- 作成日 : 2024年12月13日
介護サービスの資金調達方法は?調達先や融資通過のポイントを解説
介護サービス開業時の資金調達には、金融機関からの融資のほか、ファクタリングや補助金・助成金を活用する方法があります。介護事業を始めるにはまとまった資金が必要となるため、外部からの資金調達が有効です。
今回は、介護サービスの開業に必要な資金額や資金調達方法、融資審査を通過させるポイントなどを解説します。
目次
介護サービスで資金調達が必要になるケース
介護サービス事業において資金調達が必要になる場面は、おおまかに以下の3つが挙げられます。
- 開業時
- 事業拡大・設備投資をするとき
- 運転資金の確保
それぞれのタイミングでどのような費用が必要となるのか、詳しく見ていきましょう。
開業時
介護サービスを開業する際には、自治体で定められた介護支援事業者の運営基準をクリアするために、さまざまな費用がかかります。
- 法人格の取得費
- 介護事業所の指定申請費
- 人員配置基準を満たす人材を確保するための採用費
- 設備基準を満たすための設備費
「指定介護事業者」として自治体の認定を受けなければ、介護サービスの対価となる介護報酬を受け取れません。介護施設としての設備を整え人員を確保するには、まとまった資金が必要です。
事業拡大・設備投資をするとき
介護事業を拡大したいときや新たな設備を導入したいときにも、資金調達によって計画がスムーズに進められます。
たとえば、これまでは訪問介護を行ってきた事業所が事業拡大としてデイサービスも始めるとすると、以下のような費用が発生します。
- デイサービスの施設費(リフォーム費や初期費用)
- デイサービスに必要な設備費
- 送迎用の車両費
介護サービスを提供するための施設や設備には多額の費用がかかるため、自己資金ですべてを賄うのは難しいでしょう。
運転資金の確保
介護サービスで資金調達が必要となるケースには、事業が軌道に乗るまでの運転資金の不足も挙げられます。
介護サービスの収入源である介護報酬のうち、原則9割は介護保険から支払われます。実際に入金されるまでに2ヶ月ほどのタイムラグが発生するため、開業からしばらくの期間は収入をほとんど得られない状態で運営しなければなりません。
そのあいだの運転資金を確保するために、資金調達で手元に資金を用意しておくのが有効です。
介護サービスの開業に必要な資金額と内訳は?
介護サービスを開業するのに必要な資金額と内訳を具体的に見ていきましょう。
介護サービスを大きく分類すると、以下の2種類になります。
介護サービスの種類 | 概要 |
---|---|
訪問介護 | 介護員が利用者宅を訪問し、介護や生活援助を行う |
通所介護(デイサービス) | 利用者が施設に赴いて、日常生活の世話や機能訓練を提供する |
訪問介護は、利用者のための施設を用意する必要がないため、比較的少ない資金での開業が可能です。具体的な開業費用の目安は400万〜800万円です。
通所介護(デイサービス)の場合、施設の規模にもよりますが一般的には1,000万〜1,700万円程度となります。大規模な施設や回収が必要な施設であれば、数千万円かかる場合もあるでしょう。
開業に必要な資金の内訳を、初期費用と運転資金にわけて詳しく解説します。
初期費用
介護サービスの開業に必要な初期費用の目安を、項目ごとに表にまとめました。
費用 | 訪問介護 | 通所介護 |
---|---|---|
法人設立費 | 約10万~30万円 | |
指定申請費 (自治体によって異なる) | 約3万円 | |
施設の賃貸初期費用 | 約20万~60万円 | 約120万~240万円 |
設備・備品購入費 | 約30万円 | 約80万円 |
人件費(開業前の1〜2ヶ月分) | 約80万~190万円 | 約120万~250万円 |
車両代 | 約100万~300万円 | |
合計 | 約240万~610万円 | 約430万~900万円 |
介護サービスを開業するには、前述のとおり指定介護事業者の認定基準をクリアするために、法人設立や施設の整備などに資金が必要です。指定申請時に人員基準を満たす人材を確保しておくためには、開業前の人件費も見込んでおく必要があります。
