- 作成日 : 2024年12月5日
事業承継に不動産を活用する方法は?具体的な方法や適切な相談先まで紹介
事業承継において、不動産は資産の一部として効果的に活用することができます。事業承継時の税負担を抑え、次世代への資産移転をスムーズに行うためには、不動産の評価や活用方法を慎重に検討することが重要です。
本記事では、不動産を活用した事業承継のメリットや具体的な方法、注意すべきポイント、そして専門家への相談の重要性を詳しく解説します。
事業承継に不動産は活用できる?
事業承継において、不動産は重要な資産の一つです。適切に活用することで、円滑な承継と企業価値の向上が可能になります。まず、不動産活用の方法について確認しましょう。
不動産が企業価値に与える影響
事業承継において不動産は、企業の資産価値を向上させ、承継時の信用力強化につながる重要な要素です。不動産を所有することで、資産価値が高まるだけでなく、担保価値として金融機関からの融資を受けやすくなります。
また、事業承継時に評価額が適切に設定されることで、相続税や贈与税の負担が抑えられる可能性もあります。
自社所有の不動産を利用した事業継続
自社所有の不動産は、事業継続において重要な役割を果たします。承継後も安定した運営が期待される場合、自社の土地や建物を有効に活用することで、事業継続がスムーズに行われ、経営の一貫性が維持されます。
ただし、法改正により賃貸契約の見直しや不動産管理に関する規制が変更される可能性があることも知っておきましょう。
賃貸不動産を活用した収益確保
事業承継後も賃貸不動産からの収益を確保することで、後継者にとっての安定収入源が得られ、事業運営を支える基盤となります。不動産賃貸収入は、金融機関からの評価も高く、安定的なキャッシュフローを生むため、事業運営の資金調達や緊急時の対応力が向上します。
借地権や地上権の有効活用
借地権(地上権、賃借権)を活用することで、売買によって不動産の所有権を譲渡せずに収益を確保することが可能です。事業承継の際に相続税負担を抑えながら、不動産の経済的価値を維持できます。
不動産信託の活用による相続対策
不動産信託を活用することも一つの方法です。不動産の管理を第三者に委託し、相続税対策を行うことができます。信託を利用することで、事業承継時に複雑な資産管理を簡略化して後継者の負担を軽減するとともに、スムーズな事業承継が実現可能です。
事業承継に不動産を活用する方法5選
事業承継で不動産を有効活用することで、資産価値の向上や節税効果が期待できます。適切な方法を選ぶことで、後継者への円滑な引き継ぎが可能です。事業承継に不動産を活用する方法を5つ紹介します。
利用していない土地を有効活用する
利用されていない土地を活用することにより、事業承継時に新たな収益源や節税効果を生むことが可能です。例えば、駐車場や賃貸物件として運用することで安定収入が得られ、後継者が事業運営に必要な資金を確保しやすくなります。
さらに、土地を収益物件化することで評価額が適切に設定され、相続税の圧縮も期待できるでしょう。
新たに不動産を購入する
事業承継の準備として、不動産を新たに購入する方法もあります。不動産の購入により、後継者は事業運営の拠点を確保できるほか、安定的な資産として活用することが可能です。事業用の不動産を購入することで、相続税や固定資産税の軽減を図れ、長期的な資産価値の維持が期待できます。
ただし、不動産購入には資金負担も伴うため、法改正による税控除の変動や固定資産税の課税方法を把握することが重要です。
小規模宅地等の特例を利用する
小規模宅地等の特例を活用することで、一定条件のもと、事業用の宅地や不動産に対する相続税の評価額を最大80%減額することが可能です。この特例は、事業承継で後継者が事業用不動産を取得する際の税負担を軽減し、事業継続の支援に役立ちます。
ただし、特例を適用するためには、後継者が不動産を事業用として継続使用するなどの条件を満たすことが必要です。
参考:相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
企業売却の形で法人の不動産を譲渡させる
事業承継の一環として企業売却の形で法人の不動産を譲渡させる方法もあります。これは、会社の資産として所有している不動産を法人ごと譲渡することで、税負担を抑えつつ資産を後継者に引き継ぐ方法です。
特に、後継者が事業経営を行う場合、法人売却の形で事業と不動産を一体で承継させることで、効率的に資産管理が可能になります。
中小企業投資促進税制を利用する
中小企業投資促進税制を利用することで、一定の不動産投資に対して税制上の優遇措置が受けられます。例えば、設備投資として事業用の建物や土地を購入する際に、特別償却や税額控除の適用が可能となり、相続税や法人税の負担を軽減できます。特に、後継者が不動産を活用して事業を成長させたい場合に有効な手段です。
この税制も法改正により適用範囲や控除額が変動するため、最新の税制情報を確認し、税理士のアドバイスを参考に活用計画を立てましょう。
不動産を活用した事業承継対策の注意点
不動産を活用した事業承継は、多くのメリットをもたらしますが、リスクや注意点も伴います。事業承継で不動産を活用する際の重要な3つの注意点を押さえましょう。
購入した不動産の価格が下落する恐れ
不動産を事業承継対策として購入する際、将来的な資産価値の下落リスクに備える必要があります。不動産価格の下落は、評価額の減少を招き、相続や譲渡時の資産価値が期待を下回る場合があるため、慎重な投資判断が求められます。
特に、不動産市場の変動や経済情勢の悪化によって価格が下落する可能性があるため、法改正による減価償却や不動産税制の変更を確認し、安定的な資産管理を行うことが重要です。
不動産価格が急激に上昇する
不動産の評価額が急激に上昇する場合、相続税や贈与税の負担が想定以上に増えるリスクがあります。後継者がその税負担を支払うための資金が不足する可能性もあるため、事業承継の計画時には価格変動リスクも考えなくてはなりません。
