• 作成日 : 2024年11月21日

事業承継にかかる費用は?相場や負担者、税金、補助金まとめ

事業承継にかかる費用は、事業承継の規模や承継先などで異なります。事業承継で必要となる費用負担を正確に予測するには、各費用項目をしっかりと把握しておくことが大切です。事業承継にかかる税金の種類や専門家に依頼した場合の費用相場、事業承継の費用負担を軽減する方法について解説します。

事業承継にかかる費用

事業承継にかかる費用は、事業承継の方法や承継する会社の規模で異なります。また、事業承継では財産の移動が伴うため、相続税や贈与税、登録免許税などの税金がかかる場合があります。

弁護士や税理士などの専門家に相談して事業承継を行う場合、M&A仲介業者を利用して事業承継を行う場合は、専門家や仲介業者への報酬も発生します。

事業承継にかかる税金の費用一覧

事業承継は、以下の税金がかかる可能性があります。

相続税

相続税は、経営者の財産を事業承継で相続する際に課される可能性のある税金です。相続税における相続人とは民法で定められた相続人と同じで、配偶者、被相続人(亡くなった方)の子(第1順位)、被相続人の父母や祖父母などの直系尊属(第2順位)、被相続人の兄弟姉妹(第3順位)のことです。民法に定める相続人が会社の株式を承継する場合などが、相続税が課せられるケースとして考えられます。

なお、以下の相続税の基礎控除額を超える正味の遺産額がある場合、相続税の課税があります。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

相続税は、以下の表のように超過累進課税です。

法定相続分に応じた取得金額(A)税額
1,000万円以下A×10%
1,000万円超から3,000万円以下A×15%-50万円
3,000万円超から5,000万円以下A×20%-200万円
5,000万円超から1億円以下A×30%-700万円
1億円超から2億円以下A×40%-1,700万円
2億円超から3億円以下A×45%-2,700万円
3億円超から6億円以下A×50%-4,200万円
6億円超A×55%-7,200万円

出典元:「No.4155 相続税の税率|国税庁」をもとに作成

例えば、相続する株式の評価額が5,000万円で、相続人が子1人の場合、基礎控除額は3,000万円+600万円×1人で3,600万円です。相続するものが株式のみであった場合、5,000万円から基礎控除額3,600万円を控除した1,400万円が課税対象です。

1,400万円×15%-50万円=160万円の相続税が発生することになります。

民法に定める相続人以外が相続をする場合、基礎控除額が適用されない、相続税が2割増しになる、などの注意点があります。

贈与税

贈与税は、個人間で資産を贈与(相続による贈与を除く)した場合に課される可能性のある税金です。

贈与税の基本は暦年課税です。1月1日から12月31日までの1年間のうちに、基礎控除額110万円を超過した贈与財産について贈与税がかかります。贈与税は一般贈与財産と特例贈与財産があり、特例贈与財産は18歳以上の者が直系尊属から贈与を受ける場合に適用されます。

一般贈与財産特例贈与財産
課税価格(A)税額課税価格(B)税額
200万円以下A×10%200万円以下B×10%
300万円以下A×15%-10万円400万円以下B×15%-10万円
400万円以下A×20%-25万円600万円以下B×20%-30万円
600万円以下A×30%-65万円1,000万円以下B×30%-90万円
1,000万円以下A×40%-125万円1,500万円以下B×40%-190万円
1,500万円以下A×45%-175万円3,000万円以下B×45%-265万円
3,000万円以下A×50%-250万円4,500万円以下B×50%-415万円
3,000万円超A×55%-400万円4,500万円超B×55%-640万円

出典:「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁」をもとに作成

18歳以上の者が原則60歳以上の直系尊属から財産の贈与を受ける場合には、相続時精算課税制度を選択することが可能です。贈与者ごとに、2,500万円までを限度に、贈与税ではなく、相続額に加算して相続税の対象として計算できます。

なお、事業承継税制の改正により、贈与者および受贈者の対象者が拡大され、複数人から複数人への贈与が可能となりました。

法人税

法人税とは、法人が事業活動などで得た所得に対して課される税金です。法人に対する課税となるため、個人が個人に株式を譲渡する場合などでは法人税はかかりません。

法人が事業の全部または一部を他の法人に譲渡する場合、法人税が発生します。譲渡で得た利益は法人の所得の計算に含まれるため、法人税のほか、法人税以外の法人の所得にかかる税金などがかかるのです。

