- 更新日 : 2023年7月27日
経営哲学とは?経営理念の有名例も紹介!
企業の存在意義や方向性、価値観、行動指針などを経営者自らが示すものである経営哲学は、経営理念・企業理念などとも呼ばれ、多くの企業が策定しています。経営・組織の基軸を作り、社外からの信頼を得るため重要とされているものです。この記事では、経営哲学の意味や経営理念との違い、重要性、有名な例、おすすめの本を紹介します。
目次
経営哲学とは?
経営哲学とは、企業の存在意義や方向性、価値観、行動指針などを、経営者自らが示し、明文化したものです。経営理念や企業理念などの異なった呼び方もされながら、多くの企業がこの経営哲学を持っています。なぜなら企業という集団が、高い目標を掲げてその達成を目指す際には、企業の基準となる考え方がはっきりと示され、従業員がそれにベクトルを合わせていくことが必要だからです。
経営哲学と経営理念の違い
経営哲学と経営理念は、多くの場合、同じ意味として取り扱われます。企業の基本的な考え方を示す文言は、企業によって経営哲学や経営理念、あるいは信条、社是など、異なった呼び方をされています。
ただし、あえて違いを言うのなら、経営哲学が経営者個人の考え方であるのに対し、経営理念は企業における経営の在り方を公的に定めたものです。経営者が創業者の場合には、両者はほぼ一致することになるでしょう。一方、サラリーマン経営者の場合には、入社した会社の経営理念に影響を受けながら、自らの経営哲学の形を作っていく、ということもあるかもしれません。
経営哲学は経営においてなぜ重要なのか?
経営哲学は経営において、なぜ重要なのでしょうか。稲盛和夫氏は2010年1月20日に行われた盛和塾ハワイ開塾式において、以下のように述べています。
“企業という集団において、従業員の幸福を実現するために、高い目標を掲げその達成を目指していくときには、「こういう哲学で経営をしていきます」という、企業のなかで基準となるような考え方がどうしても必要になるのです。そして、その基準となる考え方に、全社員がベクトルを合わせていかなければならないのです”
経営哲学の重要性として具体的には、①経営の軸が作られる、②組織の軸が作られる、③社外からの信頼を得られる、の3点が挙げられるでしょう。
1.経営の軸が作られる
企業の存在意義や目指す方向性、価値観や行動指針を経営哲学として明文化しておくことで、経営判断に迷うときや困難に直面したとき立ち戻ることが可能となる、経営の基軸を作ることができます。
2.組織の軸が作られる
経営哲学が全従業員に浸透すれば、各従業員は経営哲学を基軸として自律的に判断、行動ができるため、組織が強いものとなります。また、経営哲学に社会的意義がある場合には、従業員に「社会に役立つ仕事をしている」という誇りが芽生え、従業員の意欲向上が期待できるでしょう。さらには、社会的意義のある経営哲学は優秀な人材を惹きつけるため、自社の価値観に共感できる素質を持った優秀な人材の採用が可能となります。
3.社外からの信頼を得られる
経営哲学を社外へ発信すれば、経営哲学に共感する投資家や顧客、見込み顧客、あるいは採用候補者から信頼を得ることが期待できます。
経営哲学とMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の関係性
経営哲学は企業がそれぞれ自由に策定するものであり、決まった形はありません。しかし、多くの企業の経営哲学は、「マネジメントの父」と呼ばれるピーター・ドラッカー氏が「企業内で共有できている状態が望ましい」とした「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」と共通した内容を持っています。ここでは、経営哲学の具体的内容の例として、MVVの概略を紹介します。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)のそれぞれの意味は以下のとおりです。
- ミッション(存在意義)
企業が何のために存在するのか、社会に対する役割や使命、理想は何なのかを規定したもの。
- ビジョン(方向性)
ミッションを実現するため、中長期的に企業がどんな状態になるべきか、何を目指すかを規定したもの。
- バリュー(価値観・行動指針)
ミッションやビジョンを達成するための、具体的な価値基準や行動指針。
以上のうち、特にドラッカー氏はミッションを重視しています。変化する社会環境に、企業が自らの使命や理想を見失うことなく柔軟に適合するためには、ミッションが機能するかどうかにかかっているからです。
経営哲学・経営理念の有名な例
経営哲学・経営理念の有名な例として、松下幸之助の経営哲学、京セラグループの京セラフィロソフィ、トヨタの基本理念、JALグループの企業理念、ファーストリテイリンググループの企業理念を紹介します。
松下幸之助氏の経営哲学
パナソニックホールディングスを一代で築き上げた経営者である松下幸之助氏は、経営哲学についても独自の考えを持っていました。経営理念に関して、以下の3点を重要ポイントとして挙げています。
- 経営の根本は、正しい経営理念――自社の存在意義や経営の目的・使命に関する基本的な考え方――をもつことです。人も技術も資金も、経営理念が根底にあるからこそ生かされるのです。
- 正しい経営理念をもつことで、強固な信念が生まれ、言うべきことを言い、なすべきことをなし、力強い経営ができるようになります。
- 経営理念は、“何が正しいか”という人生観、社会観、世界観に立脚していなければなりません。そしてその人生観、社会観、世界観は、社会の理法や自然の摂理にかなったものであるべきです。
京セラグループの京セラフィロソフィ
京セラの経営哲学である京セラフィロソフィは、創業者である稲盛和夫氏が京セラ経営の実践を通して得た人生哲学であり、「人間としてこういう生きざまが正しいと思う」ということを基本としています。具体的には以下の4つの要素があります。