設備の改修が必要であれば、さらに150万~500万円ほど必要でしょう。車両代はカーリースを利用すれば、初期費用は抑えられます。
運転資金
開業にあたり、運転資金は最低でも3ヶ月分は確保しておきましょう。
介護報酬が入金されるにはタイムラグがあるため、開業してから手元にお金が入ってくるまでに2~3ヶ月ほど時間がかかってしまいます。
運転資金として発生する費用には、以下のようなものが挙げられます。
確保すべき運転資金の目安として、厚生労働省の「令和5年度介護事業経営実態調査結果」から、施設ごとの毎月の支出平均をもとに、3ヶ月間の運転資金を以下にまとめました。
項目 | 訪問介護 (月の延べ訪問回数200回以下) | 通所介護 (月の延べ利用者数300人以下) |
---|---|---|
毎月の総支出 | 約66万円 | 約254万円 |
3ヶ月の運転資金 | 約200万円 | 約760万円 |
事業規模により必要な運転資金は異なるため、実際の収支をシミュレーションして必要な資金を確保しましょう。
介護事業が利用できる資金調達方法
介護サービス事業者が利用できる資金調達には、以下の5つの方法があります。
- 日本政策金融公庫からの融資
- 金融機関からの融資
- 福祉医療貸付制度
- ファクタリング
- 助成金・補助金
それぞれの特徴やメリットを詳しく解説します。
日本政策金融公庫からの融資
政府系の金融機関である日本政策金融公庫は、介護事業の立ち上げ時に活用しやすい金融機関です。
日本政策金融公庫は、融資において以下のような支援制度が利用できます。
- 若者、シニアなどの条件を満たせば金利が優遇される新規開業資金
- 保育や介護サービス事業者が対象のソーシャルビジネス支援資金
民間の銀行では審査に通りにくい実績のない法人でも、融資を受けやすいでしょう。無担保・無保証でも借り入れできる融資制度や、条件を満たせば1%台前半となる利率の低さがメリットです。
参考:日本政策金融公庫 新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)、日本政策金融公庫 ソーシャルビジネス支援資金
金融機関からの融資
資金調達方法として一般的なのが、民間の金融機関からの融資です。
民間金融機関の事業性融資は、比較的低い金利で、借入れ可能な上限額も大きいのが特徴です。しかし、開業したばかりの実績のない法人は融資を受けられない可能性もあります。
信用保証付き融資であれば融資が受けやすくなりますが、信用保証料が必要な点と、初めての利用であれば融資実行までに2~3ヶ月ほどかかる点に注意が必要です。
福祉医療貸付制度
福祉医療貸付制度は、国の福祉医療政策を推進するために、独立行政法人福祉医療機構が提供している融資制度です。
医療貸付制度と福祉貸付制度の2つに分かれており、福祉貸付制度では、介護施設や保育所、障害者施設などを運営する事業者が融資対象となります。
福祉医療貸付制度の特徴は、「長期・固定・低利」の融資を受けられる点です。全期間固定もしくは10年ごとの金利見直しの2パターンから選べ、固定金利であっても1%台の低金利で融資を受けられます。
参考:独立行政法人福祉医療機構 福祉医療貸付制度 融資のごあんない
ファクタリング
介護サービスの開業後には、ファクタリングを活用するとスムーズに資金調達できます。
ファクタリングとは、「介護報酬を受け取る権利=売掛債権」をファクタリング会社に売却し、売却した債権分を手数料を引いた現金で受け取るサービスです。
ファクタリングは資金の借り入れではないため、返済負担がないのが特徴です。審査も融資にくらべると通りやすく、短期間で現金化できます。
ただし、0.3〜2%ほどの手数料がかかるため、売掛債権の満額が現金化できるわけではありません。
助成金・補助金
助成金や補助金は、事業の拡大や雇用の促進などを支援するために、国や地方自治体から支給される資金です。返済が不要な資金として受け取れるため、資金繰りが厳しい開業時に積極的に活用したい制度といえます。
ただし、細かい受給条件や審査があるものも多く、申請にはさまざまな書類の提出が求められます。受給できるシーンやタイミングが限られていたり、申請から支給までに手間や時間がかかったりするのがデメリットです。
