• 作成日 : 2024年8月19日

軽貨物運送で法人化すべきタイミングは?メリット・デメリットや必要な手続きを解説

軽貨物運送事業の法人化を検討すべきタイミングは、事業規模を拡大しようとするときと所得金額が増えたときです。事業が軌道に乗ると、売上や利益の増加を目指すのは自然なことであり、法人化はその方法の1つといえます。本記事では、軽貨物運送事業を法人化するタイミングやメリット・デメリット、必要な手続きや注意点について解説します。

軽貨物運送はいつ法人化すべき?

軽貨物運送事業の法人化を検討する上で押さえておきたいのは、個人事業主と法人の違いです。主な違いは、それぞれの所得にかかる税金の種類や税率であり、法人を検討するなら理解しておく必要があります。その上で、どのようなタイミングで法人化を検討すべきなのか見ていきましょう。

個人事業主と法人の主な違い

軽貨物運送における個人事業主と法人の大きな違いの1つが、所得にかかる税率です。それぞれの所得にかかる税金の種類と税率を見てみましょう。

〇個人の所得にかかる税金と税率

所得金額所得税控除額
195万円未満5%0円
195万円以上330万円未満10%97,500円
330万円以上695万円未満20%427,500円
695万円以上900万円未満23%636,000円
900万円以上1800万円未満33%1,536,000円
1800万円以上4000万円未満40%2,796,000円
4000万円以上45%4,796,000円

参考:国税庁 No.2260 所得税の税率

〇法人の所得にかかる法人税

資本金1億円以下の法人など年800万円以下の部分適用除外事業者以外の法人15%
適用除外事業者19%
年800万円を超える部分23.2%
上記以外の普通法人23.2%

参考:国税庁 No.5759 法人税の税率

個人であれば所得税、法人であれば法人税を納付する必要があり、所得金額によってそれぞれの税率は異なります。個人は累進課税であり、所得が大きくなるほど税率も上がります。一方で、法人はほぼ一定の税率であるため、ある程度の所得を確保できるのであれば法人化した方が節税となるケースもあるでしょう。

また、法人化することで社会的な信用度は高くなります。一方で、会社運営にかかる手間やコストが増えるという側面もあります。個人事業では不要であった事務作業も必要となるため、それぞれの違いを押さえて検討しましょう。

法人化を検討すべきタイミング

軽貨物事業の法人化を検討すべきタイミングは、主に以下の3つです。

  • 事業を拡大したいとき
  • 5人目以降を雇用したいとき
  • 所得が800万円を超えたとき

それぞれのタイミングについて、以下で詳しく見ていきましょう。

事業を拡大したいとき

事業規模をさらに拡大させたいという意識が高まったら、法人化することも視野に入れましょう。仲介業者を挟まず大手企業などと直接取引するには、個人事業主ではなく法人であることを求められる場合もあります。法人化することで、より幅広い客先からの仕事獲得が期待できます。

仕事を増やしたい、幅を広げたいという場合には、相応のノウハウや万一の事態に対応できる体制が必要です。業界内でいざというときに助けてもらえるような関係性ができていることや、不測の事態にも対処できるようなノウハウが蓄積されていることで、法人化によって事業を拡大させる手助けとなるでしょう。

軽貨物の黒ナンバーに加えて一般貨物の緑ナンバーも取得し、将来的に一般貨物事業にも進出したいという場合も、法人化を検討するよい機会です。早めに法人化しておくと、後々の事業拡大や進出がスムーズになるでしょう。

5人目以降を雇用したいとき

従業員を5人以上雇用する場合も、法人化に適したタイミングです。個人事業主でも従業員の雇用自体はできますが、4人までであれば社会保険に加入する義務はありません。しかし、5人以上雇用する場合は個人事業主であっても社会保険への加入が必要であり、従業員と折半して社会保険料を納付しなければなりません。

法人であれば、1人でも従業員がいる場合は社会保険への加入が必要です。いずれ法人化したいと考えている場合は、増員をきっかけに法人化してもよいでしょう。

所得が800万円を超えたとき

所得がコンスタントに800万円を超えるようになってきたときも、法人化を検討すべきタイミングです。事業所得が800万円を超えると、個人事業主に課される所得税よりも法人税の方が低くなります。

そのため、法人化した方が節税になる可能性があります。節税になるかどうかは一概にはいえないため、さまざまな状況から判断することが大切です。

軽貨物運送で法人化するメリット

軽貨物の運送事業を法人化するメリットには、以下のようにさまざまなものが挙げられます。

  • 社会的な信用が高まる
  • 節税が期待できる
  • 経費の範囲が広がる
  • 赤字の繰越期間が長くなる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

社会的な信用が高まる

法人化することで社会的な信用が高まり、仕事を受けやすくなったりカーリースで車を借りやすくなったりします。加えて、金融機関からの信頼も高まるため、融資に通りやすくなるというメリットもあります。

節税が期待できる

法人化することで、事業にかかる納税は個人の所得税ではなく、法人税として納めることになります。所得税は所得が多くなるほど税率も高くなる一方で、法人税はほぼ一定の税率であるため、所得が増えてくると法人化して法人税の納付を行う方が節税となる可能性があります。

