- 作成日 : 2017年9月19日
創業期の事業を「早く」「大きく」する『財務』のチカラ 4.事業投資が事業を「早く」「大きく」する
起業家は、「財務」を知ることで、もっと事業を発展させることができます。この連載では、起業家が創業からもつべき「財務」の視点・考え方について、シリーズでお伝えしていきます。第1回で「財務とは、事業資金の「調達」と「運用」のことである」と定義し、第2回、第3回で「調達」についてのお話をしてきましたが、今回は「運用面」について、お話をしていきたいと思います。「お金を使って、お金を増やす」という「事業投資」のお話になりますが、今回は多くの創業経営者が直面する「一人目の人員をいつ雇うのか」という話と絡めて、お話ししていきます。(執筆者:税理士・公認会計士 萩口義治)
目次
1人目の従業員をいつ雇うのか
創業支援を数多く手がける中で、創業経営者の大きなテーマとして、1人目の従業員をいつ雇うのかということが大きな悩みどころとなることが多いです。
創業期は、多忙なことが多く、経営者の時間はどうしても足りなくなります。その中で、自分の業務を手伝ってくれる人員がほしいのは山々なのですが、一方で、人員を雇用することでかかるコストの負担を受け入れられるかどうか、深い悩みです。
- 営業から業務まですべて自分一人でやっており、雇いたいのは山々だけど、売上がまだ十分ではない。
- 人を雇うと、固定で毎月数十万円の固定費が出てしまい、まだ怖い。
- 売り上げがどのくらい上がるのか、まだわからないから、怖い。
- 一緒にやりたいと言ってくれる人はいるが、まだ売上も十分でなく、どんな条件で雇えばいいか悩ましい。
- 仕事が入ってきたときだけ手伝ってほしいけど、常勤では雇いたくない。
- 営業を雇いたいけど、損はしたくないから成果報酬ベースでなら雇いたい。
などなど、創業経営者にとって、「人を雇う」ことの悩みはつきません。
ここで、事業投資の例として、人員投資に対するスタンスの異なる3名の社長を取り扱います。
そこで、A社長(慎重派)、B社長(中間)、C社長(積極派)の3人の経営の仕方を見ていきましょう。
前提2:1万円の売上を計上するのに、1時間の業務が必要。
前提3:社長が営業活動する時間の20%の売上が、翌月以降ずっと計上される。
慎重派のA社長
慎重派のA社長は、自分の時間の範囲で活動するため、とても堅実で2月からずっと黒字です。年間で、売上合計733、利益合計733となっています。一方でこのやり方だと、売上が月100を超えることはないとも言えます。リスクは少ないが、これ以上の状態も望めない。そんな状況です。
ここで、業務処理人員への投資についての前提を一つ追加します。
中間のB社長
B社長は、営業活動する時間を確保するために、業務をこなしてくれる業務処理人員への投資を行い、人件費を支払っています。その結果としては、売上合計1,320、利益合計924、とどちらもA社長を上回る業績を上げています。
さらに、営業人員への投資についての前提を一つ追加します。
積極派のC社長
C社長は、当初より営業人員と業務処理人員への投資を進めてきました。当初赤字でしたが、事業投資が功を奏し、3人の社長の中で、一番良い業績(売上合計1,980、利益合計1,146)を達成しています。
上記の3人の社長を見ると、同じ経済条件下において、「事業投資」へのスタンスによって業績面が変わってくるということがわかると思います。
お金を使って、事業を「早く」「大きく」する
ここで「お金を使う」というのは、売上や利益を増加させると期待される投資、すなわち人材投資や、設備投資、販促投資などの「事業投資」を意味しています。そもそも資本主義とは、お金を投資してお金を増やすというのが、根本の考え方であって、これは事業においても考え方としては同じです。事業投資をすることで、事業からの収入・利益を増やし、事業資金を増やしていくという考え方になります。上記の例は、事業投資の中でも「人員投資」を例にしていますが、広告投資、設備投資など、人員投資以外の事業投資についても、同様のことが言えます。
「事業投資」と「事業拡大」との関係