法人税の額については、法人の種類で異なります。普通法人(株式会社や合同会社など)の場合、法人税率は原則として23.2%です。

消費税

消費税とは、商品やサービスの提供に課される税金であり、事業譲渡によって事業者が有する資産を他の事業者に移転する場合に発生します。なお、株式譲渡は消費税の非課税取引に位置付けられているため、基本的に消費税が発生することはありません。

登録免許税

登録免許税とは、不動産の所有権や建物の所有権、会社の設立、会社の組織変更などについて登記する場合に課される税金のことです。登記とは、公の帳簿に詳細を記載し、公開することを指します。財産である土地や建物などの不動産は、登記することにより、権利関係を公に示すことが可能です。

事業承継により土地や建物を取得する場合で、不動産の所有者が変更になるときは、所有権の移転登記が必要です。例えば、土地や建物を贈与や交換などにより取得した場合は不動産価額の2.0%、相続や法人の合併などにより取得した場合は不動産価額の0.4%の登録免許税が発生します。

ただし、計画認定を受けることで、事業承継税制により、合併であれば0.2%、分割であれば0.4%まで、登録免許税が軽減されます。

不動産取得税

不動産取得税とは、被相続人の死亡による相続を除き、土地や建物を取得した場合に課される税金です。事業承継で不動産を取得した場合に課される可能性が生じます。

不動産の評価額に対する不動産取得税の税率は、土地や住宅が3%、住宅以外の家屋が4%です。不動産取得税にも、登録免許税と同様に事業承継税制による軽減措置があり、計画認定を受けた場合は税率の6分の1相当の減額があります。

事業承継を専門家へ依頼した場合の費用相場

事業承継を専門家へ依頼する場合にかかる費用は、依頼する内容や難易度によってケースバイケースです。主な専門家に依頼する場合の費用感について紹介します。

税理士に依頼

税理士は、税務の専門家です。事業承継については、自社株の評価額の計算、相続税評価額の計算、相続税や贈与税などの申告を中心とした依頼が考えられるでしょう。税理士事務所によっては、経営計画や組織再編計画や事業承継税制の報告書の作成などに対応している場合もあります。

自社株や相続税の評価額の計算は、おおよそ数十万円からが相場です。経営計画や事業承継税制の報告書など、総合的にサポートを依頼する場合は、数百万規模で費用が発生する可能性があります。

弁護士に依頼

弁護士は法律の専門家です。相続時のトラブルを防止するためのサポート、株式承継のサポート、事業承継に関する契約書作成のサポートなどを中心とした依頼が考えられます。

弁護士に依頼する場合にかかるのが、相談料、着手金、成功報酬、実費(収入印紙代など)です。相談料は数千円から数万円が相場で、弁護士事務所によっては無料で相談を受けている場合もあります。着手金や報奨金は、事業承継の規模に応じて変動する費用です。成功報酬の場合、取引の10%程度が相場で、費用の総額が数千万円規模になることもあります。

M&A仲介会社に依頼

M&A仲介業者とは、企業の合併や買収の仲介をする業者のことです。M&Aの候補先の提案、企業価値の算定、M&Aの候補先との交渉、契約書の作成などを中心とした依頼が考えられます。

M&A仲介業者の報酬は、完全成果報酬型であることが多く、M&Aが成功したときに費用負担が発生します。報酬はM&Aの規模の数パーセント程度で、数十万円から数百万円、規模の大きい事業承継では数千万円に及ぶ可能性があるでしょう。

承継先の違いで異なる費用

事業承継先別に、発生する税金や費用面での注意点について解説します。

親族内承継

親族内で株式を贈与する場合は贈与税、相続により承継する場合は相続税がかかります。なお、親族内での事業承継の特徴は、従業員への承継などと比較してコストを抑えられることです。

例えば、相続の場合、事業承継者が被相続人の配偶者であれば、配偶者の税額の軽減を適用できます。1億6千万円または配偶者の法定相続相当額のいずれか多い金額について、配偶者に相続税が発生しません。

直系尊属からの生前の贈与による承継については、先述した相続時精算課税制度を選択できる可能性もあります。このように、相続税や贈与税にかかわる特例などを利用することで、特定の親族の事業承継を低コストで実現するのが可能です。

従業員承継

親族以外の従業員に事業承継する場合、株式の譲渡や贈与が主な方法です。贈与の場合、贈与を受ける後継者の贈与税の負担が発生します。譲渡(売却)による場合は、譲渡資金の準備が必要です。

従業員への承継の場合、株式の買い取りや贈与税の支払いについて資金的な面で問題が生じることがあります。事業承継を円滑に進めるには、従業員が資金を準備できるようなサポートが必要です。例えば、従業員が株式を取得するための会社を設立するなどの方法があります。また、相続税や贈与税の納税猶予制度を利用して、納税時期を繰り延べる方法も一つの手です。

M&A(第三者企業に承継)

第三者である企業に事業承継する場合、承継する企業につき、事業譲渡などで得られた利益に法人税などが発生します。また、第三者とのM&Aは、事業を譲渡したい企業と買い取りたい企業の仲介を行うM&A仲介会社を利用して行われることが一般的です。M&A仲介会社に支払う成功報酬などのコストもかかります。

事業承継の費用負担を軽減するには?