また、近年の法改正によって、不動産評価額の基準や評価方法が見直される場合があるため、評価額が急激に上昇した場合に備えた資金計画を立てることが重要です。不動産市況や税制の動向を定期的に確認し、価格上昇に対応できる資産管理体制を整えておきましょう。
借り入れは後継者に相続される
不動産を購入する際の借り入れが後継者に相続される点にも注意が必要です。借り入れが相続されると、後継者が事業運営とともに返済負担を抱えることになるため、事業の安定性に影響を及ぼす可能性があります。特に、金利の上昇や返済計画の見直しが必要になった場合、後継者の経営にとって大きな負担となり得ます。
そのため、借り入れを行う際は、将来の返済能力や金利リスクを考慮し、事業承継への影響を最小限に抑える返済計画を立てることが重要です。また、法改正により債務相続に関する規定が変わる場合もあるため、最新の法令を確認して対策を講じましょう。
事業承継に不動産を活用する場合の相談先
事業承継において不動産を活用する際には、信頼できる専門家や機関に相談することが不可欠です。適切なアドバイスを受けることで、円滑な承継が実現できるでしょう。不動産の資産価値や税制、法律面のアドバイスが得られる相談先について解説します。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁が設立した公的機関で、全国各地に設置されています。このセンターでは、事業承継に関する専門的なアドバイスや支援を提供しており、特に不動産の取り扱いや評価についても豊富な知識を持つスタッフが在籍しています。具体的には、事業承継の計画策定や資産評価、税務対策などについての相談が可能です。
この機関のメリットは、費用が無料または低額であることです。中小企業経営者にとって、資金的な負担を軽減しつつ専門的なサポートを受けられるため、非常に有用です。また、必要に応じて他の専門家(税理士や弁護士)との連携も行っているため、幅広い問題に対応できる体制が整っています。事業承継を考える際には、まずこのセンターに相談することをおすすめします。
税理士・公認会計士
税理士や公認会計士は、事業承継時の税務面でのアドバイザーとして非常に重要です。特に、不動産評価や相続税・贈与税の計算について豊富な知識と経験を持っているため、適切なアドバイスが期待できるでしょう。事業承継においては、自社株式や不動産の評価額が相続税や贈与税の基準となるため、その正確な評価が求められます。
また、税理士は特例事業承継税制などの制度を活用した節税対策についても詳しいため、後継者への負担を軽減するための戦略を立てる際にも役立ちます。さらに、事業承継後の財務管理や経営計画についてもサポートしてくれるため、長期的な視点で経営を考えるうえでも重要な役割を果たします。ただし、全ての税理士が事業承継に精通しているわけではないため、実績や専門性を確認したうえで選ぶことが重要です。
弁護士
弁護士からは、事業承継に関わる法的問題全般についてアドバイスを受けることができます。特に、不動産の譲渡や相続時の法律的手続きについては専門的な知識が必要です。例えば、遺留分問題や相続人間でのトラブル防止策などについても適切な助言が求められます。
また、親族以外への事業承継の場合には契約書の作成や交渉も必要になるため、その際にも弁護士によるサポートが不可欠です。さらに、不動産関連の契約(賃貸契約や売買契約)についても法的観点からチェックしてもらうことで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。弁護士選びでは、事業承継や不動産法務に精通した専門家を選ぶことが重要であり、その実績や経験を確認することが求められます。
金融機関
銀行などの金融機関は、事業承継時に必要となる資金調達や企業価値評価など、多岐にわたるサポートをしています。自社の担当者が直接相談する場合、現状を把握したうえで具体的なアドバイスを受けることが可能です。また、不動産購入時には融資条件や返済計画についても相談できるため、有利な条件で資金調達を行う手助けになります。
ただし、金融機関は利益優先であるため、その提案内容には注意が必要です。融資条件が厳しい場合もあるため、自社の財務状況や将来計画を十分に説明し、有利な条件で融資を受けられるよう交渉することが重要です。金融機関との信頼関係を築くことで、今後の経営にもプラスになる可能性があります。
経営コンサルタント
事業承継を得意とする経営コンサルタントであれば、事業承継全般にわたる戦略立案から実行支援まで幅広く対応可能です。自社の強みや弱み、市場環境などを分析しながら最適な承継プランを提案してもらえます。不動産活用戦略やM&A戦略など、多角的な視点からアプローチしてもらえるでしょう。
さらに、中小企業庁によって設置されている支援機関とも連携しながら進めることで、公的支援制度や補助金なども活用できる可能性があります。ただし、経営コンサルタントにも得意分野がありますので、自社のニーズとマッチした専門家選びが重要です。また、その報酬体系についても事前に確認しておくことで予算管理もしやすくなります。
不動産活用で円滑な事業承継を実現しよう!
不動産を活用した事業承継は、資産価値を守りつつ次世代への円滑な移行を実現するための有効な手段です。評価額の引き下げによる節税効果や、収益性の高い不動産の活用による事業の安定性向上が期待されます。
しかし、不動産市場の変動や法改正の影響を見据えた計画が必要であり、専門家の助言を得ることが成功の鍵となります。不動産活用を通じて、後継者とともに強固な経営基盤を築き、企業の持続的な成長を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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