事業投資をすることによって、事業が「早く」「大きく」なるということについて、イメージしていただけたかと思いますが、ここで以下の3点について、確認してください。
- C社長が最初から有利な立場にいたわけではないこと。
- 当初3月までは、C社長の業績が最下位であること。
- 5月以降くらいから、投資のコストを上回る成果がでてきて、利益がA・B両社長を上回っていること。
事業を「早く」「大きく」するための、事業投資についての考え方は、
「事業拡大よりも、事業投資が先」
ということです。すなわち事業が大きくなって、お金がたくさん入ってきたから、事業投資をするのではなくて、お金が入ってくる前に事業投資をするから、その結果としてお金が入ってくるということです。
事例のC社長も投資する時点では、A社長と同じ状況で投資に踏み切り、当初はA社長やB社長よりも低い業績となりながらも、その先の投資回収によってA社長やB社長よりも多くの収益を生み出していることを確認しましたね。そして、この考え方の違いが、2年後、3年後はもっと、差が開いてくることになるということもわかるかと思います。
「事業投資」の重要性を理解しているか、いないかによって、そもそも事業成長のスピード自体が変わってしまいますので、A社長とC社長の距離は年々大きくなっていくということがわかると思います。
世の中には、
- 全然大きくならない事業と
- みるみる大きくなっていく事業
があるということは、皆様の周りをみていてもイメージできるかもしれませんね。
この違いの大きな要因となっているのは、
社長が持っている「事業投資」に対する考え方の違いが大きな要因となっていると私は考えています。
「事業拡大」と「事業投資」の順番をどう考えていますか?
1.事業投資をするから、事業拡大する
この考え方は、以下のようなスパイラルを生んで、結果として事業がどんどん大きくなっていくという流れになっていきます。
2.事業拡大したから、事業投資ができる
一方で、事業拡大するまでは、事業投資をせずに我慢し、事業拡大によって資金ができたときに事業投資をするという考え方も大いにあると思います。しかもこの考え方の方が、事業リスクは小さくなるかもしれません。しかし、事業投資をせずに事業拡大するのは、結構大変なのです。A社長の事例でいえば、仕事が受注し出すと、自分の時間の多くが業務処理に奪われていることがわかります。そうして、営業に時間がとれないので、追加の受注はどんどん受けづらくなっていきます。
このように、事業が大きくならない社長さんの考え方は、
お金が入ってきたらお金を投資したいけど、お金がないから、事業投資なんてできないよ…
というものです。そのような考え方の下では、事業が大きくなりにくく、大きくなるのに時間がかかります。
私は、事業を大きくすることが正しいとか、一人でやっていくことが間違っているとは言っていません。これは経営者さんの志向によって、経営者さんが自由に決めればいいことです。
私が言っているのは、事業を大きくしたいのであれば、事業投資を積極的に行うことで、事業は「早く」「大きく」なるということですので、その点はご理解ください。
- 事業投資をすることで、事業は「早く」「大きく」なる。
- 事業投資をするから、事業は拡大する。「事業拡大」より「事業投資」が先と考えるべし。
次回は、以下の内容を取り扱います。
- そうはいっても、事業投資にはリスクが伴う~リスクに対してどのように考えるべきか
- 「事業投資」と「資金調達」の関係~ないのに投資するために「資金調達」が必要だ
萩口氏執筆の他記事
創業期の会社を「早く」・「大きく」成長させる「財務」のチカラ
1.会社を救う「財務」って、何!?
2.資金調達って、どんな方法があるの?
3.あなたの事業は「融資」向き?それとも「出資」向き?
5.事業投資のリスクをどのように考えるべきか
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・マネーフォワード クラウド会計のデータを使って資金調達を効率的に – マネーフォワード クラウドファイナンス
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