式の贈与をする際に会社の承認は不要であり、株式を預けている証券会社に、贈与する旨を申し出て手続きを行えばよいです。
ちなみに、日本の企業数のうち99.7%が中小企業であり、ごく一部を除いて非上場株式となっています。上場企業のほとんどが大企業なのは、市場で株式がある程度取引されても会社の基盤が揺るがないからです。
株式贈与以外の株式譲渡手段
贈与は無償が原則ですが、譲渡は無償、有償両者の意味を含みます。したがって、贈与以外の株式譲渡手段としては、株式売買が考えられます。
上場企業の株式であれば、公開取引市場において当日の売値で簡単に売る(譲渡する)ことができます。
非上場企業の場合は、贈与と同様に、まず会社に譲渡承認申請を行います。贈与と違うのは、会社の承認が得られた後に、会社と株式の譲受者とで株式の売買価格について協議することです(会社法第144条)。協議にて、価格が決定し、株式譲渡が成立すれば、会社が株主名簿を書き換えて譲渡手続き終了となります。
また、有償での譲渡を会社が承認しないときには、株主は会社に買い取ってもらうか、あるいは会社から他に買い取ってくれる人を紹介してもらうことを請求できます。
株式相続との違い
相続とは、亡くなった人の法律上の権利義務が他の人に移転することです。
そのため、贈与や譲渡のように財産を有する者の意思でなく、その者が亡くなると同時に開始されます。法定相続人が複数いる場合、相続人たちで被相続人所有の株式を誰が相続するかを決める必要があります。
上場企業の場合であれば、証券会社に申し出て、相続人への株式名義変更手続きをすれば相続完了です。
一方、非上場企業の株式の場合は、相続においても会社の承認を必要とします。譲渡との違いは、会社側が相続人に対し、株式を会社に売り渡すことを請求できる点です(会社法174条)。株主がごく少数の小規模企業では、「誰が」株主であるかということが重要事項なため、このような規定があります。
譲渡制限と合わせ、売渡請求に関しても定款に記載されていることが多いです。したがって、非上場株式を相続する場合には、当該会社の定款を確認しておきましょう。
株式贈与契約書が持つ役割
贈与契約は、贈与者のみが債務を負う片務契約が原則ですが、受贈者の贈与を受ける意思が必要です。そして、当事者の意思が合致すれば口頭のみで成立する諾成契約であり、契約書がなくても効力は発生します。
とはいえ、財産の無償移転という重要な行為を口約束だけで締結している状態は、贈与者、受贈者双方にとって不安定です。そこで、贈与者は自分の意思で財産の贈与を行うこと、受贈者には当該財産を受け取ることの、証明および証拠書類として贈与契約書を作成しておくことが大切になります。
株式贈与の場合、贈与契約書の作成はさらに大きな役割を持つことになります。
まず、上場株式の贈与において、証券会社から必要書類として贈与契約書の提出を求められます。証券会社としては、贈与が受贈者に負担を負わない形であったとしても、受諾の意思が確認できる書類がないと、万一の場合に当事者同士の面倒に巻き込まれる危険があるためです。
非上場株式の贈与においては、会社の承認を得ることが必要なため、原則会社から契約書作成を求められることはありません。しかし、会社の承認を停止条件(ある条件が成就することで効力が発生すること)とした贈与契約書を作成しておくことで、当事者同士の意思を明らかにすることができます。
契約書に「契約締結後、両当事者で会社に譲渡承認の申請を行う」と記載して共同して申請を行うことを確認したり、譲渡承認がされなかった場合に贈与契約がどうなるかを決めておいたりすると安心です。
株式贈与契約書のひな形、テンプレート
こちらで株式贈与契約書のテンプレートを紹介しています。
このテンプレートでは贈与者、受贈者ともに株式会社となっています。贈与というと個人間契約というイメージがあるかもしれませんが、経営者が100%株式を保有している場合など、M&Aで経営権を移転するための手続きを簡単に済ませるため、法人間で株式贈与を行うことも少なくありません。
株式贈与契約書の書き方
一般的な贈与契約書に記載する事項は、以下の通りです。株式贈与契約の場合も変わりありません。
- 贈与者名
- 受贈者名
- 贈与する財産の特定
- 財産の移転する日
- 財産の移転手段
テンプレートでは、①甲が贈与者、②乙が受贈者として、③株式会社○○○○の普通株式○○株(さらに当該株式の記号番号を入れて明確に特定)を、④契約締結日に⑤権利移転されることを甲乙が確認する流れとなっています。
なお、贈与者が一人株主であり、定款で譲渡承認の方法が株主総会の決議となっていれば、贈与契約書作成≒譲渡承認となるため本テンプレートの内容で問題ありません。しかし、株主が複数いたり、取締役会で譲渡承認決議を行う規定になっていたりする場合は、株主総会または取締役会において譲渡が承認された旨を追記しておいた方が安心です。
株式贈与契約書の作成ポイント
