• 作成日 : 2024年8月23日

クリニックが医療法人化すべき基準は?メリット・デメリットや手続きを解説

個人でクリニックを経営しながら将来的に医療法人化したい方の中には、いつ医療法人化にすべきか考えているという方もいることでしょう。

そこで、今回はクリニックの医療法人化について詳しく解説します。法人化を検討すべきタイミングや法人化のメリット、注意しておきたいことを把握しておきましょう。

クリニックが医療法人化すべき基準

まずは、個人病院と医療法人の違い、そしてクリニックが法人化を検討すべきタイミングを理解しておきましょう。

個人病院と医療法人の主な違い

個人病院と医療法人の主な違いは以下のとおりです。

個人病院医療法人
事業を行う主体医師法人格
許認可届出のみ都道府県知事の認可
登記不要必要
社会保険5人以下であれば加入義務なし加入義務あり
立ち入り検査原則なし定期的にあり
診療所数1カ所のみ分院の開設可(複数も可能)
種類診療所、病院診療所、病院、介護老人保健施設、精神障害者社会復帰施設、医学研究所、看護師学校など
登記不要必要

個人病院の事業は医師が行いますが、医療法人は法人格が行うという大きな違いがあります。また、複数の分院が持てる医療法人に対し、個人病院は1カ所のみです。さらに医療法人の方が診療を行う診療所、病院以外にも看護師学校、医学研究所など多くの種類があります。

法人化を検討すべきタイミング

個人病院が医療法人化するためには、次の要件を満たす必要があります。

人に関する部分・社員が3名以上

・役員として理事3名以上(理事長を含む)、監事1名以上

施設に関する部分・医療行為ができる設備や器具がある

・1カ所以上の病院・診療所・介護老人施設がある

資産に関する部分・病院がある土地・建物を所有している、もしくは長期賃貸借契約をしている

・年間支出予算の2カ月分程度の運転資金を確保している

要件をクリアしたら、医療法人化の検討を始めましょう。

クリニックが医療法人化するメリット

クリニックが医療法人化するメリットは次のとおりです。

  • 信用力の向上
  • 事業承継対策になる
  • 節税対策
  • 経費にできる幅が増える

信用力の向上

医療法人化の際は、都道府県知事の審査を通過しなければならないこともあり、個人のクリニックよりも社会的な信用力が高いといえます。信用力が高いと、金融機関からの融資も受けやすくなるというメリットがあります。

事業承継対策になる

個人のクリニックが事業承継をする場合、収益などに応じ相続税・贈与税を課せられます。一方、医療法人の場合は理事長の変更をするだけで承継可能です。

節税対策

個人のクリニックの場合、医師個人(開業医)の所得に所得税が課税されますが、日本は累進課税制度を取っているため、所得が多くなればなるほど課税額が多くなります。

しかし、医療法人の所得に課せられる法人税の場合、資本金1億円以下の法人では、所得の年間800万円以下部分の税率は15%、800万円超部分の税率は23.2%と決まっています。ある程度、所得が増えてきたら、医療法人にした方が節税効果は高くなるのです。

さらに、医療法人化し代表者や家族を役員にすることで役員報酬が受取れます。役員報酬は「給与所得控除」の対象となるため、こちらも節税効果が高いといえるでしょう。

経費にできる幅が広くなる

個人のクリニックよりも医療法人の方が経費にできる幅が広くなります。例えば、医療法人では以下の費用も経費扱いが可能です。

  • 生命保険料
  • 退職金

クリニックが医療法人化するデメリット

以下のクリニックの医療法人化のデメリットも理解しておきましょう。

  • 設立費用
  • 事務作業が増える
  • 社会保険料の負担
  • 法人税の納付

設立費用

先述のとおり、医療法人化する際には「医療行為ができる設備や器具があること」や「年間支出予算の2カ月分程度の運転資金を確保していること」などが条件となります。ある程度資金を持っているクリニックでないと、設立自体できません。

そして、都道府県知事の認可申請、登記費用などで110万円程度の費用もかかります。

事務作業が増える

医療法人になれば、都道府県の指導への対応、煩雑な経理業務、事業報告書作成など、個人のクリニックのときよりも事務作業が増えます。税理士などの専門家に依頼できる部分もありますが、依頼すると費用がかさむというケースが発生するでしょう。