経費の範囲が広がる

法人化することで、個人では経費にできなかった費用を経費に計上できるようになります。

たとえば、事業主自身の取り分を役員報酬として会社から支払うことで、経費に計上できます。経費に計上できる費用が増えると、その分所得の金額を抑えられるでしょう。ただし、役員報酬を支払う場合は報酬額や支払時期・頻度をあらかじめ決めて、その通りに支払いを行わなければなりません。

加えて、接待交際費や保険料など、経費に計上できる費用の範囲が広がります。

赤字の繰越期間が長くなる

個人事業主よりも法人の方が、期をまたいで赤字を繰り越せる期間が長くなります。個人事業主の場合は3年しか繰り越せませんが、法人であれば10年の繰越が可能です。繰り越した赤字は翌年以降の所得と相殺できます。多額の赤字が出てしまった場合でも、法人であれば繰り越せる期間が長いため、節税となる可能性が高いでしょう。

軽貨物運送で法人化するデメリット

軽貨物の運送事業を法人化することには多くのメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。

  • 初期費用がかかる
  • 運営にかかるコストが増える
  • 社会保険料の負担が必要となる

それぞれ以下で詳しく見ていきましょう。

初期費用がかかる

法人化して会社を設立するには、登記にかかる登録免許税や定款の認証費用などが必要です。登記や会社の設立を外部に委託する場合は、その費用も見越しておかなければなりません。登記するだけでもある程度の費用が必要であることは、知っておく必要があります。

運営にかかるコストが増える

法人化に伴い、個人事業では不要だった会計や税務などの処理、社会保険や行政に関する手続きなどの手間がかかるようになります。

これまで事業主自身が事務作業を行ってきた場合は、事務員を雇うなど体制を整える必要性が出てくるかもしれません。法人化によって増える運営コストをどのようにするか、あらかじめ考えておく必要があります。

社会保険料の負担が必要となる

1人でも従業員を雇用している法人は、社会保険に加入して従業員の社会保険料を負担する必要があります。経営者としては、これまでになかった費用がかかることになることを理解しておかなければなりません。

個人事業主なら、従業員が4人までであれば社会保険に加入する必要がないため、法人化が必要なタイミングであるかをしっかりと検討する必要があります。

法人化する際の会社形態はどう判断すべき?

軽貨物事業を法人化する際の選択肢には、株式会社と合同会社があります。株式会社に比べると、合同会社の方が設立の手間が少なく、法務局に支払うべき登録免許税も少ないため費用も抑えられる方法です。

一方で、株式会社の方が合同会社に比べると社会的な信用度は高い傾向にあります。将来的に事業の規模を大きくしたい、一般貨物事業に進出したいと考えている場合は、株式会社を選ぶことがおすすめです。

軽貨物運送で法人化する際に必要な手続き

軽貨物運送で法人化する際には、法務局への登記や税務署への届出など事業を問わず必要な手続きに加えて、運輸局への届出も行わなければなりません。以下では、それぞれどのような手続きが必要であるのかを紹介します。

法務局への登記

会社を設立するには、法務局に登記申請をして法人格を得なければなりません。登記には登録免許税がかかり、設立に関する書類作成や手続きを外部に委託するのであればその費用もかかります。

登記申請をする前に、会社概要の決定や定款の作成・認証、出資金の払い込みなども必要です。会社設立の一般的な手続きについては、以下の記事も参考にしてください。

税務署・自治体への届出

法人として事業を開始した旨は、税務署や自治体にも届け出なければなりません。税務署に対しては、法人設立届出書青色申告の承認申請書を提出する必要があります。自治体に対しても、法人を設立したことの届出が必要です。

このほか、雇用などの状況によっては年金事務所や労働基準監督署への届出が必要な場合もあります。

運輸局への届出

軽貨物運送を法人化する場合は、運輸局への届出もしなければなりません。軽貨物事業は個人から法人への譲渡が可能であり、許可制でなく届出制であるため、記入した書類が受理されれば手続きが完了します。また、個人の所有であった事業用の自動車を法人に譲渡することも必要です。

軽貨物運送で法人化する際の注意点

軽貨物運送を法人化することで、社会的な信用が高まります。その分、信頼を失うようなことがないよう備えておかなければなりません。仕事の規模が大きくなれば、自社のみでの対応ができなくなることも考えられます。

社内でトラブルを解消できるような体制を整えることはもちろん、万一のときに協力してもらえるよう、業界内で良好な関係性を構築しておくことが大切です。そのためには、個人事業主のうちから信用を積み重ね、誠実な仕事を積み重ねておく必要があります。

また、法人化に伴い可能となる役員報酬の計上には注意が必要です。役員報酬は個人事業主と異なり、必要なときに必要なだけお金を引き出すことが認められていません。あらかじめ役員報酬の金額を決めて、その通りに支払う必要があります。正当な理由がないにもかかわらず役員報酬を増減させると、その期の役員報酬は全額経費に計上できないため、注意しておきましょう。

信用を積み重ねて軽貨物の法人化を目指そう

軽貨物運送事業の法人化を検討するべきタイミングは、事業の拡大を考えているときと所得が増えているときの2パターンです。

手続きの面では、法人の登記や税務署・自治体への届出に加えて、運輸局への届出も必要です。法人化によって社会的な責任は重くなるため、これまでのノウハウを活かし、社内外で万一の事態をカバーできるような体制を整えておく必要があります。そのためには、個人事業主のうちから誠実に仕事をこなし、少しずつ信用を積み重ねていくことが大切です。


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