株式贈与契約書は特定の株式が両当事者間の合意により贈与されることの証明として作成するものです。せっかく作成するのであれば、贈与者、受贈者がそれぞれ記名押印し、証拠能力を高めておきましょう。契約書作成日も忘れずに記入します。
押印は贈与が個人でも会社間でも認め印で問題ありません。実印でも構いませんが、その場合は印鑑証明書と共に保管しておくことで証拠能力を強めることができます。
また、株式贈与が会社経営の重要な局面で行われるのであれば、契約書作成の確定期日を取得する、あるいは契約書を公正証書で作成して、より証拠能力を強化しておくことも考えられます。
なお、株式贈与契約書に収入印紙を貼る必要はありません。贈与は原則として無償であり、取引の対価、すなわち契約金額がないものとされるからです。
株式贈与契約書は、贈与が実行される(株主名簿の記載変更が完了する)まではもちろん、実行後も、当該株式の取得が当事者同士の意思の合致であることを第三者に証明する書類となります。また、贈与税申告時にも必要なため、大切に保管しておきましょう。
株式贈与をする手順や流れ
保有する株式を贈与する手順を、株式が上場、非上場の場合で分け、おさらいしておきましょう。
上場株式の場合
- 株式の持ち主(贈与者)が受贈者に自己の株式を贈与することを約束し、受贈者が受け取りを承諾したことを互いに確認する。
- 株式贈与契約書を作成する。
- 贈与者が証券会社に自己の株式を贈与する旨を申し出る。
- 贈与者が契約書その他株式贈与に必要な書類を証券会社に提出する。
- 必要書類が整えば、証券会社が株主の変更手続きを行う。
非上場株式の場合
- 上場株式同様、贈与者と受贈者の意思の合致を確認する。
- 当該株式の発行会社に、譲渡(贈与)の承認を求める。
- 株式発行会社は定款に基づき、譲渡の承認または不承認の決議を行う。
- 譲渡が承認されれば株式贈与契約書を作成する。
- 発行会社が株主名簿の書き換えを行う。
※契約書の内容によっては、④の契約書作成が①と②の間に入ります。
非上場株式を贈与する際は譲渡制限に注意
非上場株式の贈与は当事者同士の意思合致だけでなく、株式発行会社の譲渡承認を得なければ行えません。非上場企業では、知らぬ間に自社の株式が把握していない人物に渡ることを防ぐため、その譲渡に制限をかけているからです。会社の承認が得られない場合、贈与者は会社に株式を買い取ることなどを請求できますが、受贈者への贈与ができなくなります。
株式贈与契約書を作成する際は、以上のことに十分留意するようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
創立費・開業費とは?それぞれの違いと仕訳方法について解説
「創立費」、「開業費」という勘定科目をご存じでしょうか。会社を設立すると、当然ながら会計帳簿に日々の取引を記帳する必要があります。会社を設立して最初に記帳する(仕訳を起こす)勘定科目は、この2つのどちらかである場合が多いのではないでしょうか…
詳しくみる年収200万円の個人事業主の税金はいくら?住宅ローンの審査についても解説!
個人事業主で年収200万円の場合、所得税・住民税はいくらかかるのでしょうか?家の購入を検討している方は、住宅ローンの審査も気になるでしょう。本記事では年収200万円の個人事業主が支払う税金の計算方法や青色申告特別控除などの節税対策、ローン審…
詳しくみる【会社設立後の手続き税務編】税務署・自治体で行う6つの手続きと必要書類
会社設立の手続きは設立登記までで終わりではありません。設立後も税務関係、社会保険関係、労働保険関係の手続きが残っています。税務関係手続きは主に税務署で行いますが、地方税に関しては自治体への届け出が必要です。ここではこの会社設立後の税務関係の…
詳しくみる取締役の辞任届とは?ひな形を基に書き方や手続き、登記の変更を解説
取締役辞任届は、取締役がその立場を退くときに提出する文書です。書き方に法律上の決まりはありませんが、辞任したことの証明やその後のトラブルがないようにするには、辞任の意思表示と作成名義人、辞任の日などが明確化されている必要があります。 ここで…
詳しくみる個人事業主の事業承継の手続きは?必要書類や税金対策も解説!
「この事業を次世代まで継続させたい」と考える個人事業主が行わないといけないのが、後継者への事業承継です。事業承継の際には、廃業届や開業届、青色申告承認申請書の提出、屋号の引き継ぎなど、数多くの手続きがあります。所得税などの税金関連についても…
詳しくみる株式会社の定款変更に必要な手続きとは?費用相場や注意点も解説!
定款変更(目的変更) 株式会社において、会社の基本的なルールである定款の内容に変更があった場合には「定款変更」という手続きが必要となります。定款変更は、株主総会の特別決議が必要であり、事業目的や本店所在地、役員に関する事項などの変更について…
詳しくみる