- 更新日 : 2024年1月9日
経営課題とは?具体例8つ・中小企業の課題5つ
経営課題とは、現実と経営ミッション・ビジョンとの間に差が存在する場合に、その差を解消するために設ける課題です。経営課題の具体例としては、収益性向上や人材育成に関する課題があります。中小企業の場合は、価格転嫁や物価高騰などの問題が、特に重要な経営課題となることが多いです。
この記事では、経営課題の意味や具体例について、詳しく解説します。特に中小企業・小規模事業者が抱えやすい経営課題を詳細に取り上げるため、ぜひ参考にしてください。
目次
経営課題とは?
経営課題とは、企業が掲げているミッションと現実に差がある場合に、差を埋めるために設定する目標のことです。
経営課題は、企業が成長する過程で直面する問題を含んでいます。企業は自社の経営課題を分析し、適切な課題解決策を考えることが重要です。
経営課題が生じる原因としては、主に下記の3つが挙げられます。
- 労働力人口の減少少子化の進行や団塊世代の高齢化により、日本の労働力人口は減少傾向にあります。労働力人口の減少は企業の生産性低下に直結し、事業継続を妨げる要因です。人材確保のコスト増大や従業員への負担増加にもつながり、企業が抱える課題を増やす結果となります。
- 働き方改革の影響2019年4月から施行された「働き方改革関連法」により、企業は長時間労働の是正や多様な働き方への対応が求められるようになりました。働き方改革関連法を遵守するには労働時間の客観的な把握や、職場環境の整備といった対策が必要であり、社内体制見直しの必要性が経営課題につながっています。
- 消費者ニーズの変化近年はIT技術や情報インフラの発達が著しく、消費者は多くの情報に接しています。接する情報の多さに伴い、消費者ニーズの変化も早くなりました。企業が売上を伸ばすには消費者ニーズの変化を読み取る重要性が高くなり、経営課題を生み出しています。
経営課題の具体例
企業が経営課題を解決するには、経営者が自社の経営課題を正しく把握することが大切です。
以下では、日本企業で一般的な経営課題の具体例を8つ挙げて、それぞれどのような問題があるかを解説します。
なお、以下で解説する経営課題の具体例は、日本能率協会が公開する『日本企業の経営課題2022』をもとにしています。
収益性向上
収益性向上とは、商品・サービスの販売によって企業が得られる「利益」を増やすことです。
利益が低下している状況では企業は経営資金を確保できず、長期的な経営継続ができません。利益が横ばいになっているケースも、何らかの要因によって利益が低下に転じる可能性があるため望ましくない状況と言えます。
企業が安定的な経営を行い、将来の事業成長を図るには、収益性向上が経営課題となるでしょう。
収益性向上は、多くの企業が認識している経営課題です。『日本企業の経営課題2022』によると、43.4%の企業が「現在の経営課題」に収益性向上を挙げています。
また、「3年後の経営課題」と回答する企業は29.0%を占めており、収益性向上はなるべく速やかに解決すべき問題と捉えている企業が多い傾向にあります。
人材採用・人材育成
人材採用・人材育成とは、有用な人材を獲得したり、育てたりすることです。
人材は企業にとって大切な経営資源であり、企業の将来を担う存在です。多くの企業はより優秀な人材を獲得するため、人材採用・人材育成にコストを費やしています。
しかし、現代の日本は労働力人口が減少しており、有用な人材の獲得は簡単ではありません。育成した人材が離職する可能性もあり、人材採用・人材育成は企業の経営課題となっています。
『日本企業の経営課題2022』によると、人材採用・人材育成を「現在の経営課題」に挙げる企業は41.1%でした。
「3年後の経営課題」に挙げる企業も41.7%と多く、人材問題が継続的な懸念材料となっていることが分かります。
売上・シェア拡大
売上・シェア拡大とは、企業が販売する商品・サービスの売上や市場シェアを増やし、利益につなげる取り組みのことです。
売上・シェア拡大を狙うには、自社の市場における立ち位置や消費者ニーズの変化を把握し、具体的なマーケティング戦略を立てる必要があります。マーケティング戦略が苦手な企業は、売上・シェア拡大が経営課題となるでしょう。
『日本企業の経営課題2022』では、売上・シェア拡大を「現在の経営課題」に挙げる企業は35.1%です。「3年後の経営課題」に挙げる企業は25.8%であり、約3割の企業が売上・シェア拡大を継続的な経営課題と捉えています。
事業基盤の強化
事業基盤の強化とは、企業の利益を生み出す「事業」について、土台となる仕組みを強化することです。強化する事業基盤としては、販売する商品・サービスの品質や技術力の向上、顧客層の拡大などが該当します。
