• 更新日 : 2024年10月8日

不動産事業の法人化とは?メリット・デメリット、費用の目安、流れを解説

不動産事業は、ある程度収益が上がってきたら法人化した方がよいといわれています。実際に不動産事業を法人化することで、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。この記事では、不動産投資や不動産賃貸業を法人化する手順や法人化を考える目安などについて解説します。

不動産事業の法人化とは?

不動産事業の法人化とは、個人の営む不動産賃貸業を、法人が営む不動産賃貸業に変更することです。個人の不動産を法人に移転することで、個人の所得であった家賃収入を、法人の所得の計算対象に変更します。

不動産事業の法人化をするメリット

不動産事業を法人化する主なメリットを4つ紹介します。

所得税の節税になる可能性

不動産事業の法人化により所得税を節税できる可能性があります。個人が所有する不動産の家賃収入が個人に帰属するのに対して、法人が所有する不動産の家賃収入は法人に帰属するためです。

個人の場合、専従者や従業員がいる場合を除き、基本的に家賃収入の全額が個人の収入になります。対して、法人は家賃収入から得られる所得を、会社に残しておく額と役員や従業員に分配する額とに区分できます。

法人の場合、家賃収入にかかる所得の全額を個人の所得金額に振り分けなくて済むため、個人の役員報酬の額を調整することで所得税を節税できます。また、親族などを従業員として雇用する場合は所得の分配ができるため、分配による所得税の削減効果も期待できます。

相続税の節税につながる

相続税の節税につながるのも法人化のメリットです。相続税は、個人が亡くなったときに、財産の相続を受ける相続人に対して課される税金のことです。不動産が個人の所有物のままであった場合、賃料収入の蓄積分や相続する不動産について相続税が発生する可能性があります。

しかし、法人化した場合は、不動産が個人の所有物ではなくなるため、賃料収入の蓄積分などに対する課税負担をせずに済みます。代わりに、亡くなった個人が所有していた株式(不動産事業を営む法人の株式)の相続が必要です。

株式の相続については、生前に親族に移転しておくなどの対策ができます。また、非上場株式で一定の場合には、相続税の納税猶予や免税の特例の適用を受けることも可能です。個人の不動産を相続するよりも、法人に移転して相続をした方が、対策次第で節税につながります。

経費の範囲が増える

個人事業に比べて、法人の方が認められる経費の範囲が広いことも不動産事業の法人化のメリットです。

経費計上(法人税を計算するうえでの損金の算入)が認められる代表的なものに、不動産事業の代表者の役員報酬や退職金があります。

個人事業では、事業で得た所得から経費を差し引いた額が個人の所得となるため、代表者個人の給与の取り扱いは存在しません。法人は、個人とは切り離された別人格となることから、法人の所得から代表者に報酬を支払う形になり、代表者の役員報酬は一定の要件を満たす限り経費に計上できます。

ほかにも、親族に対する給与を役員報酬や給与として支給できる、生命保険の種類によっては一部を経費に計上できる、などのメリットがあります。

赤字を10年間繰り越すことができる

赤字を繰り越せる期間が長くなるのも不動産事業の法人化のメリットです。

青色申告をする個人事業主については、事業所得など事業で生じた赤字を3年間繰り越して、翌年以降の所得の金額と相殺できます(特定非常災害による損失など一定の場合は5年)。

一方、青色申告の確定申告書を提出する法人については、法人税法上の赤字(欠損金額)について10年の繰り越しが可能です。過去10年の赤字を対象にできることから、その分の所得を低減する効果があり、個人よりも法人化した方がメリットとなります。

不動産事業の法人化をするデメリット

不動産事業の法人化はメリットばかりではありません。主なデメリットを紹介します。

会社設立・維持費用がかかる

不動産事業を法人化すると、個人事業では必要なかった法人の設立費用や法人の維持費用がかかります。

法人の設立については登記が必要です。合同会社の場合は登録免許税として6万円、株式会社の場合には15万円以上がかかります。さらに、株式会社の設立では定款認証にかかる費用や、司法書士などの専門家に手続きを依頼する場合は報酬の支払いも発生します。

維持費用とは、会社運営のために最低限必要な費用のことです。会社負担分の社会保険料の支払い、株式会社であれば決算公告費用などがかかります。また、個人の確定申告と異なり、法人の税務申告などの諸手続きはより複雑です。これらの手続きのために専門家と顧問契約などを結ぶときは、専門家への報酬も維持費用に含まれます。

