- 作成日 : 2024年11月29日
事業承継対策のポイントは?よくある課題や対策の具体例を解説
事業承継対策は、企業の存続や発展を左右するために欠かせないものです。日本の経済を支える中小企業の多くが抱える事業承継問題への対策は、急務といえます。
本記事では、中小企業の事業承継対策について、その重要性や課題、具体的な対策例を解説します。
目次
事業承継対策の重要性
事業承継対策とは、企業が次世代へと円滑に経営を引き継ぐための計画的な取り組みです。日本の中小企業は深刻な後継者不足に直面しており、適切な対策を講じることが急務といえます。
以下で、事業承継対策が注目される背景や必要となる理由などを詳しく解説します。
事業承継をめぐる現状
中小企業の約6割が後継者未定の状態にあり、経営者の高齢化も進んでいます。2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に上ると予測されており、このうち約半数の127万人が後継者未定です。この状況は、日本経済の基盤を揺るがす重大な問題となっています。
後継者が未定であることもさることながら、事業承継時には大きな税負担が生じることがほとんどです。後継者の選定や育成の難しさ、そして負担の大きさから廃業を選ぶ経営者も多くなっています。
参考:中小企業庁 中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題
事業承継対策が必要な理由
事業承継対策は、企業の持続的な成長と安定に不可欠です。特に後継者不足が深刻な中小企業では、適切な対策を講じないと後継者不在のまま経営者が引退し、企業が廃業に追い込まれるリスクがこれまで以上に高まるでしょう。
さらに、相続税や贈与税の負担を減らす事業承継税制を活用することで、税負担を軽減できそのリソースを事業に回せます。
円滑な承継は従業員や取引先との信頼関係を強化し、企業全体の士気や生産性向上に貢献します。日本の企業の多くを占める中小企業を守る、ひいては日本経済を守るために事業承継対策は欠かせないといえるでしょう。
事業承継対策を怠った場合のリスク
事業承継対策を怠ると、廃業リスクが高まります。後継者不在、経済的な負担の大きさなどのため事業承継が進まないまま経営者の突然の退任や死亡により経営が混乱し、取引先や金融機関の信頼を失うケースもあります。
また、相続税の負担により事業用資産の売却を余儀なくされ、事業の縮小や廃業につながる可能性も否定できません。さらに、従業員の雇用不安や技術・ノウハウの喪失など、企業価値の低下を招く恐れもあります。
事業承継にあたり課題になりやすいポイントと対策例
事業承継は、企業の存続や成長に直結する重要なプロセスですが、多くの課題が伴います。課題を把握し、適切な対策を講じることが事業承継成功の鍵といえます。
以下では、事業承継における具体的な課題とその対策例について見ていきましょう。
後継者の不在、教育の難しさ
後継者の不在は、多くの中小企業が直面する大きな課題です。そもそも人材がいない、見つからないケースに加え、経験不足や能力不足で承継できないケースも見られます。
対策としては、まず社内外から幅広く後継者候補を探すことです。社内からの登用では、若手社員の中から将来性のある人材を早期に見出し、計画的に育成することが求められます。
社外からの招聘の場合は、M&Aや事業承継支援センターのマッチングサービスの活用なども視野に入れましょう。後継者の教育では、経営者としての資質や能力を段階的に育成するプログラムを策定し、実務経験を積みながら経営理念や企業文化の理解を深めることが重要です。
十分な準備ができない
多くの中小企業の経営者が日々の業務に追われ、事業承継の準備に十分な時間を割けないことが課題となっています。準備不足のまま事業承継を進めても、すべてが後手に回りうまくいかないケースがほとんどです。
こういった事態を防ぐためには、まず5年から10年程度の長期的な視点で早い段階から事業承継計画を策定することが重要です。計画には、後継者の選定・育成スケジュール、経営権の移転方法、財務や税務の対策などを盛り込みます。
また、法務や税務の専門家のサポートを受けながら、定期的に計画の進捗状況をチェックし、必要に応じて見直しを行うことで着実に準備を進められるでしょう。
税負担の大きさ
事業承継時の相続税や贈与税の負担は、企業の財務を圧迫する大きな要因になります。何の対策もしないまま事業承継すると、納税のための資金繰りに頭を悩ませることになりかねません。
税負担の課題に対しては、事業承継税制の活用を検討してもよいでしょう。この制度を利用することで、非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税が猶予・免除される可能性があります。
また、種類株式の導入や持株会社化、生前贈与の活用など、様々な手法を組み合わせることで、税負担を軽減できるでしょう。さらに、納税資金の確保のため、計画的な資産形成や金融機関との良好な関係構築も大切です。
従業員の雇用について
事業承継に伴う経営方針の変更や組織再編、特にM&Aにより第三者に会社を譲渡するとなると、従業員の雇用不安が生じる可能性があります。