事業基盤を強化するには、企業の経営そのものが盤石であることが必要です。企業によっては現在の事業内容で手一杯で、事業基盤の強化にコストをかけられず、経営課題となるケースがあるでしょう。
『日本企業の経営課題2022』によると、事業基盤の強化を「現在の経営課題」に挙げた企業は22.4%、「3年後の経営課題」に挙げた企業は25.3%でした。現在よりも将来の経営課題として、事業基盤の強化を考えている企業が多いことが分かります。
新製品・新サービス・新事業の開発
新製品・新サービス・新事業の開発とは、企業が販売する商品・サービスを新たに作ったり、新しい事業を展開したりすることです。新製品・新サービス・新事業の開発は企業の売上アップにつながり、事業基盤の強化にも関係しています。
新製品・新サービス・新事業の開発には、人材・お金・時間などのコストが多くかかります。事業の成長を目指しているものの、労働力確保や資金調達がうまくいかない企業にとって、新製品・新サービス・新事業の開発は経営課題となるでしょう。
『日本企業の経営課題2022』では、新製品・新サービス・新事業の開発を「現在の経営課題」と回答した企業は21.9%でした。一方、「3年後の経営課題」と回答した企業は25.8%であり、事業の成長に将来的な課題を感じている企業は多い傾向にあります。
デジタル技術の活用・戦略的投資
デジタル技術の活用・戦略的投資とは、企業の事業成長につながるデジタル技術を活用したり、経営戦略上で有用なデジタルサービスを導入したりすることです。近年はさまざまなデジタル技術が登場しており、デジタル技術の活用などは重要性を増しています。
企業によってはデジタル技術の導入が遅れているところも少なくありません。デジタル技術自体も効果が分かりにくいケースが多く、優先的な投資を検討しにくいことがデジタル技術の活用・戦略的投資における問題点です。
『日本企業の経営課題2022』では、デジタル技術の活用・戦略的投資を「現在の経営課題」に挙げた企業は13.1%でした。
また、「3年後の経営課題」に挙げた企業は18.1%であり、少なくない企業がデジタル技術に課題を感じていると言えます。
従業員満足度の向上
従業員満足度の向上とは、職場環境・福利厚生・人事評価制度や社内の人間環境などを改善し、企業に対する従業員の満足度を向上させることです。従業員満足度の向上は生産性向上にもつながり、組織への帰属意識を高めて人材流出の防止もできます。
働き方改革において、従業員満足度の向上は企業が取り組むべき課題の1つです。しかし、従業員満足度を意識したことがなく、具体的な施策を取れないまま経営課題となっている企業は多いでしょう。
『日本企業の経営課題2022』によると、従業員満足度の向上を「現在の経営課題」と回答した企業は12.3%でした。一方で、「3年後の経営課題」と回答した企業は21.8%であり、将来的には解決すべき経営課題と見なしている企業が多い傾向にあります。
株主価値向上
株主価値向上とは、企業の存在によって得られる価値の中で、株主に帰属する価値を向上させることです。
そもそも株主価値とは、企業価値から負債分を差し引いた、残りの価値を指します。企業を評価する場合に、かつては売上高や経常利益が重視されてきました。近年は株主の存在を重視する考え方が強まった影響により、株主価値の向上が経営者・投資家にとって重要な課題となっています。
『日本企業の経営課題2022』によると、株主価値向上を「現在の経営課題」と回答した企業は11.2%、「3年後の経営課題」と回答した企業は12.8%でした。一定数の企業が、株主価値の向上を重視していることが分かります。
中小企業・小規模事業者が抱えやすい経営課題
企業が抱える経営課題は、企業の規模によって違いがあります。中小企業や小規模事業者が抱えやすい経営課題は、以下に挙げる5つです。
なお、以下で解説する中小企業・小規模事業者が抱えやすい経営課題の具体例は、中小企業庁が公開する『2023年版 中小企業白書・小規模企業白書』をもとにしています。
出典:中小企業庁「2023年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」
物価高騰
物価高騰とは、モノやサービスの価格が急激に上昇することです。
企業の場合、物価高騰は原材料仕入価格や賃料・光熱費などの経費増加につながります。利益を確保するためには、増加した経費分を商品・サービスの価格に転嫁せざるを得なくなり、消費者の購買意欲減少を招く可能性もあるでしょう。