ここまで紹介したように、事業承継はまとまった資金が必要になる可能性があります。事業承継にかかる費用を軽減する主な方法としては、以下の方法が有効です。

  • 事業承継・引継ぎ補助金の活用
  • 事業承継税制の活用
  • 不動産取得税などの特例の利用

事業承継・引継ぎ補助金を活用する

事業承継・引継ぎ補助金は、事業再編や統合をきっかけに経営革新を進める中小企業や小規模事業者を支援する制度です。現在は申請受付期間が終了していますが、第7次~第9次公募では、経営革新、専門家活用、廃業・再チャレンジの3枠、第10次公募では専門家活用のみ1枠が設けられました(※2024年10月時点)。

経営革新枠は、事業承継などを契機に、事業を引き継いだ中小企業者が経営革新を行う場合の経費の一部を補助するものです。経営革新に投資する新たな設備の導入や販路開拓などにかかる費用の一部を補助します。親族や従業員への承継は「経営者交代類型」、M&Aによる承継は「M&A類型」による支援があります。

専門家活用枠とは、事業承継にあたり専門家に支払う報酬を補助するものです。仲介業者に支払う成功報酬や着手金、弁護士に支払う契約書作成費用やクロージングの手続き費用、各専門機関に支払うデューデリジェンス費用などの負担を補助します。

廃業・再チャレンジ枠は、M&Aで事業譲渡が実現しなかった中小企業や小規模事業者を支援するものです。移転・移設にかかる費用や廃業や事業清算にかかる専門家活用費用などを補助します。

事業承継にかかるコスト軽減や承継者の経営革新に役立つでしょう。なお、補助金のため、採択されないと補助を受けられないなどの注意点があります。事業承継・引継ぎ補助金の活用を検討する際は、最新の公募情報を確認しましょう。

事業承継税制を利用する

事業承継税制は、個人事業主や中小企業者の事業承継を円滑化するために設けられた制度です。法人版事業承継税制と個人版事業承継税制の2つあります。

法人版事業承継税制は、非上場の中小企業者における事業承継を対象とした制度であり、特例措置と一般措置の2つの制度があります。特例措置は、特例承継計画を事前に都道府県に提出することで、後継者が贈与により取得した株式などについて贈与税の猶予、または後継者が相続などにより取得した株式について相続税の猶予を受けられます。

一般措置では総株式の最大3分の2までの納税猶予が適用され、贈与では100%、相続では80%の猶予を受けられます。2018年4月から2026年3月末までは、一般措置に代わり、規制が緩和された特例措置の適用が可能です。特例措置では、全株式について、贈与・相続のいずれも最大100%、複数の株主から最大3名の後継者について納税猶予を受けられます。

個人版事業承継税制は、個人事業主における事業承継を対象とした制度です。青色申告を要件に、承継する事業用資産について一定の要件を満たすことで、贈与税や相続税の全額の猶予を受けられます。後継者が死亡した場合には、猶予されていた贈与税や相続税の納付が免除されるのが特徴です。

事業承継税制を活用することで、贈与税や相続税の支払いを猶予できます。

不動産取得税の特例を利用する

先述したように、不動産取得税の特例もあります。事業承継により権利が移転した不動産について、不動産取得税の6分の1を軽減する制度です。経営力向上計画を策定し、主務大臣から認定を受けた後に事業承継を実施することで、不動産取得税の特例を適用できます。

不動産登記などで必要な登録免許税についても同様の措置があり、認定事業再編計画や特別事業再編計画に従い事業承継による登記を行う場合は、本来の税率を軽減する特例を適用できます。

事業承継の費用は承継方法などで異なる

事業承継にかかる費用は、親族に承継するのか従業員に承継するのかなどで発生する税金や費用が異なります。また、専門家に依頼して事業承継を進める場合は、承継する事業の規模や難易度によって費用負担が変動します。事業承継のコストを試算するには、発生する税金や費用を把握することが重要です。事業承継・引継ぎ補助金などのコストを軽減できる制度もあるため、うまく活用していきましょう。


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