赤字でも法人住民税がかかる

個人が不動産事業を行う場合、事業の赤字により所得がないときは、所得税や住民税が発生しません。所得税は所得に対して課される税金であり、個人所得が一定以下の場合には非課税となります。

しかし、法人は、赤字の場合でも個人のように非課税制度がないため、法人住民税の支払いが発生します。法人住民税は均等割と法人税割をあわせたものであり、均等割が法人の資本金等の額や従業員数に応じて課される性質を持つためです。

例えば、資本金等の額1千万円以下で、かつ従業員数が50人以下の場合、法人住民税は均等割として7万円と法人割(法人税額による)の合計が課されます。

不動産を売却した場合の税率が高い

不動産事業では、新たな投資用物件との入れ替えのためなど、さまざまな理由で所有する不動産を売却するケースが想定されます。

個人が所有する不動産を売却する場合、所有期間により、売却によって得た利益を短期譲渡所得と長期譲渡所得に区分します。

売却をした年の1月1日の時点で、短期譲渡所得は所有期間が5年以下の不動産、長期譲渡所得は所有期間が5年を超える不動産です。

短期譲渡所得は所得税30%、住民税9%、復興特別所得税2.1%(2013年~2037年課税)の計31.1%に対し、長期譲渡所得は、所得税率が軽減されるため、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税2.1%(2013年~2037年課税)の計22.1%となります。

しかし、法人は長期で不動産を所有しても税率が変動しないため、長期で保有する不動産を売却する場合には、個人よりも税負担が重くなる可能性があります。

不動産取得税と登記費用がかかる

個人が所有する投資用不動産を法人の所有にするときは、不動産の移転が必要です。

個人の名義になっている不動産を法人の名義に変更する必要があるため、変更のための所有権移転登記と登記のための費用がかかります。法人が不動産を取得することになるため、不動産取得税の支払いも必要です。

さらに、不動産を贈与によって移転するのか、売買によって移転するのかなど、移転の方法によっても必要な手続きや費用が異なります。不動産の移転にともないコストや手続きが発生するのも法人化のデメリットです。

不動産事業の法人化をする目安

不動産事業を法人化する目安として比較されやすいのが、個人の所得税と法人の法人税です。以下は、個人事業者が負担する所得税と、法人の法人税との比較表です。

所得個人法人
所得税法人税
195万円以下5%

23.2%

(※中小企業で800万円以下の部分は15%)

195万円~10%
330万円~20%
695万円~23%
900万円~33%
1800万円~40%
4,000万円超45%

比較表を使って単純比較すると、900万円を超えたあたりから、法人と個人の税率が逆転していくことがわかります。ただし、所得税については超過累進課税であることを考慮した計算が必要です。例えば、所得500万円、800万円、1,000万円ではそれぞれ以下の税額になります。

【所得500万円】

個人:1,949,000×5%+(3,299,000-1,949,000)×10%+(500万円- 3,299,000)×20%=572,650円

法人:500万円×23.2%=1,160,000円(500万円×15%=750,000)

【所得800万円】

個人:1,949,000×5%+(3,299,000-1,949,000)×10%+(6,949,000-3,299,000)×20%+(800万円-6,949,000)×23%=1,304,180円

法人:800万円×23.2%=1,856,000円(800万円×15%=1,200,000)

【所得1,000万円】

個人:1,949,000×5%+(3,299,000-1,949,000)×10%+(6,949,000-3,299,000)×20%+(8,999,000-6,949,000)×23%+(1,000万円-8,999,000)×33%=1,764,280円

法人:1,000万円×23.2%=2,320,000円(1,000万円×15%=1,500,000)

※計算をシンプルにするため、法人は法人税、個人は所得税のみを考慮して計算を行っています。

今回はシミュレーションがしやすいように主な税科目を使って計算しました。しかし、実際には、ほかに発生する税科目もあります。また、法人化する場合は社会保険料の負担や法人を維持するためのコストなどについても検討しなくてはなりません。単純な税額の比較だけでなく、総合的に比較して法人化すべきか検討されることをおすすめします。