『2023年版 中小企業白書・小規模企業白書』によると、日本の物価は2021年を境に急激な高騰を見せています。エネルギー・原材料価格の高騰は企業業績への影響も大きく、2022年時点で19.7%の企業が「大いにマイナス」、45.5%の企業が「マイナス」と回答していました。
物価高騰への対応策として「商品・サービスの値上げ」以外にも、「人件費を除くコスト削減」や「業務効率化による収益性向上」などに取り組む企業が増えています。
出典:中小企業庁「2023年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」
人手不足
人手不足は、企業の生産性低下や、企業活動を継続する上でのリスクにつながる経営課題です。
『2023年版 中小企業白書・小規模企業白書』によると、日本の中小企業は2012年あたりから慢性的な人手不足となっている点が特徴です。2020年には一時的な回復を見せたものの、以降は再び人手不足の傾向に戻っています。
人手不足への対策としては、「正社員やパート社員の採用」「業務フローの見直しや社員の能力開発による業務効率化・生産性向上」が挙げられます。
また、「給与水準の是正」や「職場環境の改善」により、従業員の離職防止を図る企業も増えている状況です。
出典:中小企業庁「2023年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」
賃上げ
賃上げは、従業員の賃金を増やすことです。賃上げは従業員満足度の向上につながる取り組みであり、人手不足の改善や生産性向上も図れます。
『2023年版 中小企業白書・小規模企業白書』によると、中小企業における賃上げ実施は増えつつある状況です。「賃上げを実施」と回答した企業が2020年には38.2%だったのに対し、2021年には45.0%、2022年には52.6%と増加傾向にあります。
ただし、賃上げが難しい中小企業が一定程度存在することも事実です。賃上げを進めるには原資確保の取り組みが必要であり、賃上げ分の価格転嫁や生産性向上の投資が難しい企業にとって、賃上げは経営課題となります。
出典:中小企業庁「2023年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」
価格転嫁
価格転嫁とは、原材料費や人件費といった経費の上昇分を商品・サービスの価格に上乗せすることです。物価高騰や賃上げに対応する企業にとって、価格転嫁は自社の利益を損なわないために必要な取り組みと言えます。
『2023年版 中小企業白書・小規模企業白書』によると、中小企業では価格転嫁ができていないケースが多い傾向にあります。
製造業における2019年~2021年の価格転嫁力指標では、大企業が約1%であるのに対し、中小企業は約-2%です。なお、価格転嫁力指標とは、仕入価格の上昇分をどのくらい販売価格に転嫁できているかを示しています。
価格転嫁ができていないと利益が減少し、生産性の低下は避けられません。中小企業が成長を目指す上で、価格転嫁は重要な経営課題です。
出典:中小企業庁「2023年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」
設備投資
設備投資は、事業の維持・拡大に有用な設備を導入するための投資を指します。物価高騰や人手不足などの経営課題に対応するには、業務効率化や労働生産性の向上につながる設備投資が必要です。
『2023年版 中小企業白書・小規模企業白書』によると、近年は中小企業における設備投資が増加傾向にあります。
また設備投資の目的としては、設備の維持更新よりも、生産能力の拡大や製品・サービスの質的向上を重視する傾向にあります。設備投資に現在は取り組んでいなくても、将来的に検討する中小企業は多く、優先度の高い経営課題です。
出典:中小企業庁「2023年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」
経営課題を明確にして企業の成長を実現しよう
大企業であれ中小企業・小規模事業者であれ、企業の成長を実現するためには、経営課題を明確にする必要があります。現時点の経営状況と企業を取り巻く環境を分析し、どのような問題が存在するのか考えることで、経営課題を明らかにできます。
特に中小企業・小規模事業者にとっては、目下の物価高騰や人手不足は大きな経営上の課題です。多くの企業が抱える課題への理解を深めて、自社の経営課題の分析・改善施策の実施に役立てましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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