介護事業が利用できる補助金・助成金
返済不要な資金を手に入れられる補助金や助成金は、介護事業の資金調達としてまず検討したい方法です。補助金・助成金制度は数多く存在し、対象地域や時期によって利用できるものが変わってくるため、さまざまな制度をチェックしておくことが大切です。
ここでは、開業時と開業後のタイミングにわけて、いくつかの制度をご紹介します。
開業時に利用できる補助金・助成金
開業時に使いやすいのは、創業支援や設備導入に対する補助制度です。
名称 | 提供元 | 補助・助成上限 | 助成率 | 対象経費 |
---|---|---|---|---|
小規模事業者持続化補助金(創業枠) | 全国商工会連合会 | 200万円 | 3分の2 | 機械装置等費、広報費など |
創業助成事業 | 東京都中小企業振興公社 | 400万円 | 3分の2 | 賃借料、広告費、器具備品購入費など |
介護テクノロジー導入支援事業(令和6年度) | 厚生労働省 | 1,000万円 (介護現場の生産性向上にかかる環境づくりの場合) | 4分の3 | 介護ロボット、ICT機器(介護ソフト、タブレット端末等)など |
小規模事業者持続化補助金は、持続的な経営と販路開拓や生産性向上の取り組みをサポートする制度です。開業日から3年までであれば創業枠が利用できます。
創業助成事業は、東京都内での新規開業に対する支援制度で、創業予定の事業者でも申請可能です。
介護事業であれば、介護ソフトやタブレット端末といったICT機器の購入支援が受けられる介護テクノロジー導入支援事業も検討しましょう。
参考:全国商工会連合会 小規模事業者持続化補助金(一般型)、TOKYO創業ステーション 創業助成事業、厚生労働省 介護テクノロジー導入支援事業
開業後に利用できる補助金・助成金
開業後には、人材の雇用や育成を支援する制度が活用できます。
名称 | 提供元 | 補助・助成上限 | 対象経費 |
---|---|---|---|
トライアル雇用助成金 | 厚生労働省 | 対象者1人当たり 月額最大4万円 (最長3ヶ月) | トライアル雇用者の受け入れに対して助成金が支給 |
介護職員就業促進事業 | 東京都福祉局 | 対象者1人当たり 198万円 | 対象者への賃金、研修受講料 |
厚生労働省が提供するトライアル雇用助成金は、トライアル雇用の対象労働者を雇い入れた事業者に支給される助成金です。職業経験やスキルの不足から就労が困難な求職者を、常用雇用を前提に最長3ヶ月の試用雇用するあいだ、対象者1人につき月額最大4万円が支給されます。
介護職員就業促進事業は、資格をもたない人を新たに雇用し、介護職員初任者研修を受講させた事業者に対して、最大6ヶ月の有期雇用期間中の賃金が補助される制度です。東京都福祉局が実施する補助金ですが、各都道府県の自治体でも同様の補助金制度があります。
参考:厚生労働省 トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)、東京都福祉局 介護職員就業促進事業
介護事業が融資審査を通過させるポイント
融資を使って資金調達するには、融資審査において「事業の成功が見込める」と評価される必要があります。まだ事業の実績がない創業時の介護事業が、融資審査をクリアするための3つのポイントを詳しく解説します。
説得力のある事業計画書
金融機関からの融資を受ける際や、補助金の申請時などに提出を求められるのが事業計画書です。経営者の熱意や事業の将来性が伝わる事業計画書にするには、以下のポイントを抑えましょう。
- 創業の目的
- 経営者の実績や経験
- 現実的な収支計画
事業を始める目的が具体的で納得できるものであれば、経営者の熱意に説得力をもたせます。介護業界におけるこれまでの実績や経験、事業の明確な見通しをわかりやすくまとめることで、事業の将来性を評価してもらえるでしょう。
人材の確保
人手不足が深刻化する介護業界では、人材を確保できているかどうかも融資の可否を判断する1つの材料となります。事業に必要な人材を十分に集められることを伝えるために、以下のような情報を事業計画書に盛り込みましょう。