- 会社の規範となるべき規則、約束事
この会社はこういう規範で経営をしていきますという、企業内で必要とされるルール・モラル。 - 企業が目指すべき目的、目標を達成するために必要な考え方
企業が目指すべき、高い目標を達成するためにどういう考え方をし、またどういう行動を取らなければならないのか。 - 企業にすばらしい社格を与える
人間に人格があるように、企業にも「社格」があるはず。社格が大変立派であり、世界中から「さすが立派な社格を備えた会社だ」と信頼と尊敬を得るための考え方。 - 人間としての正しい生き方、あるべき姿
私たち一人一人が、より良い人生を送るために必要な、人生の真理。
出典:フィロソフィ4つの要素|思想|稲盛和夫について|稲盛和夫 オフィシャルサイトを参考に筆者編集
トヨタの基本理念
トヨタ自動車株式会社が1992年1月に、「企業を取り巻く環境が大きく変化している時こそ、確固とした理念を持って進むべき道を見極めていくことが重要」との認識のもとに策定し、1997年4月に改定された基本理念は、以下のとおりです。
- 内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす
- 各国、各地域の文化、慣習を尊重し、地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する
- クリーンで安全な商品の提供を使命とし、あらゆる企業活動を通じて、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組む
- 様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する
- 労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる
- グローバルで革新的な経営により、社会との調和ある成長をめざす
- 開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する
JALグループの企業理念
JALグループでは、公明正大で、大義名分のある高い目的を掲げ、これを全社員で共有することで、目的に向かって全社員が一体感を持って力を合わせていくことができると考えています。そのため、以下の企業理念を定めています。
JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、
一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。
出典:JALグループ企業理念 AIRLINES
冒頭の「JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し」は、社員が「JALで働いてよかった」と思えるような企業を目指さなければ、お客さまに最高のサービスを提供することも、企業価値を高めて社会に貢献することもできないため掲げられているものです。
ファーストリテイリンググループの企業理念
ファーストリテイリンググループの企業理念「FAST RETAILING WAY」では、ステートメント「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」を掲げた上で、以下のミッション、価値観、行動規範を規定しています。
ファーストリテイリンググループは-
- 本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します
- 独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します
■私たちの価値観-Value
- お客様の立場に立脚
- 革新と挑戦
- 個の尊重、会社と個人の成長
- 正しさへのこだわり
■私の行動規範-Principle
- お客様のために、あらゆる活動を行います
- 卓越性を追求し、最高水準を目指します
- 多様性を活かし、チームワークによって高い成果を上げます
- 何事もスピーディに実行します
- 現場・現物・現実に基づき、リアルなビジネス活動を行います
- 高い倫理観を持った地球市民として行動します
出典:FAST RETAILING WAY (FRグループ企業理念)
経営哲学を学ぶのにおすすめの本
経営哲学を学ぶのにおすすめの本を紹介します。
1からの経営学(第3版)
2006年に初版、2012年に第2版が刊行され、経営学の入門書として多くの学生・社会人から支持を得てきた『1からの経営学』の第3版(2021年3月刊行)です。現代社会を支える重要な存在である「企業」の基本的な性格やその運営の在り方が、複数の著者により14章に渡って詳述されています。
実践経営哲学
『実践経営哲学』は、著者・松下幸之助氏自身の言葉によれば「六十年の事業体験を通じて培い、実践してきた経営についての基本の考え方、いわゆる経営理念、経営哲学をまとめた」というものです。具体的な項目には「人間観をもつこと」「使命を正しく認識すること」「素直な心になること」などが設けられ、正しい経営を行うために知るべき人間としての特質が書かれています。
なお、経営哲学を学ぶのにおすすめの経営書については、以下の記事でも詳しく紹介しています。
経営哲学・経営理念を策定し、力強い組織を作ろう
企業の存在意義や方向性、価値観、行動指針などを経営者自らが指し示す経営哲学・経営理念は、経営や組織の基軸を作り、社外からの信頼を得るため重要とされています。松下幸之助氏の経営哲学や、京セラグループの京セラフィロソフィなどが有名です。会社設立に当たっては経営哲学・経営理念を策定し、力強い組織を作り上げていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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