- 更新日 : 2023年10月23日
法人成りで消費税が2年間免除?インボイス制度との関連性も紹介
課税売上高が1,000万円を超える個人事業主には、消費税の納税義務があります。しかし法人成りすることで、2年間免除される可能性があることをご存知ですか。今回は、法人成りすると消費税が2年間免除される理由や消費税を納税しないといけないケース、インボイス制度による影響や、課税事業者になるメリットなどを解説します。
目次
法人成りすると消費税が2年間免除される理由
個人事業主として課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税の納税義務が生じます。
消費税の計算期間は、個人事業主の場合1月1日から12月31日まで、法人の場合はそれぞれの事業年度です。そのため、消費税が課税されるかの判断基準は、個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度です。
個人事業主と法人は別人格であるため、個人事業主が法人成り(法人化)すると、その時点で課税売上高はリセットされます。つまり法人化して最初の2年間は、消費税の計算対象となる期間が存在しないため、原則消費税が免除されるという仕組みです。
もちろん3期目以降は、消費税の納税義務の要件を満たしている場合であれば、消費税納税義務者に該当します。また、後述のとおり2年間の免除を受けられない例外も存在する点には注意が必要です。
そもそも消費税とは?
そもそも消費税とは、国税庁によると「商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税」です。消費税負担者は消費者であり、納税義務者は事業者となります。
国内において、事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付けおよび役務の提供に対して消費税が課税されます。
ただし、以下のような取引について消費税の課税はありません。
出典:国税庁 消費税のしくみ
税率には標準税率10%(消費税率7.8%、地方消費税率2.2%)と、軽減税率8%(消費税率6.24%、地方消費税率1.76%)があります。
事業者は、売上時に発生した預かった消費税から、仕入れや経費が発生した際に支払った消費税の差額を国へ納付します。
そもそも個人事業主・法人の消費税の納税義務とは?
課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者には、消費税の納税義務が課せられます。
課税期間は個人事業者が暦年(1月1日から12月31日まで)、法人は事業年度です。
そして基準期間は、個人事業者が前々年、法人が前々事業年度です。
なお、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間において課税事業者となる点に注意しましょう。この特定期間とは、個人事業者の場合はその年の前年の1月1日から6月30日まで、法人の場合は、原則その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月間です。
たとえば個人事業主の場合、以下の2パターンとも2025年に課税事業者となります。
- 2023年の課税売上高が1,000万円超である
- 2023年の課税売上高が1,000万円以下であるが、2024年1月1日から6月30日までの課税売上高が1,000万円超である
消費税の納税義務者は、個人事業者の場合は翌年の3月末日までに、法人は課税期間の末日の翌日から2ヶ月以内に、所轄の税務署に申告・納付しましょう。
なお、直前の課税期間の消費税額が48万円を超える事業者は、中間申告と納付を行わなければなりません。中間申告についても、期限内に納付できなかった場合は延滞税が課されるため注意は必要です。
法人成りしても消費税を納税しないといけないケース
課税売上高が1,000万円を超える個人事業主は法人成りすることで、基本的に最初の2年間は消費税が免除されます。それ以降は課税事業者となるため、注意が必要です。
ただし以下のケースにおいては、法人成りしても消費税の納税義務が2年間免除されるわけではありません。
- 資本金が1,000万円以上である場合
- 2期目も免除されるための条件を満たしていない場合
ここでは、法人成りしても消費税を納税しないといけないケースについて見ていきましょう。
資本金が1,000万円以上である場合
法人成りして1期目の消費税が免除されるためには、資本金が1,000万円未満である必要があります。つまり、資本金1,000万円以上で法人化すると、はじめから課税事業者となり、1期目の確定申告から消費税を納税しなければなりません。