不動産事業の法人化の種類

不動産事業の法人化には、不動産所有方式、不動産管理委託方式、一括転貸方式(サブリース)があります。

不動産所有方式

不動産所有方式は、不動産事業の法人化の方法の中でも一般的な方法として知られています。個人が所有していた不動産を法人に移転し、投資不動産から得られる収入の全額を法人の収益とする方式です。

不動産事業で得られるすべての収益が法人に帰属することから、所得の分散効果を得やすいというメリットがあります。一方、不動産の移転の手続きやこれにともなう費用の負担があります。

不動産管理委託方式

不動産管理委託方式とは、投資用不動産の所有権は個人のまま、設立した法人が不動産の管理業務を行う方法です。

不動産の所有権の移転が生じないため、不動産所有方式と比べて法人化にともなう手続きの負担が軽減できます。しかし、法人の収益は不動産の管理料に限られることから、期待する不動産事業の所得の分散などの効果を得られない可能性があります。

一括転貸方式(サブリース)

一括転貸方式は、個人が所有する不動産を設立した法人が一括で借り上げる方式です。法人は、不動産の管理のほか、入居者の募集などを行います。家賃収入のうち、法人が行う不動産の運用にかかる報酬が法人の収益に計上されます。

不動産管理委託方式と比べて法人の収益は高めに設定されるのが一般的です。また、不動産管理委託方式と同様に不動産の所有権は個人のため、不動産の所有権移転の手続きを必要としません。ただし、一括借り上げした法人が入居者と契約する必要があるため、すでに入居者のいる物件では契約の変更手続きを要します。

不動産事業の法人化をする流れ

不動産事業の法人化は、基本的に以下の手順により行います。

  1. 株式会社や合同会社などの法人の種類を決める
  2. 不動産所有方式などの法人化の方法を決める
  3. 商号(会社名)など会社の基本事項を決める
  4. 法人の実印を作成する
  5. 定款を作成する
  6. 資本金または出資金を払い込む
  7. 法務局で設立登記を申請する
  8. 税務署などに個人事業の廃業を届け出る
  9. 税務署などに法人の設立を届け出る

なお、会社設立は一般的に1~3週間ほどかかるとされています。法人化のための準備が不十分だと、法人化までさらに時間がかかる可能性もあります。法人化には準備が必要であることを考慮して、法人化に向けた書類の作成や手続きを進めていきましょう。

不動産事業の法人化に役立つテンプレート

不動産事業の法人化に関連して必要になる書類の作成はテンプレートがあると便利です。

定款のテンプレート

マネーフォワード クラウド会社設立では、不動産業に特化した定款のテンプレートをダウンロードできます。必要に応じてご利用ください。

不動産会社の定款のテンプレート(事業目的)

定款の作成の仕方については、以下の記事で解説しています。

定款の作り方を簡単に解説!無料テンプレ30種類以上も紹介

事業計画書のテンプレート

法人化にともない融資を受けたい場合は、金融機関などに提出する事業計画書の作成が必要です。マネーフォワード クラウド会社設立では、不動産業向けの事業計画書のテンプレートを利用できます。ダウンロードしてご活用ください。

不動産業の事業計画書・創業計画書

事業計画書の書き方については、以下の記事で解説しています。

事業計画書とは?書き方・作り方を簡単解説!テンプレ70個以上!

不動産事業の法人化を成功させるポイント

不動産事業の法人化は、目的をもって行うことが重要です。例えば、法人化のメリットとして、所得の分散や相続税対策が挙げられます。

所得の分散を目的に法人化する場合は、所得の分散が効果的に行えるよう計画しておきましょう。例えば、不動産所有方式など所得の分散がしやすい法人化の種類にしたり、所得分散のためにほかに役員を置いたりする方法が考えられます。

相続税対策を目的に法人化する場合は、相続で不利にならないように長期的な視点で個人から法人に不動産を移転する計画を立てるなどの方法があります。

不動産事業の法人化を成功させるには、目的を明確にして、達成するための行動や方法をよく検討するようにしましょう。

不動産事業の法人化はメリット・デメリットを踏まえて慎重に

不動産事業を個人で行うこと、法人として行うこと、それぞれにメリットとデメリットがあります。不動産事業の法人化は、個人の不動産事業の所得税負担が重くなったタイミングや相続を意識したタイミングなどで検討されるとよいでしょう。また、法人化すると事務処理負担や手続きの負担が生じます。法人化のメリットとデメリットの両方を踏まえて検討されることをおすすめします。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事