社会保険料の負担

医療法人は従業員の数にかかわらず社会保険(健康保険、厚生年金保険)の強制適用事業所です。従業員を1人でも雇用していれば、社会保険料を負担する必要があります。

法人税の納付

所得が多くなると、医療法人の方が税率は低くなりますが、所得が少ない場合は個人のクリニックのままでいた方が税率は低くなります。想定より利益が少ないと法人税の負担が重くなりますので慎重にリサーチしておきましょう。

医療法人の形態は医療法人社団が一般的

主な医療法人の形態には、「医療法人社団(社団)」「医療法人財団(財団)」があります。ここでは、医療法人化を検討する方のためにそれぞれの特徴をご紹介します。

医療法人社団医療法人財団
財産社員総会で基金を拠出寄付された財産は評議員会で管理
設立に必要な人数理事:3名以上(うち1名は理事長でも可)

監事:1名以上

※最低でも4名必要

評議員:4名以上

理事:3名以上

監事:1名以上

※最低でも8名必要

法人数

※2020年現在

55,304370

法人数は医療法人社団がかなり多いようです。また、設立に必要な人数は医療法人財団の8人に対し、医療法人社団は4人です。これらの点から、特に理由がなければ医療法人社団を選ぶのが一般的といえるでしょう。

クリニックが医療法人化する際に必要な手続き

クリニックを医療法人化する際に必要な手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 設立事前登録と説明会
  2. 定款作成
  3. 設立総会開催
  4. 設立認可申請書の作成、提出および審査
  5. 設立認可書の受領
  6. 設立登記申請書類の作成および登記

①設立事前登録と説明会

まずは、都道府県が行う説明会への設立事前登録を行います。受付期間が決まっている場合もありますので、ホームページ等で確認しましょう。事前登録を行うと医療法人設立認可申請に関する書類が送られてきます。都道府県によってはWeb開催の場合もあります。

②定款作成

定款の作成では主に以下の点を記載します。

  • 医療法人の名称と所在地
  • 目的と業務
  • 病院等の所在地
  • 資産や会計についての定め
  • 役員や理事会に関する規定
  • 定款の変更に関する規定など

③設立総会開催

定款を定めたら、設立総会を開催します。総会の内容は議事録に記録します。記録すべき内容については都道府県のホームページで紹介している場合もありますので、確認してみましょう。

④設立認可申請書の作成、提出および審査

設立総会の開催後、設立認可申請書の作成と提出を行います。まずは、仮申請を提出し、不備を修正した後、本申請に進むという流れです。本申請を提出したら審査に進みます。仮審査と本審査で書類の提出先が異なる場合がありますので気をつけましょう。審査では代表者の面談もあります。

⑤設立認可書の受領

審査に通過したら、設立認可書が交付されます。設立認可書を受領すると、医療法人の設立が認められたということになります。

⑥設立登記申請書類の作成および登記

設立認可書を受領したら、2週間以内に登記を行わなければなりません。登記する情報は主に以下の内容になります。

  • 医療法人の名称と所在地
  • 目的・業務内容
  • 存続期間もしくは解散に関する規定
  • 医療法人の資産総額

クリニックが医療法人化する際の注意点

クリニックの医療法人化を目指す際は、役員報酬額の変更時期は決まっていることを頭にいれておきましょう。

医療法人化で家族を役員にして報酬を支払うようにすれば、給与所得控除が使えるため、節税になります。ただし、一度決めた役員報酬額をいつでも変更できるというわけではありませんので注意しましょう。変更する際は「事業年度開始から3カ月以内」に行う必要があります。

信用度向上を目指すならばクリニックの法人化はおすすめ

個人のクリニックが医療法人化することで、信用度の向上が期待できます。「今の地域で病院を経営したい」「金融機関からの融資を受けたい」と考えるのであれば、医療法人化には大きなメリットがあるといえます。

ただし、医療法人化するには、役員などに就く人や資産に関しての条件があります。条件をクリアしていないと医療法人化の申請はできません。申請後は、都道府県知事の認可が必要です。これらの点には気をつけて医療法人化を検討しましょう。


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