同じように、設立時の資本金は1,000万円未満であっても、2期の開始前に増資して1,000万円以上になった場合は、2期目から消費税の納税義務が発生します。
出資や増資の際は、消費税についても考慮したうえで金額を決定するのがおすすめです。
なおこちらの基準はあくまでも資本金であり、出資金ではありません。出資金の一部を資本準備金にすれば、資本金を低くできる点を理解しておきましょう。
2期目も免除されるための条件を満たしていない場合
2011年に改正され2013年に施行された消費税法により、消費税が免除される要件が厳しくなりました。資本金が1,000万円未満であることに加え、以下のいずれかの条件を満たしていない場合は、2期目に免除を受けられません。
- 特定期間の課税売上高が1,000万円以下の場合
- 特定期間の給与等支払額の合計額が1,000万円以下の場合
- 設立1期目が7ヶ月以下の場合
1つ目の条件を満たすためには、規模を縮小したり取引量を調整したりしなければなりません。
2つ目の条件については、月末締め、翌月支払いにして半年間の給与を5ヶ月分に減らすことで調整できます。また、特定期間の上半期に支払う給与の一部を、下半期の賞与に回したり、業務委託を活用して外注費にしたりするといった方法も考えられます。
3つ目の条件を満たす場合は、特定期間の条件に該当しないため、1と2を満たしていなくても2期間分の消費税が免除されるという仕組みです。ただしこの方法を使うと、免税を受けられる期間は最長でも1年7ヶ月になります。2年間免税を受けたい場合は、1か2の方法を選びましょう。
インボイス制度が法人成りに与える影響は?
2023年10月1日から、インボイス制度が導入されます。インボイス制度では、売手側が登録事業者にならなければ、インボイス(適格請求書)を発行できません。そして、買手側は登録事業者から交付を受けたインボイスを保存しなければ、仕入税額控除の適用を受けられないという仕組みです。
インボイス制度が始まることで、取引を継続するために、登録事業者になる事業者が増えることが予想されます。
登録事業者になるということは、消費税の課税事業者になるということです。つまり、課税売上高1,000万円超の個人事業主が法人成りした場合でも、消費税の免税は受けられない点に注意しましょう。
しかし課税事業者にならなければ、取引先は仕入税額控除の適用を受けられません。そのため、今後は消費税の課税事業になるほうがメリットは大きい可能性があります。
法人成りしたら免税事業者・課税事業者どちらを選ぶべき?
インボイス制度によって「免税事業者でいるほうがメリットが大きい」とは必ずしもいえなくなります。免税事業者であれば消費税を納付する必要がありませんが、課税事業者として登録すればインボイスを発行できるのがポイントです。
ここでは、法人成りしたら免税事業者でいるべきか、課税事業者でいるべきかを検討できるよう、それぞれのメリットについて見ていきましょう。
免税事業者でいるメリット
免税事業者でいる場合、消費税の納税に関する負担がなくなるのが大きなメリットです。
金銭的な負担だけでなく、消費税の決算や申告に必要なデータ管理、申告書の作成、期限内の納税といった事務負担も軽減されます。
しかし、インボイス制度によって免税事業者の売上が減ってしまうリスクはゼロではありません。売上の減少分と消費税の負担分を比較検討し、課税事業者になるかを決めることが大切です。
課税事業者になるメリット
インボイス制度導入後は、課税事業者になるほうがメリットが大きい可能性があります。
インボイス制度では、課税事業者として登録することでインボイスを発行できます。
買手側にとっては、免税事業者よりも課税事業者と取引する方がメリットが大きいため、取引先として優先的に選ばれる可能性が高いです。消費税の納税義務は生じますが、取引を継続したり今後規模を拡大したりするうえでは、課税事業者になるほうが有利といえるでしょう。
また、支払った消費税が預かった消費税を上回る場合、課税事業者であれば差額の還付を受けられるのもメリットです。
インボイス制度を見据えて課税事業者になるかを検討しよう
課税売上高が1,000万円を超える個人事業主は、法人成りすることで、2年間消費税が免除される可能性があります。2年間の免除を受けるためには一定の条件を満たす必要があるため、免税を目的に法人化する場合は、事前に条件をチェックしましょう。
その際は、2023年10月から始まるインボイス制度を見据えることが大切です。インボイス制度についても考慮したうえで、免税事業者になるか課税事業者になるかを選択しましょう。
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