- 人員基準を満たせるだけの人員をすでに確保している
- 人員確保に向けた採用戦略を立てている
- 継続して働いてもらうための労働環境の整備に注力している
- 地元の介護業界での人脈が豊富である
人材の確保に問題がないとみなされれば、安定した事業運営が見込めると評価されるでしょう。
開業費の25%ほどを賄える自己資金
開業時の融資審査は、自己資金が多いほど有利になります。自己資金の多さは、「計画性をもって開業準備している」と判断され、創業への熱意が高いとみなされるためです。
たとえば、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」では、創業資金総額の10分の1以上を自己資金で用意することが融資の要件として定められています。開業費に対する自己資金の比率が、融資審査にも影響を与えるといえるでしょう。
また日本政策金融公庫の調査からは、融資を受けた開業後1年以内の企業では、開業時に調達した資金のうち、平均で約24%が自己資金であったことがわかります。
実際に融資を受けた企業が、平均で開業費用の約4分の1を自己資金で賄っていることから、目安としては開業費のうち25%ほどを自己資金で賄えるのが理想です。
効果的な資金調達で介護サービスの初期費用を賄おう
介護サービスを開業するには、施設費や設備の購入費、人件費などに多額の資金が必要です。介護保険から受け取る介護報酬は、入金されるまでに2ヶ月程度かかるため、少なくとも開業後3ヶ月程度の運転資金も用意しておかなければなりません。
介護事業が資金調達するには、日本政策金融公庫の融資やファクタリング、助成金・補助金などの方法が効果的です。事業に必要な人材やある程度の自己資金を確保したうえで、説得力のある事業計画書を作成すると、融資審査を有利に進められるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
介護事業で起業するには?開業までの手続きや必要な資格などを解説!
介護事業で起業するには、十分な事前準備が必要です。介護施設にはさまざまな種類があり、どの施設を選ぶかで準備する設備や人員、開業に必要な資金も異なります。 本記事では介護事業を開業する流れや必要な資格、費用など、介護ビジネスを始めるために知っ…
詳しくみる起業したいと思ったらやるべきこと、成功に必要な方法を解説
「自分でビジネスを立ち上げたい」「サラリーマンを辞めて独立したい」「温めていたサービスのアイデアを世に出してマーケットを作りたい」など、起業を目指す人は少なくありません。しかし、実際に起業する場合、何から始めればよいのでしょうか。特に初めて…
詳しくみる人材紹介会社を起業する方法は?必要な資金や準備について解説!
「起業を検討しているが、どの業界がよいのかわからない」という方におすすめなのが、「人材紹介会社」の開業です。その際に心配なのが、どのような準備が必要なのかという点ではないでしょうか。 そこで、今回は人材紹介会社開業について詳しく紹介します。…
詳しくみるシングルマザーの起業におすすめの仕事・職種は?失敗しない方法も解説
厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、日本における母子家庭の世帯数は119.5万世帯です。 母子家庭では母親が一人で仕事と家事・子育てを両立しなければならず、収入面や生活面でさまざまな不安を抱えている方が少なくあ…
詳しくみる起業・開業時におすすめの助成金・補助金まとめ
国や地方自治体による助成金や補助金には、起業や創業を支援する目的のものがあり、開業や起業を考えている人に役立ちます。代表的なのが、経済産業省による事業再構築補助金やIT補助金、厚生労働省によるキャリアアップ助成金、そのほか国や地方自治体によ…
詳しくみる会社設立や起業の相談先と無料相談窓口を徹底比較
個人事業主の開業と異なり、会社設立にあたっては法務局での登記が必要です。登記完了後も、社会保険への加入や法人の確定申告のための準備など、さまざまな手続きを行わなくてはなりません。必要な手続きを自分で調べて行うことも可能ですが、手間と時間がか…
詳しくみる