雇用が守られた場合でも労働環境が大きく変化し、離職者が増えるかもしれません。
従業員とはコミュニケーションを密に取り、事業承継の方針や今後の経営ビジョンを丁寧に説明することが重要です。また、従業員の意見や提案を積極的に取り入れ、新しい経営体制への参画意識を高めることも効果的でしょう。
さらに、従業員持株会の導入や幹部社員への株式付与など、従業員の経営参加を促す仕組みを整えることで、モチベーションの向上と人材流出の防止につながる可能性があります。
事業承継対策の相談先
事業承継対策を進めるうえで、専門家のサポートは不可欠です。各機関の特徴やメリットを理解し、適切な相談先を選ぶことが重要です。
ここでは、事業承継についての相談先を紹介します。
中小機構
中小企業基盤整備機構(中小機構)は、国の中小企業政策の実施機関として事業承継に関する総合的な支援を提供しています。例を挙げると事業承継診断や事業承継計画の策定支援、専門家派遣、セミナーの開催などがあります。
中小機構の強みは、豊富な支援実績と全国的なネットワークを活かした、きめ細かなサポートです。特に事業承継に関する初期の相談や、複雑な課題に対する総合的なアドバイスを受けたい場合に適しています。
事業承継・引継ぎ支援センター
各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターは、地域に密着した事業承継支援を提供しています。主なサービスには、事業承継診断、事業承継計画の策定支援、後継者教育、M&Aのマッチングなどがあります。
地域の実情に精通した専門家が対応するため、地元の経済環境や取引関係を考慮した具体的なアドバイスが受けられます。親族内承継や従業員承継を検討している中小企業にとって、有効な相談先となるでしょう。
商工会議所
商工会議所は、地域の中小企業支援の中核的な役割を果たしています。事業承継に関しては、経営相談や専門家派遣、セミナーの開催などを通じて、幅広いサポートを提供します。
地域の企業や関係機関とのネットワークを活かした情報提供や、きめ細かな個別相談が可能です。事業承継に関する基本的な情報収集や、地域の支援制度の活用方法について相談したい場合におすすめの相談先です。
金融機関
金融機関には、事業承継に必要な資金調達や財務戦略などにおいて相談できます。事業承継に関する資金面でのサポートを中心に、総合的な支援を提供しています。事業承継に伴う資金需要や、自社株式の評価、納税資金の確保などについての相談先となるため、普段から良好な関係を保つようにしておきましょう。
事業承継時の資金調達のほかにもM&Aのアドバイス、事業承継税制の活用支援など多角的な支援を提供している金融機関も多くあります。
顧問税理士・公認会計士
顧問契約している税理士や公認会計士は、自社の事情に鑑みて税務・財務面での専門的なアドバイスをしてくれる貴重な存在といえます。
相続税・贈与税の試算、事業承継税制の適用支援、株価算定、財務デューデリジェンスなど、事業承継関連についてはできるだけ早い段階で相談しておきましょう。
事業承継対策を成功させるコツ
事業承継を成功させるためには、計画的かつ戦略的なアプローチが不可欠です。特に、早期の準備や後継者の育成、企業文化の継承は、円滑な経営移行に大きく貢献します。
以下では、事業承継を成功させるための具体的なコツについて解説します。
早期の計画立案と準備
事業承継は、一朝一夕には実現しません。そのため、早期に計画を立てることが重要です。5年から10年前には準備を始めるのが理想的ではありますが、無理であれば可能な限り早く着手しましょう。
この準備期間に、後継者の選定や教育プログラムの策定、財務面での対策を講じることが求められます。また、定期的に計画を見直し進捗状況を確認することで、柔軟に対応できる体制を整えることが可能になります。
適切な後継者の選定と育成
後継者の選定・育成は、事業承継の要といえます。社内外で、経営者としての資質やリーダーシップを持つ人材を見極めましょう。
選定後は、計画的に育成することが必要です。実務経験を積ませるだけでなく、経営理念や企業文化についても深く理解させるプログラムを用意します。また、メンター制度を導入し、経験豊富な経営者からの指導を受けられる環境を整えるのもおすすめです。能力を高められるのはもちろん、後継者としてのあり方も学べる絶好の機会です。
社内文化の継承と変革
事業承継は単なる経営権の移転ではなく、企業文化の継承と変革も含まれます。新しい後継者は既存の文化や価値観を尊重しつつ、新たな視点やアイデアを取り入れることで企業がアップデートされ、より時代に適したビジネス感覚をもたらすことが期待できます。
また、従業員との対話を通じて企業ビジョンや価値観を再確認し、新しい文化を形成するための取り組みも求められるでしょう。良い方向の変革は従業員のモチベーション向上や企業全体の士気アップにもつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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